渋谷コントセンター

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2025年5月30日(金)~5月31日(土)

テアトロコント vol.73 渋谷コントセンター月例公演(2025.5)

主催公演

公演詳細

飾らないストロングスタイルのお笑いファイター
よくあるマンツーマンの英会話教室。先生が発する「寿司」「天ぷら」のイントネーションがいわゆる外国人訛りであることに違和感を覚えた生徒が「寿司」「天ぷら」は日本語の発音でないとおかしいと強く抗議し、譲らない。言われてみれば、もっともな指摘。この日、一発目のコントで着眼点の鋭さにグッと惹きつけられたのが、ジョニーヘンドリクス。田村章人さんと千田哲生さんからなる、ワタナベエンターテインメント所属の若手コンビです。
お世辞にも華があるコンビとは言えません。衣装や風貌は地味の極み、出てきてすぐに客のハートを鷲掴みにしようとする芸人特有の空気も纏っていません。にもかかわらず、何だか気になってしまうのは何故なのか?
同じく椅子とテーブルだけを使ったコント。喫茶店らしき店で借金の返済をめぐり、会話がなされる。期日までにお金を用意できなければ、自分を追い込むため、「立ったまま生活する」と債務者は言う。妙な提案だが、決意の強さに納得したのか、債権者はその提案を受け入れる。が、席を立ち、その場を去ろうとする債務者の足元を見て、不可思議な点に気づく。この男は何故、靴を履いていないのか?理由を尋ねると、「事情は説明できない」との回答。客は皆、ここで「ハハ~ン」と頷きます。「あいつ、他でもやってるな」と。暗転して、一カ月後。店に現れた債務者はトランクス姿。しかも、喋るのは、何ともぎこちない大阪弁。債権者のツッコミを待たずとも、債務者が複数の借金に縛られていることが一目瞭然。実に鮮やかな展開です。
ファミレスを舞台にしたコントでは、料理を注文した後、店員に対し、通ったらデカイ、無理筋な要求を突き付け、通してしまうというコンプラ的にギリギリのラインを攻めるチャレンジ精神を持ち合わせていることも証明しました。
作・演出はジョニーヘンドリクスと記載されているので、コントは二人で書いているのでしょう。どちらもキャラが立っているわけではないので、どちらか一方に目が行くわけでもありません。本来、これはマイナスですが、ジョニーヘンドリクスはその目立たなさこそが武器になるのかもしれません。普通の人間がしでかす危うい行為、日常に潜む非日常を描くには、濃いキャラクターなど必要なく、地味な方が良いのだから。二人には伸びしろしかありません。着眼点やワードセンスには確かなものがあるので、演技力に磨きをかければ、弱肉強食のお笑い界で十分に戦っていけるはずです。(市川幸宏)


にこにこちゃんというひと
いつもどこでもふざけたフリをしている。だけどよくよく見なくたって、本当は絶対真面目なことが分かる。私にとっての東京にこにこちゃんは、そんな一人の愛らしいひとです。
にこにこちゃんと出会ってから、もうすぐやっと3年。出会ったころ一番はじめに目に飛び込んできたのは「日本で最もチケットの取れる劇団」というキャッチコピーでした。加えて何せ『東京にこにこちゃん』という劇団名。幕が開いてみれば、ほぼすべての登場人物が半袖短パン、全体的にツンツルテンの衣装で出てくる。すべてがしっかりチョケていて、「そういう」感じなんだなと思って観始める。2時間後、「そういう」を完全に満たされたうえで、全然「そう」じゃない後味と一緒に帰る。その日以来、にこにこちゃんを観たあとは必ず、そんな気持ちを持ち帰っている気がします。
ハッピーエンド。大声。突拍子のないテンポ感と展開。急に現実に戻ったりするメタな感じ。とにかくたくさん出てくる固有名詞。そういう劇団っていっぱいありそうですよね。でも、にこにこちゃんはやっぱり何かが違うんだよな。ただ明るいだけじゃないし、じゃあ強いメッセージ性があるかっていうとそこはコアじゃない気もする。固有名詞の使い方も積み上がり方も、笑わせてくれるためなんだけど何だかそれだけじゃない。こんな塩梅で、にこにこちゃんのそこかしこに「それ」と「それだけじゃない」とが隠れている感じがするのです。そのバランスが、人間らしいというか、もう人間そのものというか。不器用で素直な、一人の人間のような感覚をおぼえます。劇団や作品を超えて、にこにこちゃんが、ひとつの人格になっているということなのかも知れません。
『私と駄菓子屋さんの700日戦争』も、まさにそのとおりの作品でした。小学生同士のつぶらなやり取りのなかに、人間そのものの意地や切なさが忍んでいたり。万引きってもちろんダメなんだけど、でも許されるならうれしいよねっていう軸の気持ちもすごく分かる。きっと誰もが気になったであろう「東京にこにこちゃんは、岸田國士戯曲賞を目指していまーす!」というセリフ、一番くだらないタイミングでそんなこと言ってくるから、ものすごくグッと来てしまいました。
私も、おもしろくいたいな。おもしろくいたいと真面目に願いつづけることって、何よりかっこいいんだな。いつもよりもっと、にこにこちゃんという人格と対峙したような気持ちになって、そんなことを思いながら帰った5月のテアトロコントでした。(ごとうはな)

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