渋谷コントセンター

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2022年3月25日(金)~3月26日(土)

テアトロコント vol.56 渋谷コントセンター月例公演(2022.3)

主催公演

公演詳細

逆説的な人生賛歌
旅の恥は掻き捨て。コロナ禍の今だからこそ、存分に羽を伸ばしたいと思っている人も多いはず。海外ならば、尚のこと。その国で合法ならば、××に手を出してみたくなるのも人情というもの。土岡哲朗さん演じる旅行者は興味本位から××を吸ってしまいます。いいんです、合法ですから。でも、何故か、引け目を感じてしまうよう。小心者なのでしょうか?そして、××を吸った店でたまたま出会った日本人、ぐんぴぃさんに声を掛けられます。「連絡先、交換しよう」と。土岡さんはそれを全力で拒否しますが、引き下がりません。「学校では友達と仲良くするけど、塾では友達つくんないタイプ?」。キラーフレーズに大ウケです。でも、ちょっと考えてしまうのです。コレって、そこまで拒否することなのか?こういう偶然の出会いこそ、捨てたもんじゃないのでは?
そこで、仮説を立ててみました。独特の雰囲気と世界観を持つ、春とヒコーキのコント。その作・演出を手掛ける土岡さんが抱える闇、他人との不思議な距離感が意図してか、そうでないかにかかわらず、作品に表れているのではないかと。
例えば、この作品はどうでしょう?人助けをして、命の恩人と呼ばれる土岡さん。ところが、助けた相手、ぐんぴぃさんは、かつての漫画村のように無料で漫画が読めるサイトにドハマりし、それを唯一の楽しみどころか、生き甲斐にしているという衝撃の事実を知り、思わず、こう呟きます。「助けた甲斐がないな」。さらに、その男がいい歳をして声優志望、声優学校に通おうとして何もしていないというダメ人間ぶりにあきれ果て「コイツの人生、スタート地点でずっとボックス踏んでるだけだ」と突っ込みます。実に切れ味のいいパンチライン。そして、自分を責めるのです。「俺が助けたせいで、そんな人生を続けなきゃいけないのか」「生きてるだけで大赤字だ」と。さらに狂気は飛躍します。「これ、モニタリングですよね?助けた相手の命に価値がなかったら、どんな反応をする?」と言ってカメラを探し出す始末。
人を遠ざけるこの感覚こそ、土岡さんの独自性。彼を覆う闇の一部が表出され、クレイジーな展開となり、爆笑を生んでいるのでは、とも思わせます。もしかしたら、これまでに数えきれない傷を経験したのかもしれません。もっと言えば、その台詞は、かつての自分に向けたものなのかも、という気さえします。だとしても、いいじゃないですか。こんなに大勢の人を笑わせ、心を明るくしているのだから。闇は一転、光にもなる。彼らのコントは、逆説的な人生賛歌。そう、本当は、生きてるだけで丸儲け。(市川幸宏)

畳み掛ける怒涛の構成、ファイヤーサンダー
【ファイヤーサンダー】
【美容院】美容院で美容師(崎山)と客(こてつ)が髪型を話し合っている。和気あいあいとした様子で談笑している良い雰囲気で、美容師は、ヘアカタログを眺めつつ、客の髪型をどのようにしようか張り切って考えている。ところが、客にかかってきた電話により、運命が一変する、という話である。美容院という設定なので、美容師が変というパターンを予想しながら見ていたが、途中までまともに見えていた客が、電話を契機におかしくなっていくという展開は秀逸である。
【会合】舞台は、詐欺被害者の会合。すでに被害者の会の中枢で活動している幹部(崎山)と新しく被害者の会に相談に来た新入り(こてつ)。詐欺被害者の会とは思えない程、明るく活動している幹部、ならびにその取り巻きに、驚愕する新入りの話である。同じ人物に詐欺にあっているものの集まりだから、気が合うという幹部の言い分は妙に納得感がある。確かに、詐欺被害というのは勿論被害者にとって苦しみがあるものだが、取られているのが「金」だけであり、命に関わることではない点では、深刻さは薄いかもしれない。ファンタジーではあるものの、妙にリアリティがあるコントであった。
【養成所】お笑い養成所に、高卒で入所した新入生(崎山)と大卒の新入生(こてつ)。芸歴で分けられる世界であり、年齢は関係ないものの、初対面でいきなり、崎山からタメ口で馴れ馴れしく話され、挙句「コンビ組んでやろうか」と上から目線で言われて不快感を覚えるこてつ。(若者特有の万能感を持った、無能な人間)と思っていたら、実は崎山には本当に笑いの才能がある、という話である。「お笑い養成所は入学数は多いものの、世に出る人間は一握りであり厳しい世界である」という前提知識をお笑いに多少興味がある自分は分かるので面白いが、これは一般には伝わりづらいコントかもしれない。しかし、お笑い好きには、お笑いあるあるが詰まっていて非常に楽しめる。
【漫画家】週刊少年漫画誌に連載を持つ漫画家(こてつ)が〆切直前に展開が思い浮かず、喫茶店で苦しんでいる。そんな折、隣の席でその連載のファン(崎山)が展開予想を友達に話すのを聞き、しかもその展開予想が非常に面白いため、感謝しつつ、連載に使わせてもらう、という話である。現代のSNS社会であれば、次回予想を素人がSNSやブログで書き込み、それを筆者が情報収集していることは、ありえそうな話ではある。
 全編を通じて、ファイヤーサンダーは、非常に笑いの量が多く、楽しめる良作揃いのコント師である。しかし、その日のテアトロコントは、皮肉のスパイスが散ったコントを得意とする吉住が出ていて、「芸能人の不倫が許せない女」、「観覧で黄色い声を出す女」、「日本に来る外国人をホームステイさせることが好きな女」に対して、強い毒を出しており、自宅に戻った際に、吉住の印象が強く残った。美容院あるある、養成所あるある、漫画あるあるが楽しいネタも私は好きだが、『会合』のような、「同じ人物に被害にあった、詐欺被害者同士は実は仲良くなれるかも」といった、共感を覚えるととともに、深みを感じるネタについても、もっと観たいと思った。(あらっぺ)

ファイヤーサンダーの、ちょっと日常が楽しくなるコント
日常を生きていると途方もなく退屈な時間を過ごしたり、苦しいけれども耐え忍ばなければならない1日を過ごすことがある。どうしようもなく目的地にたどり着くまでの道のりが辛い時、早くこの時間が終わればいいのにと思う時、「現在(これから)自分がいるのはコントの世界の中なんだ」と思い込むようにすると、なんとかその場をしのげることがある。
ファイヤーサンダーのコントは、こんな妄想癖のあるわたしのような人間を、もう少し生きやすくしてくれるものだった。突飛な設定や登場人物は現れないけれども、彼らが日常に起こりうる一場面への視点を少し変えてみせてくれることで、笑ってしまうとともに少し日常を楽しく生きられるように思えてくるのだ。
1本目の『美容院』は、美容師と次々と不幸な出来事に襲われる客との気まずい関係性を描いたコント。電話に出るたびに衝撃的な出来事を聞かされる客を前にしてたじろぐ美容師の姿に、観客はつい笑わられてしまっていた。
2本目の『会合』は、男が足を踏み入れた「詐欺被害者の会」というのが、犯人逮捕に向けて精力的に活動している会合ではなく・・・というもの。「詐欺被害者の会」というのはニュースなどで耳にしたことはあるが、幸いにも参加したことはないので実態はどんなものなのかはわからない。そんな「被害者の会」が実はこんなものかもしれない、こんなものであるという可能性は捨てられないというのがコントで提示させられることで、いくらか物事に対する解像度を上げてもらえたような気になる。このコントで面白いのは、「被害者の会」の正体というのが、おかしなものではあるけれども、どこか筋は通っていると思わされるものになっている。この論理性が、コントを一つの発想だけで終わらせず、たくさん笑えるものとしている。
3本目の『養成所』は、同じお笑い養成所に入ってきた、自己主張が強くていかにもおもしろくなさそうな男がネタ見せで披露したネタに驚かされるというもの。学校や身近な人間関係のなかでは面白いのに、芸人と比べられるとそうでもない、という人をいじわるな見方をするという笑いの取り方はいくらか見たことはあるけれども、その見方のまた一歩先を提示するというのに驚かされる。
4本目の『漫画家』は、喫茶店で執筆活動に取り組むも全くアイデアが浮かばない漫画家が、隣の席の客が話す内容に耳を傾けるという設定。隣から聞こえてくる声に対するこてつのリアクションがバカバカしくて、笑わずにはいられない。このコントも細かいところまで寝られていて、友達と来ていた時はアイスコーヒーを頼んでいた隣の客が、女性と来た時はミルクティーを頼むようになる、といった細かい変化で場面の展開を示している。このように細かいところまで詰められているからこそ、『会合』と同じように笑いに厚みが出ているように思われる。
日常に起こりうる一場面への新しい見方を披露してくれることで、いくらか楽しく生きられそうになる。『美容院』の客のように不幸な出来事が身近に起きたとしても、このコントのように俯瞰で捉えてみれば、少し気が紛れてくれるかもしれない。(永田)

演劇のコンパクト化は難しく、だからこそテアトロコントの挑戦には意義がある。
《1》【吉住】<コント師>演目:『ようこそ、日本へ』他、計3作品/★★★★☆/
「お前が愛妻家だって言ったんだろ!裏切られた!痛い痛い!謝罪!謝罪謝罪!謝罪してほしいー!」課長ミスをなすりつけられても笑顔のおっとりOLが、昼休みに不倫報道の芸能ニュースが流れた途端、豹変する。ランチ相手の同僚が「不倫は当事者間の問題だから」と返すと「ホントそうだよね。だから怒っていんだよ。」と狂気の回答。それでいてランチ相手の同僚のLINEに旦那の不倫情報が入ってくると、おっとり笑顔で「どんまい」と返す。テレビやSNSの出来事が、目の前の同僚の悲劇よりも近い歪さが描かれた『正義感暴れ』。「THE W」優勝後、初めて拝見した吉住さんコントだが、昔よりも落ち着きを増し、身の回りのことがテレビ中心になってきたせいか、メディア関連ものが中心になっていて、出世を感じた。個人的には財津和夫「青春の影」に合わせ、成人女性が現役高校生を騙し放課後野球を楽しむ『時をかける少女』や、中島みゆきに合わせ、恋の始まりと終わりを炊飯器をモチーフに演じる『かけがえのないもの』、のような物語性ある音ハメが至福の時間。賞レースを制覇後、もう人気でテアトロコントでは見れないのも覚悟していたので、拝見できて嬉しい。今後も多忙極める中、進化していく様を見届けたい。
《2》【努力クラブ】<劇団>出演者:2名/演目:『わいわいぽかぽかほりでー』1作品/★☆☆☆☆/
「よろしくお願いしまーす…」2人の男女が低いテンションで観客挨拶後、ため息をつく女性。「大丈夫?」と男性が尋ねると、「…元気、もりもり」と浮かない様子。「…心の中に、真っ黒い大小の無数の丸がぷかぷか浮かんでいきます…」。とりとめのない会話の中、どうやら体は元気でも、心が沈んでなかなかアガってこない状態を、独特の会話感覚と長尺で描く30分。前回出演(テアトロコントVo39)時の高校生男女がラブホに泊まる様を描く『夜、世界を二人で抜け出す』も、同様の長尺と静けさがあったが、物語の起伏がわかりやすい分、長尺に付き合えなくもなかったが、沈んだ心の扱いに振り回される不安定なパートナーの時間に、観客も付き合い続けるための集中力を保つのは努力と忍耐が必要で、自分は早々に振り落とされてしまった。とりとめのない会話にも関わらず声量も、突然大きく激しくなり不快感があるが、沈んだ心の持った時の不快感の共有が目的なのかもしれない、と今、これを書きながら思いついたりはした。
《3》【ファイヤーサンダー】<コント師>2人組/演目:『養成所』計4作品。/★★★★★/
「おいみんなー!新人さんつれてきたよ!いったんトランプやめてー!はい、今日から竹野内被害者の会に入る、山下くんです!もうみんなお酒飲み過ぎー♪」あまりに楽しそうな投資詐欺被害者の会に戸惑う男性。「…僕、別に遊ぶためにこの会に入ったわけじゃないんです。みんなで詐欺の証拠集めて、竹野内逮捕目指しましょうよ!」。「…あー、そういうガチの被害者の会もあるんだけど…もっとゆるくやろうぜってなったのがウチ」「…テニスサークルやん!」。被害者サークルをヒガサーと略して盛り上がる姿を見て、帰ろうとする男性に、
心に憎しみを抱える過ごす5年間よりも、通じ合う人と楽しむ5年間をという趣旨に胸を打たれる『会合』。他作品もアイデア、会話、流れが凄まじく、初見だったので衝撃だった。人物の苦悩や悲哀が自然で、笑わせるためだけの設定に感じず、物語力があり共感しやすい。特にカフェで締切に追われる週刊少年漫画家が、隣席に座る熱烈なファンのアイデアを盗んでは次回作にする『漫画家』等は、思わず30分の長編でじっくり見てみたい気持ちにさせられた。さらに驚きの展開が待っているような気がしてならない。
【総評】30分はコントにしては長く、演劇としては短く、劇団不利な状況は仕方ない。若干しっとり系な作品が続いてるような気がするのは、時代を映す鏡としての特性なのかもしれない。が、それにしても、少し元気のない劇団作品が続いているような気もしなくもない。コント師は、安定の吉住さんと、初見衝撃のファイヤーサンダーで、圧巻の安定感と満足度。考えるほど演劇のコンパクトパッケージ化は難しく、だからこそテアトロコントの挑戦には意義がある。今回も沢山の学びを頂いた運営・出演者の皆様に感謝致します。(モリタユウイチ)

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