渋谷コントセンター

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2017年2月17日(金)~2月18日(土)

テアトロコント vol.16 渋谷コントセンター月例公演(2017.2)

主催公演

公演詳細

アクの強い少人数、リアル志向の大人数
1組目はジグザグジギー。『正義感』では、システムが確立すると、ツッコミの池田がノってくる様を見せ、『試着室』ではシステムが確立した後、それとは外れたボケ方を見せて池田を戸惑わせる。『メニュー』に関しては、一貫して宮澤のフザけと池田の戸惑いを見せた。
2組目は夜ふかしの会。特に印象に残った『会議室』は、後輩がプロジェクトから外されるのを止めようとするが、それが本社への異動だと分かると、嫉妬から阻止する方向へ転換するダメ先輩の様を描いた。また『ドッキリ』では、登場人物全員がドッキリを仕掛けられているのでは?と疑心暗鬼になるコントで面白かった。
ジグザグジギーと夜ふかしの会で感じたのは人数の説得力だ。ジグザグジギーは宮澤1人でのボケであり、アクの強いキャラであるが故、フザけがよりくっきりと見える。
それに対し、夜ふかしの会は一見普通そうなボケ側4人(『ドッキリ』ではツッコミ不在のため5人全員)がフザけに走る。だがそれは会議室や、友達との何気ない日常の中での話なので、突飛なことは起きない。自然な状態の中でフザけ側が圧倒的多数の世界では、ツッコミのような舞台上の世界と観客とを繋ぐ役割は、大きな意味を持たない方が自然で、テアトロコントに向いている気がした。だからこそ、ほとんど4人での会話で進む『友達』、ツッコミ側が2人になる『中華料理屋』にパワー不足を感じたことも否めないが。
3組目の水素74%は演目『花火』の1本。主宰の田川がパンフレットの中で記した言葉を借りるならば、「みんなそれぞれに考えてることがあって、やりたいことが違ったりとかする」様を、「当事者は大変だけど、客観的に見ればもめてる人っておもしろいと思って」書いた作品である。花火大会実行委員の流れから不倫旅行に行きたい女とそれを面倒臭がる妻帯者の男を中心として、精神的な病みを持つその男の妻、爆発事故が起きたばかりの村で花火大会は不謹慎と怒る男と住民たち、花火大会を婚活ツアーにしたい役場の男とそれに乗っかりたい花火大会主催者など。リアリティある会話劇であるが故に、誰も自分の私利私欲の折れない所がウソ臭く感じて途中退屈に思う場面もあったが、ラストの不倫相手と妻の2人の場面の会話の間が、緊張感があって非常に怖かった。そういえば妻の意図だけはっきりと分からなかった所も今思えば怖い。
4組目のトップリードも演目『今日は妻がいない』の1本。妻が旅行に出掛けて1日中いない状況の中、鬼嫁の居ない家を楽しむダメ夫が段々と妻の有難みが分かり、出会って付き合ってから結婚するまでを回想して、最後は妻も夫が居ない状況を寂しく思うという、水素74%とは真逆のハートフルな作品。テキパキ動く妻とダラダラしているダメ夫をキャラクターに特化させた所も水素74%とは対照的で、観る側としてメリハリがあってとても良かった。(菅野明男)

新しい知的好奇心を刺激され、見るたび好きに。
【1】ジグザグジギー/★★★★★/『正義感』他3作品。目の前の火事で逃げ遅れた他人を救助するたび、風貌が格好よくなって帰ってくる男と、それに驚く友人。若干ブラックな設定ながらも冴えた切れ味がクール。救助して戻ると、髪がシルバーアッシュに→ダメージジーンズに→ロンTに(背中穴あき)→「僕」を「俺と」言い斜に構える、と変貌する。その姿に驚く友人が、火事の事を「デザイナー」と呼び始めるセンスがエッジが効いている。他作品の『試着室』では、その客がVネック白Tシャツを試着するたびに、少し黄色がかったTシャツになって出てくるコントも、観客もすぐには気づかない地味さが、逆に破壊力のある可笑しみとなって劇場全体に広がる。「服」という視覚的笑いをうまく使うだけでなく、観客の生理と舞台の進行速度を理解した作りが飽きさせない。全体的に小気味いい展開に比べてオチが少し弱いようにも感じたが、彼らの中で今のところそこまで重要視していないことなのかと思うと、それもまた潔い。発想、センス、スピード感ともに今日一のコントだった。
【2】夜ふかしの会/★★☆☆☆/計四作品。「実は俺、お前の他にも友達が…」と鉢合わせた男友達二人に男が白状する。仲良く会話するうち、友人同士が嫉妬し妙なBL三角関係風味になる『友達』。会議中、同僚の栄転を阻止しようとする『会議室』。複雑な注文で店員を混乱させる『中華料理屋』。全員が自分へのドッキリだと勘違いし混乱する『ドッキリ』。初見だが、ネタの発想の斬新さや言葉の刺激で勝負するというよりは、ゴスペルのような五人の掛け合いとコンビネーションを楽しむグループだと感じた。出来ることならばさらに独自進化させた先の世界を期待してしまうのが本音だ。例えば古典を下敷きにした設定とリズムネタの応酬が見てみたい。演劇人の深みと、芸人の瞬発力が融合したバイリンガルコントを熱望する。
【3】水素74%/★★★☆☆/『花火』一作品。片田舎で一年前から着々と準備していた花火大会が、直前の火事により中止に揺れる村人と委員会の話。作・演出家が青年団の演出部ということからも、あの界隈独特の、登場人物同士の横の会話で、情報や感情を覗き見する作品様式で、丁寧で良質な会話劇を堪能させてもらったが、コントかと言われると抵抗を感じる。確かに花火大会の中止トラブルで修羅場を右往左往する人々を覗くのは苦笑の連続だ。そう言えば自分も近しい人が火事にあったことを聞いた時、悲しい気持ちになる前に妙に笑ってしまった自分に驚いた経験がある。ただ、その笑いは、恐らく悲しみを処理する為のクッションやチューニングのようなもので、苦笑系悲劇に近く、爽快感はない。笑わせることが目的のコントというよりは、人生の苦しみや悲しみを胸に響かせることに主眼を置いた優秀な演劇作品だった。
【4】トップリード/★★★★☆/『今日は妻がいない』一作品。朝、無表情で自動応答する夫に「なんで結婚しちゃっんだろ♪」とこぼし一泊旅行に出かける妻。無表情な夫の顔は歓喜に変わり、ジャンクフードを食べ散らかし、手をスウェットで拭き、洋物AVを流し、一人時間を満喫するが。ピザの注文、宅配物の印鑑、洗濯、腹痛、パジャマの場所と、ふとしたアクシデントが重なるに連れ、妻の不在が積み上がる。やがて奥様の書き置きで、旦那の誕生日に「自由な1日」を贈ったこと、新しいパジャマを宅配で届けた事を知り、愛しさと孤独で不眠で朝を迎えるという心温まるコント。誰にでも分かるエピソードを心地よく楽しめるのは、情報をもたつかずに重ねていくのが巧妙だからだろう。午後に届いた宅配物が、探すのを諦めたパジャマの贈り物だっだと手紙で分かる瞬間や、出会いからプロポーズまでの回想を、高速熱量で演じる奥さんの姿に、男性が演じるコントなの関わらず、愛情の深さに感動して見入ってしまった。「結婚ていいもんだよ」という紋切り型のフレーズを押し付けられるよりも、夫婦愛の醍醐味を、トップリードのような笑いという砂糖で包んだ方が百倍伝わる。安定感のある演技と筆力に、今後の活躍を期待する。
【総評】今回の多様な四組の中で、一番演劇とコントの狭間を往来していたのはトップリードだと感じた。芸人さんが演劇に寄せるのは比較的難しくないようにも見えるが、演劇人がお笑いに寄せる時には少し背伸びしてそうにも見えるのは何故だろう、と考えた。芸人がお笑いの尺制限で訓練された基礎的筋力の違いもあるのかもしれないが、根源的な表現の研ぎすませ方に根源的欲求の違いがあるような気がしてならない。「コント」の光の当て方、そして笑いへの距離の取り方の違いを考え続けている。程よい時間配分と快適空間で、新しい知的好奇心を刺激するテアトロコントが、見るたび好きになっている。(モリタユウイチ)

笑いに転ぶ不安定
水素74%『花火』が圧倒的だった。何も名物のない田舎で、花火大会を催そうとする村の面々。彼らの思惑は利他的なようで、多分に利己的である。登場人物は皆善良で、村の発展を願っているようで、自分のことばかり考えている。大会の準備を不倫のキッカケにしたい。「今まで頑張ってきたから」と自分の努力を無駄にしたくない。花火大会をダシにした婚活パーティーに参加し、嫁を探したい。親族である芸術家のプライドを傷つけたくない。観光客を宿泊させ、旅館を盛り上げたい。大火事に見舞われ、火を見るのも辛いから大会を中止にしてほしい。人にはそれぞれ事情がある。登場人物全員にある程度共感できるが、全面的には支持できない。振る舞いの乱暴さもあり、火事の被害者にもいまいち同情できない。その為終始観客も気まずく、足場が不安定に感じる。
この不安定さこそが笑いの源泉である。不安定だから、注視する。不安定だから、よく転ぶ。皆ある点ではまともで、ある点ではおかしい。「ボケ」「ツッコミ」に整然と分離される前の、不穏な化学変化の可能性を見せられる。主婦と、その夫の不倫相手。この二人の「あなたは素朴」「素朴じゃない」のやり合いは、不穏さにおいても笑いにおいてもピークだったと思う。
この劇がギリギリ「コント」と呼べるのは、不安定が転んだ先が「笑い」だから、その一点である。物語の展開の結果「たまたま」笑える範囲に収まっただけで、ボタンを掛け違えば悲劇になっていてもおかしくない。殴り合いぐらいはあり得る。
登場人物は皆善良な村人であり、過大なエゴは持たない。他者を傷つけ、ねじ伏せてまで我を通す者はいない。そこそこのエゴを抱え、程よくぶつけ合いながら生活している。全く普通の暮らしだ。こんなにも普通の時間を描きながら、しっかりと笑いを取るのは本当に凄いと思う。(森信太郎)

コントという仕事を選んだ男たち
「人は何のために仕事をするのか?」就労前の学生なら、こう答えるかもしれません。「お金を稼ぐため」
でも、世の中には、それと真逆の人もいるんですね。
だーりんずが演じた、ラーメン屋のコント。値段は一杯500円。昔ながらの素朴な味に惚れ込んで、通い続けた一人の客(松本りんすさん)。ある日、店主(小田祐一郎さん)と交わした何気ない会話で、意外な事実を知ってしまう。40年前から変わっていない。味も値段も。そう、値段も!40年前の500円は、現在の価値で1600円!そんな高いラーメン、食べに来る客なんかいるのかよ!誰もがそう思いますよね?でも、店主は涼しい顔でこう答えるのです。「客は付加価値を求めて来るんだ」と。むむっ、確かにそうかもしれません。じゃあ、どうして値段が据え置きなんでしょう?実は、店主はビルのオーナーでもあり、ラーメン屋は税金対策でやっているだけ。つまり、赤字にするために仕事をしていた。“人情ラーメン”というのは勝手な虚像。人は無闇にものを尋ねてはいけませんね。だって、知りたくないことまで知ってしまうんだから。
「人は何のために仕事をするのか?」中高年なら、こう答えるかもしれません。「家族を幸せにするため」
でも、その幸せは、自分の描いていたものと、必ずしもイコールではないんですね。
とあるアイドルグループにドハマりしている、いい大人(小田さん)。仕事も辞めて、アイドルのために生きると目を爛々と輝かせている。そんな息子に手を焼きつつも、父親(りんすさん)はさほど強く叱責できない。何故なら、自分がそのアイドルをプロデュースしている仕掛人だから。アイドルと握手をしたいばかりにCDを山ほど買い、コンサートツアーを追っかける息子は、仕掛人が夢に描いたような理想の客。でも、それが自分の息子だったら、どうなんでしょう?息子は仕掛人を尊敬するあまり、父親の名のタトゥーを刻む。動揺する父親は、本来、持っているであろう、仕事へのプライドをかなぐり捨て、息子が絶賛する曲を「あんなの5分で書ける」と嘯いてしまう。「えっ、6分の曲なのに!」(爆笑)
「人は何のために仕事をするのか?」それは、永遠のテーマなのかもしれません。その鉱脈を掘り当てた、だーりんずのネタは尽きることがないでしょう。これからも様々なスタイルで、仕事の意義をコミカルに問いかけてほしいものです。客が求めているものは、だーりんずのコントのような、プロの仕事なのだから。(市川幸宏)

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