渋谷コントセンター

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2016年8月27日(土)~8月28日(日)

テアトロコント vol.10 渋谷コントセンター月例公演(2016.8)

主催公演

公演詳細

もっともっと肯定的などっちつかずに
【1】マッハスピード豪速球『猫』他3作品。 「人間の面白さ」を伝えたいとあったがその通りで、相手を笑わせようしているわけでは無いのに本人の自分ルールが特殊な為、笑われてしまう「フェイクドキュメンタリー的なリアルの微調整(森直人)」を行い笑いを起こしていた。題材も良く「個人営業の自転車撤去」という新しい仕事が「半分ボランティア/半分表現(佐々木敦)」の「自主的な交通整備」に変わる事で「金貰ってない分タチ悪くなっちゃってる」という違いに気付く観察眼は見事だった。
【2】ナカゴー『復縁』。 鎌田演出に頻出する「黒子らしい黒子」ではなく「掃除機を持った役者も含めて掃除機」という、単純な物活論的擬人化ではない「準主体・準客体(ミシェル・セール)」の未分化な存在のまま「掃除機」役を作った事に驚かされた。ルマンドの包みが好物などの設定の細かさを持ったおかげで人間の前髪や顔を吸うというシンプルな雑さが際立った。セリフはパンチラインだらけな中「トマトの分量の話」や「筋肉のポーズ」による中断に最も演劇由来の賭けを感じた。
【3】テニスコート『オーディション』他2作品。 モーガン(以下M)(・フリーマン)を見掛けドア越しに励ます「泣くなよM」「泣かないでM」「元気出せよM」「らしくないぜM」という4人の掛け声がいつから海援隊の「贈る言葉」になったのか分からなかったが小気味良いグルーヴが感じられた(同時にそれはただの海援隊のグルーヴでもある)。『名探偵』はトリコロールケーキの『チカラ』と近い設定だが、「通った」かどうかの判断基準を持ち合わせる普通の人間(ツッコミ)を残した部分に違いがある。
【4】ジンカーズ『手相の勉強してるんですけど…』他4作品。 「ただの憂さ晴らし」とあったが「彼らがサディストならば、ましだ。しかし、そうではない。人としての共感を唾棄し、教義の断片を無慈悲に現実に貼り付ける『コピペ』。この乾いたゲーム感覚ともいえるバーチャル性が彼らの真髄だ。この感覚は宗教より、現代社会の病的な一面に根ざす(田原牧)」ように「芸人はアイドルの下位互換ではありません」「裸でモノマネしながらリズムネタをする」という発言を言わされるような現代の芸人が置かれる過酷な状況に心苦しくなった。
【総評】テニスコート(演劇)にはコントらしさを感じ、マッハスピード豪速球(コント)には演劇らしさを感じた。テアトロコントの前から既にそうだったのかもしれないが、それでも今後、真にどちらともいえない未分化な「テアトロコント的」が発生する兆しを感じた。   (小高大幸)

“くだらない”は一組ぐらいが丁度良いかもしれない
1組目はマッハスピード豪速球。コント4本が1つに繋がっている仕組み。このパターンは初回の巨匠から続く、テアトロコントでの芸人側でよく見受けられる方法論だ。オムニバスにする事がテアトロコントでの方法論としてベタである事が割と確立してきたと思う。野生の猫に餌を与え続け迷惑がられるお婆さんや、仕事が無く暇なので勝手に交通整理を行うお爺さんなど、コント4本とも社会的に弱者とされるような高齢の男性、女性を主とするものであった。その男性、女性共に坂巻さんが演じているが、可愛げがあるキャラ故にピエロっぽくもあり、その悲哀さがより増して見えた。どのコントも勿論笑えるが、悲しくもあった。3本目の個人で自転車撤去を行うコントは「使命感はある」「罪名の分からない犯罪だよ」「国の自転車撤去も知らないオジサンに金払うだろ」とキラーフレーズが炸裂し続け、オチまでの辻褄も完璧だった。
2組目はナカゴー。『復縁』という新作の短編。掃除機をペットと見立て、それが主人公になるのかと思いきや、人間の恋愛の移ろいや営みが話の中心になっていて、それを俯瞰する存在としてペットに見立てられた掃除機がいる。掃除機を操る藤本さんが黒子でなく、藤本さんとして存在して、途中で掛けている眼鏡を拭いたり、すまし顔で佇む様がとても印象に残っている。黒子であればあり得ない演出だが、掃除機がペットである事がそもそもあり得ない事であって、でもそのあり得ない世界を日常に見せるのが演劇であるはずでもあって。何が本当で何が嘘なのかが分からなくなる時間がずっと続く30分だった。いとうせいこうはナカゴーを「リアルであることが、そこでは狂気になる」と評していたなぁと思い出した。
3組目はテニスコート。テアトロコント常連組の中で一番素直に笑えるグループになりつつある彼ら。他の組が重たい演目である事もあり、一番無邪気にくだらなく笑えた。感想としてはそれだけで充分だが、2本目の『名探偵』は先月のトリコロールケーキの問題作『チカラ』を想起させた。明示的な言葉を合図にSEが鳴り、でも誰もその言葉を汲み取らず話が続いてくシステムは両演目に出演している今田さんのものなのかなと。そして明らかに今回のテニスコートの方が分かりやすく笑いに寄っていた。雷のSEの後の神谷さんの何とも言えない表情や、犯罪の内容から始まり最終的に犯人に人生を問う場面で、浅はかな事を言うと雷SEが鳴ってくれないシステムはただただくだらなくて笑った。
4組目はジンカーズ。コント3本、SEネタ2本、どれもテレビでは絶対に見る事の出来ないコント群。1本目の『手相の勉強してるんですけど…』はその後「宗教に入りませんか?」と続くネタ。樋口さんがマニュアル通りに動く人を演じるが、しっかりマニュアルの存在も提示し、自分は言わされている事も言ってしまうメタは好みだった。そして、この30分は一貫して樋口さんが強気で言い切るコントが続く。その様は宗教ネタのマニュアルのようで、最後のコント『英会話教室(尖りver.)』 では「これは台本で相方に言わされている」と1本目を連想するような締め方で、このテレビでは絶対に見る事の出来ないコント群のオチのようでもあった。SEネタは樋口さんの言い切り、それに対する馬場さんのリアクションの取り方とその間はスネークマンショーを思い起こし、またSEネタをする時点でそれは念頭にあったのかなと思った。(倉岡慎吾)

口にするのも憚るぜ!ジンカーズの正拳突きが炸裂!
 こけら落とし公演から、あっという間に10回目の開催となったテアトロコント。演劇からはお馴染みナカゴー、テニスコート。芸人からはマッハスピード豪速球(オフィス北野)。フリーで活躍するジンカーズ。
 マッハスピード豪速球。猫を飼いならすホームレス、そのホームレスが毎日のように入り浸るパチンコ店。ここで登場人物が変わり、ホームレスが頼りにしている初老の男が登場。男がはじめた「私営自転車撤去業」と「勝手にやっている交通整備」の4作。30分などの長尺のコントが得意だと自負する彼ら。その通り、どれもしっかりと考えられた構成の上に人間味のあるおかしさを展開。
 ナカゴー。初登場は腕を切り落とす話、前回はフェラチオをする話、そして今回は男女がまぐわう話。彼氏を奪われた女と奪った女、そしてその間に立つ彼氏。……と飼い犬(?)の掃除機。この彼氏がろくでもない野郎なのは言うまでもないが、気になるのは掃除機である。よくある三角関係が展開されるが、掃除機が視界に入って気になる。気になりすぎる。
 テニスコート。今回はテニスコートの3人(神谷圭介・小出圭佑・吉田正幸)のほか、こちらもテアトロコントに出場済みの、トリコロールケーキ作演出の今田健太郎が役者として登場。よくよく考えてみればテニスコートの説明っぽいセリフやシュールさを狙った作風は、トリコロールケーキと親和性があるのかもしれない。『オーデション』『名探偵』『モーガン』の3作。泣きじゃくるモーガン・フリーマンを励ますためにあれやこれと四苦八苦するが、モーガン・フリーマンが他の黒人俳優と一緒くたになっている。結局は「みんな黒人じゃないか!」である。テニスコートらしいコントを見事に演じきった。
 トリは、ジンカーズ。およそ内容を語るのに躊躇するのなコントを3本。カルト教団や、反米感情など今の世の中にはてんで出てこなくなったことをボケとして披露。こちらは、ぜひとも劇場で見ていただきたいと思う。
 今年の芸能界は不倫などの、みっともないニュースが多い。人気者から一気に転落したべ○キーのように、もう戻ってこれないのでは?と思うほどだ。だけど、もっと昔のテレビやエンタメって、ひとの不幸を笑いにしたし、騙されてる人、死んだ人もブラックな笑いに変えてった。いつからか、誰かの不満が伝染していて、世知辛い空気になったなあと思う。だからこそ、ジンカーズのもつパンチ力は、どんな格闘家の一発よりも重いはずだし、一気に好きになってしまった。
 そのパンチを受ける覚悟ができたなら、さあ劇場というリングへ。(早川さとし)

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