2022年12月16日(金)~12月17日(土)
テアトロコント vol.59 渋谷コントセンター月例公演(2022.12)
主催公演
公演詳細
良く練られ、分かりやすい笑いを届ける青色1号
青色1号は、長身スリムでいかにも体育会系というような上村典弘、同じく長身スリムなものの、どちらかというと冷めた印象を与える仮屋想、背が低くメガネがトレードマークで明るくいじられキャラという印象を与える榎本淳の3人組である。3人とも、「知り合いの誰かに似ている」と見えることは彼らの武器ではないかと思う。彼らが今回演じたコントは、日常の普遍的なシーンを切り取った、「あるあるネタ」が散りばめられていた。3人とも、学校や会社でこんな人いるよな、と共感を誘う容姿をしていることは、彼らがコント中に演じるキャラへの共感を一層強めている。
彼らのネタの中で、印象的なコントを2つ取り上げたい。
【社交辞令】上村と仮屋は、職場の同期ではあるものの、以前一度飲み会で顔を合わせた程度で、その際も大して盛り上がらず、お互い一次会で帰った。にもかかわらず、職場の休憩時間に屋上で再会した際、「また飲みに行きましょう」とお互い全くその気がないのに誓い合ってしまう。しかし実際にはそんな飲みは存在しないことをお互い確認し合っていると、榎本が入ってきて…というコントである。
私はこの状況設定に非常に共感を覚えた。そして暗黙の了解(この場を乗り切るためだけに、次回の約束をしているが、そんな日は二度と訪れない)をぶち壊す榎本の存在に笑ってしまった。3人組ならではの動きのある展開も面白かった。
【明日の予定】上司(榎本)が部下(上村と仮屋)を私用で誘う。しかし、上司(榎本)は、「明日空いているか」としか言わず用件は告げない。用件は、「上司の引越し手伝い」という休日が潰れる残念なものから、「巨人戦のチケットだけ渡す」という素晴らしいものまである。部下はギャンブルのような誘いに苦しみつつ、返答するというコントである。
上司役の榎本の演技が上手い。いかにも「悪気なく、純度100%の良心で部下を誘っている」感じが出ている。確かに、この状況も誰しも体感したことがある、「用件を言ってから予定を確認してほしい」という気持ちを巧みにネタにしている。上司が根本から嫌なやつに見えず、愛されキャラにすら見えるのは、榎本のチャーミングさと感じた。
全体を通じて、青色1号は、普遍的な笑いを志向する三人組であることが良く理解できた。今回、無理のある展開で笑いを取ったり、サイコ感のある人物を登場させて盛り上げたり、唐突感のある設定を入れる等奇をてらうことはなかった。登場人物に悪人がおらず、ほっこりしたコントが多いことも特徴的であった。(あらっぺ)
嫌な人っているよね、ごく身近に。
世の中に登山ほど爽やかなものはありません。澄み渡る空気、山鳥たちの囀り、強く美しく咲き誇る高原の花々…。そこでは誰もが無垢な少年少女の瞳を取り戻し、一切の邪心から解放されます。晴れやかな表情で挨拶を交わし、見知らぬ人と気さくに会話を楽しむ光景をそこかしこで見ることができるのは、山ならでは。いくら高所に登るのが好きだからと言って、六本木ヒルズや東京スカイツリーでこうした人々を見かけたことはありません。そんなこの世の楽園とも呼ぶべき山で繰り広げられる会話に注目したのが、金の国の頭脳、桃沢健輔さんです。桃沢さん演じる登山客は、相方の渡部おにぎりさん演じる下山客とすれ違い、笑顔で会話を始めます。でも、何か不審に思ったのでしょう。下山客に疑いの眼差しを投げかけます。あなたは登山の爽快さを全身で表現しているけど、本当に自力で山を登ったのかと。下山客は歩いて登ったと言い張りますが、登山客の詰問に屈し、白状します。ケーブルカーで8合目まで登ったと。しかも、頂上まで登ることなく下りてきたと。言ってみれば、ただそれだけのコントですが、その舞台が善意に満ちた山なので、些末で不毛なやりとりが不協和音を奏で、笑いを生みます。
ところ変わって、とある酒場のカウンター。心を解放できる、都会のオアシス。桃沢さん演じる客の傍らに女性客を連れた客、おにぎりさんが着席します。女性に店の雰囲気や料理の旨さなど、いい店アピールをしますが、店員との会話は何ともちぐはぐ。彼が常連客でないことは隣の桃沢さんにも明らかです。厄介な人が来たなと思っていると、前もこの店で会ったよねと話しかけられます。勿論、初対面なので否定します。が、空気を読んで、話を合わせようとすると、逆におにぎりさんに怪訝な表情をされるという有様。一体、どちらに非があるのでしょうか?
この日のコントは合計4本。あえて、パンフレットのタイトルを見ずに観ていたのですが、最後に映し出されたタイトルを見てのけぞりました。「嫌な人①」「嫌な人②」「嫌な人③」「嫌な人④」。確かにそうです。間違っていません。でも、コントに嫌な人が出てくることはよくあるので、このザックリさは何なんだと、しばし呆気にとられました。でも、改めて考えると、嫌な人というのは4×2。つまり、演じられた全員ではないかと思い至った時、はたと気づきました。人は誰もが嫌な人になり得る、それぞれの視点の違いによって。桃沢さんの冷徹な眼が生み出した、観る者の心をえぐる4作品でした。(市川幸宏)
ウケを取りに行く姿勢と台本の反比例と、陰謀史観。
今回の公演で印象的だったのは青色1号。コント師としての出演だが、お笑い芸人特有のウケを取りに行く野心が見られるようなリアクションや間の取り方は一切なく、会社という設定のコントを平熱で、自然な形で5本演じられたことに好感が持てた。これは1組目で出演したオフローズといい対比になっていた。オフローズも青色1号も台本が緻密で、コント自体に仕掛けが施されていて、まさしくお笑い芸人がテアトロコントに出る意気が感じられるものだったが、オフローズは先述した「ウケを取りに行く野心が見られるようなリアクションや間の取り方」がデフォルトのコント師のように思えてしまい、緻密な台本がすっと入ってこなかった。これはどこかで「お笑い芸人とはリアクションが大きく、瞬発力もあり、面白いとされる間の取り方もわかっている人たち」という固定観念があるように思えた。劇場でウケるための人前での振る舞い方やサービス精神が、緻密で仕掛けの多い台本の効力を削ぎ落してしまっていると感じた。もしかしたら吉本という地場とそうじゃない事務所との差なのかもしれないと思った。「自分」を面白いと提示してしまうことによって「台詞」または「構成」の面白さを削ってしまうことがある。そんな気付きがあった公演だった。
またテニスコートに関しては『象の花子』というコントも印象的だった。動物園という設定で飼育員2人が1人を追い詰めていくコントだが、昨今の陰謀史観が蔓延った世の中でこのコントを見ると、ボケとして言われている台詞も「もう笑えない状況になっているな」と俯瞰しながら笑うというねじれ現象に陥った。このコントが発表された当初から私は見ているはずだが、コント自体はなにも変化していないのに、世相が変わるとコントの質もこんなにも変わってしまうのかと驚きながら見ていて、ネタ自体は笑えて面白いし、その感じ方の変わりっぷりも興味深い意味での面白いがずっと持続して、とても変な気持ちだった。ボケの人がボケの台詞を言う。それを観客が笑う。でも実際の日常生活のなかでボケの人がボケたことを言うと、怖いんですよね。しかも正義感をもってその人は言うんです。コントは作りものだからいいんですけど、同じような言動がTwitterや駅前でマスクをしていない人たちが言っていたりする。コントを見続けているとこんな怖いことがたまに起こって、それをユーモアとして騙し騙し受け取らないとこっちもやっていけないからコントを見続けるんだと思いました。(香音愛子)
レビューの振りして愛を書きます
日頃から足を運んでいるユニットばかり。この5組について書かせてもらえることが何よりうれしいです。
金の国。タイトル『嫌な人①②③④』にいきなり殴られました。褒められるコントは、人間の格好悪さやままならなさを可愛く見せてくれる。そう仮定した時に、桃沢さんは「別に可愛くない」ことに終始するという残酷さを選んだのかなと思いました。それは昨年すでに、物語・キャラクター・演技力・ワードセンスすべてを備えて、2本の大きな冠を獲って、そんな金の国が拡がる道はそこにあったから。そしてやはり、少しの変化で良い人にも悪い人にもなれるおにぎりさんの天性の表情、桃沢さんの高すぎる洞察力、何より2人の巧みな表現力があれば、切れ味鋭く、しかし決して乱暴でない美しいコントが仕上がるのだと痛感しました。生きる場所はすべてコントの場面になり得る。どんな設定・キャラクター・会話からも笑いは作れる。金の国はこれからもっとそれを証明していくと思うし、それは人を描くということへの無限の気概と才能なのだと敬服しました。
テニスコート。以前、神谷さん・ダウ90000蓮見さんとの対談で、佐久間宣行さんが「テニスコートはユーロライブに幽閉されている」と言っているのを見て大笑いしました。私はユーロライブで見るテニスコートが大好きだからです。本拠地aka幽閉地で久々に見た3人は腕をぶん回しまくっていました。やっぱり完全に、言葉を手玉にとっている。人間より言葉側に近い人たちなのかも。何てうらやましい。そんな言葉側にいる人たちの、私は表情も好きです。ギリ冗談だけどやっぱりギリ本気なのでは?と思わせてくる絶妙かつ的確な表情。そこから生まれるのは、上品な言葉をくだらないものに、下品な言葉をていねいなものに聞かせるあぶない力。今回の3本も信じられないくらい面白くて、途中から何言われても笑っちゃう体にされました。しかも驚くことに2日見て2日目のほうが面白い。テニスコートはカレーなのか。カレーだとしたら3日目どうなっちゃうのか。
サルゴリラ。テアトロコントにサルゴリラが!ということは、今年を風靡したエイゲツさん・ルールさんにもしかして会えるんじゃないか。そんな淡い期待をして向かいました。そして当パンで知るお名前の表記。『影月』『RULE』と書くのですね。最高です。この2本は、今年のキングオブコント準決勝で披露された少しシリーズチックな2本。それぞれ児玉さんがちょっと(とても)おかしな超能力者・マジシャンを演じ、赤羽さんは、客席の想いを丸ごと背負った気持ちよすぎるツッコミを浴びせます。この夏この2本のことばかり考えていたし、これからの人生、新宿駅で乗り換える度に影月さんを、ナッツを見る度にRULEさんを思い出すのだとしたらそれはいい人生です。虜にならない人はいないと断言します。直接体をくすぐられているくらい、ケタケタと笑いが止まらなくなる。出来るだけ、たくさんの人に虜になってほしいコントです。
オフローズ。オフローズは発想の爆弾です。あんなことも出来てこんなことも思いついて、とても器用な3人。『記憶喪失サラリーマン』では、記憶喪失という事象のメタ化、『拷問』では、拷問をじゃましていた母親の役割を最後大幅に転換するというオチ設定の妙、『Tシャツ屋』では、システムそのものの発明。特に『Tシャツ屋』は一際テアトロコントに映えていました。素敵なコントには、どんな破天荒な設定にも、不思議な必然性があるように思います。それはもとの設定が生むこともあるし、その中で生きる人たちの気持ちが生むこともある。もしオフローズがもっともっとコントの中を生きたら、その不思議な必然性が高くなって、もっともっと引力の強いコントが仕上がるかも知れない。そう思うと先が怖いです。
青色1号。青色1号って、もしかして毎日ちょっとずつコントが楽しくなっているんじゃないか。そのくらい3人とも楽しそうにコントをしていて、見ているこっちまでコントしたくなってくる。今回も5本も演じてくれました。その中でも心が動いたのは『19cm』。おしゃれな映画みたいなタイトルだけどしっかり下ネタ、しかもいわば一点突破型。青色1号ひいてはトリオの持ち味であるワチャワチャさに頼らず、一点をまっすぐに極めていてすごく格好良かったです。ものを作る時、「こうやったら面白くなる」はもちろんだけど「こうやったら自分たちが楽しくなる」と考えることも、きっと同じくらい大事なのだと気付かせてもらいました。5本すべてをスーツ姿で演じていたのも印象的。3人の人柄と、日常の歪みや可笑しみがマーブルに混ざり、ひとつの単独ライブのような後味でした。
私がテアトロコントに足を運びつづける理由のひとつは、オープニングです。お辞儀のみで言葉の挨拶はせず、時々少しポーズをとったりとらなかったり。そこにコント師の美意識とわずかな人間味を、勝手に感じています。今回も皆さん素敵だったけれど、青色1号・上村さんの照れたようすが特にチャーミングでした。(ごとうはな)