渋谷コントセンター

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2017年3月24日(金)~3月25日(土)

テアトロコント vol.17 渋谷コントセンター月例公演(2017.3)

主催公演

公演詳細

フロム・ニューヨークとチョップリン、双璧のトップ2
特に印象に残った二組について。
フロム・ニューヨークは『人命救助』一本。三人の中年男性の、宅飲みを描いた会話劇。グーグルとミツカンそれぞれの社長を川で救った男の話から、会話は数分おきに妙な方向に進んでいき、結局、ゴールらしいゴールには辿り着かない。「グーグルとミツカン、二社から社長にならないかと誘われている」「ミツカンのほうがいい。酢は体にいいし」「俺はどちらにもならない。夜勤のカラオケバイトで年下にいばりたい」「っていうか麻薬やめろよ」「やり始めたばっかだよ!」
記憶を頼りに台詞の大意を書き出したが、会話の脈絡が全く無く、連鎖的に思い出すことが出来ない。ある瞬間に「夜勤のバイトよりグーグルの社長になるべき」と正論を打った男が、次の瞬間には「お前の尿道に入らせろ」と迫る。どの登場人物にもまともな面と異常な面の両方があり、会話のチャプター毎にボケ・ツッコミが入れ替わる。笑い飯の漫才のように、一人がボケて、他の一人(もしくは二人)が正す。そして交代。
これは一種の漫才なんだと思う。劇の設定や役柄を逸脱しない範囲で、交代でボケ、交代でツッコむ。作・演出はブルー&スカイではなく、「フロム・ニューヨーク」である。終演後のトークによれば、メンバー全員の話し合いで台本をつくり、それをブルー&スカイがまとめるらしい。この合議制はお笑い芸人のネタ作りに近く、作家・演出家/出演者で分断される演劇一般からは遠い。
また、会場のウケ方も「お笑い芸人ぽかった」。テアトロコントにおいては、お笑いチームが爆笑をとり、演劇チームが静かに笑いをとる印象があったが、この夜の爆笑王はフロム・ニューヨークだった。ウケの大きさ=作品の優劣ではないが、四組の中で彼らが一番ウケていたと思う。大きい笑いが頻繁に起き、最後まで途切れなかった。
チョップリンは『訪問』『会社にて』『子供の遊び』『公園にて』の四本。
どのコントも、まともな人(ツッコミ)が狂った人(ボケ)に対峙する王道の形式。
(『会社にて』ではゲイの先輩社員がボケの役回りだが、狂っているのは勿論セクシャリティそのものではなく、彼個人の性格である。)
狂気が振り切っていたのは『子供の遊び』。だるまさんが転んだに勝手に混じってくるヤクザ風の男。他の三本とは違い、狂人役は西野が演じる。これが本当に怖い。何の恨みも、というより面識すら無い筈の子供に対し、鋭く光った目で殺意を露わにする。「だるまさんが転んだ」に合わせて包丁を取り出し、自身の膝に刺す。子供は、「俺もこうされるってことか…!」と絶望する。おそらくテレビのネタ番組なら観客の悲鳴が止まないだろう。ただ、笑うということは、目を背けずに恐怖から逃れる最善の手段であるから(もう一つの手段は悲鳴を上げることである。ネタ番組の観客のように)、恐怖は匙加減一つで爆笑に転ずる。おそらくチョップリンは、その匙加減を皮膚感覚で身体に刻んでいる。(森信太郎)

この素晴らしき、ナンセンスな世界
漢字は実によくできていると納得させられることが度々あります。女三人寄れば姦しい。なるほど、確かにって感じですよね。では、男三人寄れば…?そんな漢字はありませんが、フロム・ニューヨークのやりとりを見れば、客の心にそれぞれの答えが自ずと湧いてくるでしょう。
「人命救助」と題されたコント。いかにも、うだつが上がらない感じの三人の男が部屋飲みをしている場面から、物語は始まります。と言っても、終始、飲みながら話しているだけで、これといったストーリーはないのですが、序盤にいきなり、奇天烈なエピソードが明かされるので、客はグイグイ引き込まれます。
中村たかしさん演じる男が、川で溺れている人を助けたと。それも二人同時に。しかも、一人はグーグルの社長、そして、もう一人はミツカンの社長。「凄ぇじゃん、凄ぇじゃん」と盛り上がる二人。そこに一本の電話が。人命救助をした男は電話の相手に激ギレする。相手はグーグルの社長。理由を訊くと、次期社長になってくれと言われたから。実は、ミツカンの社長からも同様の依頼を受けたが、断ったと言う。「なんで、なんで?」と尋ねると、男は「カラオケボックスの夜勤を一生続けたいから」。人にはそれぞれの価値観があります。ここでは「グーグルの社長とミツカンの社長、なるなら、どっちがいい?」という問いに意見が分かれるシーンもあります。多様な価値観の有りようを提示するのは、現代においては重要なことです。
さて、そんな中、おやっと思うシーンが展開されます。電話をしている男の前で白い粉と現金が堂々と交換されるのです。社長の話が一段落したところで、この件に言及する中村さん。けれど、二人はしらばっくれる。でも、白い粉を受け取った男が突如、異常な行動を取ってしまう。そして、話題はさらに奇妙な方向に。空から降って来た女性用ショーツをどうキャッチするか?実際に持っていたショーツを用い、真面目に検討する三人。そこに、もはや、ツッコミは存在しません。酒のせいか、ドラッグのせいか、ロジックなど皆無の不条理なやりとりが続きます。でも、そこで、はたと気づくのです。私たちの日常も、これと大差ないのでは?話がどんどんずれてって「さっき話してたの何だっけ?」そんな問いを耳にするのは茶飯事です。飲みの席だけではありません。職場でも公共の場でも政治の場でも、不毛なやりとりは枚挙に暇がありません。善し悪しではなく、それが人間なのでしょう。今日も世界のそこかしこで、空虚な会話が飛び交っています。意味などなくて当たり前。フロム・ニューヨークが織りなすナンセンスな会話劇は、ロジックという名の呪縛から現代人を解放してくれる爽快感に溢れています。(市川幸宏)

笑いからはみ出るものを感じて
1組目のトリコロールケーキはある料理研究家のプロデュースする包丁工場で働く4人の姿を描いた『このまま』で荒唐無稽でありながら、奇妙なリアリズムを持ったねじれた空間を舞台上に出現させた。一見奇妙な設定でありながら、登場人物たちはある意味「普通」に働いている。それを打ち壊すように途中巻き起こる「お料理ヤクザ」同士の抗争には笑いながらも緊張感を覚え、そして最後まで見るとタイトルの意味が痛々しいほどわかる。「このまま」続いていく日常という異常を描き切った、笑いだけでは終わらせてくれない、知らないうちに心に刺さってくるような毒を含んだ舞台だった。
2組目のわらふぢなるおは奇妙な行動をし続ける男とそれに突っ込み続ける男といういかにも「コント的」なスタイルでありながら、それにとどまらない軽快な笑いを生み出していた。『コールセンター』はインターネットの回線の問い合わせをする男とコールセンターで受け答えをする男という現代的で身近な、現実にもすれ違いが起こるような場面の中でテンポの良いボケとツッコミで、見るものを飽きさせない笑いを生み出していた。また、『音声検索』の電車の中で、スマホの音声検索をし続ける男という設定もいそうでいない絶妙なラインで見事だった。身近な設定の中で、笑いを取り続ける二人の姿は魅力的だ。
3組目のフロム・ニューヨークの『人命救助』は部屋で飲む3人の男が繰り出す戯れ言か本気かわからない言葉にお互いが翻弄され合いながら、結末らしきものになだれ込む不思議な時間だった。川でおぼれていたおじさんを助けたことで、Googleかミツカンの次期社長になりそうだという話を皮切りに続いていく、自然なトーンの狂った会話に見ているこちらもペースを乱されるような感覚になった。特に流れの中で当たり前のように行われる麻薬の取引がたまらなく面白かった。この上なく自然な状況におけるこの上なく不自然なやり取りが持っている破壊力を見せつけられた一本だった。
4組目のチョップリンは強烈なキャラクターと設定が刺激的な4本だった。その中でも、『公園にて』の腎臓を移植した男がその腎臓の元の持ち主に出会うという設定には驚かされた。それに加え、突飛な発想を突飛なままコントに閉じ込め、それを作品として仕上げるパワーを感じた。テアトロコントならではともいえる一般的なコントの枠組みには収めきれない、狂気をはらんだ攻撃的なコントだった。
今回は、舞台の設定に4組それぞれの個性を見出せた。設定は作品の土台となるものだが、それを通常の状況からどのように逸脱させるか、あるいはさせないかにその作品の生まれ方を垣間見ることができる。一見普通に見える設定の上でそこから逸脱した笑いを構築していく、突飛な設定の上でその設定を中心に笑いを生み出すなどその方法論はそれぞれの作者の数だけ存在するといえるだろう。笑いを中心に置いたテアトロコントでは、演劇とコントが笑いを生み出す構造には疑いなく共通のものがあることを見出せる。しかし、そこからはみ出してしまうようなものこそ演劇ともコントとも名付けえないものであり、そんな名付けえないものをあぶりだせるのがテアトロコントという場の面白さである。そんな笑いを生み出す構造とそこからはみ出るものの存在を感じられた回だった。(柏木健太郎)

笑える為には鋭い知性と自然の演技力も重要
【1】トリコロールケーキ/★☆☆☆☆/『このまま』一作品。強制労働所でグッチ裕三プロデュースの包丁を研ぐ男女四人組。一人の研ぎ石が無くなり、不穏な音とともに片言だったベトナム人が日本語を流暢に喋りだすと…実はサプライズバースデーパーティー、という掴みどころのないシュールな展開。誇張された演劇しゃべりと急がないテンポ感が特徴で、シンプルなシンセベースやラップなどのオリジナル音楽が、世界観にマッチしていた。
【2】わらふぢなるお/★★★☆☆/『コールセンター』他3作品。
男の1日を4コントに分けたテアトロコントでしか見れない構成が新鮮。中でも、電車に座った隣で「電車 隣 座る方法」などとスマホに喋り嫌がらせを受ける『音声検索』が今っぽく小気味よかった。小太りの相方をなじり翻弄するネタが多かったが、そこまで太って見えなかった気もする。
【3】フロム・ニューヨーク/★★★★☆/『人命救助』一作品。仲良し青年三人の家飲み川で溺れたGoogleとミツカンの社長を助けたお礼に、次期社長になってほしい依頼を断ろうとしているのを必死で止める二人、社長との電話中に他の二人がさりげなく麻薬取引をしていたりという、脱力演技で突拍子もない展開やエピソードが脈絡なく連打されていて自然と見入った。小劇場でのナンセンスギャグ立役者の一人、ブルー&スカイの関わる作品を見れたのも感慨深い。
【4】チョップリン/★★★☆☆/『訪問』他3作品。
腎臓の移植手術から復帰した野球選手が公園で柔軟中、一人の怪しい男が、お前の腎臓ドナーが自分だと告白する『公園にて』が一番楽しめた。野球選手が、本当にドナーか疑うと、甘党変化でハーゲンダッツやミスドの好きな種類が一致し、おまけに男性好きにまで変化して納得するエピソードが刺激的で、いかにも悲喜劇だった。男性の同性愛の扱いが表層的なのが気になったが、宗教、ジェンダー、臓器提供等、笑いに扱うにはガッツが必要な素材を扱う自由さは見逃せず、他のネタも見てみたい。
【総評】今まで四度拝見し、常に芸人コントの方が笑えていたが、初めて演劇側のフロム・ニューヨークのコントが面白かったように思う。笑える為には鋭い知性と自然の演技力も重要だという事を気づかせてくれた回だった。今回は少しだけ芸人さん側に作品の練りが弱かったたようにも感じた。(モリタユウイチ)

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