2024年2月24日(土)~2月25日(日)
テアトロコント vol.66 渋谷コントセンター月例公演(2024.2)
主催公演
公演詳細
繊細な心を描く肉体派
周りの人たちが次々と命を落とし、残るのは私とあなた、二人きりになってしまった。そこに指令が…。
「どちらかが死ぬまで殺し合ってください」
現実にあったら怖すぎますが、物語としては手垢がついた設定です。さぁ、ここから一体、どんな展開を見せてくれるの?観客は身構え、当然、演じ手のハードルは上がります。このハードルを軽々と飛び越えたのではなく、するりとすり抜け、いい意味で客の期待を裏切ったのが、新進気鋭の劇団ありよりのあり。
明治大学演劇研究部出身の女性ユニットで、学生演劇祭での受賞歴も誇ります。女の子ならではのかわいさと毒々しさを際立たせた作品づくりを目指し、結成されたそうです。
この日、舞台に立ったのは作・演出を務める小柄な誉さんと、長身でクールビューティーな九条みゆさん。見た目も対照的な二人は指令を無視し、一緒に生き残る方法を模索しますが、腹の中で何を考えているかは明かしません。表面上は仲良しを装い、隙あらば相手を陥れ、一人勝ちしようという女子あるある。否、男にも十分あり得ること。世のサバイバルゲームはジェンダー平等です。二人は互いに生き残りを図り、傍目からは窺い知れない、どす黒い内面を開示していきますが、随所に心の揺れも感じさせます。こうした人間の人間たる所以が笑いの一つのポイントです。しかし、ここに焦点を当てるのは、笑いの創造者として、さほど珍しいことではありません。彼女たちの特筆性はズバリ、身体表現にあると言えます。時間を巻き戻すシーンでの逆回転、そして、映像再生の如く、身振り手振りの再現性の高さ。彼女たちは一見、肉体派に見えないだけに、意表を突かれた客たちは心の中で手を合わせます。甘く見ていてごめんなさい、と。
聞くところによると、誉さんはラーメンズ、九条さんは東京03やザ・ギースのような笑いが好きだとか。共通するのは、言葉を重視した笑いです。ナンセンスな心理戦も何かしら影響を受けているのかもしれません。そうした下地に意外性のある身体表現を加味することで、数多いる笑いの演じ手と一線を画しているのです。この作品を見る限り、スタイルは既に出来上がっています。であれば、ステップアップのための課題はさらに精度を上げること。身体表現、心理描写共に。光り輝く原石に磨きをかければ、宝石になるのは必然。彼女たちが目指すのはコントよりの演劇でも、演劇よりのコントでもなく、独自性を極めること。それがすなわち、ありよりのあり。(市川幸宏)
登場するキャラクターの厚み
■破壊ありがとう
前回のテアトロコントで一気に注目を集めた彼らの2度目の出演。昨年10月の単独ライブも完売するなど勢いのある3人組は3月にユーロライブで開催される単独ライブも追加公演が決まり、飛ぶ鳥を落とす勢いで注目されている。昨年の単独ライブでも披露された『バー』の再演が嬉しかった。今どこかの街の飲み屋で起こっていそうなリアルさがある上に、スピード感を持ちつつ予想しない展開を繰り広げる。彼に振られたばかりの傷心の女の子を木下もくめさんが演じると、どこか90年代当時のともさかりえのような、キュートさと人から愛される間抜けさ、そしてちょっとめんどくさそうなキャラクターが生まれる。そのコロコロ変わる表情が魅力的で、このコントは彼女が演じるからこそ成立する力強さがある。フラれた勢いでひとりバーで飲んだくれ、飲むたびにグラスを「ドン!」とカウンターに叩きつけるように置き、他の客に絡み始める。「ドン!」のたびにビクっと反応する田中机さん。心もとない表情でいるところに彼の着メロが鳴る。KinKiKids「硝子の少年」。「好きなんですか?その曲」と彼女が話しかけ、一瞬穏やかなムードになるかと思いきや、彼が話すたびにどんどん暗雲がたちこめ始める。親がキンキの大ファンで、息子の名前をツヨシとコウイチにしたこと、母親が好きな曲だから影響されて、とこたえる。彼女を刺激しないように世間話をするつもりが、恐るべき偶然が偶然を呼び、落ち着き始めていた彼女の心はどんどん取り乱す。もしかしたら、バーで偶然隣に座った男性の兄弟が、3年も付き合ったのにLINEで急に振ってきた彼かもしれない。疑惑は膨らみ、白黒つけようとする彼女。彼の言うように、知らなくて良いことは知らないままの方がいいことだってあるかもしれない。でもどんな結果が待っていようとも、知らなくては先に進めないことだってあるのだ。それぞれの人物像の対比が鮮やかで、今まで彼らがどんな風に生きていたのかが垣間見れるシーンがいい。彼女が最後にとった行動が愛おしくて、幸せを願わずにはいられなくなった。そんな気持ちになるのも、木下さんのキュートなキャラクターと演技力の賜物である。
■スパイシーガーリック
当日のパンフレットによれば、彼らは長尺のコントより短い方が得意とのこと。今回上演された5本のコントをテアトロコント仕様にアレンジしたようで、豪華な単独ライブを見ているかのような30分だった。『待合室』では病院の待合室での呼び出しに、芸能人と同姓同名の名前が呼ばれるたびにソワソワするふたりのやりとりがコミカルだった。どのコントも登場人物のキャラクターがいきいきとしていて、ふたりの演技に引き付けられた。ラストの『反抗期』が特によかった。反抗期の息子は母の手作り弁当が大好き。どんなに口答えしても母に「お弁当つくらないわよ!」と言われると即降参する。息子のあまりのかわいさに会場が温かいムードに包まれた。どのコントもどこか昭和のホームドラマのような人情モノの雰囲気があり、ぐぐっと世界観に引き込まれた。それぞれのコントで登場人物が繋がる演出も自然でとてもいい。テアトロコントのおかげで、また気になる人たちが増えた。(かもめと街)
パワー系の中にもセンスが光るあおいちゃん
あおいちゃんは、こわもてで体格が良いおもて、やせ形でイケメンなみむの人力舎注目の若手コンビである。コント4本を通じて、オーソドックスで無理がない設定を通じて笑いが生まれる環境を整え、おもてのインパクトがあるキャラクターで客の心を掴み、みむのワードセンスで笑わせる構成が見事だった。コンビ独自の型ができていて、今後キングオブコント等で活躍が期待されると感じた。一方、現時点では、まだ結成4年目というキャリアであることもあり、同日出演していた、キャリア20年を超えるベテランコント師ザ・ギースと比較してしまうと、設定がややベタすぎる面も否めず、おもてのキャラクター頼みの強引な展開になっている箇所も見受けられた。
【スーパーファミコン】
長時間息子がゲームをしているので止めに入る母(おもて)と息子(みむ)。ゲームカセットの調子が悪くなり、母に助けを求めると、ゲームカセットに息を吹きかけ、見事ゲームを復活させるのみならず、ゲームまで進めてしまうというあらすじである。キャラクターコントとあるあるネタの融合とも言うべき傑作である。本コントが4本の中で最も独自性があり、出色の出来と感じた。
【今日は定時で】
納期が迫り部署全体が残業をする中、一人定時で帰宅しようとする若手社員(おもて)とそれをとがめ、定時で帰宅する理由を尋ねる上司(みむ)。友人のプロポーズをフラッシュモブで応援するためと分かり、快く送り出す上司だが、若手社員のフラッシュモブにおける役割に疑念が生じて・・というストーリーである。おもてのパワー系のボケ、熱量の高さで笑いをかっさらう。所々差し込まれるみむの突っ込みも冴えている。正直、設定自体はよくあるものだが、二人の個性、展開によって飽きさせない。
【生放送】
特殊詐欺に手を染めていた男(おもて)と報道番組でインタビューするキャスター(みむ)。すりガラス越しにインタビューするも、男はすりガラスからどんどん前に出てしまい、生放送にもかかわらず、前科者の姿が視聴者の前に現れてしまうというストーリーである。おもてのこわもてな容姿を活かした分かりやすいドタバタ劇だった。
【プラネタリウム】
プラネタリウム内でのサプライズプロポーズを計画する男(みむ)と、下準備を経ていざその時を迎え緊張するプラネタリウム職員(おもて)。緊張してやらかしてしまうというベタな展開であるが、おもてのテンションの高さが笑いを誘う。(あらっぺ)
劇場が若返るということ
昨年10月ぶりのテアトロコント。久々のオープニング、もうそれだけで「帰ってきた!」という気持ちになりました。
破壊ありがとう。破壊ありがとうにはずっと、何か他にはない圧倒的な色気があって、でもそれに合う言葉が見つからない。そんな難解な妖気の正体の一つは、もしかして引き算の上手さなのかなと思いました。出来ることもやりたいこともたくさんあるはずなのに、それを無碍に投げつけて来ない。だから思想の強そうな作品も、とても見やすくまとまっている。それは時間の使い方にも同じことが言えて、短く潔く切り上げるコントもあれば、その分たっぷり見せる1本もある。そういう一つひとつの余裕が色気に繋がって、つい目を離せなくなってしまうのかも知れません。そして今回ドキっとしたのは台詞遣い。3本のコントの中に、心に残しておきたい台詞がいくつも組み込まれていて、3人だけの世界が着実に積み上がっていると感じました。3人、コントやってて楽しいんだろうな、うらやましいなって思います。単独も楽しみです!
劇団ありよりのあり。どんなに真面目に劇場へ通っていても、こういうユニットにはなかなか出会えない。だから私はテアトロコントが大好きです。普段はどこで活動してるの?演劇の他にもステージに立ってるの?気になることはたくさんあるけれど、反面でそんなことどうでもよくなるくらい、瑞々しくはつらつとした30分でした。演技が上手で、肝が据わっていて、見られることに気負いがない。むしろ観ているこっちが試されている気すらする。飄々としたお2人はとにかくまっすぐ格好良かったです。きめ細やかでしっかり編み込まれた物語は、文面で読んだらまた違った味わいになりそう。根拠はないけど、ぐっと肩を掴まれて「今を見るのだ」と言われているような、キリっとした時間を過ごしました。
スパイシーガーリック。何様すぎる気持ちをそのまま言います、めちゃめちゃ素敵•••!感激しました!
まず、自分たちの良いところをものすごくよく分かっている。2人ならではの愛嬌とかきっと仲良しな関係性とか、そういうチャーミングさがそのまま作品に映っていて、それだけでにこにこしてしまう。そして何より、人を描くのがこんなに上手だったなんて! 5本のコント、どれも最高だったけれど、1本目の『アキレス腱』が特に可愛かったです。アキレス腱を伸ばしたことのない人のお話、こんな些細なことをコントの真ん中に持って来られて、しかもこんなに可愛く仕立てられるのなら、もう生きているうちのどんなことでもコントに出来るんだろうなと思います。そして30分尺ならではの醍醐味、コントとコントがちょっとずつ繋がっている演出も本当にうれしい。演劇とコントが好きな私たちにはどうしてもたまらないので、これからも続けてほしいです。スパイシーガーリックには、随分前の『にんにく道場』というライブで出会いました。あれから何度もびっくりさせてもらっていて、だけど今回の感激はあまりに特別で、つい偉そうなことを書いてしまった。ほがらかで幸せな30分を、ありがとうございました。
出演者の皆さんの柄もあってか、今回はいつにも増して客席が若返っていたように感じました。帰り際、交わされる明るい感想を聞きながら、私までうれしくなりました。(ごとうはな)

