渋谷コントセンター

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2024年7月26日(金)~7月27日(土)

テアトロコント vol.69 渋谷コントセンター月例公演(2024.7)

公演詳細

あれ、もしかしてコントと演劇のちがいって
3ヶ月連続のテアトロコントも7月で最終月。そして今年も、コントの季節が始まりましたね。
土曜のトップバッターはフランスピアノ。二人して柔和な顔をしたフランスピアノのコントは、5本すべてが「ヤバい人」を軸に回っていました。そのヤバさは、人を貶める卑しいヤバさでも、人を傷つけるみっともないヤバさでもない。もっとシンプルで、ただ常軌を逸しただけのヤバさ。そんな純度の高いヤバさは、他でもない二人の「良い人」そうな雰囲気からこそ生まれるもの。だからこそ、しっかりしっくり狂気が映え渡ります。特に『旅館』『コンビ』の2本は、山本さんのヤバさの理由がまったく見えず、それでも話がスイスイ展開していく。それこそがフランスピアノの個性なのだと感じました。ところで、気付けば30分間ずっと、二人のコントからは演技っぽさを感じなかった。あえて「演技をしない」ことを心掛けているのかなあ。そんな小さな疑問は、このあと不意に、大きな命題に繋がっていきます。
THE ROB CARLTON。先述の「演技をしない」フランスピアノから一変、彼らのコントは明らかに演技によって進んでいきます。もちろんそれは、THE ROB CARLTONが長く演劇を続けてきた方たちだから。他の2組同様、5本のコントを演じてくれたけれど、パンフレットによれば、THE ROB CARLTONが短尺コントを複数演じる公演ははじめてとのこと。その5本はどれもつるんと美しい骨董のようで、とにかく完成されていて、何より最高におもしろい。仕上げ尽くされた作品を、ただうっとり見つめるような時間でした。どこかで見たことのありそうな設定すらまったく違う体感で、そんな時間を過ごすうちに、私はなんと、“コントと演劇のちがい“に向き合わざるを得なくなってしまったのです。
ラストは伝書鳩。伝書鳩のすばらしさは、コント界にはすでに知られているもの。けれど、こんなにも完璧な5本をまとめて観させてもらうのははじめてで、その肉厚なすばらしさに、あまりにも感動しました。伝書鳩のすばらしさを言葉にするのなら、“もしかすると誰かも思いつくかも知れない切り口を、絶対に誰にも思いつかない展開に変えていける”こと。たとえば、超能力を持つ教師の話『能力』は、「時をとめる能力」と「動きを止める能力」のわずかな違いが笑いを作っていきます。言われてみればそうなのに、こんなこと、これまで誰も気付けなかったんじゃないか。超能力という設定を日常に持ってくるコントの、ある種の答えのようにすら感じました。5本すべて、一つひとつの展開があまりに上手で、正直笑いよりも驚きのほうが先に来てしまったくらい。もしかして伝書鳩はもう、笑わせることよりも、「いまおもしろいことが起きているんだ」「いま笑っていいんだ」と気付かせることのほうが必要なフェーズにいるのかも知れません。
最後に、大仰に掲げた“コントと演劇のちがい”について、少しだけ感じたことを書きます。
テアトロコントは「コントと演劇の境界を探る」こと、「コント/演劇というカテゴライズによる《縛り》からの解放を試みる」ことを目的としていると伺います。私はその境界を、【観客の参加の必要・不必要性】だと捉えました。たとえば、フランスピアノや伝書鳩のコントは、客席からの笑いをもって完成しているように見える。言い換えると、客席の笑いも含めて作品です。対してTHE ROB CARLTONのコントは、舞台上ですでに完成・完結している。客席は、ただ物語をじっと見守っている存在です。もちろんこのちがいはおもしろさの如何ではなく、どちらも私たちを豊かにしてくれるもの。そしてこの境界は、他公演にもあてはまるように思うのです。(たとえば劇団アンパサンド。拍手笑いしてしまうくらいおもしろいシーンが山程あるけれど、大笑いはやはり憚られる。テニスコートや画餅でも、大笑いしながらも、作品をじゃましたくない気持ちになる。)もしかして的の外れた見解かも知れないけれど、こんな気持ちを劇場で体験させてくれるテアトロコントが、私はやっぱり大好きです。(ごとうはな)


人間関係の煩わしさを鋭く切り取る観察眼。
「会社員生活に不可欠な能力。それは、人間関係の荒波を涼しい顔をして泳ぎ切る忍耐力と持久力である」。とある世界的大企業のトップが口にしたかもしれない言葉。
例えば、期日までにやるべき仕事が頭からすっぽり抜け落ちていた時。勿論、ポンコツな自分に非があるのですが、顔が触れるほど接近し、「なんで忘れちゃった?」とまっすぐな瞳で凝視され、言い訳をしようものなら「うんうんうん…」と言葉を遮り、圧をかける上司がいたら…?パワハラ認定されてもおかしくない案件ですが、決して絵空事の世界ではありません。物事を忘れてしまう原因とは一体…?上司は即座に「ポストイット」と言い切ります。タスクができたら、何でもかんでもポストイットを貼る。そうすれば、決して忘れることはないのだと。「上司の話は聞く」「睨まない」「恐縮をする」と上司は矢継ぎ早にポストイットを貼り付けていきます。おどおどする部下の顔面に。何ともまぁ、おぞましい世界…。ところが、部下も怯みません。必死な形相で「強く当たらないでください」などと言いながら、何枚ものポストイットを上司の服に貼り付け、応酬します。上司に対し、これほどのカウンターをぶちかませる部下は実際問題いないでしょうが、ここにリアリティを持たせる必要はありません。そして、貼り付けたポストイットに書かれた文字を繋ぎ合わせて読んでみると…。果たして、これが笑いの正解かどうかは一考の余地がありますが、落としどころの一つのパターンとしてはアリでしょう。
上司を演じたのは細面の小口響郁さん、部下役は丸顔の竹田百花さん。互いのキャラを活かした日常コントで演技力も高く評価される日芸同期、マセキ芸能社所属のもめんとです。
ふとしたことで運動音痴が発覚した上司に気を遣いつつ対応しながらも、無邪気な子供の登場により緊張が走る昼休み。残業をせずに退勤しようとした矢先、上司が気のある男性社員と二人っきりで残業しようとしていることに気づき、俄然、興味をそそられ、何が何でも会社に居続けようとする黄昏のオフィス。会社員生活をしていると、似たような一コマに遭遇したことがある人も決して少なくないでしょう。そんな人間関係のあるあるを鮮やかに切り取るもめんとが共感を呼ぶのも頷けます。本当に人間関係って面倒臭い。でも、だからこそ、職場はネタの宝庫で常に笑いが渦巻いています。上司や同僚との関係に押し潰されそうになったなら、自分を俯瞰し、笑い飛ばす瞬間も必要です。もめんとのように。(市川幸宏)


線画アニメが新鮮。
《1》【もめんと】<コント師枠>女2人組/『6:30』他、計5作品/★★★★☆
早朝のラジオ体操で、見知らぬ女が執拗に鑑賞してくる演目『6:30』の後、暗転。幕間映像で線画アニメーションが流れ、電車通勤風景が描かれる。オフィスに到着し、タスク忘れ防止のポストイットを女上司と体に貼りあう演目『10:55』、お昼休みに公園でケンケンパが苦手な女上司をかばう演目『12:13』、定時後、女上司の恋心に気づき、からかう演目『17:57』、帰宅後、同居人とそれぞれの余韻を味わう演目『19:02』と計5作品連結コント。突然の線画アニメーションや、OLの一日の日常を細かく切り取ってコント化し、タイトルを時間で表現するミニマムなセンスにまず惹かれた。日芸出身だけあって全体的に漂う空気が演劇的で、劇場やテアトロコントがハマっていたと思う。Aマッソや吉住さんのような毒気が全くないのが逆に新鮮で、今後もその方向性を保持するのか、新たな変化が訪れるのか、注目していきたい。
【総評】最近、パンフ片面にレビューをまとめる形式のようなので、コンパクトにもめんとだけの記述にしてみたが、ラブレターズの演目『シャボン玉』も、今っぽいと思ったらダウ90000蓮見作とのクレジットに納得。今回も多くの学びを頂いた企画運営・スタッフ・出演者の皆様に心から感謝致します。(モリタユウイチ)

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