2024年5月25日(土)~5月26日(日)
テアトロコント vol.67 渋谷コントセンター月例公演(2024.5)
主催公演
公演詳細
変なオジサン?その正体は?
今やすっかりお馴染みになったVTuber。そのワードはいつ生まれたのか、ご存じでしょうか?2016年12月、キズナアイが自身をそう称したことから始まったというから、誕生からもう7年半になります。VTuberと聞いて誰もが頭に思い浮かべるのは、恐らく美少女キャラでしょう。中の人が美少女のアバターを纏う「バ美肉」というワードも浸透しました。なので、ファンも美少女VTuberの中の人が似ても似つかぬオジサンであっても驚きはしません。但し、その姿を実際に目の当たりにした時の衝撃は計り知れません。春とヒコーキのコントが証明しています。
画面に映る美少女VTuberにドハマりしている土岡哲朗さん。底なし沼に飲み込まれる如くスパチャへの課金が止まりません。その最中、突如、配信トラブルが。ヴァーチャル映像がダウンし、リアル映像に切り替わると、中の人のあられもない姿が大写しに。お笑い好きにはお馴染み、あの、ぐんぴぃさんがあたふたする様子を想像してください。ベタな展開ですが、笑いをこらえることはできません。しかし、その後、どんでん返しが待っています。ぐんぴぃさん演じる中の人は、土岡さんの家の隣人だったという衝撃のオチ。実社会でも可能性がゼロではないところに身の毛がよだちます。
正体不明を逆手にとった作品は幕間の映像にも見られました。公園でカメラに向かって話しかける、ぐんぴぃさん演じる謎のオジサン。カメラマンに馴れ馴れしく接し、パンや腕時計を貰おうとします。不審に思い、誰だと問われると「雨穴」だと。その証拠にと、段ボールを指さし、「変な家だろ」と言い放つ始末。謎の小説家、覆面YouTuberとして大活躍中の雨穴。誰もがみんな知ってても、どこの誰だか知りません。だから、ぐんぴぃさん演じる謎のオジサンが正体でないとも言い切れません。もっとも、YouTubeに出演している雨穴はスタイルが全く異なりますが…。近年、素性を隠し、ネットでバズる著名人が増えていますが、視聴は果たして、その正体を知りたいのか、知りたくないのか?春とヒコーキのコントは、そんな人間の欲望に対する本質的な問いも孕んでいるので、油断なりません。
ぐんぴぃさんはYouTuber「バキ童」としても有名ですが、2024年6月初旬現在、チャンネル登録者数は153万人。一方、雨穴は158万人。実際に熾烈なデッドヒートを展開しているとは…。これもまた、意外な発見でありました。(市川幸宏)
「チェックして提出しただけだから。」
ユーロライブの椅子がふかふかになってる!赤も鮮やかになってる!ちょっとした胸の高鳴りから始まった、5月のテアトロコント。今回は、印象的だった2組のことを書かせていただきます。
劇団アンパサンド。「チェックして提出しただけだから」。物語の冒頭、何気なく語られたこのセリフが可笑しくてたまりませんでした。そう、劇団アンパサンドの物語はいつだって「チェックして提出し」ているだけ。それだけのはずなんです。それなのにいつの間にか、人が吸われたり喰われたり呪われたりしている。まったく本当になぜなのか、とんでもないとしか言いようがないですよね。その「チェックして提出し」ている人々はどうやらいつも、小さめのオフィスに勤めているもよう。たいてい、私たちよりも少しだけ細かいことを気にしすぎていたり、少しだけ人に気を遣いすぎたりしている。そういう細かい機微もいちいち面白すぎるから、ああそこを楽しむ言葉の作品なのかな?と思って観進める。するといつの間にか人が挟まれたりぶっ飛んだり、やっぱり呪われたりしているんですよね。
安藤奎さんの作品は、どの尺であっても、その時間を完璧に使いこなしている印象があります。もちろん今回も珠玉の30分。30分の前と後で、こんなにも気持ちの色が変わることがあるんだろうか。何だかこう、吸い玉で毒素を丸ごと抜いてもらったような?感覚になるのです。こうやって書いてみると、劇団アンパサンドのことを言葉にするのはもしかしてとてつもなく難しいことなのかも知れない。全然本質に触れられている気がしない。でも何だろう、たとえばバス停でひとつ順番抜かされてしまったことの悔しさを薄く長く噛み締めてみるとか、道にヘビの抜け殻が落ちてたら飛び上がって驚いてみるとか、別に人生のコマを進めてはくれないような出来事にもっと感情を動かしてみよう、なんて思わせてくれます。何かきっと色んなことはどうでもよくって、ただ生きてみる。「チェックして提出し」ている人々が、いつの間にか呪われているお話は、そんなピュアな、もとどおりな気持ちにさせてくれるのです。とにかくこれから先もずっと、絶対にこの目で観続けたい劇団です。
無尽蔵。なぬ、テアトロコントに無尽蔵!?やっぱり漫才のイメージが強い2人の、しかも30分のコントが観られるなんて!発表の瞬間から色めき立っていました。これだからテアトロコントには頭が上がりません。
二人はきっとこれまで幾度も、“東大”に紐づく形でお笑いの評価を受けてきたのだと思います。ただ真っすぐにお笑いをやっている人たちをそういう肩書きで見てしまうのは、決して良いことではない。だけど、無尽蔵はひとえに「巧み」だからこそ、つい“東大”が過ぎってしまうのかも知れません。
今回の5本のコント、そして3本の映像のすべてをとおして感じたのは、ふつうでは交わらない二つを掛け合わせる【 】×【 】という強いフレーム。その掛け合わせのセンスが巧み、かつ無尽蔵特有で、掛け合わせるとちょうどクスっと愛嬌がにじみ出る二つを見つけるのが、とても上手なのだと思いました。たとえば、『タオル』というコント。まるで陶芸家や寿司職人のような、“その道”のひとつとして、タオル屋さんが描かれる。まずやっぱりその掛け合わせが可愛い。「タオル以外の時間何してるかだぞ」みたいなセリフ選びも、巧みで可愛い。無尽蔵の描く世界はどれも、まじめだけど愛嬌にあふれていて可愛いのです。そしてもうひとつ。二人の底抜けに明るく大きな声と誰よりも楽しそうな表情は、観ている私たちがつい乗せてほしくなるような独特のリズムを作っています。そのリズムに乗りながら、掛け合わせのレールをコツコツと辿っていく。私たちには、その時間が愉快で仕方ないのです。
あっという間に東京は真夏日、今年もコントの季節がやってきました。テアトロコントも3ヶ月連続!来月もとても楽しみです!(ごとうはな)
変則的日曜回拝見
《1》【無尽蔵】<コント師枠>男2人組/『タオル』他、計5作品/★★★☆☆/
タオル屋の店員「タオル業界の人ですか?」客「…わかります?」タオル屋さんらしき場所に、タオル業界の人らしい客がやってきて、タオル繊維を凝視している所を店員に話しかけられる。客「…このタオル作ったやつが同期だったら、俺辞めてますね。」「若い奴らに言ってるんですけど、“タオル以外の時間何してるかだぞ”って」。「ハンドタオルは”努力”。バスタオルは”才能”」。タオルへの情熱が過熱してだんだんコントは“努力”。漫才は”才能”とでも言う「お笑い論」メタファーに聞こえてくるのがおかしい演目『タオル』。東大落研出身で、パンフ挨拶文では「衒学的なネタを披露することもありません」と読めない言葉(*衒学的:げんがく=知識をひけらかすこと)が書かれていて、それが既に衒学的な気もしたが、首相会見や、別大陸の文明人同士の出会いがネタになっていたりと、隠せてるつもりでもこぼれてきてしまう教養に期待と好感を持った。人間はルーツからは逃れられないと思うので、是非有り余る知性と幅広い教養を活かしリミッターを外した衒学的コントを炸裂させてほしい。数独、麻雀、化学、ギターなど、wikiを調べるだけでも面白そうな特技がたくさんあったので、まだまだ面白いコントが産まれそう。一つだけ気になったことがあるとすれば、声の出し方が無理やりすぎて少し耳に痛い。芸人さんが舞台俳優みたいに訓練すべきかどうかはわからないが、いかにも喉を痛めてるように聴こえる出し方は、例え本人の喉が痛くなくても、聴いてるほうの喉が痛い気持ちになるので、できればいたわってほしい。
《2》【劇団アンパサンド】<演劇人枠>女3名/『呪信(じゅしん)』一作品/★★★★★/
女重病患者「その呪いの動画を私に送って…あと一週間生きたい…。」女入院患者「私送れない…私が送ったら…呪いの連鎖に加担してしまう…。」。激務で身体を壊し入院した女と、お見舞いに来た女が、病室で会話していると、入院女性のiPhoneにAirDropで呪いの動画が送られてくる。職場では同様の手口で二人の不審死が起き、今度は私が標的!?…と怯えていると、その話を隣で聞いていた、明日をも知れぬ命の女重病患者が、呪い動画を見て一週間延命したい!と逆転の発想の懇願。が、正義感の強い入院女性は不幸連鎖を止めるべく拒否し、重病患者とバトルする演目『呪信(じゅしん)』。よくある日常から、ありがちのフィクションが挟み込まれ、バカバカしいなと侮っているうちに、裏で周到に仕組んでたパーツが着々と組立られ、気付けばすっかり盛り上がって終わるという見事な職人芸だった。劇団アンパサンドは「テアトロコントVol.53」で『サイは投げられた』という演目を拝見し、西出結さん演ずる“仕事中に枕投げの決意が固まらないOL”の好演が光る不条理演目だったが、その時より明らかに周到なしたたかさが進化し、作った本人がお見舞い女性として熱演しているのもバカバカしさの温度加速に成功していると感じた。
《3》【わらふぢなるお】<コント師枠>出演者:男2人組/★★★★☆/『スーツ屋さん』他、計6作品/
スーツ屋男店員「いらっしゃいませー。お客様?」。男客「…リクルートスーツを頼む」。ハマキをくわえ、片手から弾が発射されそうな小道具をはめた男客が、就活用スーツを頼むという異色の出会いから、数年ごとにケーキ屋→アイス屋→歯医者→蕎麦屋、と職を転々としながら再会する姿が積み重なる短編連作集。まるで芸人さんが演劇側に寄ってくれたようなテアトロコントにフィットした演目に感じた。わらふぢなるおは、何度もテアトロコントで拝見できていて、電話先の語尾が聞き取れないサポートオペレーター、バイト店員の後輩が注意するたび「○○がですか?」としつこく質問してくるディスコミュニケーションコントなどが印象的で、今回もその短編連作型ではあるが、短編が積み重なるたび互いの人生も変化するのが味わい深く、新たな扉に感じた。
【総評】2月公演は拝見できなかったので、今回が多分2024初のテアトロコント、変則的な日曜回。帰りにベジ郎に寄り、ライブを思い出しながら野菜摂取するまでがルーティン化しつつあるので、もう日常でベジ郎食べてもテアトロコント思い出すはず。今回も多くの学びを頂いた企画・運営・出演者の皆様に心から感謝致します。(モリタユウイチ)

