渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2022年 12月9日(金)~14日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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12月13日(火)19:00~21:00 三遊亭好二郎 橘家圓太郎 田辺いちか 春風亭一之輔

「渋谷らくご」一之輔師匠、登場 22年冬

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プレビュー

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 春風亭一之輔師匠、登場! With 渋谷らくごの愛されオジサマ圓太郎師匠。
 日本全国を飛び回る一之輔師匠が、火曜の夜を特別な一夜にしてくれます。二つ目の好二郎さん、口跡も良く楽しい高座でお客さんをほぐしてくれる心の整体師のような存在。講談の田辺いちかさんは、真っすぐなキャラクターも可笑しみに繋げてしまう技術と、講談への愛情が高座からにじみ出る次代のスターです。
 身辺雑記から気づけば落語の世界へ。語るものすべてが落語になってしまう圓太郎ワールドもご堪能あれ。
▽三遊亭好二郎 さんゆうてい こうじろう 圓楽一門会
2016年25歳で三遊亭兼好師匠に入門、2020年2月二つ目昇進。マスクは白を選ばず黒色やグレーを選びがち。竹下製菓のブラックモンブランというアイスがソウルフード。福岡の「あさだのカレー」がきっかけで、カレーにはまった。

▽橘家圓太郎 たちばなや えんたろう 落語協会
19歳で入門、芸歴41年目、1997年3月真打昇進。怒りん坊なキャラクターで、オヤジの小言マシーンぶりは渋谷らくごでも爆笑を生んでいる。先日要町駅のストリートピアノを弾いている人に感動した。一之輔師匠のことを考えていると、一之輔師匠から着信がある。

▽田辺いちか たなべ いちか 講談協会
2014年に入門、芸歴8年目、2019年3月に二つ目昇進。2020年渋谷らくご「楽しみな二つ目賞」受賞。東京都水道博物館が好き。猫を触りたいが、猫に警戒されてなかなか触ることができない。電車の中でひそかに稽古を始めると目的の駅を通り過ぎてしまう。

▽春風亭一之輔 しゅんぷうてい いちのすけ 落語協会
23歳で入門、芸歴22年目、2012年3月真打ち昇進。三児のパパ。2010年にNHK新人演芸大賞を受賞した際のツイートに「いいね」が4つしかつかなかった。先日TBSラジオ「たまむすび」の前説として武道館に立った。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

三遊亭好二郎-鰻の幇間
橘家圓太郎-うどん屋
田辺いちか-曲馬団の女
春風亭一之輔-火事息子

久しぶりに渋谷らくごを生で観覧した。直前まで業務メールを書いていて、始まる雰囲気を味わい尽くさないまま会に突入してしまった。心構えが甘かったと感じたのは、開口一番の三遊亭好二郎さんが上がられてからだ。

三遊亭好二郎さん 「鰻の幇間」

好二郎さんが高座に上がった時に、人間ってこんなに大きかったか、とまず驚いた。好二郎さんが特別大きいわけではない。ただ高座にいるその人を見ることだけで質量を感じられる。当たり前だが画面に収まっていないのだ。
こちらがポカンとしている間にもまくらが小気味よく進んでいく。好二郎さんは「お太鼓持ち」という職業に憧れていらっしゃる(現在進行形?)とのこと。かくいうご自身もサラリーマン時代にスナックで隣に座ったお客さんと歌い、ご祝儀をいただいたというから十分お太鼓持ち気性なのだ。 本編はそのお太鼓持ちが主人公の「鰻の幇間」。これって夏の噺のはずと見ていると、やはり汗を拭く所作をしていらっしゃる。サラリーマンがお太鼓持ちの仕事をしてしまうとまくらでおっしゃっていたが、確かに接待でサラリーマンがやっていそうなことではある。忘れてしまった旦那の家を言葉巧みに当てにいくところとか、気持ちよく相手を立てるところとか、このお太鼓持ちは決して下手ではない。接待が上手だった元サラリーマンがやっているせいだろうか。いや、このお太鼓持ちの残念な点はきっと客選びが下手なところだろう。だいたい向こうから擦り寄ってくるような旦那など選んではいけない。そしてこの旦那が上手だ。太鼓持ちの懐具合を計って、傾きかけている鰻屋を選び、最上級鰻をオーダーして持ってかえる、そのぎりぎりなんとかなりそうな金額の見立てがすごい。
自分の仕事をしっかりすることと客として相手を選ぶこと、どちらもすごく大事だ。落語家さんはお客を選べないので、そういう意味で尊敬する。しかし夏の噺を選ぶとは、この後の大先輩方を気遣われてのことだろうか。さすが元幇間、じゃなかった現代のできるサラリーマンらしい。

橘家圓太郎師匠 「うどん屋」

個人的に圓太郎師匠はご登壇の時点でもはやツボだ。あのぽってりとしたお腹から今日はどんなまくらと噺が出てくるかと考えるだけで楽しい。
その圓太郎師匠、この日は誘われて歌舞伎座をご覧になってきたらしい。着物を着て、帽子を目深にかぶり、マスクをしている、それだけでナフタリンの香りを漂わせる着物姿のご婦人方から 「(歌舞伎座の)ご関係者かしら」と囁かれるらしい。囁くっていいですなぁ、と曰う師匠。そしてその中の勇気のあるご婦人に「おでこにアンパンマンのシールがついていますよ!」とご指摘を受けたとのこと。そのご婦人こそ歌舞伎座関係者あるいはかなりの通とお見受けしました。そして師匠、出掛けに鏡を見てください!
この日の本編は「うどん屋」。ここに出てくる宴席帰りの男が最高だが、圓太郎師匠の手にかかれば本気で泣き笑いの一席になる。ある長屋の男、我が子のように育てたかつての隣家のみぃ坊(女の子)が婿を取ることになった。その宴の帰り道にうどん屋にて管を巻く。そのみぃ坊の逸話を聞いた時には思わず涙が出た。ほろりとさせられたところで、この酔っぱらいの男が同じ話を繰り返す、ここからが爆笑もの。その繰り返しを聴きたい!と思わせられるのが圓太郎師匠で、噺はしつこくても、師匠の語り口はしつこくない、むしろおかわり、と言いたくなる。
その酔っ払いからようやく解放されたうどん屋がお客を取れた(酔っ払いはうどんを食べなかった!!)のが大店の裏。小声で呼び止めらられて、鍋焼きうどんの注文をもらう。その鍋焼きうどんを作る際の師匠の所作が楽しい。うどんを湯がき、鍋に入れ、汁を入れ、火を起こし、しばらく火をあおぐ。語りはなく、ひたすら所作のみ。つゆの匂いが漂ってくるような、うどんへの期待感があおられる。そしてその鍋焼きうどんをすする大店の者、その後うどん屋と囁き声で交わされる会話。まくらにあったご婦人の囁き声が、この大店の裏での囁き声につながっていると気づいたのは帰ってからだ。
うどん食べたい!この回の最後まで結局そう思っていました。圓太郎師匠、次にこの話をかけるときは周囲の美味しい鍋焼きうどん屋さんをまくらで話しておいてください。

田辺いちかさん 曲馬団の女

みなさま、いちかさんの「悪い女の顔」、ご覧になったことはございますでしょうか。私はあります(自慢)。いちかさんをまだご覧になったことがない方にご説明すると、清楚を絵に描いたようなお顔立ち、一之輔師匠曰く「かわいいおばあちゃんになりそう」という雰囲気の講談師です。が、サンキュータツオさんをして「気鋭の」と言わしめる、勢いと勢いゆえの鋭さも併せ持つお方なのです。何せ「おもしろい二つ目賞」を2回受賞されておりますから!
「曲馬団の女」の物語は、曲馬団で育てられた女が、香典狙いで上がった家で、息子を喪った母親の情に絆される。そして本当の母親のように尽くす、最後は驚きのハッピーエンドで終わる。
戦争で婚約者を亡くした楚々とした娘の顔から、香典に手を伸ばす悪女の顔がぬっと現れる、その一瞬だけでも一見の価値がある。さらに改心したように義母(?)に尽くしつつも、出自がバレそうになったときの肝の据わり方もあっぱれだ。それを演じて違和感の無い、いちかさん、変態百出の演技だった。
人間の光と影が、短時間の中で入れ替わる、そして無理なく観客に消化させてくれる、演技のもつ説得力にも参った一席だった。

春風亭一之輔師匠 火事息子

圓太郎師匠に「独演会でなく渋谷らくごで(筆者注:つまり安価に)一之輔を楽しもう」と言われた輩の一人として、この最高の布陣のトリに対して否が応でも期待が高まる、高めて悪いだろうか。ただ振り返ってみると、一之輔師匠にはいつも肩透かしを喰らっている。それは悪い意味ではなく、泣かせてもらおう、笑わせてもらおう、というこちらの邪念が見透かされたように、クールな一之輔劇場を体験している。
何を話すかまだ決めていないんですけどね、とおっしゃいながら観客を見回して師匠が始められたのが「火事息子」。勘当された大店の息子が、臥煙として火事に見舞われそうな店を救いにくる。この臥煙というのはその当時、厄介者、やくざ的な存在だったらしい。そんな時代背景も無理なく差し込みながら聞かせてくださる。
身体中に彫り物が施された半裸の体をすぼめてかがむ息子、その姿に渋い顔をする大旦那、愛猫を放り出して駆けつける老母、家族が集う狭くて暗い、湿っぽい匂いまでしてきそうな土間の情景が立ち上がる。そこでは羞恥心と諦めと安堵と喜びの感情が絡み合っていた。舞台上のそんな光景を、薄い幕を通して見ている感覚だった。
客の気まぐれな期待の薄っぺらさなど師匠はとっくに見透かしているに違いない。こちらは高座が終わって、ようやくその薄っぺらさに気づいた。
ちなみに圓太郎師匠は、楽屋でまだ普段着の一之輔師匠に「うどん食ってみろ」といって、他の演者全員の前でうどんを食べる所作をさせたらしい。その日の演目を思わせる気遣い、と同時に恥のかかせ方、両端への振れ幅が激しすぎるエピソードに笑った。