渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2022年 12月9日(金)~14日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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12月14日(水)19:00~21:00 桂伸べえ 春風亭昇羊 三遊亭青森 立川吉笑 立川笑二 林家彦いち

「しゃべっちゃいなよ」今夜決定!創作大賞2022

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プレビュー

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◎審査員 長嶋有(小説家 芥川龍之介賞、大江健三郎賞)、平岡直子(歌人 本年度 現代歌人協会賞)、林家彦いち(全身創作らくご家)、木下真之(ライター、創作らくごウォッチャー)、サンキュータツオ(渋谷らくごキュレーター)

 今年もこの公演がやってきました!
 偶数月に開催している創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。今年も全20席が披露され、この12月の大賞決定戦には、選りすぐりの五席が登場します。
 初演のときと比べて磨きをかけた噺もあるかもしれませんし、なによりお客さんと一緒に創り上げる落語には、お客さんの力が必要です。後世にも語り継がれる名作誕生の予感しかしない五席。今日の結末として大賞が選ばれますが、本来は優劣がつけられないのがエンターテイメントです。すべての高座に敬意を。
 創作の苦しみと喜びを、この日一緒に共有していただければと思います。笑って年を越しましょう!

▽桂伸べえ かつら しんべえ 落語芸術協会
23歳で入門、2017年6月二つ目昇進。落語を覚えながら寝る。1番好きな飲み物はほうじ茶で、2番目に好きな飲み物が黒豆茶。写真に写りたがらない。最近SNSをリセットした。

▽春風亭昇羊 しゅんぷうてい しょうよう 落語芸術協会
1991 年 1 月 17 日神奈川県横浜市出身、2012 年入門、2016 年二つ目昇進。おしぼりやお手拭きはしっかりとたたむタイプ。ご利益をうけるために吉笑さんから送られてきた業務連絡のショートメールを待ち受けにしようとしている。

▽三遊亭青森 さんゆうてい あおもり 落語協会
23歳で入門、現在入門8年目、2019年2月二つ目昇進。Youtubeやtwitch.tvでゲーム配信をしている。先日高校時代の学生証を発見して感傷に浸った。最近は「ちいかわ」のTシャツを着て、フィギュアを集めている。

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう 落語立川流
26歳で入門、現在芸歴12年目、2012年4月二つ目昇進。「渋谷らくご大賞2021」&「創作大賞 2021」初のW受賞者。とにかく我慢して痩せるダイエットをおこなっている。そして今年、NHK新人落語大賞を受賞した。

▽立川笑二 たてかわ しょうじ 落語立川流
20歳で入門、芸歴11年目、2014年6月に二つ目昇進。2019年と2020年の「渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」受賞。ポケモンの公式アカウントで話題になった藤田ニコルさんの「二」の表記が漢字だった問題に、いち早く気づいた。

▽林家彦いち はやしや ひこいち 落語協会
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。アウトドアではできるだけコーヒー豆を持って行って、コーヒーを飲む時間を楽しむ。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

桂伸べえ-広末写真集
春風亭昇羊-のれんわけ
三遊亭青森-武士道
立川吉笑-伊賀一景
立川笑二-ちむわさわさぁ
林家彦いち-ごくごく

渋谷らくご創作大賞:桂伸べえ-広末写真集 審査員:平岡直子(歌人 2022年現代歌人協会賞受賞)、長嶋有(大江賞/芥川賞/谷崎賞作家)、木下真之(ライター/創作落語ウォッチャー)、サンキュータツオ、林家彦いち

新型コロナの影響が薄れかけていく中で実施された2022年の渋谷らくご。「しゃべっちゃいなよ」は配信で聞かれる方が多いようで、今回の決勝大会の視聴者数は135名と多くの方に注目されていました。
その中で、2022年の創作大賞を獲得したのは、桂伸治門下の伸べえさん。NHK落語新人賞と渋谷らくご大賞を獲得した吉笑さん、今回こそはと意気込む笑二さんと昇羊さん、たのしみな二ツ目賞で勢いに乗る青森さんと強敵がひしめく中、ダークホース的な存在だった伸べえさんがみごと勝利を勝ち取りました。
8回のチャンピオン大会の歴史で、トップバッターの演者が大賞を受賞したのは初めて。32歳でのチャンピオンは最年少(それまでは吉笑さんの37歳)。入門10年目での受賞は、太福さんの9年目に次ぐ2位(落語家では最短)と、歴代記録を塗り替えての優勝です。今回の大会で、創作落語の世代が一気に若返った印象もありますが、創作落語が急速に進化しているという証でもありますね。
審査は、それぞれの審査員が優勝にふさわしいと思う演者がばらけていて、例年になく難航しました。優勝のネタのタイトルが「広末写真集」でいいのか? という葛藤はありましたが、最後の最後でみんなが納得いく形で伸べえさんに決まりました。それだけ、演者全員の個性が発揮されていて、横並びで比較するのは難しかったということで、誰が優勝してもおかしくないハイレベルな大会だったと思います。文学界から参加されている長嶋さんと平岡さんの創作落語に対する見方、考え方も新鮮で、新たな発見がありました。

桂伸べえ-広末写真集

初演は6月。書店で広末写真集を買おうとした中学3年生で受験生の山田クン。それを同じクラスの斎藤クンに見つかってしまい、ドギマギ。何とか参考書と写真集の2冊を抱えて家に帰れば、母親と父親に見つかって大騒ぎ。という話です。初演時からは、同級生の女子に見つかるシーンがカットされて、シンプルになっていました。
審査でも多くの方が触れていましたが、キャッチーなフレーズの作り方がうまくて、耳に残ります。「セーラー服とダブルピース」「勉強と広末の両立」「東京駅から草津に行くようなもの」「青春はあいまいであやふやでロンリネス」など、ユニークなフレーズが次々と繰り出されるので、脳が活性化されていきます。
写真集を買っているところを見つかったり、痛いところを突かれたりした山田クンが「ギクギク」と擬態語を発したりと、マンガ的な表現が駆使され、ストーリー展開もマンガ的です。そこに伸べえさんの、軽くてふわっとした口調が合わさるとコミカルな雰囲気が強調されて、楽しかったという思いが強烈に残ります。
余談ですが、創作大賞の翌日の12月15日、広末涼子の22年ぶりの写真集が発売されたようです。まさに絶妙のタイミング。22年前は10歳で、小学生だった伸べえさんもついに本物の写真集が買えたとか(本人Twitterより)。こんな奇跡が起こるのも何かの縁。今年一番、運を持っている人が伸べえさんなのかもしれません。

春風亭昇羊-のれんわけ

初演は2月。舞台は大店の旅籠。小僧の定吉が、のれん分けを巡って一喜一憂する番頭と手代の話を聞きながら、2人をたぶらかす女中・お絹の真意を知っていく。という話です。
初演時から完成度が高く、2月の時点で創作大賞の決勝にノミネートされるのは間違いないと確信していました。ただ、古典落語のテイストが強い分、決勝では厳しい戦いになると思っていましたが、多くの審査員が高く評価していて、大賞に選ばれていても不思議ではありませんでした。
特に評価が高かったのは美しさですね。言葉、口調、姿勢、仕草等、どれを取っても美しく、総合的に優れた作品に仕上がっていました。小僧の定吉を中心に、大人の事情が明らかになっていくストーリー展開も面白く、エンターテインメントとしても完璧でした。
マクラ(前振りの話)なしで、16分という時間も最適で、今後の寄席や落語会でも使える新たな武器を手にしたのではないでしょうか。

三遊亭青森-武士道

初演は4月。剣の道に取り憑かれた男が、「長いもの」に語りかけると、「刀の精」が現れる。男はカタセと命名した刀の精に、真の侍になるための教えを請う。という話です。
初演時と大きく変わったのは、マクラと思われる冒頭の部分。初演時は、東京都のアーティスト支援補助金に青森さんが応募した時の破天荒なエピソードでした。今回は、エピソードトークでなく、自販機の100円玉の思いを延々と語るもの。この話自体が創作落語のようで、聞いているうちに「武士道の落語を新しいものに作りかえているのでは?」と、一抹の不安を覚えたところでようやく本編に入り、安心することができました。
本編は初演時から完成度が高かったので、決勝の舞台でも実力が発揮されていました。特に、なぞの男や、刀の精のカタセさんの正体が次々と明らかになっていく展開は、何度聞いても意外性があって楽しいです。
客席の電気を消して、青森さんだけにライトが当たる演出で、青森さんは憑依したように自分の思いや登場人物の思いをぶつけてきます。創作落語で新たな表現にチャレンジを続ける青森さんには、来年も期待しかありません。

立川吉笑-伊賀一景

初演は10月。とある町に引っ越してきた八五郎。町の人はみんな声を潜めて、ささやき声で会話をしている。なぜならそこは、全員が忍者という伊賀の郷だったから。という話です。
NHK落語大賞受賞後のモチベーションが気になりましたが、前回創作大賞のチャンピオンとしてキレキレに仕上げてきました。初演時と大きく変えてきたのは、後半の部分。落語の途中で、小声から地声に転換するような展開があるのか、小声で暮らす伊賀の郷での展開が続くのか、いくつかのストーリーの選択肢がある中、今回は初演時と180度違うアプローチを取ってきました。
わかりやすい伏線を張ったり、ベタなギャグを入れたり、展開をドラマチックにしたりと、普段の吉笑さんはあまりやらないスタイルですが、勝利に向けて徹底したエンタメ路線を取り、観客である私たちを楽しませてくれたことは、チャンピオンとしての風格を感じます。連覇はなりませんでしたが、ぎりぎりまでチューニングしてきた吉笑さん。「伊賀一景」のこれからの進化・変化にも期待が持てますね。

立川笑二-ちむわさわさぁ

初演は8月。彼女のアヤカと別れたいという沖縄時代の友人・フユキのために、渋谷で喫茶店を営むヒロユキが、アヤカに電話をかけて呼びだそうとするが、意外な事実がわかってくる。という話です。ホラーテイストで、ゾワッとするオチが待っています。
2022年の「しゃべっちゃいなよ」で聞いた20本の中でも一番の完成度で、事前予想では優勝本命でした。出演順も最後で、条件的にもいい位置にいたのですが、惜しくも届きませんでした。
2019年エントリーの「わかればなし」もそうですが、笑二さんの創作落語のすごいところは、落語でしか表現できないことに挑戦しているところですね(文字で表現する小説も同様)。頭の中で創造していた世界・イメージが、最後の最後で突然覆される。黒板に書いていった設計図が、黒板消しで瞬時に消されてしまうような感覚になります。
沖縄時代の友人同士の10数年ぶりの再会というエピソードでほっこりし、奇怪な行動を取るアヤカの存在にドキリとし、アヤカを強気で呼び出したヒロユキが後悔していく様子で笑い、最後の最後でハッとするという、ジェットコースターのような気分が味わえます。
優勝はできませんでしたが、創作落語はしゃべっちゃいなよくらいでしか披露しない笑二さん。創作の泉は潤っていると思うので、次の作品にも期待しています。

林家彦いち-ごくごく

例のごとく、今年も審査の時間のため、高座を聞くことができませんでした。「ごくごく」は、今年4月新宿シアタートップスの「SWAクリエイティブツアー」でネタおろしされた作品ですね。12月12日にはよみうりホールで再演されました。
新宿シアタートップスの初演時に見た「ごくごく」の印象は、2月のしゃべっちゃいなよで彦いち師匠がネタおろしした「あど人」と地続きになっているということでした。「あど人」はその名のとおり、酒造メーカーに勤めるイイズカくんを主人公とした広告がモチーフの作品、「ごくごく」はお酒の飲みっぷりをモチーフにした作品。お酒という共通のテーマでつながっていて、両方知っていると両方楽しめる。SWAのツアーも終わりましたし、来年以降、いろいろな場所で「ごくごく」が聞けると思うと楽しみです。

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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