渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2023年 3月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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3月13日(月)20:00~22:00 柳家さん花 田辺いちか 柳家わさび(三題噺) 立川吉笑(三題噺)

「吉笑三題噺五日間2023」DAY4 同一お題三題噺 わさび×吉笑

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プレビュー

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※お題は18時に決定します。
 
 開演前に募集した三つのお題をもとに、即興で噺をこしらえる「三題噺」。現在の「渋谷らくご大賞」2年連続受賞者の立川吉笑さんが挑む五日間、本日はその4日目です。
 この公演では、夢の競演! 三題噺を自らのライフワークにしているわさび師匠と、同一お題での三題噺を披露する公演です。
 お題は18時に決定、本日は3時間の時間制限で、御二方に三題噺を制作、披露してもらいます。すでに独自の創作方法を編み出すわさび師匠の胸を借り、吉笑さんも殻を破れるか! 
 吉笑さんとおなじく昨年の渋谷らくご大賞の田辺いちかさん、若手真打のなかでは大注目の存在 さん花師匠が盛り立ててくださいます。超楽しみな公演です!

▽柳家さん花 やなぎや さんか 落語協会
1979年8月1日、千葉県出身。2006年9月入門、2021年9月真打昇進。身長が180cmを超えている。辛いことがあった時はドリンクバーで流し込む。新米パパとして絶賛育児中。渋谷の街を歩くのがやっぱり苦手。

▽田辺いちか たなべ いちか 講談協会
2014年に入門、芸歴9年目、2019年3月に二つ目昇進。2020年渋谷らくご「楽しみな二つ目賞」受賞。2022年渋谷らくご大賞受賞。東京都水道博物館が好き。先日リュックサックを紛失した、猛烈に落ち込んだ。学生時代に財布を落としたときの記憶を思い出した。

▽柳家わさび やなぎや わさび 落語協会
23歳で入門、芸歴20年目、2008年二つ目昇進。2019年9月に真打昇進。痩せ形で現在の体重は52kg。毎月「三題噺」に挑戦をしている。早起きしなければいけない日に限って、深夜2時ごろに目が覚めてしまう。

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう 落語立川流
26歳で入門、現在芸歴13年目、2012年4月二つ目昇進。「渋谷らくご大賞2021」&「創作大賞 2021」初のW受賞者。「2022年NHK新人落語大賞」受賞。いま「かっこいい真打」になりたいと思っている。思考の跡をnoteで公開している。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

柳家さん花-安兵衛狐
田辺いちか-長短槍試合/豆腐屋ジョニー
柳家わさび-おヨダレ弁当
立川吉笑-ホケキョー
サンドイッチ・梅干し・サヨナラショー

吉笑三題噺五日間2023、昨年に引き続き行われたがこれはやっぱり正気の沙汰ではない。主役であるはずの立川吉笑さんの楽屋裏での創作の苦悩を見るのは結構辛い。だがその産みの苦しみを知ることも重要だ。楽屋裏の映像を見ると、落語家の提供してくれるエンタメを安易に消費しているのでは、と感じてしまう。舞台では苦労を感じさせないところが落語という芸事でもあるのだろうが…
さてこの四日目公演はチャレンジャーが二人。吉笑さんに加えてその前のわさび師匠も同じ三つのお題で噺を作るという。昨年の吉笑三題噺五日間でもわさび師匠ご登場の際、吉笑さんの前にお題を使っているのを見た、つまり同じ三題を噺に取り込んでいらした。しかし「三題噺」というのは単にお題を使えばいいというものでなく、しっかり筋にお題を取り込むのが、三題噺という芸らしい。この荒行に取り組まれる好事家二人が集った回だった。
この日のお題は「サンドイッチ」「梅干し」「サヨナラショー」。ちなみに三つ目は宝塚のスターさんの引退公演などを指すとのこと。

柳家さん花師匠

サンキュータツオさんに、最初のお二人は、後のお二人と全く違うので、と言われて登場された柳家さん家師匠。柑橘系の橙色のお着物がよく似合いだ。
このさん家師匠が楽屋の緊張感を伝えてくださった。前の出番の太福さんとじゃれていても、吉笑さんは話に乗ってこない。むしろ怒ってそうな雰囲気を漂わせてきたらしい。楽屋が落ち着ける雰囲気ではないことはよくわかった。ちなみにわさび師匠は別の小部屋にこもって楽屋にすらいなかったとのこと。
そのさん家師匠は期待通り穏やかに古典の一席をかけてくださった。この安心感、この時点で楽屋の緊張感は全く感じられない。前の出来事を枕にしつつ雰囲気を引きずっていない。
古典落語に出てくる者たちは、現代の落語家同様に頓狂でもある。酒を持って出かけようとしたところ、近所から桜見に行くなら連れて行ってほしいと言われて断ったために、お墓を見に行くことにした源兵衛さん。墓場でむき出しになっていた骨(こつ、と呼ぶのですね、不思議!)を哀れんで、酒をかけてやった。その晩、彼ののところに美しい女性がやってきた。聞けば酒をかけてもらった骨の幽霊だという。それを奥さん代わりに家に置いていると、それはいい!とお隣の安兵衛さんが二匹目のどじょうを狙って墓場に出かけて行った。
たわいもない話で、仕事帰りの肩の力が抜けた。あ、そうだな、気合いの入った噺ばかりじゃ疲れてしまう。人間じゃなくてもいい奥さんにもらいたいという素朴な人間臭さがおかしい噺に出会えてよかった。

田辺いちかさん

最初の二人のうちのもうお一方、いちかさん。冒頭から今日は(吉笑さんたちのプレッシャーがすごくて)短く上がれないがから、短く終わってしまったらもう一席やります、と早々の宣告があった。あれ、いちかさんいつも大体30分うまく使い切るのにな、というのは甘い考えだった!と後になって思い知る。
まもなく真打になるであろう吉笑さんへの花向けとして、いちかさんが選んだのは出世噺の代表作という「長短槍試合」。若き豊臣秀吉の武勇伝の一つらしいが、いちかさんは何となく好きになれない話だったという。そんな違和感など一切感じられない、なんと清々しい秀吉!信長が彼を呼ぶのに使ったという「猿」という愛称のせいか、ドラマなどの印象のせいか、良くも悪くも頭の回転は速い印象のある秀吉だが、いちかさんの講談で出会う秀吉は全然印象が違い、正しい野心に満ちた若者でありました。
そして予定通り(?)「長短槍試合」の一席を早々に終え、いちかさんが語り出したのは三遊亭白鳥師匠作の「豆腐屋ジョニー」の一席。そういう落語があるとは聞いていたけれど、まさかいちかさんから講談バージョンで聞けるとは思わなかった。いや実際に驚いたのはもちろん講談そのもの。スーパーの売り場を舞台に抗争を続けるチーズ一家と豆腐一家、そしてそれぞれの一人娘と跡取り息子の恋物語、つまりはロミオとジュリエットの物語なのだが、これを振り切れた演技で演じるいちかさんのトリックスターぶりに驚いた。何より、この後の三題噺のお二人に勝るとも劣らず、観客を笑いの渦に巻き込んでいっていた。
三題噺のお二人はお互いの噺に意識がいっていたと思いますが、いちかさん、相当場を荒らして、いや温めておられましたよ。。とにかく、吉笑さんが尊敬してやまない白鳥師匠の一席をここでかけるいちかさんの魂胆と演技力に脱帽でした!

柳家わさび師匠

わさび師匠は、三題噺を作る一つの手法として、与えられたお題でまずオチを考えるとおっしゃっていた。別の噺家で大喜利ならいくらでもできるという方がいたと記憶しているが、こういった、オチをすぐに思いつくというのもやはり噺家としてかなり特権的な才能なのじゃないかと思う。それと同じくらいのレベルで、お題の一つである梅干しを使わない梅干しだらけのお弁当を発想する、その想像力の豊さがすごい。観客としてはもう自分の想像力が豊かじゃないから落語を聞きにきているのだと割り切るしかないし、それで十分楽しませてくださるのがわさび師匠。思春期の娘を持つ父親がお弁当を作るという設定を考え、物語をふくらませる。確かにそこにはストーリーはあるのだけれど、くどいが梅干しなしで梅干しだらけのお弁当は実際にはかなり難しいわけですし想像し難い。なんかもう、自分て落語を聴く権利はあるのでしょうか、という心持ちになります。
サンドイッチ弁当を持って出かけた家族が、どこでお弁当を食べるのか?あぁ、そういうことか!とオチを理解したのは、師匠が去って、前座さんが座布団を返しにくる頃でした。本当に、聞き手として申し訳ない気持ちになりました。

立川吉笑さん

そしてトリの吉笑さんが披露してくださったのが「ホケキョー」。この日の前日の高座は、「(三題噺で)舞台に早く上がりたいと初めて思った」というホームランだったらしい。舞台後の感想を聞く限り、吉笑さんご本人としてはそこまでの感触はなかったようだが、骨格がとてもしっかりした噺だった。
バイトくんとバイト先の社長「まさき」さん。このまさきさんは、葬儀を「サヨナラショー」と名付け、葬儀社ではなくイベント会社として経営している。一風変わった葬儀を始めたのは彼の貧しい生い立ちによるもの。血のつながらない、あるおばあさんがまさきくんを育ててくれた、そのおばあさんが庭の梅から梅干しを作り、梅干し三昧でサンドイッチの具にまで梅干しを使ってしまうほど、貧しい暮らしだった。その貧しさからまさきくんは家を飛び出し、おばあさんの死に目にも会えなかったことを悔やんでいる。であれば、今からでもその家に、梅の木があったというその家にいってみましょう!とバイトくんが葉っぱをかけてドライブしていく、というお話だ。最初の方で小夜ちゃん(ここしか出てこない)に小ビールを頼んであげる「小夜なら小」(サヨナラショー)というダジャレも嫌いじゃない。嫌いじゃないけれど、その後のサヨナラショーの扱いがしっかり物語の肝になっていて、しかもしみじみ可笑しい。あ、三題噺ってこういうことなんだ、お題を使えばいいってものじゃないんだな、とよくよくわかった。
一席の後のトークショーで、吉笑さんはあまり人情噺を演じないとおっしゃっていた。その理由もいつか聞いてみたいが、お題に引きずられてこぼれ球のように出てきたこの人情噺は、観客としては行き先を決めていないドライブをしているようでとても楽しかった。あ、そうか三題噺ってこういう演者の意外な引き出しの中身に出合える場なのだなと思った。

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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