渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2023年 11月10日(金)~15日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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11月11日(土)14:00~16:00 柳亭信楽 立川吉笑 雷門小助六 蜃気楼龍玉

「渋谷らくご」短観上映落語会:龍玉劇場

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プレビュー

 先日、五街道雲助師匠の人間国宝認定が発表されましたが、渋谷らくごでお馴染の隅田川馬石師匠、蜃気楼龍玉師匠は、その雲助師匠の二番弟子、三番弟子です。一番弟子はこちらも人気者の桃月庵白酒師匠。たしかな弟子を育てたことも評価されての認定なのだと思います。ありがとう!雲助師匠!!! ということで、雲助イズムを最も受け継いでいると言われる龍玉師匠のトリ公演です。
古典だけでなく創作らくごでも大活躍の二つ目・信楽さん、真打昇進決定いたばかりの吉笑さん、江戸の風吹かせまくりの小助六師匠の流れで龍玉師匠につなぎます。お客さんの気持ちを離さない、聞かせる4人の競演です。

▽柳亭信楽 りゅうてい しがらき 落語芸術協会
30歳で入門、芸歴9年目、2018年二つ目昇進。ツイッターやラジオトークなどで発信している。酔った深夜にもラジオトークを配信することがある。先日、深夜酔っ払いながら歌を歌っていたら口の中に虫が入ってきた。お酒を飲まなかった翌日は朝から動ける。

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう 落語立川流
26歳で入門、現在芸歴13年目、2012年4月二つ目昇進。「渋谷らくご大賞2021」&「創作大賞 2021」初のW受賞者。「2022年NHK新人落語大賞」受賞。このほど、銀座博品館での真打トライアルを経て、師匠の立川談笑より真打昇進の認定を受ける。1971年から1982年まで発行された雑誌「遊」を集めている。

▽雷門小助六 かみなりもん こすけろく 落語芸術協会
17歳で入門、芸歴23年目、2013年5月真打昇進。猫を飼って、可愛がっている。インスタグラムをやっているが、ほとんどの写真が猫である。スーツを着て楽屋入りされる。旅先に行ったら、現地のものを食べる主義。先日は富士吉田のカップうどんを食べた。

▽蜃気楼龍玉 しんきろう りゅうぎょく 落語協会
24歳で入門、芸歴27年目、2010年9月真打昇進。身長が181cmと背が高い。ツイッターではプライベートの様子をツイートすることがなく、いまどのように過ごしているか知ることができない。ものを食べずにひたすら呑むとの噂。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

柳亭信楽-聖夜の奇跡
立川吉笑-床女坊
雷門小助六-御神酒徳利
蜃気楼龍玉-双蝶々

会場についてふとカウンターの横を見ると、物販のテーブルが出ていた。9周年記念の赤いクリアファイルが目を引いたので思わず購入し、さらにその横を見ると等身大と思しき鯉八師匠のパネルがあった。自撮りでツーショットは恥ずかしかったので諦めたが、パネルだけでも撮ってくれば良かったと後悔している。

柳亭信楽さん 「聖夜の奇跡」

高座で話してもなんだかソワソワ落ち着かない様子の信楽さん、聞くと夕方からのNHK落語新人大賞が気になって仕方がないらしい。合わせてこの大賞の選考方法を教えてくださる。ビデオ選考、予選を勝ち抜いて本戦とのことで、サイトによればその本戦を今年初めて生放送でやるらしい!そして今渋らくに出ていらっしゃる信楽さんは…推して知るべし、きっと次があります。調べたところ今回この賞には東西104人の参加があったらしい、激戦ですね。。
ちょっと落ち着かないまくらから入ったのが本編「聖夜の奇跡」。聖夜にプレゼントを持ってくるかの方を待ち焦がれる少年、その少年とその母親はその方をなぜか「中年」と呼んでいる。思いがけず「中年」に会えた少年、しかしその中年は本当にどうしようもなく中年でしかなく(プレゼントもない)、しかもそこにサンタクロースもやってきて、、というほんとに最高にどうしようもない筋書き。あぁ、こういうのも落語っていいんだな、って勝手に安心してしまった。個人的に信楽さんを聞くのは初めてだったので、創作落語の印象を強く持ってしまったが、古典もなさる模様。次はどっちを聴けるだろうか、古典だったらどんな噺を選ぶんだろう。

立川吉笑さん 「床女坊」

真打が決まった二つ目のエネルギーはすごい。なんかもうバシバシ客席にもエネルギーの塊をとばしてくるように感じる(勝手に感じてる)。吉笑さんが所属する立川流は独自の真打昇進制度があり、自分の師匠以外の真打に評せられる真打トライアルなるものを経て真打になれるらしい。今月上旬にその真打トライアルvol5を無事に終えられ、宿敵?談春師匠からも満面の笑みで真打昇進を認められたという。本当におめでとうございます!
真打昇進決定直後のエネルギーが、かけがえのないもののようにきらきらしてみえる。後輩にも、いつか自分も真打に!と強く思わせる力がありそうだし、既に真打である師匠方にもある種の刺激(懐かしさと緊張感)をもたらしているのではないだろうか。一介の観客ですらそう感じるくらいのエネルギーが、今の吉笑さんにはある。
そして本編の「床女坊」、タイトルだけ見るとお坊さんの名前かいやらしい噺のようだが、旅の道中にある床屋と女とお坊さんに、向こう岸に渡してもらいたいと言われた船頭、彼らの関係性を踏まえて、穏便に向こう岸にわたすには、どう場合分けをしたら良いか?をひたすら考えていくという、吉笑さんらしい、バカらしくも頭を使わせる筋なのだ。先回りして考えてみても、これではこの3人を渡せない、とか、またそんな条件が?!となってなかなか舟を出せる組み合わせにならない。
結構頭を使った、ような気がする、一席だった。

雷門小助六師匠 「御神酒徳利」

元気な信楽さん、エネルギーが横溢している吉笑さんののち、私でのんびりしていってください、というようなことをおっしゃていた小助六師匠。確かにこの後すぐに龍玉師匠ではなんだか飲み込みが悪いような気がする、ので小助六師匠の安定感のある古典はありがたい。
さらりと「御神酒徳利」に入られた師匠、これがまた縁起のいい噺で気持ちがいい。とある大店の二番番頭、お店で家宝の徳利とお猪口が無くなった騒ぎの原因が自分だと、家に帰ってきてから気づく。自分がその原因です、と言いたくないがために身重の女房にお店に行かせようとするが、この女房が父親が易者(占い師)だったために占いで出してやることにしたらと、旦那に入れ知恵してことなきを得る。が、この「当たった」占いの噂を聞いて、その二番番頭に頼み事をしてくる人間が次々と現れて…という筋書きの噺だ。
いつもの落語と違ってこの噺では、幸い次々と占いが当たる、いや当たったことになっていき、結局は二番番頭も二番番頭に頼った者も皆万々歳という結末なのだが、淡々と穏やかな語り口調の小助六師匠から、エセ易者であることがバレるんじゃないか、どんでん返しが語られるんじゃないかと少しドキドキしていた。
この噺、かつては御前公演でも用いられたことのある縁起の良い噺らしい。次の龍玉師匠への繋ぎでもある一席だったと同時に、小助六師匠からの吉笑さんへの花向けの一席だったように思う。

蜃気楼龍玉師匠 「双蝶々」

ほの暗い人情噺、龍玉師匠の選ぶ人情噺には影がある。人生には暗い時間も長い、その中でもふっと、わずかな温かみや明るさを感じさせる瞬間がある、その瞬間のためだけでも生きている価値がある。今回の「双蝶々」はそんな噺だった。
本編の「双蝶々」は、ある夫婦の息子が奉公先で人を殺して逃げ、その息子の罪を恥じて住まいを転々とした結果、男親は病にふせり、その妻(息子の義理の母)は内職だけでは足りず、夜分に物乞いに出るようになっているという物語。後半、観客は龍玉師匠の正面の顔をほとんど見ていない。左右の横顔すら見ていない。病に伏せる父親、人に顔を見られたくない、頭を上げられない、女親とその息子、誰もが顔を上げて話すことができない状況にある。龍玉師匠のほぼ頭頂部を見ながら観客は聞いているのだが、それでも場面の切り替わりなどで戸惑うことはない。息子と物乞いをしていた女親が偶然出会った次の場面、師匠が咳をすれば、あぁもう家で伏せる父親の場面なんだなとすぐにわかる。この空間の作り方とか本当にどうなっているのだろう?
久しぶりの息子と父親の再会も喧嘩別れになりそうになるその瞬間、女親が入り、ようやく和解する。しかし息子は既に堅気では生きていけない人間であり、大金だけを置いて家を出ていく。次の瞬間、龍玉師匠はまっすぐと観客を見、朗々と息子の心情を語る。その切り替わりの早さ、迷いのなさ。結局息子がお縄にかかったところで物語は終わり、カタルシスというにも少し遠い、なんとも言えない後味を残す。それが龍玉師匠の人情噺の魅力だと最近気づいた。(でもハッピーエンドの「幾代餅」なども是非聞いてみたい)

会場を出たところで、物販テーブルにあった「大入」のステッカーを見て、お母さんと来ていたらしき少年が一言、「なんで大人って書いているの?」。少しひんやりとした人情噺を聞いた直後だったので、ほっこりした。