渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2022年 9月9日(金)~14日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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9月10日(土)17:00~19:00 立川こしら 入船亭扇里 弁財亭和泉 柳亭小痴楽

「渋谷らくご」若手真打筆頭 小痴楽トリ公演:スペシャリスト集結

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プレビュー

 若手真打筆頭 柳亭小痴楽、参上!
 若手落語家活況の中心人物、柳亭小痴楽師匠をトリ公演に、渋谷らくごの「コントラスト落語会」でもおなじみ こしら師匠と扇里師匠の最速&ゆったりのコンビ、さらには創作の女王 和泉師匠が集結。
 最初から最後まで目が離せない、個性を特化させたスペシャリストたちによる公演です。

▽立川こしら たてかわ こしら 落語立川流
21歳で入門、芸歴25年目、2012年12月真打昇進。着物からお米まで自作する。自宅を持たず、ホテル暮らしをしている。tiktokでお悩み相談コーナーを配信している。オフィシャル通販サイトでは、こしら師匠が選ぶおすすめ卓球セットを販売している。

▽入船亭扇里 いりふねてい せんり 落語協会
19歳で入門、芸歴26年目、2010年真打昇進。食べられない時期は競馬で稼いでいた。熱狂的なベイスターズファン。今年もベイスターズ観戦ツイートをしている、今年も野球が楽しい。「鎌倉殿の13人」が楽しくて仕方がない。

▽弁財亭和泉 べんざいてい いずみ 落語協会
2005年8月入門、現在17年目、2021年3月に真打昇進、三遊亭粋歌を改め「弁財亭和泉」となった。28歳で突如会社を辞めて落語家になった元OL。よくいくスーパーは、SEIYUやLIFE。人々の生活の些細な出来事をよく観察して自身の演目に反映している。

▽柳亭小痴楽 りゅうてい こちらく 落語芸術協会
16歳で入門、芸歴17年目、2009年11月二つ目昇進。2019年9月に真打昇進。本が好き、本のお供には煙草「HOPE」。私服は白いTシャツを選びがち。先日、名古屋で煮込みうどんを勢いよく食べたところ、お気に入りのTシャツに汁を飛ばしてしまった。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

立川こしら(たてかわ こしら)-宮戸川
入船亭扇里(いりふねてい せんり)-団子坂奇談
弁財亭和泉(べんざいてい いずみ)-冷蔵庫の光
柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく)-大工調べ

立川こしら師匠 「宮戸川」

  • 立川こしら師匠

最近寄席に出られたというこしら師匠。立川流の方々が嬉しそうに「寄席に出た」とおっしゃる姿は聞いていて気持ちが良い。もちろんこしら師匠は「俺はそれほど出たいと思っていたわけではない」と強調されていたが、出演の機会を作ってくれたらしい小痴楽師匠への感謝を、高座ではっきりおっしゃるところが師匠らしい。そして「立川流という落語界の異端児、その中の異端児である俺、もはや俺が正統派では?!」と述べておられたが、まさにその通りでは?!立川流が寄席に戻るのはこしら師匠の腕力にかかっている、と思わせてくれるこしら師匠、ありがとうございます!(素人が勝手にすみません)
さてこの日の本編「宮戸川」、もちろんこしら師匠にかかれば、普通に展開するはずはない。しかし、あれ?これは本筋の話ではないはず、と思いながらも、どこで道を逸れたのかを観客に考えさせる暇もなく物語は展開していく。宮戸川ってこんな陰惨な話だったのか、とちょっと慌てたところで、道の分岐点に戻ってきて終わった。
ちなみに道が逸れた先は普段あまり演じられない「宮戸川」の後半の物語だったらしい。夢オチじゃないけれど、ワープが自然すぎて、またしても道の分岐点に気づけなかった。

入船亭扇里師匠 「団子坂奇談」

  • 入船亭扇里師匠

平日夜の回で、こしら師匠との「コントラスト比最大」のふたりらくごはファンが結構多いらしい(私も好きだ)。余計なまくらをあまりふらない扇里師匠をして、こしら師匠に続いての出番について「私たちの間には誰も入らせない」と言わしめる、その二人の絆が神々しい。袖からこしら師匠の合いの手が入るのも楽しい。
扇里師匠が羽織を脱ぐ頃、今日の師匠は何を演じるのかと観客はくんくん鼻をきかせる。あぁ今日はこの噺か!と確信を持つまでのくんくんする時間は、扇里師匠の場合、特にとても楽しい。そしてこの日の噺は「団子坂奇談」。個人的には桜の頃の印象を強く持っていた噺だったが、よくよく聞いてみると確かにクライマックスはお盆の頃、蒸し暑い夜が舞台だ。
この日は弥太郎が眠れないような蒸し暑さはなく、むしろ涼しい風が吹く夜だった。しかし中秋の名月かつ満月だった。あんな月に照らされたら、白い肌にべっとりとついた赤い血がよく見えて、美人なだけにさぞかし怖いだろうな、と想像して背筋を寒くした十五夜だった。

弁財亭和泉師匠 「冷蔵庫の光」

  • 弁財亭和泉師匠

和泉師匠は主に新作落語を演じられるが、いつも「あぁそこ!」という生活上の視点を突いてくる。まくらでその日の朝に実際にあったという、麦茶と思って冷蔵庫で作っていたのは実はだし汁だったという出来事を指して「『あぁそういうことあるよねー』と言いつつ、『ないない』と思うような出来事」という表現は凡人にはできない。実際に起こりうる頻度の低さが絶妙に表されていてドキドキした。
この日の本編「冷蔵庫の光」もそんな絶妙な視点から生まれた噺。冷蔵庫の扉に使いかけのドレッシングが並んでいるのに、新しいドレッシングを買ってきた妻への怒りを発端に、冷蔵庫掃除を始めた旦那とその妻のやりとりの話だ。これもまた、無いようで有る、有るようで無い、エピソードのオンパレード。緑色の液体と化した胡瓜、賞味期限切れまで待ってから捨てる開封済みのドレッシング、そして冷蔵庫の奥に居並ぶ瓶詰、などなど、ひと時に全てが起こることは稀だけれど、(大きな声では言えないが)あーそういうことありますよね!というポイント満載なのだ。不思議な感覚だが、和泉師匠の落語を聞いて、記憶や意識の底に沈めたはずの、やっちゃってきた出来事を思い出しつつ、なぜか「私だけじゃなかった」と安心感すら持ってしまうのはなぜだろうか。

柳亭小痴楽師匠 「大工調べ」

  • 柳亭小痴楽師匠

先日小痴楽師匠がメインパーソナリティーを務められたNHKラジオR1の「小痴楽のシブラジ」を拝聴した。小痴楽師匠の落語界での顔の広さがうかがわれたし、物言いも高座同様に率直で楽しかった。個人的にはレギュラー化希望である。
顔の広さといえば小痴楽師匠がこしら師匠に寄席への出演を依頼したとのこと。立川流のしかも自称「異端児」こしら師匠とそんなホットラインがあったとは、どこまで顔が広いんでしょうか。小痴楽師匠の面倒見良さそうなキャラは、たとえ高座では悪口を言われようとも皆から愛されそうだな、と観客にも察しがつく。
この日の本編は、ラジオで三遊亭小遊三師匠(記憶が確かなら)に習ったとおっしゃっていた「大工調べ」。小痴楽師匠は地で江戸っ子を生きる方なので、棟梁の言い回しは格好良いに違いないと思ったし、実際格好良かった。でも思っていた格好良さと違った。「大工調べ」の聴かせどころは大家に噛み付く棟梁の啖呵なのだが、その台詞回しが地に足が突いた格好良さなのだ。この啖呵は早口で言葉数も多いので、聴く側も来るぞ来るぞと待ち構えてしまう。しかし小痴楽師匠のは気張りも不自然さもなく、気構えずに聴けたのであぁこういう棟梁っていたんだろうな、という印象を持った。 小痴楽師匠は小遊三師匠から「お前は大家が嫌な奴だと思い込んでいるみたいだが、大家は普通のやつだよ」と言われた、とラジオでおっしゃっていた。今回伺った噺では、確かに大家は別に八百文足りてないといっているだけで、特に温情がないだけ、持つ筋合いもないから、というように聴こえた。気張りのない、粋な「大工調べ」を聴くことができた。

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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