渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2022年 10月14日(金)~19日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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10月18日(火)19:00~21:00 春風亭昇咲 柳家緑助 三遊亭吉馬 立川吉笑 三遊亭丈二「ビゲン港町」

「しゃべっちゃいなよ」22年第5回 10月公演

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プレビュー

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春風亭昇咲 しゅんぷうてい しょうさく
柳家緑助 やなぎや ろくすけ
三遊亭吉馬 さんゆうてい きちば
立川吉笑 たてかわ きっしょう
三遊亭丈二 さんゆうてい じょうじ「ビゲン港町」
 ◎プロデューサー 林家彦いち

 偶数月の火曜日にお送りしている創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。
 林家彦いち師匠プロデュースによる、キャリアも団体も関係なくネタおろしをするという、人気のヒリヒリ公演です。
 昇咲さん、緑助さん、吉馬さんと渋谷らくご初登場の演者さんたち。昨年覇者の立川吉笑さんが今年も登場!
 お客さんと一緒に創り上げていく、はじめての噺。今日はどんな姿をした噺が生まれるのでしょうか。乞うご期待。
 レジェンド噺では、昨年亡くなった創作らくごのカリスマ 三遊亭圓丈師匠の「ピゲン港町」を、丈二師匠が口演してくださいます。

▽春風亭昇咲 しゅんぷうてい しょうさく 落語芸術協会
23歳で入門、現在芸歴7年目、2020年9月二つ目昇進。自分の心のうちをラジオトークで配信したり、ツイッターで毎日大喜利を配信している。いまテレビドラマの「サイレント」に夢中。

▽柳家緑助 やなぎや ろくすけ 落語協会
18歳で入門、現在芸歴10年目、2018年11月二つ目昇進。先日真っ黒にラッピングされたNetflixの山手線を見つけてテンションが上がった。金木犀の香りにテンションがあがる。

▽三遊亭吉馬 さんゆうてい きちば 落語芸術協会
25歳で入門、現在芸歴9年目、2018年9月二つ目昇進。月刊「ムー」とカメラが好き。「ムー」が企画している韮崎市と北杜市で撮った不思議な写真を応募するコンテストに、最近応募した。インスタグラムにアップする写真は揚げ物多め。

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう 落語立川流
26歳で入門、現在芸歴12年目、2012年4月二つ目昇進。「渋谷らくご大賞2021」&「創作大賞 2021」初のW受賞者。とにかく我慢して痩せるダイエットをおこなっている。「文學界」2022年11月号には、吉笑さんが執筆した短編小説が載っている。

▽三遊亭丈二 さんゆうてい じょうじ 落語協会
19歳で入門、現在芸歴33年目、2005年9月真打昇進。落語協会のアウトドア好きな芸人さんたちの集まり「マンタ倶楽部」の一員。資格マニアで、珠算1級やカラーコーディネーター2級など様々な資格をもつ。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

春風亭昇咲-つるの中の人たち
柳家緑助-ヌけ感
三遊亭吉馬-暖簾わけ
立川吉笑-伊賀一景
三遊亭丈二-ビゲン港町
プロデューサー:林家彦いち

シブラクに「しゃべっちゃいなよ」からデビューする人はわりと多くて、今回は昇咲さん、緑助さん、吉馬さんの3人が初登場。いろいろなルートから創作落語戦士が登場してきて、頼もしい限りです。3人の初挑戦を受けて立つのが吉笑さん。ソーゾーシー、真打計画やらで多忙の中、勝負ネタをぶつけてきました。レジェンド噺は、丈二師匠の「ビゲン港町」。私も初めて聴く演目でしたが、想像を上回る作品で、出会えてラッキーでした。

春風亭昇咲-つるの中の人たち

  • 春風亭昇咲さん

入門前は落語の知識がなく、フラットな感覚で落語家の世界に飛び込んだという昇咲さん。落語を知っていく中で浮かんだ違和感を、創作落語にしてみたそうです。
ある日、古典落語「つる」の主人公である八五郎が、「つる」内での出演を拒否する事件が発生。「つる」を口演する予定の昇咲さんは一気にピンチに。八五郎に理由を聞いてみると、団子屋の一人娘のおみっちゃんに恋をした。だから、「つる」の名前の由来を何度も間違えるみっともない姿は見せたくないのだとか。おみっちゃんは落語の世界を飛び出して、経営学を学びに海外に行くらしい。八五郎は追いかけたいが、八五郎不在だと昇咲さんは「つる」ができなくなる。八五郎と昇咲さんはどうなるのか。という話です。
落語の中のキャラクターが飛び出してきて、人格を持って話し出すというメタ構造の落語は、古典落語と創作落語をハイブリッドでやっている落語家さんだからこそ出てくる発想なのかもしれません。「八五郎が出演拒否」という最初の設定から面白くて、この先に何が起こるか知りたくて、ワクワクが止まらなくなります。比較的多くの落語ファンが知っていて、わかりやすく、主人公が出ずっぱりとなる「つる」を選んだセンスもいいですね。
細かいギャグがところどころに入っていて、終始笑わせてくれるのも頼もしいです。後半からも意外な人物がしゃべり出すなど、サプライズもたっぷりで、サゲもおみごと。初演でありながら完成度の高い、すばらしい作品でした。

柳家緑助-ヌけ感

  • 柳家緑助さん

こしら師匠がサポートする「ご当地落語」にも参加し、地元由来の創作落語なども手がける緑助さん。シブラク初登場の今回は、「抜け感」をキーワードに落語を創作したそうです。ちなみに「抜け感」とは、ファッション界でよく聞かれる言葉で、少し力を抜いたラフなファッション、きちんとした格好をわざと着崩す時のイメージとして使われます。
今作の主人公の「カタブツオ」さんは、20年来の親友にも丁寧語で接するような超堅物男。女性から食事に誘われたが、どんな服を着ていけばいいのかわからない。友だちから「抜け感指南所」を紹介され、行ってみることにした。黒のダブルのスーツ、黒のハンカチ、黒の革靴で現れたカタブツオさんに、指南所の先生はさまざまな改造をおこなっていく。という話です。
絵に描いたような堅物男のカタブツオさんが、どのように変わっていくのかが見どころで、講師の変態コーディネーターぶりが面白い。そして、カタブツオさんが、私たちが期待しているとおりに変な人に変わっていくので、見ていてすがすがしいです。
モチーフの「抜け感」もそうですが、加山雄三風のぼく、阿部寛のHP、ボーダフォン、AVのレビュー書く人、アンシンメトリーなど、言葉選びのセンスも抜群。古いものから新しいものまでいろいろ知っていて、語彙が豊富な人なんだなあという印象を持ちました。

三遊亭吉馬-暖簾わけ

  • 三遊亭吉馬さん

高座終了後の後説で、タツオさんがいみじくも言っていましたが、この「暖簾わけ」という話、どういう発想でつくったのか、どういうプロットからこうなったのか、まったく想像がつかない不可思議でユニークな作品でした。
寿司屋の「銀座はちべえ」の親方から、暖簾わけを許されたお弟子さん。開店前日に親方から紹介されたのは、お弟子さんの店を建てたという大工のアントニオさん。アントニオさんから、このお店はつぶれた店をそのまま使う居抜き物件だということを聞き、親方からはこの店で寿司屋ではなくパン屋をやれと言われてしまう。親方が居抜き物件にこだわる理由は何なのか、アントニオさんとは何ものなのか、そしてお弟子さんは寿司屋として一本立ちできるのか。という話です。
普通、「居抜き」をテーマに落語をつくろうと思っても、なかなかいいアイデアは浮かびませんし、掘り起こせるものでもありません。そんな中で、親方が弟子に居抜き物件をすすめるだけの落語で、さらにアントニオさんという怪しげな大工がからんでくるなんて発想はどこから来るのでしょう。力技でねじ伏せてくるかなり斬新なネタでした。「田舎のセブンイレブンは最終的に健康食品の直売所になる」みたいな居抜き物件あるあるも入っていて、ひたすら楽しかったです。

立川吉笑-伊賀一景

  • 立川吉笑さん

初期の代表作「舌打たず」で舌打ちを落語にし、ここ2年間は身体的な落語に精力的にチャレンジして、言葉を封じた「ぷるぷる」では、NHK新人落語大賞の本選進出を果たした吉笑さん。今回は表現の1つのテクニックである「ささやき」を全面的に使った意欲作を披露してくれました。
八五郎が町を歩いていると、胸を痛めて倒れている乾物屋のおばあさんを発見する。「大変だ!」と叫んで助けを求めるも、周りからは「うるさい!」とたしなめられる。この町ではなぜか全員が小声でしゃべっている。お腹が減ったからそば屋を呼んでもみんな小声、龍角散を飲んでもみんな小声。最近この町に引っ越してきたばかりの八五郎が戸惑っていると、実はあることが判明する。という話です。
「ささやき」「小声」と書いた時点でネタバレをしていますが、聞き手の興味は落語の途中でいつ小声から地声に戻るのか、それともずっと小声で最後までいくのかというところにあります。しかも小声だから聞き漏らさないように注意をするので、必然的に集中力が高まる。落語を聴いているだけなのに、遊園地にいるような、身体的なユーザー体験を味わうことができました。
今回は、コンクール前のタイミングから、マクラとセットの落語in落語の構成を取っていましたが、吉笑さんのことですから、ネタおろしの後から違った形に進化していくと思うので、この先の展開も楽しみです。

三遊亭丈二-ビゲン港町

  • 三遊亭丈二師匠

「ビゲン港町」は、昨年亡くなった三遊亭円丈師匠が、1980年代半ばにつくった作品です。丈二師匠が中学生時代、TBSラジオの「ビアホール名人会」でこの作品を聴いて、新作落語家を志したそうです。二つ目時代に1度、円丈作品集の企画でネタおろしをして以来、封印してきましたが、昨年亡くなった師匠を偲んで、今年のお正月のプーク人形劇場で再演。それを聞いた彦いち師匠がリクエストして、3回目の口演となりました。本やCDになっておらず、丈二師匠が中学時代に録音したラジオの音源だけしかない。だから、私も一度も聞いたこともなく、どんな話なのか期待しながら聴きました。
15年前から25才と称する水商売の女。銀座、池袋、赤羽、大宮、宇都宮、福島、仙台、青森と渡り歩き、函館に流れ着いた。厚化粧でニコリと笑うと顔からおしろいの粉が落ちる。そんな女の前に自称22才のギターを持った渡り鳥風の男が現れる。2人はいつしか恋仲となり、同棲生活を始める。しかし、ある事件が発端で、互いが罵り合いを始めるようになっていく。という話です。
函館、自称25才の女、自称22才の渡り鳥。この3つの設定だけで、一気にこの落語の世界観に引きこまれます。そして、2人の化けの皮がはがれていく怒濤の展開。ビゲンヘアカラー、アデランス、ロゼット洗顔パスタ、明色アストリンゼン、オッペン化粧品、一和高麗人参といった化粧品を中心とした固有名詞の数々。40年近く前の作品でも、ロングセラー商品ばかりだから色褪せません。固有名詞だからこそ感じるリアリティと説得力。自称25才の女や自称22才の男の、絶え間なく切実な美への憧れが浮かび上がってきます。
そんな痴話げんかも、最後はあることがきっかけでハッピーエンド。なんかすごいものを聴いたというのが正直な感想です。丈二師匠は「2度とやらない」とおっしゃっていましたが、再演、再々演も期待したい。眠らせてしまうのは惜しい作品です。

真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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