渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2023年 7月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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7月15日(土)14:00~16:00 三遊亭兼太郎 三遊亭遊雀 立川笑二 柳家さん花

「渋谷らくご」エヴォリューションの楽しみ

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プレビュー

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本公演はオンライン配信視聴を行いません。是非劇場へ足をお運びください。

 アイドルでもスポーツ選手でも、成長していく人を追いかけるのは楽しいものです。渋谷らくごでも、できるだけ若手の落語家さんにお声がけしていますが、本日のトリのさん花師匠は若手真打のなかでもまだまだ進化が著しい将来の名人かも! いまが楽しみ時でもあります。
東京の落語家には階級制度があり、前座→二つ目→真打、と昇進していきます。この公演では、兼太郎さん、笑二さんが二つ目。なので、このプレビューでは「さん」と呼びます。真打になると「師匠」です。ちなみに色物は「先生」。真打に昇進して22年のベテラン、遊雀師匠もご登場です。そして、遊雀師匠もまだまだ進化中!

▽三遊亭兼太郎 さんゆうてい けんたろう 圓楽一門会
23歳で入門、芸歴10年目、2017年二つ目昇進。ツイッターでは、人のツイートにいいね!つけがち。知らない街でも街中の定食屋さんに挑戦する。格闘技ファン。来月、総合格闘家の弥益ドミネーター聡志選手とトークライブをおこなう。

▽三遊亭遊雀 さんゆうてい ゆうじゃく 落語芸術協会
23歳で入門、芸歴35年目、2001年9月真打昇進。酒豪。飛行機と鉄道が大好き。お肌の保湿を第一に考えキュレルを使用する。乗り物が大好きで、バスにも積極的に乗る。先日小田原に小田急で行ってJRで帰ってくる乗り鉄旅行を決行した。

▽立川笑二 たてかわ しょうじ 落語立川流
20歳で入門、芸歴12年目、2014年6月に二つ目昇進。2019年と2020年の「渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」受賞。人生で一番笑った瞬間が、芸人がローションで転ぶ姿をテレビで見た時。落語の稽古は近所の公園でおこなう。

▽柳家さん花 やなぎや さんか 落語協会
1979年8月1日、千葉県出身。2006年9月入門、2021年9月真打昇進。身長が180cmを超えている。辛いことがあった時はドリンクバーで流し込む。新米パパとして絶賛育児中。ピザポテトを食べながらコーラを飲む瞬間が大好き。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

三遊亭兼太郎-たがや
三遊亭遊雀-船徳
立川笑二-お菊の皿
柳家さん花-寝床

三遊亭兼太郎さん「たがや」

「アイドルでもスポーツ選手でも、成長していく人を追いかけるのは楽しいもの」と、プレビューにあったが、兼太郎さんも会うたびに進化している。落語本編だけでなくまくらもそうだ。この日の本編に関連して、花火の掛け声である「たまや」の由来の説明をしていたが、結構ややこしい説明を落語のように澱みなく、声色を使い分けて楽しく話してくれた。おかげで「たまや」を贔屓にする江戸っ子の気持ちを共有した気になった。
本編の「たがや」では落語には珍しく、あっさり人が殺されていく。なかなかに凄惨な物語にあって、「たがや」の職人と周囲の江戸っ子たちに、観客がどれだけ共感できるかが鍵になる。まくらで江戸っ子の反体制主義をしっかり植え付けてもらったおかげで、お侍に歯向かっていく職人の気持ちも、お侍の首がとんで「た〜がや〜」と掛け声をかける江戸っ子の気持ちも想像できた。お侍ってそこまで嫌われていたんだな、と腑に落ちた一席だった。

三遊亭遊雀師匠 「船徳」

少々重めの「たがや」に対し、遊雀師匠は軽く、ごく軽く、おかしく軽く、を体現しているようだった。見た目からして明るい黄色の着物と羽織りが、軽い。髪の明るさととても合っている。そして、本編「船徳」もごくごく軽い感じでやってくださる。暑い日の話なのに、暑苦しくない。
物語としては、親に勘当されて舟屋に預けられている若旦那が船頭を務めることになり、その舟に乗ってしまうお客の不幸な話だ。そもそもこの若旦那がめっぽう軽い。若旦那が船頭になりたいと駄々をこねて即席船頭の出来上がり。このなんちゃって船頭が漕ぐ船に乗るとなったら客は命懸け、しかしこの命懸けの舟行きが、聞いている方には最高に面白い。下手な船頭が漕いでいるはずなのになぜかリズミカル。しまいにはこの即席船頭は舟を桟橋につけられないので、客に自分で川に降りていってくれという。それだけ川に浸かったら、さぞかし上がってから涼しいでしょうなぁ、とその客を冷やかしたくなる軽さだ。
ごくごくかる〜く、それもいいじゃないか、それすら声高に言わない遊雀師匠の格好良さが、少しずるいくらいだった。

立川笑二さん お菊の皿

笑二さんの古典落語はいつも新しい。思うに理由は二つ、今で言うとこういう感覚なんでしょ?という要素が入っていること、もう一つは冗長さがないことだ。
今回の本編は「お菊の皿」。井戸に吊るされて殺されたお菊さんという美女、これが毎夜井戸から出てきてお皿の枚数を数えるという。これを江戸っ子たちが怖いもの見たさ、美人みたさに集まるようになる。一方のお菊さんも観客が増えるに従って、エンタメ性を上げていくと言う物語だ。笑二さんの江戸っ子は、このお菊さんをアイドルとみなして「お菊さんは裏切らない」と言ってはまりこんでいく。お菊さんに入れ込んだのは、恋人に裏切られたのがきっかけだが、その「裏切られた」理由がとても現代っぽい。要は至って普通の生理現象が恋人にも起こることにショックを受けたというのだが、これが現代のアイドル崇拝に近い。当時でも吉原遊廓の太夫あたりは、普通の人間とは違うと思われたんだろうか?いずれせよ、理想の相手に対する幻想が今っぽい。
「冗長さがない」というのは、笑二さんはご自身の落語に必要がない箇所はバッサリ切ってあるようなのだ。今回の噺では通常冒頭で描かれるご隠居とのエピソードは伝聞調にとどめ、ご隠居が登場する場面自体はカットしてある。潔くて、おかげで笑二さんならではの噺に集中できた。

柳家さん花師匠 「寝床」

楽屋ばなしを聞くのは楽しい。所属する団体が異なる演者、つまり普段顔を合わせない落語家と会えるので、この渋谷らくごを楽しみにしていたとおっしゃていた、さん花師匠。だが、あまりにこれまで接点がなさすぎて、思うように話せなかったと話すさん花師匠。終演後のツイッターにも「もっと楽屋でしゃべりたかったー」と書いていたさん花師匠、あれ、もっとしゃべりたかったのは高座でではないんですね?!しかし本当に話したかったんだろうなとほっこりさせられた。前のお三方の素顔はよく知らないが、彼らの芸風から、楽屋の雰囲気を想像してしまった。
本編は「寝床」、義太夫を愛好するある旦那が、周囲に住む者やお店の者に声をかけて、自分の義太夫を披露しようという物語だ。今で言うとカラオケの延長で、下手な素人がディナー付き、お酒付きで自宅でやるディナーショーみたいなものですかね。うーん迷惑。
その肝心の義太夫ですが、「下手な」義太夫と称して歌うさん花師匠のそのお声が美声なんですね。ひっくり返った声も結構きれいなのだ。むしろ聴かせてほしい、歌ってほしい。物語の筋とは矛盾するけれども、この噺をやる演者は美声の方が、むしろちょっと聴いてみたいかもという期待感を持たせてくださって良いのかもしれません。