渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 12月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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12月11日(日)14:00~16:00 柳亭市童 柳家緑太 立川左談次 春風亭柳朝

「渋谷らくご」 ひょうきん落語会

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プレビュー

 ひょうきん、「剽軽」と書きます。芸の世界で、軽さは悪いことではなく、美徳。
 食べ物でも油っぽいものは胃にもたれるのと同様、芸でもおなじ。お客さんにストレスを与えず、それでいてしっかり想像させ、気持ちよくなってもらう、たしかな仕事。それが「軽さ」です。
手打ちそばのような職人芸、ベテラン 左談次師匠を迎えるのは、左談次師匠の同期・一朝師匠の一番弟子である柳朝師匠。
待望の初共演です。市童さん、緑太さんという若手の熱演にも期待。

▽柳亭市童 りゅうてい いちどう
18歳で入門、芸歴7年目、2015年5月二つ目昇進。渋谷らくごの高座の上で、「渋谷に寄せた表情」をされた。その絶妙な表情が緑太さんのブログで公開中。「痩せたいなぁ」というのが最近の口癖だが、にっこり笑う市童さんにつられてニコニコしてしまう。

▽柳家緑太 やなぎや ろくた
25歳で入門、芸歴8年目、2014年11月二つ目昇進
趣味は、ボードゲーム、カードゲーム、ランニング、靴磨き。「ハンバートハンバート」というバンドが好き。楽屋入りがとても早い。自作されるというチラシがものすごいお洒落である。

▽立川左談次 たてかわ さんだじ
17 歳で入門、芸歴49年、1973年真打ち昇進。読書好き。
談志師匠とおなじ病気にかかり、療養中。左談次師匠の渋谷らくご復帰をたくさんの方が待っている様子がtwitterで伝わってくる。来年は芸歴五十周年!多くの落語家からリスペクトされている、かもしれない酒豪。

▽春風亭柳朝 しゅんぷうてい りゅうちょう
23歳で入門、芸歴23年目、2007年真打ち昇進。毎朝、豆から挽いてホットコーヒーを入れている。銭湯巡りが趣味。最近冷蔵庫を買い替える。朝起きるのが早い。2006年から欠かさずブログを更新している。女優・木村文乃さんのご結婚で力が抜けるとのこと。

レビュー

文:瀧美保 Twitter:@Takky_step 事務職 趣味:演劇・美術鑑賞、秩父に行くこと

12月11日(日)17:00~19:00
「渋谷らくご」
柳亭市童(りゅうてい いちどう)-蒟蒻問答 柳家緑太(やなぎや ろくた)-佐々木政談 立川左談次(たてかわ さだんじ)-素人義太夫 春風亭柳朝(しゅんぷうてい りゅうちょう)-尻餅 *******************

柳亭市童-蒟蒻問答



  • 柳亭市童さん

    柳亭市童さん


若干25歳の市童さん。
なのにこの落ち着きっぷりはなんだろうと思う位、ゆったりとしていらっしゃる。
前回も渋いイメージだったけれど、今回もこんにゃく屋の六兵衛親分・江戸から流れてきた八五郎・寺男の権助とそれぞれをきっちり演じていて、男たちのやりとりが楽しい。
芝居でも落語でも会話がどう進んでいくのか、ということが私にはとても興味深い。言葉のかけ方・返し方のニュアンス一つで、それぞれの立場や性格、何を思っているかということが全然違ってくる。だから一言一句同じセリフでも、噺家さんが変われば全く違って伝わってくるから同じ噺を何度聴いても楽しい。

市童さんの飄々とした権助が好きだなぁと思う。その場その場で適当に生きている八五郎が勝手をして、それに対してダメ出ししているようでいながら、実はサラリともっとひどいこと言ったりする権助。八五郎の悪さをいいとは思っていなくても、受け入れてしまうなんでもアリの懐の深さがあるような。いや権助こそがどこまでもテキトーなだけなのかしら(笑)。

市童さんは奇をてらったところを狙うのではなく、落語の面白さをちゃんと伝えてくれる方だなぁと感じる。面白いものを、技術に裏打ちされた語りでまっすぐに伝えてくれる。
蒟蒻問答の人物のやりとりは、親分・八五郎・権助のキャラクターがきちんと色付けされているからこそ、それぞれがシーンとして浮き上がってくる気がする。親分もただ頼りになるというよりは、江戸から流れてきた奴でも受け入れる度量とりりしさを持ちながらもチャキチャキっぷり、でんと構えた中にあるおとぼけ具合のギャップがいい。

丁寧に世界を描く市童さんの落語は、たくさん出てくる登場人物たちをすんなり理解させてくれる。そして噺の魅力をきちんと伝えてくれる。
これからもっと市童さんの色がついて、この噺がどんどんどんどん変わったらどうなるのか。楽しみな落語家さんです。

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柳家緑太-佐々木政談



  • 柳家緑太さん

    柳家緑太さん


学校寄席のお話のマクラで、紙切りの正楽師匠とのお仕事のエピソード。学校の偏差値と笑いの反応には相関関係があるらしいけれど、素直過ぎるのも大変ですな。正楽師匠の「これを切るのに40分かかります」という冗談に、生徒たちはそのまま信じてしまったとか。笑ってもらえないと冗談にならないものね。風が吹くよ、ヒュルリ~。

桶屋の綱五郎のせがれ、12歳の四郎吉(しろきち)が、友達と一緒にお奉行ごっこをして遊んでいるところへ、町の様子を見にお忍びの本物の南町奉行・佐々木信濃守(ささきしなののかみ)がやってくる。そんなこととは知らず、佐々木信濃守役の四郎吉は名さばきを披露する。それを見た佐々木信濃守は町役人や親共々四郎吉をお白州へと呼び出して……。

四郎吉のこまっしゃくれぶりが楽しい噺。困ったような佐々木信濃守は偉ぶることなくとってもいい人そう(笑)。でもそれだけではなくて、子供の将来性を見抜く鋭さと共に、子供の話もきちんと聞く姿勢を持った魅力的な人。緑太さんの南町奉行・佐々木信濃守は品がありながらも、遠い存在ではなく身近に感じる人間味がある。こんな上司がいたらいいよなーと思うほどの懐の深さと親しみやすさ。仕事はできるけれど偉ぶらないからこその魅力。学べる事はたくさんありそうだし、こういう人の側に行きたい。ぜひお近づきになりたいです(笑)。

四郎吉がかわいくも鋭いことをずげずけ言っているのを聴いているとオイオイっと心配にもなるけれど、それを受け止める佐々木信濃守は緑太さんの絶妙なバランス感覚か人柄かしら。ご隠居さんと八五郎の組み合わせとか、緑太さんはどんな風にやるのかなー?と気になりますねぇ。

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立川左談次-素人義太夫



  • 立川左談次師匠

    立川左談次師匠


療養中と伺っていたので心配していましたが、軽やかな足取りで高座に上がる左談次師匠の姿に一安心。ご本人いわく、明るい生存確認の高座とか。セコい男の瀬戸内寂聴とおっしゃる姿も可愛らしくて素敵。左談次師匠の持つ気遣いと軽やかさが、お話ぶりからも伝わってきます。実を言うと左談次師匠の高座を観るのは初めてで、この日をとても楽しみにしていました。

談志師匠との危険なにおい(!)のするエピソードのマクラをはじめ、幅広い時事ネタがふんだんに組み込まれたくすぐりは、弾むようで心地いい。そこかしこでニヤニヤです。
主人が自分の義太夫を聴いてもらおうと、お客集めのため茂造(しげぞう)に長屋を回らせるけれど、下手くそな義太夫を聴きたくない長屋の人々はアレコレ理由をつけては行くのを断ってくる。それを主人に報告する茂造がいい。絶対に義太夫を聴きに行きたくない長屋の一人一人に心は寄り添いながら、聴きに行けない理由はさも仕方がないと主人が納得するような的確な説明をする。この飄々と言い訳する姿がいいんです。「行けなくて本当に残念だ」とクサい言い方をするのではなく、ワケがあって行けないのだと観ていて感じさせる。もちろん中には「行きたい!けれども……」という、いかにもな言い訳もあったりするし、またまた与太郎の「そんなものに行くほど馬鹿じゃない♪」と歌うように言うのもとても楽しくて好き。与太郎には言われたくない!って主人の心の声が聞こえてきそう。というか、この時私は心の中で思いっきり突っ込んでました。同じように心の中で思った人は絶対たくさんいたに違いない。間違いなし。
豆腐屋のがんもどきの作り方が、めちゃくちゃ丁寧なのも好きです。普通にがんもどきの作り方をしっかり聴いていて、それが楽しいって凄い。がんもどきの出来上がりを想像しながら、どう料理しようかな?とか、考えちゃってました。

それから主人の「私の義太夫は下手だ」に対し、「そうだ」と間髪入れず返す奉公人も好きです。若干声を潜めているけれど、間違いなくはっきりと言っているところがいい。形として遠慮して見せているだけで、迷惑だと感じていることを隠す気はないらしい(笑)。その図々しさから、普段の奉公人たちの姿が見えてくるような気がするし、この店の人間関係のあったかさも同時に伝わってくる。左談次師匠の優しいまなざし。

お時間の関係もあってか、「寝床」の途中まででおしまい。ぜひぜひオチのところまで聴いてみたかった!もちろん他の噺も気になるし、左談次師匠の高座をもっともっと観に行きたい。しっかり療養して頂いて、益々お元気な高座を楽しみにしております。

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春風亭柳朝-尻餅



  • 春風亭柳朝師匠

    春風亭柳朝師匠


お餅の代わりに女房の尻をこねる柳朝師匠がいかにも嬉しそうで、この噺をとってもお好きなんだと感じました。いやいや、お尻が好きなのかも(笑)。

どこの家でも年の暮れに正月の為のお餅をつく。しかし貧乏過ぎて餅つきができない夫婦が、それは恥ずかしいとお餅の代わりについたもの。それが女房のお尻。
餅屋のフリをしながら周りの長屋に聞こえるような声を上げて家にやって来る夫。餅屋と家の主人と、一人何役も兼ねる夫は「大変だ」と言いながらも楽しそう。このごっこ遊びを絶対に楽しんでいる。暮れのせわしない雰囲気や、貧乏の苦労の匂いはほんの少しだけ。柳朝師匠の軽快な運びと明るさが気持ちいい。

嫌がりながらも、仕方なく着物をまくりお尻を突き出した女房。「大きな尻だなぁ」と言いながら嬉しそうにお尻を見る旦那の表情が、もう何とも言えないです。真っ白い肌の大きなお尻が目に見えるようで。エロさもあると思うけれど、それよりもっとずっと楽しそうで。お尻を赤くする女房はかわいそうだけど、真剣にやればやるほど滑稽な夫婦の姿に笑ってしまいます。

暮れの忙しさも楽しくなるような、柳朝師匠の「尻餅」。華やかな笑顔が素敵なお正月を連れてきてくれそうです。今年一年、様々に楽しませてくれた落語と師匠方にたくさんの感謝を。

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【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」12/11 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ