渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 12月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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12月13日(火)20:00~22:00 春風亭昇々 笑福亭羽光 立川吉笑 桂三四郎 三遊亭粋歌 林家彦いち

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」 大賞決定!

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プレビュー

◎審査員:長嶋有(大江健三郎賞・芥川龍之介賞作家)、木下真之(新作らくご研究、ライター) ほか
 他 ノミネート作品:瀧川鯉八「長崎」、三遊亭彩大「艦内の若い衆」

◎開演前に、「2016年 渋谷らくご大賞」の発表および授賞式あり

渋谷らくごスタート以来、偶数月に行われている、林家彦いちプレゼンツ 創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。
今年も名作がそろいました! この回は、その大賞を決めるべく、2016年ベストバウト回となっています。
渋谷らくごから生まれた名作のなかから、芥川賞作家ほか多ジャンルの審査員で大賞を決めます。
開演前には、渋谷らくごが発信する「2016年 渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」の発表と授賞式があります。

▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。2016年度NHK新人落語大賞決勝出場。
Youtubeでアバンギャルド昇々として動画を配信中。オリジナル楽曲を歌ったり、「落語マン」というキャラクターを追ったドキュメント風の動画など、公開中。アバンギャルド昇々第二弾「そばロック」が発表された。ブログもツイッターも狂気にみちている。

▽笑福亭羽光 しょうふくてい うこう
34歳で入門、芸歴10年目、2011年5月二つ目昇進。落語芸術協会の二つ目からなる人気ユニット「成金」メンバー。侠気がある。NHKのクローズアップ現代に取り上げられた時、「マグロ一筋」というTシャツを着ていた。12月に発売される「成金本」では「東西落語比較論」が掲載されるとのこと。

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在入門7年目、2012年4月二つ目昇進。
2015年『現在落語論』を出版。毎週独演会を開くプロジェクトが進行中。音楽番組の司会に抜擢される。酒豪のようで、ツイッターでは毎日お酒を飲まれているよう様子が観察できる。酒癖があまりよくないということもツイッターで観察できる。理系脳。

▽桂三四郎 かつら さんしろう
22歳で入門、現在入門13年目
ツイッターで苦心しながら創作らくごを書いている様子が日々アップされている。手相では。フェロモン線がすごいらしい。

▽三遊亭粋歌 さんゆうてい すいか
2005年8月入門、現在12年目、2009年6月二つ目昇進
28歳で突如退社し入門される、その様子が朝日新聞の夕刊の1面に掲載されたこともある。ツイッターのプロフィール画像もヘッダー画像も独特である。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。
創作らくごの鬼。キャンプや登山を趣味とするアウトドア派な一面を持つ。10月は台風が来ている中でキャンプを決行するという武闘派。集中する朝は、土鍋でご飯を炊く。先日沼津で古今亭志ん八さんと釣をする。大漁だった様子。
創作から生まれた絵本「ながしまのまんげつ」(絵 加藤休ミ 小学館)が発売中!最近お弟子さんを取られた。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

▼12月13日 20:00~22:00
創作らくごネタおろし会
「しゃべっちゃいなよ」2016年の大賞決定

春風亭昇々-寝坊もの
笑福亭羽光-私小説落語 青春篇2
立川吉笑-歩馬灯
桂三四郎-YとN
三遊亭粋歌-プロフェッショナル
林家彦いち-あゆむ

渋谷らくご創作大賞:三遊亭粋歌
他ノミネート作品:瀧川鯉八「長崎」、三遊亭彩大「艦内の若い衆」

審査員:長嶋有(大江健三郎賞・芥川龍之介賞作家)、木下真之(創作らくご探究)、林家彦いち、サンキュータツオ



2016年の「しゃべっちゃいなよ」の5公演(2、4、6、8、10月)で口演された20作品の中から年間の大賞を決める会が開催されました。開演前には「2016年 渋谷らくご大賞」が発表され、春風亭昇々さんが栄冠に輝きました。2016年の昇々さんの活躍は目を見はるものがあり、1年間を通して昇々ワールド全開でした。NHKの新人落語大賞でも同点決勝まで進出していますし、2017年はシブラクの大賞受賞者としてますますの飛躍が期待できますね。

  • 2016年渋谷らくご大賞 授賞式 春風亭昇々さん

    「2016年 渋谷らくご大賞」授賞式 受賞者は春風亭昇々さん

  • 2016年渋谷らくご大賞 授賞式 春風亭昇々さん

    「2016年 渋谷らくご大賞」春風亭昇々さんの喜びの表情


創作落語大賞への注目も高く、今年も会場は大入り札止め。開場時間に来た時点で当日券もなくなり、入場できなかったお客さんもいらっしゃったようで、申し訳ない気持ちでいっぱいです。決戦に残った5人に彦いち師匠を加えた6席はいずれも素晴らしく、お客さんの期待に違わないクオリティの高い会となりました。
  • 審査長 林家彦いち師匠

    「2016年 創作らくご大賞」審査員長の林家彦いち師匠

  • 審査員の方々

    「2016年 創作らくご大賞」審査員の方々


審査は全員が粋歌さんを推し、文句なしで大賞を射止めました。タツオさんが舞台で「大賞は粋歌さんです」と発表した時もお客さんは納得の表情。終演後、楽屋に行くと粋歌さんはすでに私服に着替えていて、大賞を獲ることなど思っていないような落ち着きぶり。タツオさんに促されて急きょ着替えるという状況でした。表彰式も最後までお客さんが残ってくれて拍手で包まれ、お客さんあってのシブラクだなーと思いました。「落語家人生で初めての賞」(粋歌さん)とのことですが、これからも粋歌さんならではの創作落語に期待したいです。当日会場で演じられた5席とエントリー2席。スケジュールの都合で出られなかった2人ですが、出ていたらまた違った結果になっていたのかもしれませんね。

今年の傾向としては「しゃべっちゃいなよ」で初めて披露した落語を、その後も口演して磨きをかけてきた方がほとんどで、「育っちゃったよ」の会となりました。得てして「掛け捨て」「その場限り」となりやすい創作ネタおろしの会ですが、それを育てて完成度を高め、自分のものにしていこうという方が大勢いたのは、長年創作落語を見てきた側からするとうれしい限りです。番組の流れや舞台進行も素晴らしく、興行としても最高でした。



春風亭昇々-寝坊もの


  • 春風亭昇々さん

    春風亭昇々さん


(あらすじ)朝起きたら9時。テレビには「イノッチ」出てる。大パニック。遅刻の言い訳を考えなくちゃ。
(ポイント)初演時は病欠のA太郎さんの代演で登場。半日で作ったという作品。今回はトップバッターで、「渋谷らくご大賞」の受賞者顔見せのような流れでした。昇々さんの創作は、初めのセリフから笑わせてくれるのがすごい。この話も「寝坊したー」の一言ですぐに吸い込まれました。



笑福亭羽光-私小説落語 青春篇2


  • 笑福亭羽光さん

    笑福亭羽光さん


(あらすじ)「実話ほぼ100%」という羽光さんの青春物語。中2時代の中村ヨシオくん。勉強部屋でひとりエッチしているところを、英語教師の父親に見つかった。家族一緒の食卓でお父さんが大暴露。
(ポイント)落語会ではわずかな下ネタでもお客さんは恐ろしいほど引いていきます。吉原の遊郭ネタは受け入れるのに、現代に置き換えたとたんにダメなのです。そんな中で、果敢に下ネタに挑んで笑わせたのが羽光さん。
「英語の発音に厳しいお父さん」という前フリがサゲの爆笑につながる秀逸な構成です。男が好きな男落語。さすが鶴光一門。羽光さんのこの一席が次の出番の吉笑さんと三四郎さんの落語を狂わしていくという、この日の中では最も破壊力が高かった落語でした。



立川吉笑-歩馬灯


  • 立川吉笑さん

    立川吉笑さん


(あらすじ)妻に頼まれ買い物に出かけた男がトラックに撥ねられた。生まれてから40数年の人生が「走馬燈」のように流れると思いきや、いっこうに進まない。
(ポイント)主人公の名前を初演のマサキからヨシオに変えたのが最大のポイントです。ヨシオという名前が出てきたとき私自身は「間違えたのか、偶然の一致なのか、意図的なのか」の3つで混乱しました。が、話が進むとこれは意図的に「ヨシオ」にしたのであり、羽光さんの落語と地続きの話にしたかったことが見えてきます。
おそらく出番直前に作戦を変更し、ネタを足したのではないかと思われます。そのチャレンジ精神、攻める姿勢はすごいですね。コンクールとはいえ、後半の出番になるほど有利になるので、吉笑さんとしても後から出てくる2人に少しでも差を付けてリードしておきたいはず。先行逃げ切りが絶対条件の中で、作品の完成度を高める方法を直前に思いつき、リスクを恐れずそれを実行に移せる落語家さんはそういません。
その分、冗長性が増してしまった面はありますが、歩馬灯に至るまでの謎の持たせ方や、人生の若気の至りのようなしょうもないディテールの並びは素晴らしかったです。



桂三四郎-YとN


  • 桂三四郎さん

    桂三四郎さん


(あらすじ)お寺の跡継ぎの男性が、病院の跡継ぎの女性にプロポーズ。「病院とお寺の癒着」が不安視される中、2人は無事に結婚できるのか。
(ポイント)
会話のほとんどが「ギャグ」の応酬。掛け合い漫才のようにテンポ良く進みます。狙ったギャグが、ボクシングのジャブのように次々とヒットしていく展開には惚れ惚れしてしまいます。誰にでも伝わるわかりやすさがありながら、発想がどんどん飛躍していってスケールが大きくなっていく。会話の心地よさに癒されまくりで、ずっと聞いていたいと思わせる一席でした。しかもただのギャグ落語で終わらせず、終盤にくると予想も付かない場面転換であっと驚かす。サゲも見事に決まって話芸の神髄が堪能できました。笑いの量で測定するなら間違いなくトップです。



三遊亭粋歌-プロフェッショナル


  • 三遊亭粋歌さん

    三遊亭粋歌さん


(あらすじ)パン工場の研修に配属された「意識高い系」新入社員の若林君。パートのおばさんのやる気のなさを見て「辞めたい」と人事部に申し出るも「あと3日」我慢することに。その3日間で若林君はあることに気付く。
(ポイント)
1人の新入社員の成長物語として、すぐにでもドラマや映画になりそうな人情喜劇です。粋歌さんの「物語」を作る能力は、落語家さんの中でも頭ひとつ抜けています。シナリオ的な創作法で物語を作る粋歌さんは、発想や笑いの流れを中心に落語を構築していく吉笑さんや三四郎さんとも違うタイプ。それでいて落語的な物語にきちんと落とし込めるのが粋歌さんのすごいところ。工場のパートのおばちゃん3人のキャラクター設定と独特の癖、さらにそれに意味を持たせて伏線にしているところなどは本当に上手いと思います。生意気キャラの若林君が自ら悟るセリフの使い方も完璧。工場で流れているAMラジオ、プレミアム唐揚げサンドのネーミング、クライマックスで流れるあのBGMと、細かいディテールや演出も素晴らしかったです。
演者としても、前の4人が受けていると芸人として笑いが欲しくなるものですが、最初からペースを崩さず物語の世界へと段階を追って導いていく粋歌さんの落ち着いた高座捌きも見事でした。粋歌さんを見ていると、男性だから女性だからとか関係なく、普通に物語に入っていけるのですが、こういう落語家さんって珍しいんですよね。



林家彦いち-あゆむ


  • 林家彦いち師匠

    林家彦いち師匠


(あらすじ)悩みを抱えてやってくるお客さんの話に色を付けて元気にしてくれるバー「あゆむ」のマスターの物語。
(ポイント)彦いち師匠もこの話を4月にネタおろしして以来、あちこちでかけて育ててきたので、完成度が半端なく高まっていました。今日の5人の落語の中に出てきた人物を登場させるサービス精神もあり、「いい話」で2016年のシブラクが締められてよかったです。

2016年「創作らくご大賞」授賞式の様子


  • 創作らくご大賞 授賞式 三遊亭粋歌さん

    「創作らくご大賞」は三遊亭粋歌さん


  • 審査を終えた審査員の方々

    「創作らくご大賞」審査を終えた審査員の方々


  • 創作らくご大賞授賞式

    「創作らくご大賞」三遊亭粋歌さん 「渋谷らくご大賞」春風亭昇々さん


  • 創作大賞粋歌さんと渋谷らくご大賞昇々さん

    「創作らくご大賞」三遊亭粋歌さん 「渋谷らくご大賞」春風亭昇々さん

  • フィナーレ

    授賞式 フィナーレ

  • フィナーレ

    授賞式 フィナーレ


  • 三遊亭粋歌さんと春風亭昇々さん

    「創作らくご大賞」三遊亭粋歌さん 「渋谷らくご大賞」春風亭昇々さん







【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」12/13 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ