渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 4月12日(金)~16日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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4月14日(日)17:00~19:00 春風亭昇市 古今亭志ん五 瀧川鯉八 古今亭文菊

「渋谷らくご」文菊を聴こう! マイペースな四人

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プレビュー

初心者向け:「人」で追いかけるなら、この会に出ている人はみんなオススメ。しかも活動がマイペースで、この先も安定して落語を極めていってくれるんだろうなと思える人たち。なかでもトリの文菊師匠はぜひ今のうちから追いかけてほしい真打。鯉八さんは渋谷らくごを象徴する存在です。この「渋谷らくご」の来てくださった人たちにぜひ盛り立ててほしいです。
アングル:どの順番で出ても自分の落語を貫く頼もしい人たち。鯉八さんが創作で登場するので、文菊師匠は空気をどう変えるか。昇市さんは前回の出演の経験から、30分の持ち時間をどう使ってくれるのか楽しみ。

▽春風亭昇市 しゅんぷうてい しょういち
2014年入門、芸歴5年目、2018年5月二つ目昇進。先輩方のコミュニケーション、気の配り方まで完璧にこなす。ももいろクローバーZにドハマリしていて、ツイートのほとんどがももクロ情報。スキウサギの手帳をつかっている。

▽古今亭志ん五 ここんてい しんご
28歳で入門、芸歴16年目、2017年9月真打昇進。平成30年度国立演芸場「花形演芸大賞」で銀賞。渋谷らくごの公式読み物どがちゃがでは、志ん五師匠の似顔絵コラムが掲載中。海が好きで、釣りが好き。

▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち
24歳で入門、芸歴13年目、2010年二つ目昇進。2020年5月に真打ち昇進することが決定した。2018年渋谷らくご大賞「面白い二つ目賞」受賞。喫茶店巡りが趣味。地方に行くと美味しい物を食べ過ぎて太ってしまう。

▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴17年目、2012年9月真打ち昇進。私服がおしゃれで、楽屋に入るとまず手を洗う。前座さんからスタッフにまで頭を下げて挨拶をする。まつげが長い。最近ダイエットに挑戦中。大学では漕艇部に所属、熱中していた。

レビュー

文:佐藤紫衣那 専門学校教員 趣味:クラシックバレエ 日課:晩酌

2019.4.14(日)17-19「渋谷らくご」
春風亭昇市(しゅんぷうてい しょういち)-お見立て
古今亭志ん五(ここんてい しんご)-お菊の皿
瀧川鯉八(たきがわ こいはち)-にきび
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく)-三方一両損

春風亭昇市さん

  • 春風亭昇市さん

    春風亭昇市さん

出囃子がかかった瞬間高座まで早足。座布団に座りお辞儀をする前に、客席の上下を上目遣いですこしだけ様子をうかがってから、深くお辞儀をした昇市さん。
昇市さんの振舞いから漂う“バイトリーダー感”。2つ先のことまできちんと気が付きそうな、仕事のクオリティも一定保ってくれそうな、あくまでもうしろに“そうな”がつきますが、おそらくきっと期待は裏切らないでしょう。自身が所属する芸術協会の楽屋に入ってきた同郷出身の新人前座へのツッコミを、その“バイトリーダー”目線から指摘するその言葉の節々に、小言だけではなくその組織全体への気遣いが感じられて嫌味がありません。
演目は「お見立て」。登場人物の3人の中では喜助に一番年齢も境遇も近い昇市さん。喜瀬川花魁と話すときにはきちんと相手を見て、決して目を逸らさない。杢兵衛お大臣からの要らぬ気づかい、そして喜瀬川花魁からの無理難題の間に挟まれて「ちょっとぉ」「あなたねぇ!」と出るタメ口。太鼓持ちのように終始持ち上げることもしないけれど社交辞令はとても流ちょう。 嘘をつかれすっかりと信用し、想いを寄せる喜瀬川花魁はもうこの世にいないのだと悲しみに暮れる杢兵衛お大臣が「おらはあいつと夫婦になるはずだったんだ…」との告白に対し「そうっすねーはい!色男はいいですねお出口はあちらですー」と句点も入れずに出口へ送り出そうとするその様子に、ビジネスライクでいいじゃない!と妙に納得した瞬間でした。いいぞ、バイトリーダー!

古今亭志ん五師匠

  • 古今亭志ん五師匠

    古今亭志ん五師匠

高座まではあくまでもゆっくりと、足元をみながらとぼとぼとあるき、高座に座ってお辞儀をするまでお客さんの顔は見ず、その後ゆっくりと両手をついてお辞儀をする志ん五師匠。
志ん五師匠の演目に共通するのは、声に出さないミュートの瞬間が120%全身で表されるところかなと思います。高座を音声で聞いている人には、マイクで拾っていたとしても聞こえないのではないかな。その代わり、そのシーンの表情は、仕草は、ダイナミックでどこをとってもチャーミング。あぁ生で見られてよかった!ここに居られなかった人もったいない!と思う瞬間です。この日の「お菊の皿」での一番の見どころは、幽霊を見に行こうと連れ立って出かけていくものの、怖い怖いとなかなか目を開けられないでいるものの、美女だ!と聞いて怖いもの見たさで目をあけた瞬間の、でれでれ~っとしたその表情。その表情で、いかに男性陣を魅了したかがよくわかります。噺が展開していき、幽霊のお菊さんの大仰なアクションに拍車がかかります。立ち膝姿での熱演。おかしみがこみ上げながらも、どこか感心してしまうその姿。志ん五師匠のその人柄が前面に押し出されていて、きっと次に拝見する機会にはまた新たな発見があるだろうな、と思う、見どころたっぷりの一席でした。

瀧川鯉八さん

  • 瀧川鯉八さん

    瀧川鯉八さん

瀧川鯉八問題作「にきび」。
活きのいい新作を作り続ける鯉八さんの作品のなかでも、評価が両極端に分かれるこの演目。鯉八さんファンの友人が「にきび」を聴いて一転「大好きだけどちょっと距離を置こう…」と言ったあの日の困惑した表情が忘れられません。
中高時代、多かれ少なかれ、誰もが悩んだであろう「にきび」問題。大人になるにつれ次第に落ち着き忘れていた、誰しものその内側にある、ざらっとした、どろっとした部分に、鯉八さんはピンポイント命中攻撃、「大人になったふりしやがるな!逃がさんぞー!」と言わんばかりにぎゅーっと素手でぐりぐりとえぐってきます。当然洗っていないその手で。
まぁちゃんとおばあちゃんのにきび育成日記。プライベートなその部分に、悩み、苦しみ、
人に相談もできず、ただただ恥ずかしいなと思っていたあの日のことを、私自身も思い出し、どちらかというと嫌な気持ちになります。
鯉八さんの名作「俺ほめ」に出てくる主人公もまぁちゃん。このまぁちゃんとあのまぁちゃんは、同一人物なのか?!というささやかな、とても重要なこの疑問。大好きエンドレスリピート中の「俺ほめ」の主人公が、外では人に(金平糖を対価に)褒めそやされながらうちではおばあちゃんと夜な夜な顔を洗わずピーナッツを食べてにきびを育成していたとしたら…と、脳内で二つのストーリーがシンクロして、どうも気になってしまいます。
誰しもに、ある部分の人にとってはトラウマともなっているようなこの話を、すんなりと腹立つ顔で堂々とやってのける鯉八さん。10代後半、前回会ったその日からさして背も伸びていないのに、親戚のおじさんに「おおきくなったねぇ」と言われている気持ちに近いものを感じます。「背なんて伸びてないし!知ったようなことを!」とこちらが思うのと同じだけ、「子供のころから僕は君を知っているんだよ。一人部屋でなにをこそこそしているか、なにになやんでいるかなんておじさんぜーんぶ知っているんだよ。」と思われていそうな、ちょっとやっかいなこのおじさん。どこかやっぱり大人で、脅威で、愛のあるこの距離感。 鯉八大先生の才能が爆発したこの演目。手放しに「見て!」とは人に勧められないこの感情。私自身がきっとおばあちゃんの年になった時に、「にきびなんて若くっていいなぁうらやましいわぁ」と言いながら、寄席で聴きたい演目です。

古今亭文菊師匠

  • 古今亭文菊師匠

    古今亭文菊師匠

中腰で扇子を片手にゆっくりとゆっくりと高座まで姿勢よく登場。着物はぴんとはって腰を座布団におろし、座って扇子を右手に持ちかえて丁寧に置いて「はい、よろしくおねがいします」と小さな声で両手をついて頭を下げる文菊師匠。登場から“江戸”と“粋”が一気に訪れ、さきほどまでの「にきび」の空気を一転していきます。
文菊師匠の高座姿は、とにかく姿勢がよく、背筋がすっと通り、誰かに語り掛けるときにも顎がぶれず、左右にも上下にも揺れない。無駄な動きがありません。
三方一両損。中学生の頃に初め、末広亭で人生初めて落語に触れたその日に聴いた日に「なるほど!」と納得し魅了されたときのことを聴くたびに思い出す思い入れの深い演目です。
拾った財布を届けた男、拾った財布を届けられて納得がいかない男、当人同士の喧嘩を「ひとまずは」と収めた大家、「こっちの顔が立たない」と訴えて出る大家。
それぞれに言い分があり、それぞれに「真の東男」を貫きたいこの男たちの、生活のなかの些細で、それでも人生の大切なものを懸けたこの「勝負」。もうさーいいじゃない、と誰かが言おうもんならドンパチ起こりそうな一触即発の緊張感が続く前半。文菊師匠は大げさな動作がない代わりに、頬の動きと眉の角度を天才的に使い分けながら、事の深刻さを表していきます。
「喧嘩した?…えらい!どこで喧嘩した?神田の?小柳!なんて…!粋なところで…」
という大家さんからの極めて謎の深い誉め言葉。そしてそののちに喧嘩の原因を聞いたときの「財布をひろった?!」という驚きを隠せない、情けない失望の表情。現在の道徳とは逆のような気もするけれど、登場人物たちの威勢のいい啖呵、そして人としての指標、生き方に向き合う様から、学びえることはたくさんあるこのお話。
オチが効いていて、落語っぽくていいなぁ、そしてなにより、落語っていいなぁ。この2時間を締めくくる最高のトリを飾ってくださった文菊師匠。追い出し太鼓が鳴る中、丁寧に丁寧にお辞儀をされる姿も、粋で本当に、素敵。

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「渋谷らくご」4/14 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
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