渋谷らくごプレビュー&レビュー
2019年 4月12日(金)~16日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
初心者向け:落語芸術協会=吉好さん。落語協会=花飛さん、きく麿師匠、彦いち師匠。落語立川流=寸志さん。
三団体からのエントリー、うち普段、古典を演じている寸志さん(2年連続2回目の登場)。昨年は12月の大賞決定戦にも登場したきく麿師匠。
いずれもその名が落語界に轟く人気者。リスクしかないネタおろしの会に登場してくれます。みなさん、一緒に落語を創りましょう!
人気の創作らくごネタおろし会シリーズです。この体験は、劇場でしか、渋谷らくごでしかできません。
▽春風亭吉好 しゅんぷうてい よしこう
28歳で入門、芸歴10年目、2013年8月二つ目昇進。料理をつくるのが好きで、先日は沼津港で買ってきた鯛の出汁をつかった炊き込み御飯つくった。おでんをつくるときには、じゃがいもを入れるタイプ。
▽柳家花飛 やなぎや かっとび
24歳で入門、芸歴10年目、2014年11月二つ目昇進。睡眠サイクルアプリとツイッターを同期していることから、寝付くまでの時間やレム睡眠の周期など花飛さんの睡眠状況がツイッターで確認することができる。寝付くまでの時間はおおよそ8分間。
▽林家きく麿 はやしや きくまろ
24歳で入門、芸歴23年目。2010年9月真打ち昇進。観光地などにおいてある顔ハメ看板には、必ず顔を入れる。褒められたツイートを積極的にリツイートする。この春モンシロチョウを育て上げ、無事モンシロチョウは飛び立っていった。「令和の爆笑王」内定者。
▽立川寸志 たてかわ すんし
44歳で入門、芸歴8年目、2015年二つ目昇進。緊張を楽しめる性格。カラオケボックスに入り稽古を重ねる。元編集マン。新元号を本気で当てにいった。ボブ・ディランを聴くらしい。
▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。Fishing caféというウェブサイトで「ヤマメ・イワナと戯れ、創業350年(平家直孫26代)の宿に泊まる、落語家・林家彦いちの奥鬼怒の釣行。」という旅行記が掲載されている。
レビュー
春風亭吉好(しゅんぷうてい よしこう) 「八五郎ガチャ」
柳家花飛(やなぎや かっとび) 「電信後退」
林家きく麿(はやしや きくまろ) 「マンホール繁盛記」
立川寸志(たてかわ すんし) 「小林」
林家彦いち(はやしや ひこいち) 「悪戯世代」
文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam
彦いち師匠曰く、「おじさんが集まった」今回。二ツ目ながら、彦いち師匠より年上、最年長の寸志さんに注目が集まりましたが、期待に違わずエンターテインメント性の高い創作落語を披露してくれました。
春風亭吉好-八五郎ガチャ
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春風亭吉好さん
スマホゲームなどで、レア度の高いキャラクターの出現を楽しむ「ガチャ」と、誰が出てくるかわからない寄席や、レアキャラが多い落語家の世界が似ているという話から、古典落語の「ご隠居さん」が、レア度の高い八五郎キャラの出現を期待する本編へ。夜中に隠居の枕元に「神」が現れ、隠居さんが理想とする八五郎を「ガチャ」によって登場させると約束します。 「ツンデレ」など今までにない八五郎のキャラクターが登場するところが見どころで、アニメ好きの吉好さんの趣味が存分に反映されています。
マニアックな世界ではあるものの、スマホの「ガチャ」と、カプセル入り玩具の「ガチャガチャ」を対比するなど、わかりやすさにも配慮していて、アニメを知らない人でも十分楽しめる内容になっていました。
柳家花飛-電信後退
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柳家花飛さん
「スマホを落として画面が割れた。画面を守るシートがあればいいのに!」「すでにあるよ!」という発端から、タイトルどおり電話が時代をさかのぼって退化していきます。
話はシンプル。大きなひねりもありませんが、聞く側にとっては、わかりやすくて疲れない。リラックスしに行く寄席や、幅広い年齢層が集まる落語会にはぴったりで、落語本来の楽しみ方ができました。創作落語が後世に残っていくとしたら、こうした素朴な作品なんだろうと思います。
アナログレコードプレーヤーや、カセットテープが復権している平成の最終年。古くて廃れたものが一周回って新しく見えるところに目を付ける花飛さんのセンスは鋭いですね。
林家きく麿-マンホール繁盛記
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林家きく麿師匠
ある男が家に帰ってくると、道の上に見知らぬ男の人が立ち、空を見て泣いていた。翌朝も変わらずに立っている。「なぜか?」と尋ねると「マンホールの上を歩かないと死んでしまう」という答え。どんな説得にも応じない男。すると同じく「マンホール病」に取り憑かれた人が次々とやってきて「自分ルール」を訴え続けます。
大きなストーリーはありませんが、それぞれの「自分ルール」がぶっ飛んでいて面白いです。ルールを変えることができる唯一の人は「馬と前歯をぶつけ合って馬が逃げた人」というナンセンスさ。それを「ホース・トゥース・アタック!」と言い替えて連呼するところがフレーズ作り名人のきく麿師匠の本領です。
言われてみれば、ジンクスだったり験担ぎだったりで、どんな人でも何かしらの自分ルールを持っていたり、過去に持っていたりした経験はあるものです。端から見ると大したことがなくても本人からしたら重大なんですよね。そんなことに気付かせてくれる作品でした。
立川寸志-小林
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立川寸志さん
登場人物は「徳永」と「小林」の2人。会社に提出した稟議書(起案書)が、役員に一発で通った小林さん。「徳永のプレゼンテーションのおかげ」と謙遜するところからなぜか、「小林」という名字を巡る不思議な旅が始まります。
名字のヒエラルキーの妄想が拡大していくところが面白さで、小林、中林、大林、小森、中森、大森とテンポよく畳みかけていくので思わず笑ってしまいます。名字の系統付けもしっかりしていて、リサーチ力と構成力が光ります。アイデアは名字1本ですが、後半には普段と違う名字が名乗れる「別名バー」が登場するなど、見せ方を変えてくれるので飽きません。 構成がしっかりしていて、見せ方が面白い。しゃべりもきちんとしていて淀みもない。サービス満点のお名前バラエティを見ているようで、聞き終えた後の満足感、充足感は一番でした。
林家彦いち-悪戯世代
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林家彦いち師匠
いたずら世代でいたずら好きのお父さんと、いたずら嫌いのお母さんが、いたずら盛りの息子・タカシくんが繰り出すいたずらを巡って夫婦げんか。テレビではいたずら専門家の湯川ヒデーユキ先生と福沢ユーキチ先生が、ゲストの林家きく麿先生を囲んで大議論。お父さんは、いたずらといじめの境目がわからないと戸惑い、嘆きます。
一方、休日を利用しておばあちゃんの家に出かけたタカシくん一家の家に、古いタイプの泥棒が空き巣に入る。一家と泥棒の運命はいかに……、という物語です。
小学生のタカシくんの仕掛けるいたずらが、おじさん世代のいたずらそのもの。懐かしさを覚える一方、令和の時代には通用しないかもしれないという寂しさもあり、どの世代にも余韻を残す一席でした。
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文:海樹 Twitter:@chiru_chir_chi(今年もお花見は播磨坂の桜並木に行きました)
「最初と最後」
2019年2回目の新作ネタおろしの会「しゃべっちゃいなよ」。開演前には本日の流れについて、サンキュータツオさんと林家彦いち師匠とのトークの時間がある。そのトークの際にタツオさんが言っていた、「将来の古典になるかもしれない落語と、今日だけになってしまうかもしれない落語を見られます」という言葉にハッとする。「しゃべっちゃいなよ」では一年後、十年後、百年後のスタンダードナンバーになる落語の誕生に立ち会えるかもしれないし、今日だけで二度と見ることのない落語に出会うかもしれない。そんな刺激的な場に立ち会えることの喜びと、緊張感と、期待と、不安。何が起こるかわからないのは、面白くもあり、怖くもある。だからこそ、私はこの会に足を運んでしまうのかもしれない。
これからの二時間で何が起こるのだろうかと気持ちは高まる、さあ来い。
春風亭吉好「八五郎ガチャ」
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春風亭吉好さん
ガチャの結果によって様々なキャラクターに変化していく八五郎と、どれも何だかしっくりこないと感じながらガチャの沼へと沈んでいく隠居さん。古典落語の世界と現代的なガチャという要素が合わさり、また爽やかな後味のサゲも心地よい落語だった。
柳家花飛「電信後退」
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柳家花飛さん
現在では古くなってしまった商品も、それが生まれたときには新製品として魅力的な性能を持っていたという当たり前のことに気付かされる展開。まくらから落語への流れも心地よい、寄席サイズの一席でした。
林家きく麿「マンホール繫盛記」
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林家きく麿師匠
ネタは、自分の家の前にずっと立っている男が現れるところから始まる。男にどうしてずっとそこに立っているのかと訊ねると、その理由は「マンホールからマンホールの間は三十歩しか地面を踏めず、もし三十歩目の地面を踏んでしまうと地獄に堕ちてしまうから動けなくなってしまった」とのこと。どうやってこの男を自分の家の前からどいてもらおうかとやり取りをしている内に、事態はどんどん深刻になっていってという展開。
漫画の『荒川アンダー ザ ブリッジ』には、「白線から落ちたら、妻が白色コーニッシュになってしまう」というマイルールで白線渡りゲームを始めた結果、辞められなくなってしまう男が出てくる。これは極端な例だけれども、マイルールに縛られてしまうというのは、誰しも思い当たることの一つや二つがあるのではないだろうか。そんなマイルールという普遍的なテーマと、どこか不条理な展開が面白い。何よりきく麿師匠の要所要所で用いる言葉のチョイスが最高で、とても好みの一席だった。
立川寸志「小林」
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立川寸志さん
ネタは、あるプロジェクトの成功を称えあう小林と徳永の同期の二人の会話から始まる。突然徳永は小林から「お前にずっと憧れていた」と告げられる。小林が憧れている理由は「徳永」という名字、「徳が永い」という意味のすばらしい名字だからだという。
そこから小林による名字ヒエラルキーについての講義が始まる。いわく、小林は「ウッディー系」の名字であり、「大林>中林>小林」という序列が存在すること。また「小森>大林」・「小林>大木」というように、漢字に含まれている木の数によって序列が存在することなど。小林による名字階級社会の講義はどんどんと広がっていきという展開。
落語の「平林」では漢字の読み方のバリエーションが追求されていくが、「小林」では「大・中・小」「森・林・木」などの漢字の意味という方向からバリエーションが追求されている。名字で使用されている漢字の意味という、あるあるだけれども意識されにくい部分が深く深く掘り下げられていくことの面白さ。また、「小林」という落語のなかで展開されていく序列の論理を聴いていると、ついつい自分の知り合いの顔を思い浮かべて序列に当てはめていってしまう。 発想・視点・普遍性が合わさった見事な新作落語だった。
林家彦いち「悪戯世代」
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林家彦いち師匠
カリカリと怒っていた母親が、まぁこれくらいいいじゃないかと寛容な父親の言葉によって、昔のことを思い出してしょうがないかという気持ちへと変化していく。これらの息子によって仕掛けられたいたずらが、後半で思わぬ結果へと繋がっていくという展開。
いじめといたずらの境界線の難しさや、いたずらを許容する社会の寛容さなど、現代的なテーマが盛り込まれている。ケラケラと笑いながら、ふと自分の生きている社会と比較してしまう。もし寄席で「悪戯世代」という落語に出会ったら、帰り道で思い出すような作品だと感じた。
どれも面白く、思わず気持ちが前のめりになってしまうような二時間。新しい何かに出会えた後の心地よい疲れ。これが最初になるかもしれないし、これが最後になるかもしれない。どちらにしても、この会場で、この出演者で、このお客さんで体験できるのは一度きり。最高の二時間の使い方だと思った帰り道。
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写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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