渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2020年 7月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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7月12日(日)17:00~19:00 立川談洲 神田鯉栄** 柳家わさび 隅田川馬石

「渋谷らくご」我が道を行く開拓者たち

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プレビュー

 渋谷らくごの心臓 馬石師匠をトリにすえ、黙々とわが道を行く演者たち。談洲さんは古典に創作、いずれもすでに秀でた才を発揮して昇進半年で存在感を発揮する二つ目。ドヤ感なく笑わせてくれる末恐ろしい存在です。
 講談 鯉栄師匠はほかの講談師にない語り口で古典・創作問わず、自分の「語り」の心地よさを追求していらっしゃいます。
 わさび師匠も、定期的に創作ネタをこしらえつつ、古典落語の掘り下げに余念がない。それでいて嫉妬、卑下、拗ねた気持ちなど、マイナスの自分の感情を笑いに変換してくれる愛らしい存在です。
 馬石師匠に飛びかかるのはだれか!? 予定調和に終わらぬ空気さえ漂うメンバーで楽しみです。

▽立川談洲 たてかわ だんす
2017年1月入門、現在4年目、2019年12月二つ目昇進。ヒップホップ基本技能指導資格を取得している。先日、立川笑二さんと階段をつかって東京タワーに登った。

▽神田鯉栄 かんだ りえい
平成13年入門、芸歴18年目、2016年5月真打ち昇進。講談師になる前までは、旅行会社の添乗員をやっていた。ちくわの磯辺揚げが好き。Youtube「鯉栄チャンネル」を開設して動画配信に挑戦している。いまは音声編集ソフトでノイズを消すことに挑戦中。

▽柳家わさび やなぎや わさび
23歳で入門、芸歴16年目、2008年二つ目昇進。2019年9月に真打昇進。痩せ形で現在の体重は52kg。雨の日は長靴に合羽の完全防備。わさび師匠のお母様がたまに渋谷らくごに見にくる。お母様も背が高い。動画生配信中、なぜかカメラが不具合をおこしてしまう。

▽隅田川馬石 すみだがわ ばせき
24歳で入門、芸歴27年目、2007年3月真打昇進。フルマラソンのベストタイムは、4時間を切るほどの速さ。GW明けぐらいから落語をすると汗だくになる。落語が終わったら、汗をぬぐってすぐに帰る。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

立川談洲(たてかわ だんす)-明烏
神田鯉栄(かんだ りえい)-寛永宮本武蔵伝 瓶割試合
柳家わさび(やなぎや わさび)-券売機女房
隅田川馬石(すみだがわ ばせき)-船徳

立川談洲さん「明烏」

  • 立川談洲さん

ヒップホップダンスの指導者の資格を持つという談洲さん。まくらでダンスの動きを上半身で軽々とみせてくれた。そのおかげか、気づくと談洲さんの手の動きに視線が吸い寄せられる。すっぽり顔を覆えそうなほど手が大きくて、指が長い。財布を取り出す、指を差す、タバコを吸う、の一連の手つきが、妙に色っぽく見えた。 タバコのようにやめられない道楽という話題から、遊女と遊ぶ「明烏」の噺に入った。古典を聴く楽しみの一つは、噺家がどんな風に自分なりのアレンジを加えてくるかを聴くことだろう。大筋は変わらなくても、どこかで変化を出してきてくれる。談洲さんの語りで驚いたのが、色事には縁遠い、お堅い息子の時次郎が、AI化したように表現されていたことだ。視線が下方で固定されていて、受け答えに感情がない。お祭りをみてきたというので「楽しかったかい」と尋ねる父親に対して、「人が多くて賑やかでした」といった客観的な情報しか言わず、感情に乏しい。人格的なお硬さが、喋りの硬さにつながっていたところが、とても新鮮だった。 それが吉原で一晩すごした後、太々しいほど人間臭くなっていた時次郎の変貌ぶりと言ったら。昨日の自分と今日の自分は違う、というようなことを言っていたが、これほど変わる人も珍しい。その変わり身の振れ幅の大きさも可笑しく、人間性の作り方がとても新鮮な一席だった。

神田鯉栄先生「寛永宮本武蔵伝 瓶割試合」

  • 神田鯉栄先生

鍋ぶた試合、ってわかりますか?と鯉栄先生に問われて、はてと思う。ざんばら頭の浪人が、囲炉裏端に座る老人に向かって剣を振り下ろす、老人は動じず囲炉裏にかかった鍋の蓋をサッと上げて剣を受ける、と説明されればCMか映画で見たことがあるような、ないような。私の中ではその鍋のふたは木ぶたなのだが、それで真剣は受けられるのか。いずれにしても、ここで「鍋ぶた試合」についてしっかり説明していただいたので、その後の剣術の話にもすんなり入っていくことができた。 宮本武蔵伝の前日譚、と言うことで、武田家家臣であった伊東弥五郎入道、一刀流にして武田家の家臣の物語がその日の噺。その伊東入道が武田家滅亡後に浪人になろうとするところ、徳川家康に剣の腕を請われるも固辞、代わりに弟子を推挙することになり、優れた弟子探しをする、という一席。初めに見つけた小野善鬼と言う優れた若者、一通りの技を教えたのち、心を鍛えさせるために修行の旅に出した。その後にやってきたやはり優れた御子上典膳という弟子、こちらにも一通りの技を教えたのち、心の修行を、今度は入道自身が行った。最後に二人にあるお題を出して戦わせる、という物語なのだが、全編を貫く緊張感が、最後の瓶割(かめわり)の瞬間まで続いた。 緊張感を保つための緩急が絶妙で、御子上典膳の心の修行と称して、師匠伊東入道が理不尽にぽかりと殴りつける場面ではふっと笑わせられ、ああ緊張していたんだな、と気づかされる。しかしすぐに緊張感を取り戻して、人の入った瓶を典膳が斬る最後の場面に進んでいく。 オンラインで視聴していても心地良い緊張感があったから、会場にいたら、さぞかしひたひたと緊張感が高まるのを感じられたに違いない。次回は必ず生で聴きたい一席だった。

柳家わさび師匠「券売機女房」

  • 柳家わさび師匠

わさび師匠の髪型にはいつも大注目。今日もおかっぱかと思っていたら、オールバックで固めていらした。YouTuberとしてデビュー、フォロワー1060人、結構な数だと思うのだが、その数のせいで妬み嫉みの塊となっていたのが、愛らしく可笑しい。落語家もYouTube、Twitter、Instagramを使いこなすデジタル全盛の今、というまくらがあったのち、アナログ感満点の老夫婦が営む街の食堂の物語である「券売機女房」という創作落語に入った。 街の食堂にも、外国人がやってくるし、濃いコミュニケーション(と言っても少し大きな声で注文するくらいだが)を苦手とする若者もやってくる。そこで常連が店を切り盛りする老夫婦に勧めたのが、自動券売機。ちょっと英語も書いておけば誰でも注文できるし、声も出さなくていい。 券売機の需要が本当にあるのかを知るために、老夫婦が考えたのが、お婆さんが中に入って対応する、「音声認識可能な」券売機、もちろん自動ではない。もうそこからしてアナログ感満点なのだが、確かにこれだと融通が効く。おまけしてあげたり、励ましたり、威嚇してみたり。日頃の生活では便利な方に傾きがちなのだけれど、融通が効くと言うか、バッファがあるのはアナログ、というか人間の対応が為せる技。と言いつつ、きっといつかそんなAIも出てくるだろう。こんなことも、もうAIでできるのか、いやまだできないだろう、そのぎりぎりのところをネタにした、2020年の今だからこその噺だった。

隅田川馬石師匠「船徳」

  • 隅田川馬石師匠

まくらもそこそこに、夏の川渡りの噺、「船徳」に入った馬石師匠。船宿に居ついていた若旦那が、格好良さにひかれて興味本位で船頭になる、その若旦那船頭が竿を操る舟に乗ってしまったら、という物語だ。船頭がどこぞの若旦那と知らずに、二人組の客が暑さに負けて舟に乗り込んでしまう。舟を出せと言われて張り切った若旦那船頭、威勢と見栄だけは一人前だが、竿の操作があぶなかっしい。でも馬石師匠の動きを見ていると、竿ってそう言う風に扱うんだな、もやいってそうやって解くんだな、とイメージが膨らむ。もっとも、なんちゃって船頭の動作だから正しくないかもしれないのだが、上半身を最大限に使い、船頭のする動きを丁寧に描いていく馬石師匠の所作に、じっと見入ってしまった。 しかし馬石師匠は、しっかり笑わせてもくれる。居丈高なひと睨みで、すっかり船頭の言うなりになってしまったお客の二人が、早く岸壁を離れられるように石垣を押してやったり、揺れに任せて、そのリズムでタバコに火をつけたり。もうやけくそで、楽しんでしまえ!という乗り手二人の不幸さのおかしさと言ったらない。馬石師匠の舟の揺れの動きで、観ている方もすっかり二人組の客になってしまう。今その場面を思い出して書いていても、自然に体が前後に揺れてしまう、それほど舟の揺れる感覚は画面のこちら側まで伝わってきたが、しかしこれは生で観たかった!!と強く強く思った(画面越しに体を揺らしたのは私だけではないと思う)。アクシデントを笑うしかない二人連れに、観客もなり切れた。その暑いことと言ったら、川下りの優雅な涼しさは微塵もなかった。 オンラインで観ても引き込まれたけれど、やっぱり次回は生で観たい。そう強く思った公演だった。 【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」7/12 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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