渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2020年 8月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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8月16日(日)17:00~19:00 柳家花いち 橘家文蔵 柳亭小痴楽 古今亭文菊

「渋谷らくご」8月の特選会

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プレビュー

 期待の二つ目に、堂々たる看板真打、やんちゃな若手真打、最後に切れ味鋭い妖刀 文菊師匠。
 今月もっとも注目すべき特選会はこの回です。落語会ならではの、想像しなかったような展開になるでしょう。
 なぜならどうなるかまったく想像がつかないからです。これぞ落語、これぞ落語会、という味をこの公演で経験してみてね★

▽柳家花いち やなぎや はないち
1982年9月24日、静岡県出身。2006年入門、2010年二つ目昇進。コンビニで売っている1個21円の「ボノボン」がお気に入りのお菓子。定期的に「ハナスポ」という読み物を執筆している。先日、浜松の佐鳴湖を散歩していたところ、サワガニを発見した。

▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう
24歳で入門、芸歴34年目、2001年真打昇進。「新商品」と書かれたコンビニスイーツを買ってしまう癖がある。ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。最近つくった料理は「タンシチューに牛バラスライスとキノコを入れて生クリームで味付けしたもの」。

▽柳亭小痴楽 りゅうてい こちらく
16歳で入門、芸歴15年目、2009年11月二つ目昇進。2019年9月に真打昇進。本が好き、本のお供には HOPE。沢木耕太郎さんの『深夜特急』を、もう何十回と読んでいる。最近は、葉室麟さんの「羽根藩シリーズ」にはまっている。

▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴18年目、2012年9月真打昇進。私服がおしゃれで、楽屋に入るとまず手を洗う。前座さんからスタッフにまで頭を下げて挨拶をする。まつげが長い。最近ダイエットに挑戦中。大学では漕艇部に所属、熱中していた。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

柳家花いち(やなぎや はないち)-土産話
橘家文蔵(たちばなや ぶんぞう)-転宅
柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく)-崇徳院
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく)-大山詣り

暑いという言葉は禁句にしよう、と思っても、暑い、という言葉が出てくる。梅雨が長引き、7月は特有の爽やかさもなく、今年は春も無かったような気がしているので、いろいろすっ飛ばしてやってきた8月の酷暑だ。新型コロナ感染症の影響下での生活も、なんだかんだ半年が経つ。いつもとは違う暮らしの中で、月に一度、安定して渋谷らくごを観られるのは嬉しい。渋谷らくごは私にとって精神安定剤のような存在になりつつある。

柳家花いちさん「土産話」

  • 柳家花いちさん

川端康成と川口能活とオランウータンとインドネシアの郵便局員を足して4で割ったものってなあんだ。答え、柳家花いちさん。もちろんどれも花いちさんご自身が「似ていると言われたことがある」と言われたものだけれど、どれも少しずつなるほどと思わせられる。若手の二つ目の方々は、よく自分の名前や顔にからめた小話をされるけれど、花いちさんはなかなかどうして、インパクトが強い方ではないか。兄弟子の柳家おさん師匠との逸話を聞くにつれ、この兄弟子にしてこの弟弟子ありと思うほど、二人とも独特の雰囲気をまとっている。独特という以外に説明が難しいので、気になる方はぜひおさん師匠と花いちさん、それぞれの会にお運びいただきたい。
それはともかく、この一席で驚いたことが2つあった。一つは、おさん師匠が百面相を教えてくれたという話で、その物真似がとてもおさん師匠を思わせる真似だったこと。おさん師匠にすごく寄せているとか誇張していて可笑しいというより、花いちさんを通して、おさん師匠が透けて見える、そんな自然な物真似だった。もう一つは、初めて聞いた花いちさんの新作落語。もちろんこれは単に聞いたことがなかった、というだけなのだけれど、今回は「土産話」という噺で、ある団地マダムが、お友達マダムの奇妙なお土産ルールに気付く、という物語。無いわけでは無さそうな張り合い?気遣い?が結構怖い。凝った設定だったのも意外、と言ったら失礼だろうか。花いちさんをいろいろ発見した一席だった。

橘家文蔵師匠「転宅」

  • 橘家文蔵師匠

文蔵師匠の魅力の一つは、食べる仕草、飲む仕草、だと今回見て確信した。以前、五升の酒を飲み干していく「試し酒」の一席でも、今、飲んできましたよね、というか今飲んでますよね?という雰囲気に酔わされた。文蔵師匠のTwitterからは料理好きが伺われて、手がかかりそうな料理も苦なく作っておられる。食べることもお好きなんだろうな、と思って見ていたこともあるのだろう、今回の「転宅」でも、泥棒の食事が美味しそうなことと言ったらなかった。盗みに入った家で泥棒が食べる仕草から、まぐろがどれくらいの厚さの刺身なのか、ぬたのとろみ加減、芋がどんな風に切られているのか、枝豆の塩加減の良さなどまで、観客に感じさせる。そして行儀はちょっと悪いが、泥棒の、美味しいものを食べている時のがっつき具合が最高なのだ。
泥棒はしかしキャラクターとしては間抜けで小心者、対して、相手をするお菊の色っぽさ、可愛らしさ、加えて、泥棒を煙に巻く度胸と機転がめちゃくちゃに魅力的だった。あの男らしい風貌の文蔵師匠から、可愛さも色気も出てくるのだからすごい。食いしん坊で小心者の泥棒と、色気と愛嬌と度胸のあるお妾さん、その対比に魅せられた。

柳亭小痴楽師匠「崇徳院」

  • 柳亭小痴楽師匠

江戸っ子を地で行く小痴楽師匠、今回の演目は「崇徳院」。恋わずらいで余命いくばくもない若旦那も出てくる噺だから、小痴楽師匠がどんな風に演じるのだろうかと不思議に思っていたが、そうだった、主人公は威勢のいい若旦那の幼なじみの熊さんなのだ。弱っているから病床では大きな声を出さないように言われたのに、「病の方が気が大きくなる」とか言って、事前にのどの準備をしてまで大声で若旦那に話しかける小痴楽師匠の熊さんに、待ってました!と声をかけたくなる。
「崇徳院」が始まると、若旦那が初めて会ったお嬢さんとどう見染め合うのかが気になる。というのも、若旦那がお嬢さんから崇徳院の和歌を受け取る方法が、ざっくり分けると、1)お嬢様が手ずからお歌を書き上げて若旦那に渡す、2)近くに結ばれていた短冊がはらりとおち、その落ちた短冊をお嬢様が読んだ後に若旦那に渡す、という2パターンあるからだ。1)は手(筆跡)が美しいのは短冊を見る者の印象には残りそうだけれど、その後思いを秘めて寝込んでしまうお嬢様にしては大胆に過ぎる。一方2)は、手が美しいという印象は残らないけれど、短冊が落ちてきた偶然に運命を感じそうでもあり、また、渡すだけの方が恥じらいがちな若者としてはずっと自然ではある。が、落語の登場人物は得てしてその性格に一貫性はないし、普段とは違うちぐはぐな大胆さにナイーブな若さを感じられなくもない。単にこの噺家さんはどちらのパターンで話すのか、ということを純粋に楽しんでいるのだが、今回の小痴楽師匠は2)の方で、あ、師匠はそちらなのですね、とにんまりしてしまう。
草履を20も腰回りに付けられて、挙句は1日にお湯屋も床屋も数十件回ったのち、お嬢さん方の親方に出会ったときの熊さんの様子といったら。親方の探している相手が若旦那とわかったその瞬間から、親方の襟元をねじりあげるように喧嘩腰なのが小痴楽師匠らしい。落ちに向けても、熊さんの血の気の多さがにじみ出る、江戸っ子小痴楽師匠の「崇徳院」だった。

古今亭文菊師匠「大山詣り」

  • 古今亭文菊師匠

文菊師匠は、爽やかな夏山のように鮮やかながらも落ち着いた色調の緑色の羽織と、それに合うごく薄い草色の着物で登場された(文菊師匠に着物の色の教えを乞いたい)。そして、今日も見事な坊主でいらっしゃるなぁ、と見ほれた。もちろんいつも文菊師匠の姿は美しいのだけれど、この日は本当に光り照るように青々とした坊主頭でいらした。
と思っていると、この日は夏山と坊主にまつわる一席で、長屋連中が路銀を集めて年に一度、夏の大山に詣でる「大山詣り」という噺。師匠が丁寧に説明してくださったが、大山詣りというのは、都内からだと三軒茶屋から二子玉川で川を渡り、伊勢原を通って大山へお参りするというのが一般的なルートだったという。帰りは帰りで別ルートで、藤沢を通って帰ってくる、お参りにかこつけた楽しい旅行だったようだ。寡聞にして知らなかったが、大山は今でも参拝客が多いとのこと。
噺の主人公は、やはり江戸っ子連中で、血の気の多い熊さん(再び!)。彼の喧嘩っぱやさに辟易した旅のリーダー役の先導が、旅につれて行くなら、ルールを作ろう、腹を立てたら二文、手をあげたら坊主にする、という約束を熊さんとして、仲間たちと旅に出かける。今回は喧嘩もなく、明日には江戸に着くという日になって、ついに仲間うちから、熊公に手をあげられた、という文句が出る。先導は諫めたものの、熊さんに殴られておさまらない二人が、酔った熊さんが寝ている間にその頭を勝手に剃ってしまう。坊主にされた挙句、置いてきぼりをくったことに気づいた熊さんが、仲間たちに仕返しをするという、面白いが、よく聴くとなかなかに陰険な話でもある。しかし、寝ている熊さんを坊主にすべく、頭に剃刀を当てる仕草などは、可笑しいやら、また、日頃から剃刀を使い慣れていそうな滑らかな手の動きも見えて、思わず見入ってしまった。
ところでこの噺の熊さん、単に喧嘩っ早くて見栄っ張りな江戸っ子ではなくて、頭の回転もめちゃくちゃ早い。度胸もいいから、坊主にされて、はめられたと気付いてからの、仕返しの中身もかなりのものだ。おっとりとして見える文菊師匠が、いきりたち、腹に怒りをため、あるいは見栄を切る、表情の変化の激しい江戸っ子を演じていくと凄みがある。その合間に女房連中も演じていくのだ。美しい色調の羽織から、坊主頭から、登場人物の多い噺まで、文菊師匠の完璧な世界にすっかり取り込まれた。今頃は師匠の着物の色よりも濃い緑に包まれているだろう大山にまで行ってみたくなった。コロナ禍をやり過ごしたらきっと行こう。

【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」8/16 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
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