渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2020年 8月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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8月18日(火)20:00~22:00 入舟辰乃助 桂三四郎 春風亭昇也 林家彦いち 柳家小ゑん「長い夜・改Ⅱ」

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」 小ゑん師匠登場!

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プレビュー

◎プロデューサー 林家彦いち 
 偶数月、最終公演に林家彦いちプロデューサーが開催している創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。
 所属団体・キャリア・落語観すべての垣根を取り払い、今月もコスパの悪い創作ネタおろしに4名がチャレンジ。
 未来の古典はここで生まれる!
 レジェンド枠には、芸歴45年、まさに創作らくごのレジェンド 小ゑん師匠が遂に登場、「長い夜・改Ⅱ」を披露してくださいます!
 って、あれ!? ネタおろしは二つ目4名かと思ったら、二つ目3名に、なぜか彦いち師匠がノミネート!?

▽入舟辰乃助 いりふね たつのすけ
2012年27歳で入船亭扇辰師匠に入門、芸歴8年目、2017年二つ目昇進。先日、JFNパーク「落語の家」にてエヴァンゲリオンと落語の共通点の考察を語った。

▽桂三四郎 かつら さんしろう
22歳で入門、芸歴16年目。疲れた日はサウナに入ってリフレッシュする。落語家さんには人見知りしないが、漫才師さんには人見知りをしてしまう。 先日Showroomにて「Dead by Daylight」のゲーム実況を配信した。先日、効く足つぼマッサージを見つけた。

▽春風亭昇也 しゅんぷうてい しょうや
2008年に入門、芸歴13年目。2013年二つ目昇進。ドラマ「親バカ青春白書」にて落語指導を行なった。先日スマホとタブレットを新しいものにしたところ、LINEの引き継ぎに手間取った。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。先日はアウトドアメーカーのモンベルの社長とトークライブを行なった。

▽柳家小ゑん やなぎや こえん
1975年に入門、芸歴46年目、1985年9月真打昇進。ツイッターでは、「#新作落語」ということで、新作落語についての考察を行なっている。天体観測が好きで小惑星を発見した、発見した小惑星は「koen」と名付けられた。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

2020.8.18(火)20-22「しゃべっちゃいなよ」
入舟辰乃助(いりふね たつのすけ)-ラップの神様
桂三四郎(かつら さんしろう)-それがゴルフや
春風亭昇也(しゅんぷうてい しょうや)-うらめしや松次郎
林家彦いち(はやしや ひこいち)-口を閉じれば
柳家小ゑん(やなぎや こえん)-長い夜・改Ⅱ


今月から、彦いち師匠セレクトによる創作落語のレジェンドが最後に登場。芸歴45年の小ゑん師匠が「長い夜・改Ⅱ」を披露してくれました。彦いち師匠も言っていましたが、2006年に円丈師匠と小ゑん師匠が「無限落語」を立ち上げたあたりから、師匠の落語と時代がぴったり合うようになりました。今では寄席に欠かせないプレーヤーとして引っ張りだこで、いつも楽しい創作落語を聞かせてくれます。今回の「長い夜・改Ⅱ」は寄席では、トリの時くらいしか聞けないロングバージョン。大満足の一席でした。

入舟辰乃助-ラップの神様

  • 入舟辰乃助さん

「しゃべっちゃいなよ」初登場の辰乃助さん。以前寄席で何度か聞いた「マオカラー」というネタが強烈で、今回の挑戦を楽しみにしていました。マオカラーはある古典落語の改作話ですが、マオカラーという言葉を選ぶセンスや、キャラクターの描き方などオリジナリティにあふれていて、元ネタなどどうでもよくなるくらい楽しい創作落語でした。
今作の「ラップの神様」もある古典落語の改作なのですが、高校時代にラップにはまり、ジブラやエミネムを聞きまくったという辰乃助さんの趣味を活かした爆笑落語に仕上がっていて、ただただ純粋に楽しむことができました。
全国を放浪するラッパーが、末広亭の前でラップを歌っていると、それに感動した席亭から鳥貴族に誘われる。いい感じに酔ってウトウトしているうちに頭痛が襲ってきて、いつの間にか異世界の砂浜へ。そこで出会ったラップ好きのおじいさんに、自慢のラップを披露すると……。というお話です。
趣味というだけあって、ラップのリリック(歌詞)やライム(韻)の踏み方が本格的。会場にいたお客さんは50人弱ながら、一体になって盛り上がっていたのが印象的でした。辰乃助さんに心を全部持って行かれる状態で、落語を通してラップが疑似体験できる貴重な一席でした。どんなラップだったのか。辰乃助さんを追いかけていればいつか聞けるかもしれません。

桂三四郎-それがゴルフや

  • 桂三四郎さん

新型コロナのステイホーム期間中、YouTubeにオリジナル創作落語の作戦会議と本編をアップしていた三四郎さん。不思議な作品ばかりで、新しい一面を見ることができました(特に「長い空白」は強烈)。1年ぶりのしゃべっちゃいなよは、三四郎さんが今年に入ってはまったというゴルフの話。初心者がゴルフの沼に落ちていく姿は、ステイホーム期間中に「愛の不時着」に沼落ちしていくOLさんとそっくりです。
本編もゴルフ初心者の体験が詰まった笑いたっぷりの落語です。接待ゴルフに行くことになった新人の谷本クン。先輩から「ゴルフとは自分より下手なやつを探すことだ」といきなり洗礼を受けます。初心者の谷本クンに対してマウントを取り続ける先輩の、唯一の気がかりは当日の天気。雨が降ったら接待も台無しだからと谷本クンに「天気保証会社」に行けと命じます。谷本クンがそこで見た景色は、何とも不思議なものだった……。というお話です。
後説でタツオさんも言っていましたが、ゴルフと話と天気の話。どちらも1本の落語になるくらい完成度が高く、2人の掛け合いでギャグを短いテンポで畳みかける三四郎さんの本領が発揮されていました。「晴れ男」の60人派遣でピーカン、「雨男」の60人派遣で豪雨。配分は天気師の腕次第。そんなアホな、と思いながら、何となく納得してしまう、天気が大好きな日本人のDNAもくすぐってくれる一席でした。

春風亭昇也-うらめしや松次郎

  • 春風亭昇也さん

「しゃべっちゃいなよ」の時しか落語を作らないという昇也さん。2016年10月以来、約4年ぶりの登場です。昇也さんは怪談噺でなく、「怪談」が好きなんだそうで、怪談の特徴や構造を紐解く分析がめちゃくちゃマニアック。稲川淳二の語りのコピーが激似で感激してしまいました。これだけ聞いていても十分楽しい。
本編は、ある夜、薄暗い道を歩いていた豆腐屋の松次郎。柳の木の下に差し掛かると若い男の幽霊が突然現れ「うらめしや~」と迫られる。あまりの怖さに腰を抜かす松次郎だが、幽霊から事情を聞くと結婚を約束した彼女に振られて死んだとのこと。松次郎は若い男の幽霊にあるアドバイスを送ると、その幽霊に変化が現れて……。というお話です。
後説で彦いち師匠とタツオさんも言っていましたが、つかみのファーストシーンのインパクトはまさしく昇太流。何だ、何だ、何があったんだ、どうなるんだと心を一気につかまれます。そこから先は昇也さんが磨いてきた古典のテクニックが存分に発揮されます。「化け物使い」を彷彿させる松次郎と幽霊の形勢逆転の面白さ。加えて、予想を覆すラストシーン。いい落語を聞いたな~と思わせてくれる、後味のよい作品でした。

林家彦いち-口を閉じれば

  • 林家彦いち師匠

6月末で終わったラジオ「久米宏 ラジオなんですけど」での「彦いち噺」や、「しゃべっちゃいなよ」での高座を通して、その時代の空気を創作落語で形にしてきた彦いち師匠。そのフットワークは今作でも十分に活かされていて、 Withコロナ/Afterコロナのニューノーマルの時代をいち早く描いてくれました。
物語の舞台は、コロナ禍でありながら、マスクが無い架空の世界。マスクの代わりに飛沫を防ぐさまざまな「手段」が登場します。彼女の家にあいさつに行くことになったタカシクン。彼女の家に着くと、お父さん、お母さん、妊娠中のお姉さんが迎えてくれる。それぞれが独自の飛沫防止対策を立てる中、タカシクンは無事にあいさつすることができるのか……。というお話です。
正直な感想は「こんな話をよく作ったな~」と「飛沫防止対策のアイデアだけでこんなにできるんだ」という驚きです。どんな状況でも面白くしてしまう彦いち師匠らしい落語でした。

柳家小ゑん-長い夜・改Ⅱ

  • 柳家小ゑんさん

小ゑん師匠のCDジャケットによると、この落語は1984年(昭和59年)にネタおろしされ、時代に合わせて改良を加えながら現在の形になったとか。話の生まれた時代や小ゑん師匠が生きてきた時代が間違いなく反映されている作品です。
創作落語には擬人化という手法があり、「おでんがしゃべり出す落語なんてろくなもんじゃねえ」というネタふりから、「大地」と「大空」がしゃべり出す究極の擬人化落語が始まります。下界の心配をする大地と大空を尻目に、高田馬場では女子大生がスタバでキャピキャピ、新橋では課長と新任係長が笑笑でパワハラ飲み、北千住では昭和の親子がデニーズで慣れない洋食を注文と、庶民のささやかな日常が描かれていきます。
地上の人々の小さな営みは、懐かしさを感じながらもどこか現在の世界ともつながっていて、聞く人によってさまざまな景色が脳裏に浮かんでくるはずです。ハイライトは渋谷センター街で繰り広げられる大学生のラップバトル。1番手で登場した辰乃助さんと奇跡のコラボが実現しました。サーファーを気取った3年生が、波乗りのラップをノリノリで披露。辰乃助さんの本格的なソレとは違って、デフォルメした嘘っぽいリリックが耳から離れません。
約30分にわたって描いた壮大な神話の世界。小ゑん師匠の知的センスが詰まったこの作品に出会えたこの日のお客さんは幸福だったに違いありません。
【この日のお客様の感想】
「しゃべっちゃいなよ」8/18 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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