渋谷らくごプレビュー&レビュー
2021年 2月12日(金)~16日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
昨年末に決定した渋谷らくご各賞受賞者。そこに文蔵師匠(本人曰く「賞罰の会ならわかる」)が加わって、若手が胸を借ります。
このコロナ禍にあって、毎高座で古典落語の新しい魅力に気付かせてくれる笑二さん、講談界のニュースターいちかさん、創作で大賞を射止めた昇々さんと、元気はつらつな高座が続きます。これは見逃しちゃダメ、絶対。
▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。2021年5月、真打昇進が決定。「2020年渋谷らくご創作大賞」受賞。毎朝とにかく走り続けることを習慣にしている。17LIVEで朗読の配信をはじめた、初回のテーマは「溺れ読み」。
▽田辺いちか たなべ いちか
2014年に入門、芸歴7年目、2019年3月に二つ目昇進。2020年渋谷らくご「楽しみな二つ目賞」受賞。小学生の時に司馬遼太郎の『国盗り物語』を読んで、歴女になった。大学時代に卒業論文を書いている途中に研究者に向いていないと思い、突然中国に向かい、日本語教師になった。
▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう
24歳で入門、芸歴35年目、2001年真打昇進。ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。最近つくった料理は「ベーコンとナスのトマトスパゲッティ」、にんにくがたっぷり入っている。10代のころ喫茶店でアルバイトしていた。
▽立川笑二 たてかわ しょうじ
20歳で入門、芸歴10年目、2014年6月に二つ目昇進。「2020年渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」受賞。昨年は1日50キロ自転車を漕いでダイエットに成功した。「CLUB JT」という喫煙所を探せる位置情報サービスに感動している。
レビュー
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)-誰にでも青春〜番外編〜
田辺いちか(たなべ いちか)-湯水の行水
橘家文蔵(たちばなや ぶんぞう)-道灌
立川笑二(たてかわ しょうじ)-景清
久しぶりにユーロスペースでの観覧に、オンラインとは違う、待つ時間に豊かさを感じた。
春風亭昇々さん 「誰にでも青春」〜番外編〜
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春風亭昇々さん
間も無く真打に昇進する昇々さん、後輩の二つ目くんに手伝ってもらいながら、17LIVEで朗読を配信しているらしい。その後輩二つ目くんの、行動の早さを褒めつつ、彼が嫌味を言ってくる、と嘆いておられる。とはいえ昇々さんが彼のことを気に入っていることは、なんとなく感じるのだ。17LIVEで朗読を披露する昇々さんを、「朗読じゃなくて音読ですよ!」と的確に突っ込んだというその二つ目さんの心はわからない、そう。人の心はわからない、というところから甘酸っぱくもひりひりする青春な一作に突入した。
サッカー部のマネージャーあだちさんに恋する高校3年生、しばたくん。放課後、隣のクラスのあだちさんの席に座り、あだちさんにキスしたーい」とか言いながら机を撫で回したり、サッカー部のマネージャーを務める彼女の活躍を眺めている。もうだいぶ、外から見るとなかなかな気持ちの悪さなのだが、その自意識過剰さと、内面の葛藤が、きっちり言語化されていて気持ちがいい。昇々さんの本名は「しばた」じゃなかったかしらと思いながら、「あだちさんにキスしたーい」、というのを聞いていると、いやもう、そこまで好きならがんばれ!と応援したくなるから不思議だ。最後は清々しく告白して、あだちさんに恋する4年目に突入した、しばたくんの恋がいつか実りますように!
田辺いちかさん 「湯水の行水」
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田辺いちかさん
そのいちかさん、最初のまくらも温かい。「講談は笑わせない、でも笑わせてみたい、そんな葛藤を抱えながらやっております」、というのを聞いて、そうなんだ!、と思う。講談を聞いていて、ここ笑っちゃだめなのかな、と思うタイミングがあるけれど、笑っていいのですね。 そんな安心感も加わりながら始まったのが、本編「湯水の行水」。徳川家に仕える鳥居と成瀬という家臣、なぜか仲が悪い上に隣家同士、一方が(真冬の庭で)行水を始めたところから、果ては褌一丁の真剣勝負、そこに通りかかった別の侍に笑われ諌められて、一度矛を治める二人。この場面まではくだらない意地の張り合いなのだが、その後は一転、本当のいくさの場、武田軍との戦いの場に変わっていく。
ちょっとばかばかしい日常の光景(真剣勝負ですが)から、戦場の場面へと切り替えていく、その緊張感の高め方が絶妙だ。講談師の扇子(張扇)はこのためにあるのだなぁと思われるほど、いちかさんは小気味よくバシンバシンとリズムをとり、少しずつ緊張感を高めていく。観客の方は、その音と語りのリズムで、脳内イメージを一軒家の庭から、朝靄煙る、あるいは土煙舞う戦場へと違和感なく切り替えていけるのだ。
なんだこのカタルシス、と思っているうちに、一席終了。またぜひ次が聞きたい、いちかさんの一席だった。
橘家文蔵師匠 「道灌」
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橘家文蔵師匠
若手受賞者の会で、この組長がもたらしてくれる安定感、安心感が半端ない。今日は笑二さんが長いのをやるんで軽いのを一つと言って始めた「道灌」、この軽いくだらなさが心地いい。今日も頼りにしていますと思いながら、ご隠居さんと長屋住まいの男の軽妙なやりとりをふわふわと楽しんでいたら、なんと10分も早く終わられてしまった師匠。あのぅ師匠!次回は、恥じらわずに(?)たっぷりお願いします!
立川笑二さん 「景清」
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立川笑二さん
その本編「景清」、ある時から目が見えなくなってしまった木彫師の定次郎、目がよくなるよう赤坂の日朝様に願掛けをするも、満願前日一心に祈祷するなか、深夜にふと隣にきた女性の色仕掛けにあって慢心してしまい、ますます目が悪くなってしまった。日朝様に悪態をついた挙句、お賽銭までとって帰ってきたとのこと。そんな癇癪を起こしてはダメだと石田の旦那に諭されて、今度は100日、ダメだったら200、300日、上野の観音様にお参りするように言われる。そして通った100日目のその日、定次郎は見送る母親の期待もひしひしと感じてお参りするも、一向に目が開かない。今度はその観音様を罵倒し始める定次郎を、密かについてきていた石田の旦那が定次郎を諫めていく。
目が見えなくなった定次郎の人間らしさが際立つ。目が見えなくなった当座は心底嬉しかった、彫り物を悪く言われなくて済む、でもそこから数ヶ月たち、やはり彫りたくなって道具を持った時の絶望感といったら。よっぴいて内職をしていて咳が止まらなくなってしまった母親、なけなしの賽銭を持たせてくれた母親に、目が開かずに帰ったのでは合わせる顔がない。諭す石田の旦那に生きていたくないという定次郎の様子は、どうやっても生きたいと言っているようにしか見えない。怒りも悲しみにも血が通っている。生きるっておっそろしくエネルギーがいることなのだ。
最後、定次郎が雨と雷に打たれて倒れていたところ、夜になって起き上がる石畳の通りの光景は、なんだかゴッホの夜のカフェテラスの絵のように、石畳がきらきら輝く場面を思い描いた。
と他人がいくら書いても足りないので、笑二さんが描く生々しい人間を感じるべく、ぜひ、お運びいただきたい。
写真:渋谷らくごスタッフ
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