渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2021年 2月12日(金)~16日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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2月16日(火)20:00~22:00 三遊亭青森 立川談洲 柳家花いち 笑福亭羽光 林家彦いち

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」:2021年度第1回

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プレビュー

◎生配信のみ(観覧スタッフあり)

隔月で開催している、林家彦いち師匠プロデュースの創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。今回は2021年度の第1回です。
創作のネタおろしは、各演者さんにとっては自分の会や勉強会で披露するとっておきのカードのはずなので、こういった他流試合でネタおろししていただくことは、大変ストレスがかかることです。ですが、だからこそ、痺れる体験を一緒にしませんか?
宇宙初公開の、生まれたての落語、一緒に創る落語、ぜひ見届けてください。
 20時以降の公演ですので、観覧スタッフを入れてお送りします。おそらく、リアクションのある配信をお楽しみいただきます。配信でご覧のお客様もいらっしゃるということがどれだけ演者さんの励みになるかわかりません。どうぞお試しあれ!
 今回は、彦いちPもネタおろしです!

▽三遊亭青森 さんゆうてい あおもり
23歳で入門、現在入門7年目、2019年2月二つ目昇進。非常に独特な空気感があるウェブサイトを持っている。最近はスラムダンクを見直している。YouTubeにて「三遊亭青森ゲームチャンネル」を配信中、「Subnautica」をプレーしている。

▽立川談洲 たてかわ だんす
2017年1月入門、現在4年目、2019年12月二つ目昇進。ヒップホップ基本技能指導資格を取得している。先日、「相席スタート」の山崎ケイさんとの結婚を発表された。先日公式ウェブサイトが完成した。タバコをすうおばあちゃんにグッとくる。

▽柳家花いち やなぎや はないち
1982年9月24日、静岡県出身。2006年入門、2010年二つ目昇進。コンビニで売っている1個21円の「ボノボン」がお気に入りのお菓子。定期的に「ハナスポ」という読み物を執筆している。先日、「昔なつかし アイスクリン」というアイスを食べて感動した。

▽笑福亭羽光 しょうふくてい うこう
34歳で入門、芸歴14年目。2011年5月二つ目昇進。2021年5月真打昇進決定。「2018年創作大賞」受賞者。眼鏡を何種類も持っている。最近はフチが白い眼鏡をかけている。真打に向けての心構えを考えている。2020年NHK新人落語大賞で優勝をした。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。アウトドアではできるだけコーヒー豆を持って行って、コーヒーを飲む時間を楽しむ。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

「渋谷らくご」2021年2月公演
▼2月16日 20:00~22:00
「しゃべっちゃいなよ」
三遊亭青森-森羅万象クイズ王決定戦
立川談洲-そのおんな
柳家花いち-いただ気
笑福亭羽光-落語病棟
林家彦いち-アンダーザヘルツ

緊急事態宣言の延長に伴い、スタッフ観覧のみで開催された2021年2月の「しゃべっちゃいなよ」。創作落語のネタおろしほど、無観客でやりづらいものはありません。演者さんが面白いことを言ったと思っても、反応がなければその効果がわかりませんからね。観覧スタッフさんのおかげで、最悪の事態を避けることができて、本当に良かったです。

三遊亭青森-森羅万象クイズ王決定戦

  • 三遊亭青森さん

3度目の「しゃべっちゃいなよ」参戦となる青森さんですが、初登場の「天才回答少女愛ちゃん」が強烈で、今もまだ脳裏にこびりついています。今回はその「愛ちゃん」と同じく、事前録音の音声と掛け合いながら進む形でしたが、出落ち感の強かった「愛ちゃん」と比べて、ネタも演出もパワーアップしていて、青森さんのワールドに引き込まれました。
クイズ時代のクイズ王を決める「森羅万象クイズ王決定戦」への挑戦を決めたタケザワコウキ。複雑で面倒な事務手続きを突破して、ついに決勝戦へ。待ち受けるはクイズ王のタカフジリュウドウ。50点先取で優勝の、戦いの火ぶたが切られた。ヘンテコな問題に惑わされ、0対49まで追い詰められたタケザワ。ラストチャンスで逆転はできるのか……。という話です。
完全暗転から明転し、見台の前にいるのはタケザワのみ。1人芝居のように、音声で聞こえてくる問題出題者と会話をしたり、タカフジの解答を聞いたりしながら、クイズ大会は進行していきます。すごいのは、事前の作り込みにかなりの手間がかかっていること。SE(音響効果)づくりもすべて青森さん。問題出題者やタカフジの声色もすべて変えていて、キャラ付けもばっちり。舞台の演出プランも青森さんで、暗転を多用しながら、クイズ王決定戦の時間経過を操っていく。シブラクの音声・照明スタッフさんとの息もぴったり合っていて、落語じゃないものを見た感じです。
クイズ大会は劇的で、演出も本格的なのに、中身はほとんどなくて、途中で青森さんが昔組んでいたバンドという「チョコプラーズ」のイントロを紹介したり、その歌を歌ったりと、やりたい放題。コロナ禍の閉塞感を忘れさせてくれる、とんでもなくばかばかしい創作落語でした。
完全暗転ができるのもユーロスペースが映画館だからですが、配信で見ていた人は画面が真っ黒だから、驚いたでしょうね。会場で見た私も、完全暗転のためメモがよく取れず、固有名詞が間違っていたら、ごめんなさい。

立川談洲-そのおんな

  • 立川談洲さん

昨年も2月に「やおよろず」を披露してそのまま年末の決勝戦まで駆け上がった談洲さん。今回もクオリティの高い創作落語を見せてくれました。
とあるお店でアルバイトとして働くリンコは、14歳までハワイで育った20歳の帰国子女。常にオープンで、性格もはっきりしていて、ポジティブ。店長にも常にため口のため「ため口やめようか」と注意を受けている。あまりの浮世離れぶりに店長が「日本のなぞなぞ知っている?」と尋ねると「知らない」と答えるリンコ。「じゃあ、パンはパンでも食べられないパンはなーんだ」と問題を出すと、とんでもない解答を連発。「絶対答える」と意地になるリンコだが、正解にたどり着くことはできるのか……。という話です。
古典落語でも人物の演じ分けがうまくて、とりわけ女性の演じ方が超絶的にうまい談洲さんだけに、リンコのキャラが際だっています。表面を追うだけならイライラするだけの女にも見えますが、談洲さんがやるリンコには品があって色気もある。挙動不審の不思議ちゃんでもない独特の人物像を創りだしていました。
ストーリーは基本、「パンはパンでも…」のなぞなぞでを引っ張るのですが、ボケの種類も多彩で飽きません。ちょいちょい挟まる店長の「ため口やめようか」のツッコミも的確でテンポもいい。緩急自在で、この2人の会話ならずっと聞いていても飽きないだろうなあ、という心地いい落語でした。

柳家花いち-いただ気

  • 柳家花いちさん

今年の9月に真打ち昇進が決まっている花いちさん。その勢いもあって、最近はレベルの高いユニークな創作落語を連発し、ネタおろしのペースも半端でありません。そんな中、今回は、アットホームでありながら、ブラック色も出た、花いちさんらしいネタを見せてくれました。 77歳の喜寿を迎えるユリばあちゃん。喜寿を祝って、孫のマサミがスーパーで買った外国産うなぎを手土産に持ってきてくれるが、「気持ちだけいただく」といって受け取ろうとしない。なぜなら、ユリばあちゃんはすでに敬老会で浜松産のうなぎを食べてきたから「舌をダウンロードしたくない」のだ(たぶんダウングレードの意味)。マサミがどれだけおばあちゃんのことを思っているかを訴えても「気持ちだけいただく」というユリばあちゃん。がっくりしたマサミが、3年前に亡くなったおじいさんの仏壇に外国産うなぎを供えようとすると、そこにおじいさんの霊が現れて……。という話です。
おばあちゃんと孫の会話の中に、うなぎをめぐる緊張感と、攻防があって非常にスリリングです。「善意を受け取って欲しい」という孫の身勝手な思いと、「舌を汚すから、まずいものは食いたくない」という老人の頑固さ。どちらの気持ちも間違いではないだけに、価値観を揺さぶられ続けた時間でした。本当に「気持ち」って難しいですよね。

笑福亭羽光-落語病棟

  • 笑福亭羽光さん

2018年に「ペラペラ王国」で創作大賞受賞して自信を深め、昨年NHK新人落語大賞して一気にブレイクを果たした羽光さん。最近の高座からは自信と風格がみなぎっていて、真打昇進直前の勢いを感じます。
創作大賞の受賞以降は、理想とする落語を追い求めてSF風味の落語をかける機会が増えていて、今回も昨年1月の「幻の落語」に続き、落語とSF・ミステリーを融合した意欲作を披露してくれました。世の中の不確かさをテーマとし、夢野久作の「ドグラ・マグラ」と黒沢清監督の映画「回路」から着想を得たそうです。
物語は、1人の落語家(羽光さん)が入院しているところに、高校時代の友人・田中がお見舞いに来るところから始まります。目の前の現実に応じて、「一人酒盛」、「饅頭怖い」などの関連する落語が口から出てきてしまう正体不明の病気に侵されている落語家。自分が現実世界に居るのか、落語世界にいるのか境目がわからない。正体はストレスらしいのだが、その原因が落語ユニットでのしょぼいポジションなのか、真打ち昇進を後輩に抜かれたからなのか、家庭生活なのか。現実世界から目を背け、落語世界に埋没していく落語家に、田中は「現実を見ろ」と呼びかける。それでも「落語世界に行けば、見えないものも見えるようになる」と落語家が言っていると、ある「モノ」が現れて……。という話です。
役者さんが演じている役に侵されていくこともあるというインタビューなんかも読むと、身体が落語に侵されていくという設定もあながち空想だけではなさそうです。考えてみれば一般人の我々でも、映画や演劇を見ている時はその世界に自分の体が侵されているような感覚になるもので、しばらくは「余韻」という形で抜け出せなくなることもある。自分が何者かという問いかけは、人間なら常に誰でも問いかけられているだけに、聞き手側も妄想を掻き立てられるテーマ性の強い作品でした。
現実世界と落語世界を行ったり来たりする切り替えは、拍子木を使って場面転換する上方落語の特性なのか、とてもスムーズでまったく違和感がありません。羽光さんのテクニックもあり、「一人酒盛」「饅頭怖い」「芝浜」が自然と頭に流れてきました。

林家彦いち-アンダーザヘルツ

  • 林家彦いち師匠

タツオさんとの前説で話題になった「無観客寄席」からちょうど1年。「もしもの世界」を描いたあの作品から1年後、こんな状況になっているとは思いませんでした。常に一歩も二歩も先を読む彦いち師匠が、コロナ禍の現在に選んだ新たな題材は、超・超・超変異型コロナウイルスによる新たな疫病でした。着想はスティーヴン・キング「アンダー・ザ・ドーム」を原作とした海外ドラマだそうです。ある日突然、街が目に見えない巨大ドームに覆われてしまったらというミステリーから、どんな落語が生まれたのか。
新型コロナから2年後、今度は音を介して耳から移る新新コロナが発生する。外出時はヘッドホン(アベノミミアテ)が必須。普段から聞いている音「アンダーザヘルツ」以外を聞くと感染してしまう。そのため、コーヒーショップで働く山ちゃんは昭和歌謡、ユカちゃんはあいみょん、クニモトちゃんは浪曲だけしか聞くことができない状態に。1年後には「ジェネリック」の登場で新新コロナは終息するが、今度は○○で感染する新新新コロナがやってくる……。という話です。
とにかくその場や、出番直前に思い付いたギャグやフレーズを、取捨選択しながらバンバンぶち込んでくるのが、ネタおろしの時の彦いち師匠。いちいち挙げていたらキリがありませんが、オカッパル、ライオンキング、長渕、小三治、虎造、マッドマックス、永六輔等々、ディテール満載。こんな状況だけど、明るい未来に期待を抱かせてくれる楽しい創作落語でした。

終演後のアフタートークには、第1回創作大賞の立川志ら乃師匠もゲストで登場。今回の彦いち師匠のネタづくりについて質問し、その裏側を掘り下げてくれました。彦いち師匠からは志ら乃師匠にしゃべっちゃいなよ出演の公開オファーがあり、志ら乃師匠も快諾。また新たな楽しみが増えました。



写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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