渋谷らくごプレビュー&レビュー
2021年 8月13日(金)~18日(水)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
この公演は、キャリアも芸風もまったくちがう演者さんが揃った公演です。しかし、他にない、不思議な魅力が詰まった演者さんたちという点で共通しています。
最後に登場する兼好師匠、出てきただけで観客がニコニコしてしまう明るさと華のある師匠です。気づけばこの師匠の繰り出す一言一言に身体を動かされているのです。なにを考えているのかわからない、とんでもない角度から笑わせてくる談吉さん。ヴィンテージの語り口を頑なに磨き続け、余分なもの一切を排除して落語の世界に誘う扇里師匠。一瞬でハートを鷲掴みにする怪しさのある百栄師匠。落語は演者なのだということを強く感じていただける公演だと思います。
この公演は、キャリアも芸風もまったくちがう演者さんが揃った公演です。しかし、他にない、不思議な魅力が詰まった演者さんたちという点で共通しています。
最後に登場する兼好師匠、出てきただけで観客がニコニコしてしまう明るさと華のある師匠です。気づけばこの師匠の繰り出す一言一言に身体を動かされているのです。なにを考えているのかわからない、とんでもない角度から笑わせてくる談吉さん。ヴィンテージの語り口を頑なに磨き続け、余分なもの一切を排除して落語の世界に誘う扇里師匠。一瞬でハートを鷲掴みにする怪しさのある百栄師匠。落語は演者なのだということを強く感じていただける公演だと思います。
▽立川談吉 たてかわ だんきち
26歳で入門、芸歴13年目、2011年6月二つ目昇進。iPhoneの待受が「いくら」。毎日ラーメンを食べている、YouTubeでラーメンの動画を見てしまう。最近卵に興味を持っている。卵かけごはんより、目玉焼きごはん派。
▽入船亭扇里 いりふねてい せんり
19歳で入門、芸歴25年目、2010年真打ち昇進。食べられない時期は競馬で稼いでいた。熱狂的なベイスターズファン。観戦しているときはツイッターで荒ぶっている。ストレスが高まったときは、高野フルーツパーラーのパフェを食べる。
▽春風亭百栄 しゅんぷうてい ももえ
年を取らない妖精のような存在。さくらももことおなじ静岡県清水市(現・静岡市)出身、2008年9月真打ち昇進。
落語協会の野球チームでは、名ピッチャー。アメリカで寿司職人のバイトをしていた。日常生活の様子はわからないが、猫好き。
▽三遊亭兼好 さんゆうてい けんこう
27歳で入門、現在芸歴21年目、2008年9月真打昇進。イラストが得意で、毎日ツイッターに「兼好のお絵かき」という絵日記をアップしている。先日能楽堂でお能の発表会が開かれ仕舞を披露した、落語以上に緊張してしまった。
レビュー
立川談吉(たてかわ だんきち)-穴泥
入船亭扇里(いりふねてい せんり)-藁人形
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ)-おつとめ
三遊亭兼好(さんゆうてい けんこう)-千両みかん
立川談吉さん「穴泥」
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立川談吉さん
談吉さんの最初の師匠、立川談志師匠のエピソードがいつも面白い。今回は談志師匠と、仲のよかった橘家圓蔵師匠との、お互い色紙を書かせて破りあう、という話。当時はまくらになるなんて考えもしなかった出来事だろうが、当代の人気落語家を知っている者にとってはもちろん、知らない者にとってもくすりと笑わせてくれ、さらにその時代を思わせてくれる素敵なエピソードだった。
その思い出の圓蔵師匠の得意ネタで一席、ただし、圓蔵師匠に習ったわけではないですけれど、と始まったのが「穴泥」という一席。
談吉さんは古典も新作落語も演じられるが、新作落語はその独特のセンスに度肝を抜かれる(2019年の渋谷らくご創作大賞をとった「生物干物」など)。そのセンスがちょくちょく古典でも垣間見えて面白い。穴に落ちた男を、泥棒と思って捕えにくる男の名前が「ふんころがしお」、なぜここでふんころがしなのか、そしてこの「ふんころがしお」は背中に音楽の父バッハの肖像を彫っているという。両という貨幣単位の時代にバッハを知る男が日本に普通にいたのかと考えるのは野暮、その場その場のありえないくだらなさを笑うのが落語なんだった、と教えてくれる談吉さんの一席だった。
入船亭扇里師匠「藁人形」
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入船亭扇里師匠
訳あって女郎になった糠屋の娘お熊、そのお熊の両親の位牌に念仏をあげる、年老いたにわか坊主の西念との、ホロリとさせる人情噺かと思いきや、お熊が西念のなけなしのお金をくすめとったところから雲行きがぐっと怪しくなる。が、最後はまさかのオチがついて、肩透かしを食らい、ふっと笑わされた。
扇里師匠はその淡々とした語り口のせいか、物語がどういう方向に行くのか予想がつかない。行き先を知ろうとして聴き手はぐっと集中してしまう。その集中を裏切らない緊張の高い場面があったり、逆にあれ?!梯子外されたかも?でもまいっか、ということもあったり、でその緩急が楽しい。完全に師匠の思う壺なのだが、それが楽しい。そしてもう一度聴きたくなる、中毒性の高い師匠の語りだった。
春風亭百栄師匠「おつとめ」
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春風亭百栄師匠
この日の本編「おつとめ」にしても、江戸っ子の集まる場面から、和尚さんに怖い話を聞きに行く場面、そして江戸っ子仲間にその怖い話を語ってやる場面と、場面転換も少なくないし、なんなら落語の中にさらに別の物語(怪談と怪談もどき)があるのだからややこしい。が、聞いている分には全くややこしくない。くだらなさに笑える余裕がある。この情報量と余裕さのアンバランス、百栄師匠恐るべし、と振り返ってみて気づかされた。
三遊亭兼好師匠「千両みかん」
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三遊亭兼好師匠
番頭さんが寝込んでいる坊ちゃんの部屋に入る。大きな声は出さないでおくれ、と言われているからと、番頭さんが始めたのがパントマイム。それを演じる兼好師匠の手つきの美しいことと言ったら。すらりと長い指がひらひらと、お坊ちゃんに「お加減いかがですか?」と問いかける。坊ちゃんは耳が聞こえないわけではなく本当は滑稽な場面で、確かに可笑しいのだが、その所作の美しさにどきっとした。その後、何度も出てくるみかんをむいて食べる仕草も、美しくて可笑しい、という不思議なことになっていた。
登場人物の多いこの噺で、声色の使い分けも見どころの一つなのだろう。兼好師匠の芸を通すとその声色で即座に人間性が感じられる。例えば番頭がみかんを探してあちこちのお店に出向く場面で、対応するお店者の性格が、例えば慎重な人なのか、頭の回転が早そうな人なのかが、一言二言で感じられるのだ。おかしな想像だが、おそらく自分で接するより、兼好師匠の演技を通しての方が、お店者の性格がすぐにわかるんじゃないか、そんな感じすらした。
所作といい声色といい、兼好師匠の芸に酔わされた一席だった。
写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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