渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2021年 8月13日(金)~18日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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8月17日(火)19:00~21:00 三遊亭ぐんま 三遊亭ふう丈 立川吉笑 林家つる子 林家彦いち

「しゃべっちゃいなよ」創作らくごネタおろし会 2021年第4回

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プレビュー

三遊亭ぐんま さんゆうてい ぐんま
三遊亭ふう丈 さんゆうてい ふうじょう
立川吉笑 たてかわ きっしょう
林家つる子 はやしや つるこ
林家彦いち はやしや ひこいち ※林家しん平師匠の代演となります

 偶数月火曜日に行っている創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。団体、キャリア問わず、全員がこの日初公開の創作らくごを披露する場所です。二つ目昇進して一年と少しのぐんまさん、コロナ禍ではネットでも人気者になったアイデアマン ふう丈さん、すでにレジェンド級の活躍をする吉笑さんに、4月に三遊亭青森さんをこの会に送り込んだ黒幕 つる子さんが登場。
 レジェンド噺は、映画『二つ目物語』公開を控える林家しん平師匠による「青春グラフティ」!
 彦いちプロデューサーもトークで参加してくださいます。人気公演、年内4回目はどうなるのか!?

▽三遊亭ぐんま さんゆうてい ぐんま
2015年29歳で三遊亭白鳥師匠に入門、2020年5月21日二つ目昇進。子供の頃の将来の夢はプロレスラー。高校3年生のときに、レスリング全国5位になったこともある。ピーマンを持ってほほえんでいるブロマイドを製作した。

▽三遊亭ふう丈 さんゆうてい ふうじょう
2011年4月入門、2016年5月二つ目昇進。怠けないようにという決意を込めてnoteにショート落語を書き続けている、最新作は「秘伝のダシ」昨年の10月に公開した。Zoomでオンライン会議をするときなどは、積極的にカメラに近寄る。

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在芸歴11年目、2012年4月二つ目昇進。もともとは酒豪だったが、酒断ちをしていまは炭酸水で過ごす。この夏は「三題噺」に積極的に取り組む、「三題噺」を作成するにあたり体重がどんどん減っていっている。

▽林家つる子
2010年9月に入門、2015年11月二つ目昇進。2016年にはミスiD2016の特別賞を受賞する。群馬地酒大使をつとめている。「Miss NEO」というコンテストにエントリーしたため、ミクチャライブで動画の配信をしている。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

「渋谷らくご」2021年8月公演

三遊亭ぐんま(さんゆうてい ぐんま)-新・北三国志
三遊亭ふう丈(さんゆうてい ふうじょう)-ココロノガイネン
立川吉笑(たてかわ きっしょう)-床女坊
林家つる子(はやしや つるこ)-ミス・ベター
林家彦いち(はやしや ひこいち)-つばさ

前説で、彦いち師匠が持ち出した吉笑さんの○○問題。確かに今日の出演者を見ると、吉笑さんはシブラク創設時から7年近く出演されているので、ベテラン感たっぷり。芸の面でも進化していて、違和感はまったくないですね。そこに挑むのは、落語協会若手二つ目三人衆。みなさん伸び伸びで、はじけていました。それにしても前説の彦いち師匠とタツオさんのトークコーナー、出番を控えた楽屋の演者さんも聞いているのですね。自分がどう思われているか、やっぱり気になりますもんね。

三遊亭ぐんま-新・北三国志

  • 三遊亭ぐんまさん

ぐんまさんと後から登場するつる子さんは、共に群馬県出身。この2人に立川がじらさん、柳家小もんさんを加えた4人で「上州事変」というユニットを組み、群馬の魅力を世に発信しています。ただ、ぐんまさんは渋川市(旧子持村)で、つる子さんは高崎市。東京で例えると、町田と渋谷くらいの差があるんだとか(ぐんまさん談)。
そんな地元愛たっぷりのぐんまさんのネタは、栃木、茨城、群馬の北関東3県の戦いを描いた「新・北三国志」です。ぐんまさんが高校時代(10年少し前?)に見ていたアニメの三国志の主題歌「風の会話」(阿久悠・詞、ささきいさお・歌)の話から、「都道府県魅力度ランキング」の下位を争う栃木、茨城、群馬の抗争に入っていきます。
魅力度ランキングで茨城に敗れ、とうとう最下位となってしまった栃木が、同盟を組んで茨城と戦いたいと群馬にやってくる。グルメ、有名人、観光地とさまざまな武器で戦いを挑む同盟軍だが、茨城に勝てない決定的な理由があった……。というお話です。
「翔んで埼玉」(実写映画版)では、埼玉と千葉が江戸川をはさんで対峙するシーンが描かれていてそのばかばかしさに笑いましたが、その北関東版の趣で、地元愛、北関東愛があふれるぐんまさんの熱量がはんぱなかったです。互いの力を認め合いながらも、戦わざるをえない栃木、茨城、群馬。格闘技経験のあるぐんまさんならではの戦闘落語でした。ラストシーン、「風の会話」を歌って去って行くぐんまさん、格好良かったです。

三遊亭ふう丈-ココロノガイネン

  • 三遊亭ふう丈さん

2020年9月(4月の振替公演)で初めて登場したふう丈さん。その時の「起きたらアサダ」は、落語協会の寄席の手品師「アサダ二世」さんの物真似パロディ一本という、かなり攻めたネタで、玉砕覚悟、会場を驚かすためだけに挑んだようにも見えました。ふう丈さんのいいところは、他もあるのになぁと思いながら、再登場を祈っていたら早くもリピートです。前説で彦いち師匠がコメントしていたように、器用な生き方をしているタイプには見えませんが、そういう人だからこそ、今回のような創作落語が生まれるんですね。驚きました。
とある喫茶店。待ち合わせから1時間遅れでやってきた白井さん(37)。会社をクビになり、2階から飛び降りてケガをし、彼女にも振られて落ち込んでいる彼を励まそうと、友人の山本さんが声を掛けるも「もうだいじょうぶ」と明るく答える白井さん。なぜなら「心をとっちゃったから」。さらには「お前も取れよ」と山本さんにまで薦める始末。別れて街に出た山本さん、コンビニの店員さんも居酒屋の店員さんもみんな「心」を取っていて気楽そう。しかし、その裏には政府の暗躍があると知った山本さん。再び白井さんに会うと、心を取ったことで起こる副作用に悩まされていた。山本さんは白井さんを救えるのか……。というお話です。
身体に関連したSFこそ、円丈師匠や彦いち師匠の系譜に連なるものであり、現代新作派の真骨頂でもあります。その中に、目には見えない「心」の概念をぶち込んでくるあたりが、ふう丈さんの着眼点の素晴らしさです。「心を取った」と物理的に取ったと見せかけておいて、実は身体の一部に残っているという仕掛けも見事です。
不器用だからこそ、愚直に考え、練り上げ、それをスートリーにしていった。ふう丈さんの誠実さな人柄も見えてきて、静かに感動した一席でした。

立川吉笑-床女坊

  • 立川吉笑さん

数学者としての一面も垣間見せる吉笑さんの論理性があふれまくる創作落語でした。もともと教育学部数学科中退で、落語家になってからも数学者の森田真生さんや、物理学、科学哲学の学者さんと交流したり、一緒にイベントに出たりしているくらいですから、数学への関心は半端なく、素養は申し分ありません。「何時材」など論理的な考え方を落とし込んでいる作品が多くあり、現在も聞くことができますが、今作は究極ともいっていいくらいの証明問題落語でした。マクラで今年一番の代表作といっていた「ぷるぷる」とは対称的。振り子の端と端って感じです。
3人連れの旅行者が、舟の渡場にやってきた。2人乗りの舟で、私(お嬢さん)、元床屋のおじいさん、お坊さんの3人を、向こう岸まで渡して欲しい。しかし、そこには条件があった。①元床屋は、髪の長い人と2人きりになると、相手を丸刈りにする。②坊さんは、お嬢さんと2人になると告白してくるから嫌。③床屋と坊さんは仲良し。2人乗りの舟かつ、この条件を満たす運び方を船頭のアニキはシミュレーションしながら考える。無事解けたと思ったら、新たな条件が次々と加わって……。というお話です。
三すくみ構造の問題を解いていく論理的なお話ですが、有名な「嘘つきのパラドックス」が出てくるなど、エスカレートの仕方のえぐいのが吉笑さん。聞き手の頭も大混乱に陥っていきます。問題が解けていく時の爽快感や期待感、解けない時のドキドキ感、わけがわからなくなっていくいらいら感、突拍子もないアイデアに出会った時の驚き。落語を聞いている間だけでいろいろな感情が巻き起こり、見事に吉笑さんの術中にはまりました。
普段からマインドマップを使ってネタを作っている(2年前の落語ディーパーで紹介していた)いるのを見ていて、ここまで破綻なくできるのは、ネタ作りの段階からしっかりしてるんですね。それにしても、論理をきちんと追って話ながらも、翻弄される側の人のしどろもろさ加減もきっちりしていて、演じる身体感覚も完璧ですね。もう○○レベルといってもおかしくない高座でした。

林家つる子-ミス・ベター

  • 林家つる子さん

前回(2019年)は、上毛かるたに燃える女子高生を描いた青春部活もの。今回も主人公は女子高生がですが、趣は変わって「ベタ」な設定をフルに詰め込んだ少女漫画の世界でした。昇々さんの代表作「誰にでも青春」シリーズが、鬱屈とした高3男の妄想スートリーなら、つる子さんの「ミス・ベター」は恋に憧れる奥手女子の妄想スートリー。対称的ですが、根幹の部分は似ているような気がします。
アライミナミはいつものように寝坊をし、母親がフライパンをお玉で叩く音で起こされる。慌てて家を飛び出すも、途中で絵に描いたような不良に絡まれる。それを助ける見知らぬ男子高校生。ミナミが教室に着くと、そこには先ほど助けてくれた男の顔が。転校してきたトオルとの出会いだった。反発しあう2人だったが、互いが母子家庭であることから急速に接近。付き合うことになった2人は……。というお話です。
「やりたいことをやります」とつる子さんが宣言したとおり、とにかくベタな展開のオンパレード。ネタおろしらしく、思い付いたアイデアは省くことなく全部入れてきます。ミナミとトオルが付き合うまでがピークかと思ったら、あっさり付き合うことになって、そこから5年後の世界を描くのも意外でした。ただそこから70年代、80年代の大映ドラマ、韓国ドラマ。運命の歯車が狂いまくっていくベタな展開が続いていきます。トータル30分の高座。もうお腹いっぱい、満腹で動けません。
つる子さんみたいな華がある人が、こういう振り切ったベタネタをやるのは楽しいですね。ただ、しゃべっちゃいなよの翌々日とか、前週には怪談「真景累ヶ淵」の豊志賀の死~お久殺し~土手の甚蔵とかやっているし、本当に幅が広い。

林家彦いち-つばさ

  • 林家彦いち師匠

本来はレジェンド枠で林家しん平師匠が「青春グラフティ」を披露してくださる予定でしたが、出演ならず。急きょ代演の彦いち師匠が、シブラクから生まれた創作落語の中から、ホール落語や寄席でもかけることが多い「つばさ」をやってくれました。
翼のある世界(空を自由に飛べる世界)で暮らす落語家が、ある日突然、翼のない世界に迷い込んだ。寄席に出演し、いつものとおり羽を広げる仕草で「時そば」をやると、楽屋は大騒ぎ。元の世界に戻ろうとするが……。というお話です。
彦いち師匠の作品は、ささいな日常生活の中に、大きな「嘘」や「もしも」が入るから、世界観が壊れないんですよね。後説でタツオさんの「鳥の動作がリアルになっている」という指摘に対して、「YouTubeで鳥の動画を見ている」と答えた彦いち師匠が面白かったです。

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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