渋谷らくごプレビュー&レビュー
2021年 10月8日(金)~13日(水)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
来れば必ず元気になる。鬱々とした日々、言いたいことをハッキリ言えない状況。そんな気持ちをスカッとさせる会がこちらです。
独自路線を突き進む演者たち。トリの圓太郎師匠は、大きい声で心にあることを言うタイプ。かといって決して無神経というわけではなく、人間の嫉妬や不安、恐怖や欲など、繊細な心の動きを演じても随一の人気真打です。この日の公演は圓太郎師匠に身を委ね、いろいろな形の落語に触れてみてください。必ずユーロライブを出る頃には、肩凝りが治っているはずです。
▽三遊亭好二郎 さんゆうてい こうじろう 圓楽一門会
2016年25歳で三遊亭兼好師匠に入門、2020年2月二つ目昇進。マスクは黒色やグレーを選びがち。竹下製菓のブラックモンブランというアイスがソウルフード。告知ツイートに「お楽しみにー!」という1文を加えがち。
▽立川談修 たてかわ だんしゅう 落語立川流
22歳で入門、芸歴26年目、2013年に真打昇進。自主制作した落語CD「ソーシャルディス談修」を発売中。たびたび猫の写真をツイッターにアップする。コロナ禍になってから、積極的にお散歩をするように心がけている。散歩でカワセミを見つけるとテンションが上がる。
▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう 落語芸術協会
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2021年5月真打昇進。「2020年渋谷らくご創作大賞」受賞。日々ずっとふざけている。「独学大全」を読んで学びへの好奇心が止まらない。12月にTOEICを受ける予定をしている。
▽橘家圓太郎 たちばなや えんたろう 落語協会
19歳で入門、芸歴40年目、1997年3月真打昇進。怒りん坊なキャラクターで、オヤジの小言マシーンぶりは渋谷らくごでも爆笑を生んでいる。将来PTAの会長になるのではないかと危惧している。普段は優しく、裏表のない気持ち良い人なのです。ラガーマン。
レビュー
三遊亭好二郎(さんゆうてい こうじろう)-悋気の独楽
立川談修(たてかわ だんしゅう)-木乃伊取り
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)-天災
橘家圓太郎(たちばなや えんたろう)-甲府い
三遊亭好二郎さん「悋気の独楽」
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三遊亭好二郎さん
その落語に入るまでの好二郎さんの小ばなし(まくら)が巧みで笑った。ご自身が練習に通うカラオケ屋さんのスタッフにもいじられるキャラクターというところから、3人弟子のキャラクターと師匠との関係性の違い、そこから師匠が大好きすぎて他の弟子を褒めそやすと嫉妬することさえあるという話から、本編に入った。
旦那が最近お妾さんを囲っているらしいと嫉妬するおかみさんは定吉という小僧に、寄席に行くといって出かけた旦那のあとをつけさせる。この定吉、旦那にあっさりつけていることがバレるが、もうついていかないと言ってお小遣いをせしめた上、結局お妾さんの家までしっかりついていって、おまんじゅうはいただくは、さらにお小遣いはいただくわ。いじられ、こき使われつつ、欲しいものはちゃっかりがっちり頂いているのだ。その定吉も、旦那の可愛らしいお妾さんには低い声で気取ってみせる。とぼけたところと、いじられキャラと、ちゃっかりキャラが、ないまぜになっているこの定吉という小僧の魅力を、好二郎さんが最大限引き出していた。この定吉というキャラが、まくらの3人弟子のキャラクターと重なって見えてくる。この小僧に魅力を感じられたのは、まくらからそのイメージをふくませてもらったおかげなのだった。
立川談修師匠「木乃伊取り」
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立川談修師匠
吉原がある時代の江戸のお話し。大店の若旦那が集金した金を持ったまま、吉原から帰ってこない。父親の大旦那が戻るように説得に行かせた番頭、さらには出入りの頭も帰ってこない。怒り心頭の大旦那のところに、飯炊きの清蔵という男が自分に迎えに行かせろとやってくる。番頭でも頭でもダメだったのがどうしてお前にそれが務まる、と大旦那にあしらわれそうになったところ、大旦那を説き伏せ、むさ苦しい格好で大門をくぐり、とうとう若旦那に帰ると言わせた。しかし、ここは縁起を担ぐところだから、最後に一杯陽気に飲んでから帰ろう、というところから雲行きが怪しくなる。果たして若旦那、そして清蔵は無事に帰れるのか?
清蔵が出てきたあたりから、一気に心理戦に入ったように感じられた。大旦那は清蔵を行かせるのか、むさ苦しい格好で遊郭に入れてもらえるのか、若旦那をどう説き伏せるのか、そして最後に酔っ払った清蔵はどうなるのか。清蔵の遣り手っぷりとダメさっぷりが、緊張感とオチとの落差に繋がっていて談修師匠の清蔵にしてやられたり、の一席だった。
春風亭昇々師匠「天災」
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春風亭昇々師匠
しかしご本人は、いまだ大人とは何かを問うているらしい。行きつけの喫茶店の店員に「出張先のお土産をよろしく」と言われた時、大人としてどうその真意を読めばいいのか、そして芸人として小粋に返すには、と真剣にずっと考えておられる。大人とは、芸人とは何か、昇々師匠のその思考の過程を、観客は毎回ありがたく楽しませていただいております。
そして本編の落語は「天災」。立派に妻もいるのに、どう聞いても中身は少年未満の八五郎が、昇々師匠の八五郎、手が付けられない暴れん坊の小僧、と呼びたいくらいの男だ。その男が、ご隠居さんに紹介されて、心学者のところに遣いに出される。短気は損気、心を広く持て、と例え話を使って説得されて帰ってくるのだが、という筋書きだ。
この喧嘩好きの八五郎のキャラクターが振り切れているのは期待値以上だが、今回はさらにご隠居と心学者の穏やかさと心の広さが、八五郎ととても良い好対照をなしていた。八五郎に全く惑わされずに、特に心学の先生はすっとぼけたくらいの鷹揚さで道理を説いていく。これほどの鷹揚さの表現をあまり期待していなかった(失礼)だけに意外で気持ちよかった。
落語としての可笑しさはこの後も十分に楽しませていただいたのだけれど、この噺は八五郎と老人2人の緩急もかなり面白いのだな、と改めて気づかされた。
橘家圓太郎師匠「甲府い」
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橘家圓太郎師匠
この話に出てくる善吉という男、その名の通り、心根が真っ直ぐで信心も深い。しかし彼だけでなく、彼を雇い入れる豆腐屋の親方と先輩格の金公もまた、ものすごく人情深く、温かく、人を導ける人々として描かれていた。善吉という男の人の良さが際立つ話だと思っていたが、それだけではない。善吉を育てる二人が人格者だからこそ、善吉も豆腐屋の修行を途中で腐ることなく、真っ直ぐな心持ちののまま積んでいけたのだな、とすごく納得させられた。
もちろん笑わせどころもたっぷりある。善吉が豆腐屋の売り文句「と〜ふ〜、胡麻入り〜がんもどき〜」を練習する場面で、親方とも先輩とも違う言い方を作ろうと、口を金魚のようにパクパクさせる場面、こちらも息継ぎに困っておかしい。
比較的聴くことの多い噺で目からうろこ、納得感と多幸感にたっぷり浸からせていただいた。師匠、ごちそうさまでした。
写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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