渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2021年 10月8日(金)~13日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

イラスト

10月10日(日)14:00~16:00 立川志ら乃 入船亭扇里 田辺いちか 隅田川馬石

「渋谷らくご」生存戦略!武器を磨き続ける人たち

ツイート

今月の見どころを表示

プレビュー

 落語家の数は現在史上最多、そのなかで凌いでいくには、自分のなかにある個性、武器を磨き続けなければなりません。すべてをオールマイティにこなすことは不可能なので、どこかで自分に合ったものを先鋭化させていく。
 そんな痺れる生存戦略に賭けている人たちが登場します。
 どんな噺も、斬新な切り口で、軽く楽しく聴ける噺に料理する志ら乃師匠。逆に、ヴィンテージの語り口で個性を浮き立たせる扇里師匠。講談に飛び込んだダイヤ いちかさん、そしてトリは「長生き」という生存戦略に賭ける達人 馬石師匠です!

▽立川志ら乃 たてかわ しらの 落語立川流
24歳で入門、芸歴23年目、2012年12月真打昇進。スーパーマーケットが大好き。ワクチンの副反応がきついときは、シューアイスを食べて乗り切った。いま成城石井の「マリトッツォ」にはまっている。

▽入船亭扇里 いりふねてい せんり 落語協会
19歳で入門、芸歴25年目、2010年真打ち昇進。食べられない時期は競馬で稼いでいた。熱狂的なベイスターズファン。観戦しているときはツイッターで荒ぶっている。これから開幕する「Mリーグ2021」が楽しみでしかたない。

▽田辺いちか たなべ いちか 講談協会
2014年に入門、芸歴7年目、2019年3月に二つ目昇進。2020年渋谷らくご「楽しみな二つ目賞」受賞。中国・長安大学で日本語の教師だったことがある。ツイッターでは「キラキラ」や「クラッカー」の絵文字を多用する。

▽隅田川馬石 すみだがわ ばせき 落語協会
24歳で入門、芸歴28年目、2007年3月真打昇進。フルマラソンのベストタイムは、4時間を切るほどの速さ。読売新聞オンラインでも元気なジョギング姿を披露するなどスポーツに関する連載をもつ。高座を終えると、汗をぬぐってすぐに着替える。

レビュー

文:ふーすけ (アイドルとお笑いと美術館と神保町が好きな大学4年生)

立川志ら乃(たてかわ しらの)-十徳
入船亭扇里(いりふねて せんり)-三井の大黒
田辺いちか(たなべ いちか)-井伊直人
隅田川馬石(すみだがわ ばせき)-松曳き

JR全線が止まってしまい時間に間に合わず、泣く泣く会場での観覧を諦めて家に帰ってからゆっくりと配信で視聴しました。 ほんとに配信があってよかったです!
見終わってみて、配信でも勿論最高におもしろかったですが、やっぱり生の空間でこれを味わいたかった…!と思いました。 次からはもっと早めに渋谷に行きます。
今回の公演は天然、ちょっぴり抜けてる人が登場する噺が多かった印象です。
全体のテンポとして、軽やかスロー軽やかスローというような流れがあって日曜日のまったりとした空気にぴったりな回だと感じました。

立川志ら乃師匠『十徳』

  • 立川志ら乃師匠

志ら乃師匠が一言話し始めた瞬間に思いました(なんだこの優しさが滲み出てる語り方は……!)
目をくっと開いた表情、口角をグッと下げて話す表情がなんだかかっこよくて、今でも脳裏に鮮明に焼き付いています。
ただ優しく穏やかなだけではなく、語りの強弱がめちゃくちゃ激しいわけでもなく、軽やかで常に心地良さがあって、ずーっと聴いていたくなりました。
新しく得た知識を周りの人に自慢したくて、話したい思いばかり先走って肝心なところがグダグダになっちゃう不器用な主人公が、可愛くて可笑しくて、心の中で(あー!ちがうちがう!そうじゃない!)と叫びながらも間違えるのを期待している自分もいました。
肝心なところを間違っていることに違和感を感じながらも、とりあえず間違ったまま最後まで言い切ってしまうその勇気をむしろ褒めてあげたい!

入船亭扇里師匠『三井の大黒』

  • 入船亭扇里師匠

テンポ良く軽やかに流れていく志ら乃師匠とは打って変わって、扇里師匠の語り方はスローで静かでそれでいて重々しくなくて、自然に気持ちよく扇里師匠のペースに飲み込まれていく感覚がありました。
また、聴いていて強く感じたことは、コテコテしてない、ということでした。
江戸弁で語っているのになんだか落語っぽくない感じ、穏やかなのにスマートさがあって噺がスーッと耳に入ってくる感じ……。
思い浮かぶ情景はめちゃくちゃ江戸時代なのに、ほんとに半径20メートル以内のそこら辺で起きたような、現代の身近な話を聞いてるような感覚でした。不思議……。
聴き終わったあとにじんわりとあたたかい気持ちになってかつ、心がスっと整いました。いいお噺だったなぁ。

田辺いちかさん『井伊直人』

  • 田辺いちかさん

妻のお貞が実家からもらった大切なお金を、賭け事に溶かしてしまうほどのクズ男が、妻に武術で負けたことをきっかけに厳しい修行に出て段々と改心していくそのストーリーもめちゃくちゃ面白かったですが、いちかさんの演じるお貞がかっこいい!!
そしていちかさんは、最強の女がこの上なく似合う!
つつましくもしたたかで愛を持って夫を正しい方向に導くお貞と、講談の世界で凛と美しく活躍されてるいちかさんの姿が重なって、なんだか惚れ惚れしちゃいました。
凛々しくも柔らかさを持っていて、それでいてスパッと気持ちよく笑わせてくれるいちかさんの講談、やっぱり好きだなぁ。
直人が妻に勝つために何度も修行を重ねていくシーンでは、途中から頭の中でロッキーのテーマが流れてきました。
そして、何故こんなにも完璧なお貞という女性がそこまで直人にゾッコンなんだろう、とこの噺のエピソードゼロを勝手に考えたくなりました。 持つべきものは強く賢い妻!!

隅田川馬石師匠『松曳き』

  • 隅田川馬石師匠

この噺は抜けてる人が多く出てくるから話す私がしっかりしなきゃと仰っていた馬石師匠、天然な人の演技が雰囲気や表情含めて全部ハマりすぎていて、「馬石師匠=天然な人」という印象が私の中でやや出来上がってしまいました。
天然 対 天然はろくなことがなくて、でもずっと見ていたい平和な空間がそこにあって、最高でした。
登場人物それぞれをユーモアたっぷりに愛らしく表現するだけでなく、空間ごとまるーい雰囲気にしていて、 後半は表情ひとつ仕草ひとつ、全部が可笑しく感じられて、ツッコミ不在の脱力系らくごの世界にただただ笑えて楽しかったです。
馬石師匠が演じる他のキャラクター他のお噺も、めちゃくちゃ見てみたくなりました。
次こそ生で見る!

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
写真の無断転載・無断利用を禁じます。