渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2021年 10月8日(金)~13日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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10月12日(火)19:00~21:00 春風一刀 立川談吉 笑福亭希光 立川笑二 林家しん平

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」2021年 第5回

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プレビュー

春風一刀 はるかぜ いっとう
立川談吉 たてかわ だんきち
笑福亭希光 しょうふくてい きこう
立川笑二 たてかわ しょうじ
林家しん平 はやしや しんぺい レジェンド噺「青春グラフティ」
◎トーク:林家彦いち

 偶数月火曜日に行っている創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。年5回あるうちの第5回目です。今回で今年のすべてのエントリーが終了です。
団体、キャリア問わず、全員がこの日初公開の創作らくごを披露する場所です。
初登場の一刀さん、まさかの古典派一門 一朝一門からの参戦です。こちらも初登場の希光さんは、4月の代演に立候補してくださった勇者です。
すでに一度、創作大賞に輝いているレジェンド 談吉さん、そして12月のファイナル大会常連の笑二さんも登場。まったく展開が読めない10月の「しゃべっちゃいなよ」です。
 レジェンド噺は、映画『二つ目物語』を制作したばかりの林家しん平師匠による「青春グラフティ」!
 彦いちプロデューサーもトークで参加してくださいます。人気公演です。

▽春風一刀 はるかぜ いっとう 落語協会
25歳で入門、芸歴9年目、2017年11月二つ目昇進。御徒町の王将で食べた炒飯に感動した、王将の炒飯が店舗ごとに味が違うのか気になっている。親知らずがまだ1本抜けていない。

▽立川談吉 たてかわ だんきち 落語立川流
26歳で入門、芸歴13年目、2011年6月二つ目昇進。iPhoneの待受が「いくら」。毎日ラーメンを食べている。先日朝からバリウムを飲みとても苦しんだ。そのあと下剤を飲み、すぐに家系ラーメンを食べた。

▽笑福亭希光 しょうふくてい きこう 落語芸術協会
34歳で入門、芸歴9年目、2017年8月二つ目昇進。日々ツイッターで毎日の食事と体重の増減を公表している。チキンナゲットとポテトチップスを食べた翌日は体重が増えていることがわかる。逆にブロッコリーとゆで卵を食べた翌日は体重が減っている。

▽立川笑二 たてかわ しょうじ 落語立川流
20歳で入門、芸歴10年目、2014年6月に二つ目昇進。「2020年渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」受賞。先月のシブラクの帰り道傘をなくしてしまった。牢屋で泣いている夢を見る。先日気まぐれで「野球殿堂博物館」に行ってみた。

▽林家しん平 はやしや しんぺい 落語協会
1974年11月入門、1990年3月真打昇進。特撮やプロレスが大好き。特撮シリーズ「深海獣レイゴー」「深海獣雷牙」や「落語物語」など映画監督をつとめている、最新作は「二つ目物語」。令和3年秋に劇場公開予定をしている。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

「渋谷らくご」2021年10月公演

▼10月12日 19:00~21:00
「しゃべっちゃいなよ」

春風一刀(はるかぜ いっとう)-存在感
立川談吉(たてかわ だんきち)-小さな幸せ
笑福亭希光(しょうふくてい きこう)-ちゃらんぽらん
立川笑二(たてかわ しょうじ)-お義父さん
林家しん平(はやしや しんぺい)-青春グラフティ

前説のトークコーナーで、当日に富山県の高校で「経済を教える仕事をしてきた」という話をした彦いち師匠。前座の報酬、二つ目時代の貧乏話、真打昇進披露の費用など、落語家の経済事情をぶちまけてきたと、熱く語っていました。貧乏な前座・二つ目時代の話は、彦いち師匠の「青春グラフティ」なのかもしれません。

春風一刀-存在感

  • 春風一刀さん

古典メインですが、彦いち師匠がどこからか噂を聞きつけて、「召集」をかけた一刀さん。「過去に10作くらい作って1作しか残らない」と言いながらも、シブラク初登場でトップバッターの重圧を跳ね返し、味のある創作落語をぶちかましてくれました。
久々の飲み会に出席したサトウくん。しばらくしてから、知人のジミくんが参加しているのを発見する。あまりにもジミくんが地味で、ずっと気が付かなかったのだ。そこからサトウくんは質問攻めでジミくんを掘り下げていく。サトウくんがツッコミ、ジミくんがボケの漫才のような、やり取りが展開されていきます。
「生まれは?」「東京千代田区です」、「大学は?」「東大です」、「好きな音楽は?」「クラシックと見せかけてロックです。ジミヘンが好きです」と徐々に明らかになっていくジミくんのキャラクター。漫画やゲームのキャラクター設定、ペルソナ設定会議みたいにいろいろなアイデアが出て、1人の人格が積み重なっていく過程が楽しかったです。会話のオチには必ず「地味です」のブリッジ入りで、笑いどころもわかります(ヒロシです、みたいなブリッジはやめろのセルフツッコミも)。
一刀さん自身の朴訥としたキャラも相まって、会話のリズムも心地良く、派手ではないものの、安心して体を預けられる快適な落語でした。

立川談吉-小さな幸せ

  • 立川談吉さん

しゃべっちゃいなよ登場の前は、いつもTwitterで「なかなか、できない」とつぶやく談吉さん。今回もギリギリまで粘ったそうですが、談志師匠の言葉で「幸福の基準を決めろ」が好きという談吉さんの、やさしい気持ちになる落語が誕生しました。
町内に2人の婦人。カネコさんは、フジタさんに声をかける。なぜわかったの? というフジタさんの問いに「2駅前から“のろし”をあげていたらわかるわよ」とカネコさん。フジタさんに「髪の毛を染めた?」と聞かれたカネコさん。美容師に写真を見せて「この通りにして」と頼んだのが「まるごとバナナ」。希望の髪形になって満足そう。フジタさんと別れて、町内の福引所に向かったカネコさん。ガラガラを回して出てきたものは……。というお話です。
“のろし”のつかみは完璧。あとから繰り出されるフレーズも、まるごとバナナのような、引っかかりのあるものばかりで、どんどん談吉さんの世界、頭の中に引きづりこまれていきます。福引所で出てくる、ある茶色いモノと、美しさを象徴するアイテムとの対比も面白く、着地のさせ方もみごとでした。

笑福亭希光-ちゃらんぽらん

  • 笑福亭希光さん

シブラク初登場の希光さんですが、落語家入門前の経歴(漫才師、吉本新喜劇)から、「確実にヒットが打てる」と彦いち師匠から絶大な信頼を置かれていました。その期待どおり、長打力を見せつけてくれました。
近所の隠居に相談にやってきた男。気が付けば「サブスク」が止まらないという。Netflix、プライムビデオ、U-NEXT、Hulu、kindle unlimitedと次々と契約し、月の支払い額は13万円に。隠居から「体を作り変えないとダメ」とアドバイスを受けた男は、後日、隠居の家で特訓を受けることにする。そこに待ち受けていたものは、ユニークを通り越して、気持ちがむずがゆくなるような訓練の嵐だった……。というお話です。 サブスク(定額サービス)の説明が異常に詳しく、いくつも契約して止められなくなる感覚がリアルでした。コロナ期間中にサブスク始めた人なら“あるある”の嵐。そこから一転して、隠居と男のばかばかしい訓練のやり取りと、メリとハリが利いていて、2つの世界が楽しめました。

立川笑二-お義父さん

  • 立川笑二さん

笑二さん本人が高座で「人の不幸が面白い」という話をされているように、創作落語でもダークなホラー話をかけることが多い笑二さん。今作も、とんでもないサイコパスな「お義父さん」が登場するブラックコメディーでした。
アヤカと付き合って3年になるヒロシ。とうとうアヤカの父がヒロシと会ってくれることになった。しかし、探偵業を営むアヤカの父親は、恐ろしい人格の持ち主で、過去に何人もの人生を闇に葬ってきた。プロポーズを成功させるため、ヒロシはアヤカと一緒に当日のあいさつをシミュレーションするが、ヒロシ自身も悪い男で、アヤカを幸せにできるような人間ではない。それでも、何でも正直に話せば父親は許してくれるとアヤカに励まされ、ついに対面の時間がやってくる……。というお話です。
実際に「お義父さん」が登場するのはごくわずか。アヤカとヒロシの会話だけで、アヤカの父の異常なキャラクターが浮き彫りになっていきます。落語というオブラートに包まれているものの、冷静に見たら本当に怖い。かといって、アヤカもヒロシも善良な人間でもない。だからこそ、アヤカとヒロシ、そしてお義父さんとお義母さんの人間性に興味が湧いていくんですね。個人的にはあのお義父さんは本当に怖かった。ヒロシくんの選択をドキドキしながら見守りました。

林家しん平-青春グラフティ

  • 林家しん平師匠

レジェンド枠で林家しん平師匠が登場。1979年に二つ目に昇進してしばらくした経った1980年7月、三股交際がばれてとんずらした新島での出来事を描いた「青春グラフティ」を、彦いち師匠のリクエストで復活披露してくれました。
しん平師匠からしたら、65才の今になって20代の頃のモテ話や、やんちゃ話をするのは、照れくさいのかもしれません。15年前の小山田圭吾さんのインタビュー記事のように、当時のコンプライアンスでは糾弾されなかったものが、令和の時代では人に不快感を与えてしまう可能性もある中、しん平師匠は慎重に言葉を選び、途中で何度もエクスキューズをはさみながらも、談吉さんが使った「まるごとバナナ」を入れ込んで、40年前のできごとを語ってくれました。
新島といえば、80年代を知る人にとってはナンパの聖地(性地)。出会いを求めて新島にわたっていった若者の熱気はすさまじいものがありますね。新島での出来事から、3ヶ月後の1980年9月。リーゼントとサングラス姿で池袋演芸場の高座にさっそうと上がってから、タレントとしての快進撃が始まり、さらにモテていく話も痛快でした。
ベテラン師匠の自分語りって楽しいですね。35分という長い話でしたが、長さは感じることなく、もっともっといろいろな話が聞きたくなりました。しん平師匠自身は、過去の話より現在の話に関心が高いようで、現在制作中の映画「二つ目物語」の話をしている時はさらに生き生きとしていて、こちらも興味が湧いてきました。

アフタートーク

  • サンキュータツオ・林家彦いち師匠



写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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