渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2021年 11月12日(金)~17日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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11月12日(金)19:00~21:00 桂春蝶 神田伯山** 蜃気楼龍玉

「渋谷らくご」春蝶、伯山、龍玉

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プレビュー

●劇場観覧チケットについて【下記をご一読ください。】

・11/1 0:00 peatixにて前売券を販売開始いたします。
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・前売券完売の際、当日券の販売ありません。

・当日は18時に開場いたします。
ご購入いただいた際の整理券番号を基準に、入場制限を行います。
 指定された時間以降にご来場いただきます。詳しくは前日までにメールでご案内を行います。
・座席は全席自由席です。


 7年の渋谷らくごの歴史のなかで大きな輝きを放った神田伯山先生が登場。トリの龍玉師匠と、いつもより少し長めの持ち時間で、他の演芸会とは一味違った「人間の業」を表現します。
 上方落語の桂春蝶師匠の引き出しの多さ、場の「あたため力」にも注目していただきたい公演。
 龍玉師匠、現在の渋谷らくごを支える柱のひとりです。生涯をかけて追いかけるべき演者さんですので、未見の方はぜひ!
完売御礼、誠にありがとうございます。

▽桂春蝶 かつら しゅんちょう
19歳で入門、芸歴28年目、2009年8月、父の名「春蝶」を襲名する。最近は早寝早起き生活になっている。最近は、モンスターズインクのマイクがプリントされたスニーカーを好んでいる。頭を使った後に食べる甘いものが好き。

▽神田伯山 かんだ はくざん
24歳で入門、芸歴15年目、2020年2月真打昇進。情報収集にはiPadが欠かせない。ツイッターでは積極的にポジティブなことをツイートしている。走ることでリフレッシュしている。栗が好き。プロレス好き。

▽蜃気楼龍玉 しんきろう りゅうぎょく
24歳で入門、芸歴25年目、2010年9月真打ち昇進。身長が181cmと背が高い。ツイッターではプライベートの様子をツイートすることがなく、いまどのように過ごしているか知ることができない。ものを食べずにひたすら呑むとの噂。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

桂春蝶(かつら しゅんちょう)-流行り病
神田伯山(かんだ はくざん)-赤穂義士伝 南部坂雪の別れ
蜃気楼龍玉(しんきろう りゅうぎょく)-鼠穴

桂春蝶師匠

  • 桂春蝶師匠

貫禄の髭おやじ登場、うん?!髭?春蝶師匠のおひげ姿は珍しい。渋さが増して格好いい、のだが自分がセクハラをした当事者と疑われたとおっしゃる。うん、今日も春蝶師匠の軽すぎない軽さといきの良さが堪能できそう、と期待が膨らむ。
この日の残りの2人は重い、ダースベーダーの弟子か、とおっしゃる師匠。そこで春蝶師匠が入れたのが30分弱の漫談、つまりおしゃべりだった、しかもこういう軽さこそ本来の落語ですよ、とご自身で言い切った上でのおしゃべり。カッコよすぎませんか?!
ネタはご自身のコロナ感染の記録。病院の灼熱の駐車場で、インカムで案内され、野戦病院のごとき屋外のテントで同じことを三回聞いてくるおばあちゃん先生に向き合い、立派なコロナです!と太鼓判を押されて三重にビニールに包まれた車椅子に乗せられて即入院、当然自由に出歩けるはずなく相部屋で隔離されたベッドでの生活で色が失われていく感覚、忘れてた!と思って奥さんに電話したら「お金どうするの!」と叱られる師匠。「無職/無色になっていく」とふっと地口をきかせてくる。
思い返すと、コロナに感染して入院した映像が、あたかも自分の体験したことのように記憶していることに気づく。あれは本当に漫談だったのか、いや、観客に想像させ、自分が立ち会っているかのように笑わせる、恐ろしく完璧な落語なのだった。油断した!

神田伯山先生

  • 神田伯山先生

猫背でメガネをかけて小股気味に高座に上がられる伯山師匠。その姿だけ見ると、永遠の浪人生、悩める若者、という印象だ。
伯山師匠はおしゃべりも面白く、かつ講談の背景をわかりやすく語ってくださる。有名な赤穂義士伝も、テレビドラマも減ったようだし、10代20代にはなかなか馴染みがないだろう。「介錯」とは?実際に切腹が行われた場所で自分が切腹し、首を落として介錯される姿勢をとってみた、というエピソードを交えながら説明してくださる。庭に正座させられた師匠の姿を思うとちょっとおかしい。
もちろん噺に入ると声色も顔つきもぐっと変わっていく。今回の本編「南部坂雪の別れ」では、無念の死を遂げた浅野内匠頭の忠臣で討入を翌日に控えた大石内蔵助が、夫の死後出家した瑶泉院に会いに来る場面が描かれる。もちろん内蔵助は翌日の討入を伝えたかったが、瑶泉院の周りには女中が大勢いた。この中に敵方のスパイがいるかもしれないと思った内蔵助は、義を全うするため、討ち入りなどせず、田舎に帰ると言い出した。討入の予定を話しに来たのではないのか、それでも武士の端くれかといきり立つ瑶泉院。討入したら当然切腹しなければならないのだから、現代の感覚からしたら夫の忠臣とはいえ討入を求めるのはどうかと思うが、それは時代が違う話。ここで伯山師匠の最初の丁寧な背景説明がいきる。そして何より、雪降りしきる城下町の寒さを感じさせたのち、瑶泉院と内蔵助のやりとり自体が熱を発しているかのような屋敷内の熱を伝える、その語りの熱量。張り扇の刻むリズムが緊張感を高めていく。観客はその温度と緊張感の高まりに身を委ねるだけでいい。
内蔵助が討入を終え、伯山師匠が高座から去った時、充実した思いで、あぁもう年末なのだなぁ今年初めて感じた一席だった。

蜃気楼龍玉師匠

  • 蜃気楼龍玉師匠

前の二人と打って変わって、まくらを全くふらずに本編に入った龍玉師匠。あれだけ二人に重いだの、死刑囚だの言われていたのに、それには目もくれずに本編に入っていく格好良さは、前の二人とは全く違った格好良さだ。
龍玉師匠の噺は重い、というか怖い。この日の本編、鼠穴は個人的にこの噺のオチを知らなかったら龍玉師匠で聴ききれなかったのではないかと思うほど怖かったのだが、それを聴かせるのが龍玉師匠だ。
この噺の怖さは、苦労を重ねた人間に対する、人間、しかも兄弟の底意地の悪さや運の無さが、あまりに無情だからだ。成功するには時間がかかるが、火事をきっかけに転落していくのはあっという間、その時間感覚が、実際には時間がかかっただろう商売繁盛に至る期間より、転落していく短い期間の方がずっと長く語られる。これをエンターテインメントとして楽しめるのか否か。なのに綱渡りをする芸人から、もしかしたら落ちる瞬間を期待して目を離せないのと同じように、龍玉師匠の語りから目を耳を離すことができない。財産の詰まった3つの蔵が順に焼け崩れる光景、お金を借りに行った兄に邪険に扱われ、娘を吉原に売ったお金をスリに取られた男を想像しながら、その間に自分のうちにある嫌な部分をさっと呼び起こされ、人間の慢心、邪心、けちな内面をまじまじと見せつけられていく。
龍玉師匠という陰陽師に命を吹き込まれた人形(ひとがた)が見せてくれた暗い幻想のような一席だった。

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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