渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2022年 2月11日(金)~16日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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2月11日(金)14:00~16:00 立川笑二 林家きく麿 柳家小せん 古今亭菊之丞

「渋谷らくご」菊之丞シリーズ! 2022年冬

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プレビュー

 3ヶ月に一度の古今亭菊之丞師匠の登場です!
 立川笑二さんは創意工夫に溢れる落語で、若い人でも落語通でも楽しめる二つ目さん。令和の爆笑王 きく麿師匠は創作らくごの語り手。構成とかストーリーではなく、シーンや会話の面白さが天才的な師匠です。ここからトリに向けての空気を絶妙に盛り立てていくのが、名手小せん師匠の懐の深さ、引き出しの多さと落語の味に酔いしれます。
 トリはお待ちかね、菊之丞師匠! リズミカルで心地よい、「聴いて良かった!」と思わせてくれる現代の名人です。

▽立川笑二 たてかわ しょうじ 落語立川流
20歳で入門、芸歴11年目、2014年6月に二つ目昇進。2019年&2020年「渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」受賞。20年以上、自分でバリカンを入れて頭を剃っている。スヌーピーが描かれたキャップをかぶることがある。ラインではたまに「デコ文字」を使うことがある。

▽林家きく麿 はやしや きくまろ 落語協会
24歳で入門、芸歴25年目。2010年9月真打昇進。観光地などにおいてある顔ハメ看板には、必ず顔を入れる。うどんをよく食べる。節分に豆をなげず、大豆を煮て味噌豆を作った。ソフトバンクの白い犬が描かれたコーヒーカップを使用している。

▽柳家小せん やなぎや こせん 落語協会
22歳で入門、芸歴24年目、2010年9月真打昇進。橘家文蔵師匠と入船亭扇辰師匠と音楽ユニット「三K辰文舎」としても活動中。昨年末は、菊之丞師匠とともに「落語協会 カラオケ同好会」による落語と歌謡ショーに出演をした。

▽古今亭菊之丞 ここんてい きくのじょう 落語協会
18歳で入門、芸歴31年目、2003年9月真打昇進。家の電球を取り換える時だけ、おかみさんから「師匠」と呼ばれる。テレビに映る有名人や政治家と似ている寄席芸人を探すことにハマっている。先日、おでん屋さんごっこをした、ちくわぶをしっかり煮込んで升酒も用意した。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

立川笑二(たてかわ しょうじ)-親子酒
林家きく麿(はやしや きくまろ)-おもち
柳家小せん(やなぎや こせん)-味噌蔵
古今亭菊之丞(ここんてい きくのじょう)-三味線栗毛

落語的な言葉でいうと、流行り病にかかった。ワクチンのおかげか軽症で済んだが、こういう時こそ家で暖かくして落語を楽しみたい。落語は生で見るのが一番、とはわかっているが、今回もオンラインで楽しませてもらった。

立川笑二さん「親子酒」

酒癖の悪い芸人との打ち上げの話から、酒癖の悪い親子が出てくる「親子酒」の噺に入った。酒好きな父親が、息子の酒癖の悪さを案じて、自分もやめるから息子にも酒を断つように言った数日後の一夜の物語だ。息子の留守をいいことにお酒を遠回しに要求する父親、その要求をのらりくらりとかわすおかみさん。熟年夫婦の軽妙なやりとりがたまらない。おばあさん→およね→よね→よねっち、と呼びかけを変えて酒を要求する夫に最後は根負けしたおかみさんだが、湯呑みの数が足りなくなるまで酒以外の液体を出し続けたのもなかなかの技量だ。
さて帰ってきた息子を見ると、こちらもベロベロに酔っ払っている。「ベロベロじゃない」と自分でいうのが酔っ払いの常套句だが、もはや「禁酒」を「しんしゅ」としか発音できないところで何の説得力もない。熟年夫婦の関係性と酔っ払いの習性を知り尽くしたように演じきった笑二さんが、30代に入ったばかりとは信じがたい。

林家きく麿師匠「おもち」

  • 林家きく麿師匠

きく麿師匠は得意の新作落語はもちろん、まくらも鉄板である。雪が積もったある日、初めて見たかまくら(師匠は北九州市出身)に誘われて入って見たら、「5,000円ください」と言われた、キャバクラだった(「くら」違いですね)、とさらりと時事ネタ&地口を交えた話に始まり、矢継ぎ早に小咄が繰り出されていく。
あれ、ふと口数が少なくなったな、と思うと師匠が口をパクパクと動かしておられる。本編に突入したらしい。今回の「おもち」、何度聞いても、きたきた!!!と期待が高まる。きく麿師匠の顔芸が最高の噺だ。師匠にも歯がないんじゃないか、というようにご老人の表情を演じる。同じ話を飽きず(正しくは飽きさせずに)に、少しだけ展開しては戻る、その果てしない繰り返し。自分も歳を取ったなぁと感じるのは、そう遠くない以前にも同じ相手に同じ話をしたな、とハッと気づく時だが、このご老人たちは、自分たちがもう完全に忘れっぽいということも知り尽くして同じ話を繰り返す。しかしきく麿師匠の演じるご老人たちのセンスはさすがだ、砂糖醤油にまぶしたおもちを「永遠のアイドル」、きなこもちを「銀幕のスター」、醤油をつけて海苔で巻いたおもちを「白と黒のオーケストラ」と名付けていく。今度これらのもちを見るときには、きっとこの愛称を思い出すだろう。穏やかなご老人たちの、ありそうでない、最高におかしい何気ない会話なのだった。

柳家小せん師匠「味噌蔵」

  • 柳家小せん師匠

誰しも「けち」な部分は備えているだろう、一般的には金銭的な感覚だろうが、物事に対する寛容さということもありえる。ただ金銭的なけちさは結局万事の判断に通じてくるから、金銭的にけちな人が物事に対して寛容という例はあまりなさそうだ。「けち」は落語の鉄板ネタだが、今回は「しわいや」という屋号のけちべえさんという旦那の物語だから、けちに徹している。大きなお店の旦那なのに奥さんを持たない理由が「おまんまを食べるから」、子供ができた日にはなお食費がかかるからという。その旦那がいない夜に、ちょっと贅沢をしたいという奉公人たちの画策が始まる。
日頃のご飯におかずがつかないだけでなく、味噌汁には具がなく、あったと思ったら自分の目玉が映っていただけだった、それだけ味噌が少なかったというから泣けてくる。味噌屋なのに!奉公人たちが番頭さんに食べたいものは?と問われて、酒だ刺身だ鯛の塩焼きだ鰻だといろいろな要望が出てくるのも仕方ない。自分が奉公に出る身分であったら、あまりけちなお店には行きたくないものだ。
火事が心配で結局帰ってきた旦那が、ふし穴から家の中を覗く。覗くその様子がまたしみったれている。けちには際限がない。大旦那だからこそこの日の奉公人の様子を見て、たまには楽しませてやる度量を持ち合わせてほしい、とまで思わせるけちっぷりが見事な小せん師匠のけちべえさんだった。

古今亭菊之丞師匠「三味線栗毛」

  • 古今亭菊之丞師匠

高座に上がるのを見るたびに品を感じる菊之丞師匠。品のある師匠の気取らない小咄が素敵だ。実は雨男、台風男、という師匠、真打昇進の初高座の日も、寄席の前が水が溜まるほどの大雨で、口上を述べにきてくださった師匠に怒られたという。ネタとして最高だし、雨男だろうと関係なく、素敵な師匠になれるのだ。
今回の本編は「三味線栗毛」、大名家に生まれたものの妾腹で、父親の殿様と反りが合わない次男坊が出世する物語だ。次男坊のおおらかな角三郎はもちろん、口さがない庶民や、目は見えないが商売上手な按摩、どのキャラクターも菊之丞師匠にぴったりはまる。1ヶ月風呂に入らず髭も伸ばしっぱなしの目の見えない按摩が殿中を歩いていく、その様子を口をあんぐり開けて眺める家来の様子など、演じているのは菊之丞師匠一人なのに、何人もの家来がそうやって見ている光景がくっきり頭に浮かんだ。
最後は角三郎が出世し、大名になったら位の高い検校にしてやると角三郎に約束されていた按摩も出世する、最後は馬を巡ったとんちの聞いたおち、聞いているこちらが本当に晴々とした気持ちになった。あれ、菊之丞師匠って雨男じゃなかっけ。

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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