渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2022年 2月11日(金)~16日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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2月15日(火)19:00~21:00 柳亭信楽 三遊亭ふう丈 春風亭昇羊 柳家さん花 林家彦いち

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」2022年 2月大会(第1回)

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プレビュー

 昨年は立川吉笑さんの悲願の受賞で幕を閉じた創作らくごネタおろし会。偶数月に開催している、超党派、キャリア不問の無差別級のイベントです。普段は古典をやっている人も、あるいは新作一本の人も、みんな平等に創作を発表する。お客さんと一緒に創り上げていく落語。
 未来の古典はお客さんなくして創れません! 今月は2022年最初の会。彦いちプロデューサーも、自身で高座にあがる気合の会です。今回は、真打昇進したばかりの柳家さん花師匠も登場です! トリはもちろん、彦いち師匠。実力者勢ぞろいの「しゃべっちゃいなよ」、絶対に見逃せません!

▽柳亭信楽 りゅうてい しがらき 落語芸術協会
30歳で入門、芸歴8年目、2018年二つ目昇進。ツイッターやラジオトークなどで発信している、インスタグラムには「今日の名言」として名言をスケッチブックに書いた名言をアップしている。

▽三遊亭ふう丈 さんゆうてい ふうじょう 落語協会
2011年4月入門、2016年5月二つ目昇進。堀切菖蒲園駅に突然現れた「ヒトトシテ」という落書きにどきっとした。毎月1本のペースで創作らくごを作り続けている。昨年はモヒカンにしたが、落語と相性が悪いことに気づいた。

▽春風亭昇羊 しゅんぷうてい しょうよう 落語芸術協会
1991 年 1 月 17 日神奈川県横浜市出身、2012 年入門、2016 年二つ目昇進。おしぼりやお手拭きはしっかりとたたむタイプ。最近はツイッターでは告知をせずにインスタグラムにチラシをアップするようにしている。

▽柳家さん花 やなぎや さんか 落語協会
1979年8月1日、千葉県出身。2006年9月入門、2021年9月真打昇進。身長が180cmを超えている、進撃の巨人をみていたので初夢はその世界観だった。先日新500円玉を見つけてテンションが少し上がった。

▽林家彦いち はやしや ひこいち 落語協会
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。アウトドアではできるだけコーヒー豆を持って行って、コーヒーを飲む時間を楽しむ。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

柳亭信楽-犬
三遊亭ふう丈-検索猿人
春風亭昇羊-のれんわけ
柳家さん花-人
林家彦いち-あど人

シブラクの人気公演のひとつの「しゃべっちゃいなよ」。配信で見ている方も多いんですね。現場の緊張感は、配信で見ている方にも届いているに違いありません。
エンディングトークでも話題になっていましたが、今回の「しゃべっちゃいなよ」は「人」が付くネタが多かった。発想力も豊かで、限界を超えてくるネタばかり。5作品すべてが印象に残りました。

柳亭信楽-犬

  • 柳亭信楽さん

昨年「しゃべっちゃいなよ」初出演で、そのまま決勝進出。創作力の高さを見せてくれた信楽さん。今回は前作とは違うパターンのネタで楽しませてくれました。今作は、サゲ(オチ)がどこまで多くの人に伝わるかが、信楽さんの中では賭けだったようです。
犬の「ジョン」は8歳の雄犬、人間でいうところの48歳のおっさんだ。飼い主の影響でビートルズ好きで、ロックな生き方に憧れるが、飼い主が投げるフリスビーには嬉しそうに飛びつき、好物のジャーキーをもらえば尻尾を振るというありさま。そんなジョンがある日、「ハチ」という犬と出会い、バンドのボーカルに誘われる。「ビッグになる!」と向かったスタジオには、チワワのマロン(Dr)、秋田犬のゴンタ(Bs)が待っていた。ハチ(Gt)とジョン(Vo)を加えた4ピースバンドを結成し、武道館を目指して走り出す。という話です。
犬の目線で人間の言動にツッコミを入れる序盤は、昇太さんの「愛犬チャッピー」を彷彿させますが、本作のメインはこちらではなく、後半の犬によるバンド展開にありました。「犬」と「バンド」の掛け合わせから生まれてくる数々のクスグリ(ギャグ)。「バンドあるある」も加わって、面白さが増幅されていきました。
エンディングトークで彦いち師匠やタツオさんからもアイデアが出てきたように、聞く人の想像力を刺激して、観客自身がさらに妄想を膨らませることができる。原点をゼロから創り出した信楽さんはみごとでした。サゲは伝わらない人もいるかもしれませんが、サブスクやネットの時代、誰でも後から追えるのでこれはありだと思いますし、世代的にも個人的にも好きなサゲです。

三遊亭ふう丈-検索猿人

  • 三遊亭ふう丈さん

昨年末に亡くなったふう丈さんの師匠である円丈師匠は、数多くのナンセンス落語を創作してきました。ふう丈さんもナンセンス落語に憧れがあったということから、今回は意味を求めない落語を創ったといいます。
お父さん、お母さん、小3の息子・ユウトくんの3人家族。テレビを見ながら団らんしていると、お母さんはユウトくんに宿題をやりなさいと小言を言う。対してお母さんは、常にスマホで検索して調べてばかり。不満を漏らすユウトくんに対してお父さんは「サルティンバンコ!」などと意味不明のフレーズで答えるのみ。3人の会話がかみ合わない中、次第にテレビの中と現実の世界が融合して渦の中に巻き込まれていく。という話です。 「意味を求めないで聞いて欲しい」というふう丈さんのお願いでしたので、邪念を払い、落語の中で発せられる言葉の中に身を置くことを心掛けました。ストーリー展開を追う落語も楽しいですが、頭を空にして目の前で起こることに身を預け、1つ1つのフレーズに刺激されながら聞く落語も心地いい体験のひとつです。
エンディングトークでタツオさんが漏らしたように、タイトルの「検索猿人」が一番論理的だったというのが、ふう丈さんの生真面目さを表していて面白かったです。

春風亭昇羊-のれんわけ

  • 春風亭昇羊さん

擬古典という言葉は、吉笑さんが意識的に使い始めてから定着してきた感がありますが、昇羊さんの擬古典は、江戸の風が吹いていて、古典落語の世界にいるような感覚になります。そして今回も「吉原の祖」に並ぶ名作が生まれました。
舞台は江戸時代の大店の旅籠。丁稚の定吉が番頭の徳兵衛に用事を聞きに行くと、話したいことがあると引き留められる。旦那の跡継ぎを番頭の中から選ぶというが、徳兵衛はのれんわけで店を持ちたいという。理由は、女中のお絹と夫婦約束をしたからだ。徳兵衛は定吉を子供扱いしながら、お絹との色気話を自慢げに語り出す。
次に定吉が向かったのは手代の清七。一番番頭になれば旦那の跡を継げるが、清七はのれんわけで自分の店が持ちたい。理由は、女中のお絹と夫婦約束をしたからだ。清七は定吉を子供扱いしながら、お絹との色気話を自慢げに語る。その後、お絹と会った定吉は、お絹の本当の目的を知り……。という話です。
「吉原の祖」でもそうでしたが、昇羊さんは男を手玉に取る女性を描くのが本当に上手いです。骨抜きになっている徳兵衛と清七をたっぷり描いておいて、満を持してお絹が登場。想像を超える色気で迫ってきます。憂鬱の憂のワキに人を付けると「優」になるなど、知性も備えた女中・お絹は恐るべし。
お絹がたくらみを明らかにしてからサゲまでのテンポもすばらしく、初演とは思えないほど完成度の高い作品でした。

柳家さん花-人

  • 柳家さん花師匠

大学を中退してお笑い事務所に入り、そこで小さんの「笠碁」を知って、落語家になろうと思うも、なぜか円丈師匠のところに行って「流派が違う」と断られ、さん喬師匠に入門した経歴を持つさん花さん。二つ目時代に20作ほどの落語を創ったものの、ものにならずあきらめていたところを彦いち師匠に発見され、今回の出演になったそうです。「主人公は自分自身」「不幸が原動力」という今回の作品は、さん花さんの頭の中をそのまま言葉にして外に出したような、魂の叫びにも感じられました。「人」という一文字タイトルも意味深です。
42歳独身のタカシが喫茶店でスマホゲームに没頭していると、小学校時代の友達のケンイチの父親が現れた。話を聞くと、自分は事故で死んだが、神様から「人の願いを叶えて来い」と小言を言われたという。タカシは小学校時代、無職だったケンイチの父親をかばってくれたから、恩返しをしたいらしい。そこでタカシがリクエストしたものは……。という話です。
なりたかった落語家になり、昨年は真打に昇進。やりたいことに向かって前進している最中だけど、何か物足りないところもある。幸せになりたいが、人の役に立つためには、自分の身を不幸の場に置いておかなければならない。そういったさん花さんの今の心情が伝わってきました。もちろん、話自体に暗さはなく、後半のタカシの願いが叶うところはギャグもてんこ盛りで、言葉遊びも楽しい。創作落語としてもすばらしい作品でした。口調もきれいで、言葉の切れも良く、古典落語も聞いてみたいと思いました。

林家彦いち-あど人

  • 林家彦いち師匠

昨年、一昨年に続き、2月は彦いち師匠もネタおろしでの参戦です。日々、気になることからネタを拾っているという彦いち師匠。今回、目を付けたのは広告でした。
東京の酒造メーカーに勤めるイイズカくん。彼の出演した動画広告は、飲みっぷりの良さが評判となり、2億3,000万再生を記録する。しかし、激しい競争に疲れた彼は、会社を辞めて田舎に帰ってきた。そんなイイズカくんに田舎の父親が明らかにしたのは、彼の出生にまつわる衝撃の事実。広告一家に生まれた彼の運命は……。という話です。
広告をテーマにした落語は面白そうだし、誰もが創りたいと思うのですが、形にするのはなかなか難しい。いろいろなパターンが考えられる中、ギャグをふんだんに入れ込みながら、落語の形に仕上げてしまうのが彦いち師匠のすごいところです。ラジオで長年、社会ネタを料理し続けてきた師匠の技が冴え渡る創作落語でした。エンディングトークで「寄席でできるように磨いていきたい」、「スピンアウトのネタも創りたい」とおっしゃっていたので、この先の展開も楽しみです。
写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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