渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2022年 3月11日(金)~16日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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3月13日(日)14:00~16:00 柳家わさび 橘家文蔵 玉川太福 立川吉笑

「渋谷らくご」吉笑三題噺六日間 day3

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プレビュー

柳家わさび やなぎや わさび
橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう
玉川太福 たまがわ だいふく ※2015年創作大賞
立川吉笑 たてかわ きっしょう

 開演前に募集した三つのお題をおもとに、即興で噺をこしらえる「三題噺」。現在の「渋谷らくご大賞」そして「渋谷らくご創作大賞」の立川吉笑さんが挑む六日間、本日はその三日目です。
DAY3は、三題噺の大先輩、わさび師匠が登場! 「必笑仕事人」こと文蔵師匠で古典の世界をご堪能あれ。
吉笑さんと創作ユニット「ソーゾーシー」でも活動する浪曲の革命児 玉川太福先生は初代の「創作大賞」でもあります。「先輩方を相手に負け癖がついていた」と語った吉笑さんが、最初に出会った「壁」でもありました。
 そんな吉笑さん、90分後、世界初披露の創作らくごを発表します! 

▽柳家わさび やなぎや わさび 落語協会
23歳で入門、芸歴18年目、2008年二つ目昇進。2019年9月に真打昇進。痩せ形で現在の体重は52kg。わさび師匠のお母様がたまに渋谷らくごに見にくる。大学では油絵を学んだ、最近は自分で描いたイラストをラインのスタンプにした。

▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう 落語協会
24歳で入門、芸歴35年目、2001年真打昇進。ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。最近つくった料理は「たまねぎインゲンベーコンパスタ」。先日購入した「イカスミサイダー」を飲む勇気がない。

▽玉川太福 たまがわ だいふく 日本浪曲協会/落語芸術協会
1979年8月2日、2007年3月入門。サウナが大好きで、オフピークを狙いサウナに通い続ける。日本中に行きたいサウナがある。地方公演に行ったとき2時間あればさくっとサウナに入る。この時期花粉症に悩まされる。3回目のワクチンを左肩に打った。

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう 落語立川流
26歳で入門、現在芸歴12年目、2012年4月二つ目昇進。「渋谷らくご大賞2021」&「創作大賞 2021」初のW受賞者。もともとは酒豪だったが、酒断ちをしていまは炭酸水で過ごす。サウナに入ると、その晩は1時間くらいで寝付けるようになる。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

柳家わさび(やなぎや わさび)-団子坂奇談
橘家文蔵(たちばなや ぶんぞう)-転宅
玉川太福(たまがわ だいふく)/玉川みね子(たまがわ みねこ) -地べたの二人
  ~十五年・おかず交換・湯船の二人~
立川吉笑(たてかわ きっしょう)-そゔぁ
  アイドル・ほのめかす・メンヘラ

早咲きの桜が見頃を迎えた東京で、季節外れの嵐が起こっていた。その名も吉笑三題噺六日間。その三日目の日曜日、どんな春の嵐が吹き荒れるのか。

柳家わさび師匠

  • 柳家わさび師匠

美しい桜色の着物がお似合いのわさび師匠、何となく緑色を思わせる師匠の名前が着物と対照的でにくい。そして新作もこなすわさび師匠が、トリを務める吉笑さんをいじらないはずがない。そのいじり方も半端ない。直前に出された吉笑さん用のお題を使い倒してくる。しかも噺の作り方を解説をしながら、つまり落語家の手の内を見せながら、である。なんというプレッシャー!自分が吉笑さんだったらしばらく口を利かないだろうな、これはやはり新作でくるのかと思っていたが、団子坂奇談という古典を本編に持ってきた。桜色の着物にも合点がいく春の怪談話だが、本編でも再びお題を使ってくる。相撲用語で見所のある弟弟子に兄弟子が厳しく稽古をつけることを「かわいがり」というそうだが、その言葉が頭をよぎった。次にいつお題を使ってくるかが気になり、結構怖いはずのこの物語があまり怖くなかった、のもおかしかった。

橘家文蔵師匠

  • 橘家文蔵師匠

わさび師匠とは正反対のアプローチで吉笑さんを気遣う文蔵師匠。盗人の噺は縁起がいいからと始められたのが、間抜けが取り柄の泥棒が主人公の「転宅」。
文蔵師匠のものを食べる所作が好きだ。盗みに入ったあるお妾さんの家で、飲み残しのお酒から始まり、マグロの赤身、ぬた、芋のにっころ、と食い意地の張った食べっぷりを泥棒が披露していく。しかしどんなに食い意地が張っていても汚らしくない、むしろその食べっぷりが気持ちいいのが文蔵師匠の泥棒だ。これが泥棒じゃなかったら、きっとお菊さん(盗みに入られた家のあるじ)も「もっとお食べ」と言っていたに違いない。 また、お菊さんをおかみさんにできると知った時の泥棒の張り切りぶりがめちゃくちゃ可愛らしかった。その後の展開を知っていると痛ささえ感じる可愛さにも参った。
吉笑さんへの花道をきっちり作っていく文蔵師匠が格好よかった。

玉川太福先生・玉川みね子師匠

  • 玉川太福先生・玉川みね子師匠

この日の太福師匠は吉笑さんから「時間を気にせずたっぷりやってきて」と言われたとのこと。まくらも本編もたっぷりたっぷり、ここまでやったら太福さんトリじゃないの?というところまで持ってきた。なんと「地べたの二人」を三篇演じるとは。
齋藤と金井という二人のたわいない会話が筋なのだが、親子とほどにも離れた同僚となるとお互いコミュニケーションにも気を遣う。気遣いのすれ違いが痛々しく、そして笑わしてくれる。基本的に年長者の齋藤の気遣いが過剰なのだが、時々絶対に折れないところがおかしい。たとえば金井の買ってきた鳥から弁当の唐揚げが欲しいとなったら絶対に欲しい齋藤、そういう大人の大人気なさも結構リアルだ。
齋藤のうっとうしい系の人間臭さに対して、金井はサッパリ系、時々キレ系に走って暴言を吐き、齋藤をおびえさせる。金井という若者代表(と言ってももう33歳らしい)の人間臭さもこの日も全開だった。ジェネレーションとキャラクター、二つのギャップが生み出す人間ドラマが濃厚に繰り広げられた「地べたの二人」三篇だった。

立川吉笑さん

  • 立川吉笑さん

この回が始まる前に前日の吉笑さんの制作ぶりを伝えるドキュメンタリーが流れた。それを見てやっぱりなんて酷な企画だったのかと思った。「吉笑さんなら、大変だろうけれど、できちゃうだろう」と軽々に思ったことを詫びたい。
この日曜日三日目のお題は「ほのめかす」「メンヘラ」「アイドル」。「『メンヘラ』と『アイドル』が近すぎて怖い。メンヘラのアイドルってすぐなっちゃうから」というのがお題を見た直後の吉笑さんの第一声だった。「それだったらラッキー」とはならないところにクリエイター気骨が垣間見えた。
擬古典かなと思っていたらその通りきた。「戸は開いどるよ」(アイドル)、「アホ飲めカス!」(ほのめかす)、「ごめんヘラ」(メンヘラ)。後ろに書いてあったお題が全て消えたな、と思ったら、まさかの?取り消し、使った用語が後ろのスクリーンに復活した。そして江戸の街が蕎麦で埋め尽くされたという設定の「そゔぁ」という本編に入った。
長屋の「アイドル」お絹(団子坂奇談の女性と同じ!)が、その蕎麦だらけの江戸の中心にいる、彼女をいかに救うか、がこの物語。汗だくになりながら、オチまできっちり決めてきた吉笑さん、本当にお疲れ様でした。
しかし吉笑さんはじめ落語家は勉強家だと改めて知った。お笑い、アニメなどなど、さまざまなエンタメを吸収して自分の芸にしていく、その地道な過程に本当に頭が下がった。
ハラハラドキドキも含めて、楽しませていただきました!

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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