渋谷らくごプレビュー&レビュー
2022年 5月13日(金)~18日(水)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
浪曲師 玉川太福先生は「渋谷らくご」の屋台骨を支える大きな存在です。古典から創作、浪曲という芸能の魅力を初心者でもわかるように伝えてくれるナイスガイです。ぜひこれをキッカケに浪曲に触れてもらいたいです。気になった方は浅草の木馬亭にも行ってみてね。
最高齢の若手 寸志さん、渋谷らくごの妖精 百栄師匠、落語侍 わさび師匠と、古典/創作をTPOに合わせて引き出せる名手たちの競演です。
▽立川寸志 たてかわ すんし 落語立川流
44歳で入門、芸歴11年目、2015年二つ目昇進。編集マンをやめて、落語家になった。チラシの構成から、文章まで編集マンの能力を遺憾なく発揮する。CMの曲を無意識に口ずさんでしまう、「ちゅーるちゅーる チャウチュール」が頭の中で鳴り止まない。
▽春風亭百栄 しゅんぷうてい ももえ 落語協会
年を取らない妖精のような存在。さくらももこ先生とおなじ静岡県清水市(現・静岡市)出身、2008年9月真打昇進。
落語協会の野球チームでは、名ピッチャー。アメリカで寿司職人のバイトをしていた。日常生活の様子はわからないが、猫好き。
▽柳家わさび やなぎや わさび 落語協会
23歳で入門、芸歴18年目、2008年二つ目昇進。2019年9月に真打昇進。痩せ形で現在の体重は52kg。わさび師匠のお母様がたまに渋谷らくごに見にくる。最近私服にこだわっていて、濃い緑色のマスクをつけて「生わさび」の柄が入った靴下を履いた。
▽玉川太福 たまがわ だいふく 日本浪曲協会/落語芸術協会
1979年8月2日、2007年3月入門。サウナが大好きで、日本中に行きたいサウナがある。アイスクリームのパルムを冷凍庫から取り出して10分間置いておいてトロトロの状態で食べるのが好き。最近のお気に入りアイスは「ヨーロピアンワッフルサンド」。アイスはすぐに食べずに少し置いて溶かせて食べるタイプ。
レビュー
立川寸志(たてかわ すんし)-引越しの夢
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ)-水屋の完全試合
柳家わさび(やなぎや わさび)-肯定の箱
玉川太福(たまがわ だいふく)/玉川みね子(たまがわ みねこ)-男はつらいよ 第十七作
寅次郎夕焼け小焼け
久しぶりに人形浄瑠璃を見てきた。歌舞伎や人形浄瑠璃に出てくる妻たちは貞淑で、夫を立てる女性が多いが(悪役的に逆もいるが)、落語に出てくる女性たちは夫や男性を手玉に取る、あるいは発破をかける強かな人間が多い。昔の女性も逞しく生きていたんだな、と思わせられる。
共通しているのは人々の情が濃いこと。自分の喜怒哀楽も、相手への思いやりも強い、強すぎる。だからこそ色々事件が起きてしまうのだが…。
立川寸志さん 「引越しの夢」
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立川寸志さん
今回の本編は、新しい女中に色めきたつ、とある商家の噺「引越しの夢」。美人の女中を前にして男前な声色を出したり、勘定を誤魔化していい思いをさせてあげるから布団に入り込むのを許して欲しいという大胆な番頭。そんな有頂天の番頭を利用して、胡麻をする小僧。女中をきっかけに、番頭から小僧に至るまで、軽妙に色と欲が盛り上がっていく。
くすりとさせられたのが、番頭さんと二番番頭さんが落ちてきた吊り棚をそれぞれ左右の肩に支えながら、会話を交わしていくところ。話者が替わるたびに、さっと左右の腕の形を変えていく、その会話と腕の形の入れ替わりが軽妙だった。
男たちが、新入り女中の寝室に忍んでやってくることを見越していたしっかり者の女将さん、この二人の間抜けな姿を発見する。左右それぞれL字の腕で吊り棚を支えながら「引越しの夢」を見ておりました、というのはあまりに無理がある。この後、おかみさんはこの二人をどうやって叱りつけたのか、それとも散々笑い物にしたか、どっちだろう?
春風亭百栄師匠 「水屋の完全試合」
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春風亭百栄師匠
師匠はアメリカ在住経験があるためか、アメフトが大好きらしい。シーズンが来たら朝3時半から9時までずっとDAZNで観ているとのこと。そして披露されたアメフトがらみのアメリカンジョーク。そう、笑いのツボって国によってほんとに違いますよね。師匠、笑えなくてすみません。
話は日米で盛り上がっている野球に展開、アメリカの野球にも本当にお詳しい。そして先日のロッテの佐々木朗希投手の完全試合の話へ。そこから完全試合に向かっているブルペン&ベンチの会話という本編に突入した。
完全試合中のブルペンでは、ピッチャー3人が調整しているが、完全試合はどこか人ごと。誰もが自分がチームで最初に完全試合を達成するはずだった、そして達成したら、という妄想を、まるで宝くじが当たったら、とでもいうように展開させていく。毎回真剣勝負のプロ選手には申し訳ないが、すごくリアルに感じられるのはなぜだろう。
そして雰囲気を大事にするべき場面での監督のまさかのプレッシャーの畳み掛け、さらに観客に女子アナコールを起こさせる。女子アナコールはともかく、プレッシャーをかけにいく監督もいそうだ。
佐々木朗希投手は本当にすごい、が、完全試合を見ながら、一見自堕落な雰囲気で、なんなら一杯やりながら、頭を高速回転させて噺を作っていたであろう百栄師匠の様子を想像して、見た目の緩さと頭の回転の速さのギャップが怖いほどすごい。
柳家わさび師匠 「肯定の箱」
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柳家わさび師匠
そんな師匠が不穏なことをおっしゃる。芸能人の自殺がちょうど続いた時期だったが、飲む頻度が増えている、飲むと単純になれるから、とのこと。前日のお仕事でいい成績を出せなかった。夜中の3時半に目覚め、それから眠れず、自殺が頭によぎったとおっしゃる。
そこでふと思い出したらしい「いのちの電話」、わさび師匠いわく、それぞれの仕事のいのちの電話が要るのでは?と。ちなみにわさび師匠の「いのちの電話」の相手は、次の出番の玉川太福師匠の相三味線、みね子師匠。というのもわさび師匠の内弟子時代の話に泣いてくださったとのこと。そういう温かい記憶があれば、生きていけるでしょう!師匠!
この日の本編は、「絶滅危惧種」「ブーメラン」「異才」というお題をもとにした「肯定の箱」という三題噺。三題噺といえば3月の立川吉笑さんの6日連続三題噺公演が記憶に新しい。そういえば吉笑さんにマウントをとるかのような、わさび師匠の一席も鮮烈でした。
さて、主人公はバブル時代を謳歌した世代の部長さん。メールをFAXと言い間違え、ウォッチカレンダー(検索しました)やテトリスの専用ゲーム機を愛用して、社内で「絶滅危惧種」と呼ばれることを肯定してもらうのだが、という物語。
こんな「絶滅危惧種」、誰だって歳を重ねればなりうる。「肯定の箱」で自信を得て「赦しの箱」へと移った部長さん、どうやったら世代の異なる価値観を温かく受け止められるのか、教えてください!
玉川太福師匠 w/玉川みね子師匠 「男はつらいよ 第十七作 『寅次郎夕焼け小焼け』」
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玉川太福先生・玉川みね子師匠
さて本編は「男はつらいよ」の「寅次郎夕焼け小焼け」を取り上げた一席。物語の始まりでルンペン風の老人が無賃飲食で咎められているのを救い、はしごした挙句、家に泊めてやる、といったところで既に人情の濃さを感じる。実はこのルンペン風のおじいさんが当代随一の日本画家で、さらに旅先でマドンナに出会って相談を持ちかけられることから話が展開していく。
なぜ、太福師匠が寅さんを取り上げているのかはよくは存じ上げない。ただ、わさび師匠との人間臭いやりとりからの寅さん本編はなんだかすごく腑に落ちた。人間の情の濃さ、その濃さを謳い上げる。濃厚な人間のやりとりの、面倒臭さを超えた魅力が溢れた一席だった。