渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2023年 2月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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2月10日(金)20:00~22:00 柳家やなぎ 春風亭昇輔 柳家花いち 三遊亭青森 林家彦いち

創作ネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」

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プレビュー

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 昨年は衝撃の、桂伸べえさんの大賞受賞で幕を閉じた創作らくごネタおろし会。
「渋谷らくご」が偶数月に開催している、超党派、キャリア不問の無差別級のイベントです。普段は古典をやっている人も、あるいは新作一本の人も、みんな平等に創作を発表する。お客さんと一緒に創り上げていく落語。
 未来の古典はお客さんなくして創れません! 今月は2022年最初の会。彦いちプロデューサーも、自身で高座にあがる気合の会です。今回は、昨年のファイナリスト三遊亭青森さん、真打の柳家花いち師匠、昨年に続き柳家やなぎさん、初登場の昇輔さんと多彩な顔触れ。 トリはもちろん、彦いち師匠。実力者勢ぞろいの「しゃべっちゃいなよ」、絶対に見逃せません!

▽柳家やなぎ やなぎや やなぎ 落語協会
2010年20歳で入門。2015年5月二つ目昇進。芸歴13年目。ツイッターやインスタグラムなどSNSをやっておらず、日常生活などは発信しない。おしゃれなメガネを何種類か持っている。

▽春風亭昇輔 しゅんぷうてい しょうすけ 落語芸術協会
2015年23歳で入門、2019年9月二つ目昇進。芸歴8年目。午後のロードショーで放送されたチャック・ノリス主演の「デルタ・フォース」を観て、テンションがあがった。一番好きなおでんの種は、大根。一番好きなお風呂上りに飲むものは、コーヒー牛乳。

▽柳家花いち やなぎや はないち 落語協会
1982年9月24日、静岡県出身。2006年入門、2021年9月真打昇進。先日、お蕎麦やさんに行ったところ乱入してきた獅子舞に頭を噛まれた。実家に帰った時はB612をつかってお父さんと盛った写真を撮る。

▽三遊亭青森 さんゆうてい あおもり 落語協会
23歳で入門、現在入門9年目、2019年2月二つ目昇進。「2022年渋谷らくご優秀賞 たのしみな二つ目賞」受賞。Youtubeやtwitch.tvでゲーム配信をしている。最近「ドラゴンクエスト11」をプレーするようになった。スパイファミリーの缶バッチを手に入れた。

▽林家彦いち はやしや ひこいち 落語協会
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。アウトドアではできるだけコーヒー豆を持って行って、コーヒーを飲む時間を楽しむ。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

柳家やなぎ-Barの奥
春風亭昇輔-銀座山
柳家花いち-遺産相続
三遊亭青森-予告編
林家彦いち-やごろう

前日の2月9日から、都内の天気予報は雪。当日は朝から雪が降り、夜にかけて大雪が予想されていました。しかし、昼を過ぎたころから雨に変わり、積雪を心配することもなくなりました。多くの方が夜の外出を控えていた中、18時からの「柳家花ごめの怪噺」と、20時からの「しゃべっちゃいなよ」には多くの方が足を運んでいました。2023年第1回のしゃべっちゃいなよは、初登場の昇輔さん、上り調子の青森さん、安定のやなぎさん、真打の花いち師匠と、バラエティ豊かな会となりました。彦いち師匠もネタおろし。寒い日でしたが熱い時間となりました。

柳家やなぎ-Barの奥

  • 柳家やなぎさん

昨年8月の初登場で、幽霊とモンスターマザーの対決をコミカルに描いた「洋館の霊」で実力を見せつけたやなぎさん。2度目の登場ということで、いやがうえにも期待が高まります。
ある雪の夜。タツという若い男がとあるBarにやってきた。ボスを殺して組織を乗っ取るために、Barの店長のキリシマに毒薬の手配を依頼していたのだ。タツは毒薬を意味する「リンゴジュース」というシークレットコードを店員に告げるが、出てきたのは本物のリンゴジュース。キリシマだと思っていた男は、入って2日目のバイトだった。買い出しに出かけたというキリシマは帰ってくるのか? 毒薬はどこにあるのか? という話です。
マクラなしですぐに物語の世界へ。ハードボイルドの雰囲気をまとった演出で、その世界感に引き込まれます。基本的な骨格は、バーテンダーと客の会話のコントに近いものですが、毒薬の裏取引という設定を加えることで、スリリングな物語に仕上げています。バイト君とタツのすれ違い、ボケとツッコミ。ちぐはぐな会話や、タツの間抜けなキャラクターに、何度も笑ってしまいました。オチもみごとに決まって、ネタおろしとはいえない完成度。
出囃子が流れて、高座に出てきた時点で、やなぎさんは役に入りこんでいて、高座を降りる時も役の人の雰囲気をまとったまま去っていく。最初から最後まで世界感を貫いた計算尽くの一席でした。

春風亭昇輔-銀座山

  • 春風亭昇輔さん

前座(あまぐ鯉)時代、シブラクの高座返しをお手伝いしていたこともあるという昇輔さん。今回のしゃべっちゃいなよが、シブラク初登場とのこと。
ネタは、子どもがペットを拾ってきたことで、家族に騒動が起こるペットもの。ただし、子どもが拾ってきたのは、青森県出身の男性演歌歌手の“I・Y”でした。「次の飼い主が見つかるまで」の約束で、家族の一員として生活を始めたIだが、ある日、東京から大物の演歌歌手がやってきて、Iを競走馬として引き取りたいという。さて、Iの運命はいかに…。という話です。
ペットを拾う話は、落語に限らずエンターテインメント全般で一般的にあるのですが、「何を拾ってくるか」がポイントで、演歌歌手に目を付けたところが昇輔さんのユニークなところです。多くのヒット曲を持つI・Yの曲を、物真似を交えて巧みに盛りこみながら、オリジナリティのある創作落語に仕上げていました。今、30歳ちょいの昇輔さんでもI・Yのヒット曲は脳内に残っているんですね。
I・Yさえ知っていれば、シンプルでわかりやすい話で、ギャグもふんだんに入っているので、ちょっとした飛び道具として昇輔さんの武器になっていく期待と予感を抱かせる落語でした。

柳家花いち-遺産相続

  • 柳家花いち師匠

真打昇進後もコンスタントにしゃべっちゃいなよに出演を続けている花いちさん。今回も真打らしい、別格の創作落語を披露してくれました。
行列ができるシュークリーム屋で、限定1個のシュークリームを買ってきたお父さん。「お母さんと子ども2人の3人で分けて食べて」と、お父さん自ら3等分に切り分ける。しかし、上半分のシュー生地と下半分のシュー生地を子どもが食べ、中のクリームはお母さんが食べる奇妙な分け方。将来の遺産相続に備えた事前演習のようです。“分け方”に納得のいかないお母さんに対して、お父さんはそれなら「言葉」を遺産相続の比率にあわせて分けてみよう、「日本」自体を分けてみようと言い出し、お母さんはさらに混乱する…。という話です。
遺産の分け方がポイントで、シュークリームというモノから、言葉へ、さらに日本という土地そのものへと、本来分けられないものに発想が拡がっていくところがユニークです。ちょっとバカリズムさん的で、なかなかそういうところまでたどり着けない斬新な発想。花いちさんの非凡さがわかる秀逸な設定とギャグでした。
真打になって、寄席の出番も増えてきた花いちさん。寄席でも意欲的に創作落語をかけていて、どこのポジションでもお客さんを笑わせて、役割を果たしています。そのせいか、最近は寄席でできる創作落語を増やしているようで、今回の「遺産相続」もストーリーはわかりやすくて親しみやすい。この話も寄席でも聞けるかもしれません。

三遊亭青森-予告編

  • 三遊亭青森さん

「2022年渋谷らくご優秀賞 たのしみな二つ目賞」を受賞した期待の青森さん。最近公開の渋谷らくごのポッドキャストでも、ドキュメント落語の「マイファーストキッス」が配信されました。本人は、ポッドキャストの再生数が少ないと自虐的にいっていましたが、「マイファーストキッス」は青森落語の面白さを知るのに絶好の作品。落語のイメージが覆されるので、ぜひ多くの人に聞いてもらいたいです。
今回は、「ネタができなかった」という体で、いずれ自分が作る創作落語の「予告編」を聞かせるから、お客さんが脳内で物語を完成させて欲しいと訴えました。「あの夏の僕たちは誰よりも輝いていた」というモノローグで始まったのは、高校生の男子2人と女子1人がひと夏の思い出を作ろうと深夜の学校に忍び込む話。このあたりは、高校時代の恋愛を振り返った「マイファーストキッス」にも通じる甘酸っぱさがあります。
しかしそこから物語は転がり始め、学生同士が殺し合いを強いられる「バトル・ロワイアル」や、地球を救うべく宇宙に旅立つ「アルマゲドン」のような展開に。青春、恋、友情、怒り、絶望、裏切り、希望、笑い。すべてを盛りこみ、起伏に富んだ予告編は、予告編なのに25分以上にわたる大長編。普通に1席を話すより長いです。まんまと青森さんの世界に持っていかれました。
語りのスタイルは、ほとんどがアジテーションのようなモノローグ。講談でいうところの「語り」の部分がアジテーションなっている雰囲気で、登場人物の会話は少なめです。彦いち師匠が「ドリアン助川さんかと思った」というくらい、叫びが多め。慣れてくると、あのスタイルがクセになってきますね。ちょっとやばいです。2023年も青森さんから目が離せません。

林家彦いち-やごろう

  • 林家彦いち師匠

夢の続きが気になるという話から今回のお話へ。誰かの夢の中。マサル兄ちゃんが、悪人に追われているタカシ少年とジャックラッセルテリアの“やごろう”を、真っ赤なオフロードバイクに乗せて逃げている。追っ手が迫り来る緊張のシーン。そこに鳴り響くのは目覚まし時計のピピピ音。夢の続きが見られなくなってしまいました。
早起きした理由は、同居人が釣りに行くことになっていたため、同行することになっていたから。東名高速で伊豆半島の網代に向かう途中、夢の続きを見ようと思ったものの、夢と現実が交差して、思うような夢が見られない。夢の続きはどうなるか。夢の中のマサル兄ちゃん、タカシ少年、やごろうの運命はいかに…。というお話です。
夢と現実、それぞれのショットをカットバックでつないでいく構成がみごとです。最初ははっきりに分かれていた夢と現実が、徐々にぼやけてきてグラデーションが透明になっていきます。そして最後まで明かされない夢を見ている人物。あらゆる場面で観客の想像力をかきたてて、物語の世界に没頭させてくれる作品でした。
そして、しゃべっちゃいなよの彦いち師匠における恒例行事ともいえる、前の4人の落語に登場したフレーズや人物を無理やり入れ込む力ワザも。彦いち師匠のパワーには毎回、毎回、驚いてばかりです。

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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