渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2023年 4月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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4月14日(金)20:00~22:00 瀧川鯉白 春風一刀 柳家さん花 立川談洲 弁財亭和泉「プロフェッショナル」

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ」★配信あり

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プレビュー

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瀧川鯉白 たきがわ りはく
春風一刀 はるかぜ いっとう
柳家さん花 やなぎや さんか
立川談洲 たてかわ だんす
弁財亭和泉 べんざいてい いずみ  この一席!「プロフェッショナル」
 ◎トーク:林家彦いちプロデューサー、サンキュータツオ

 時代は創作らくごだ!
「渋谷らくご」が偶数月に開催している、超党派、キャリア不問の無差別級のイベントです。普段は古典をやっている人も、あるいは新作一本の人も、みんな平等に創作を発表する。お客さんと一緒に創り上げていく落語。
 未来の古典はお客さんなくして創れません!2023年の第2回のエントリー、今回は昨年に続き真打のさん花師匠が登場、決勝進出経験者の一刀さん、談洲さん、そして二つ目の新星 鯉白さんと全員がこのまま12月の決勝にいってもおかしくないメンバー。
 トリは次世代にも継承してほしい創作「この一席」、この渋谷らくごで生まれた「プロフェショナル」を和泉師匠が語ります。
 お楽しみに!

▽瀧川鯉白 たきがわ りはく 落語芸術協会
29歳で入門、芸歴13年目、2016年4月二つ目昇進。Youtubeでショートフィルム公開している、ぬいぐるみのポポが家の中を歩き回るストーリー。先日球を転がして穴に入れるおもちゃを購入してみた。

▽春風一刀 はるかぜ いっとう 落語協会
25歳で入門、芸歴11年目、2017年11月二つ目昇進。先日沖縄にいって、ポケモンセンターに立ち寄った。好きなポケモンはカイリュー。親知らずがまだ1本抜けていない。シブラクの帰りは家系ラーメンを食べる。

▽柳家さん花 やなぎや さんか 落語協会
1979年8月1日、千葉県出身。2006年9月入門、2021年9月真打昇進。身長が180cmを超えている。辛いことがあった時はドリンクバーで流し込む。新米パパとして絶賛育児中。吉野家のカウンター、パーテーションで区切られている感じにテンションが上がる。

▽立川談洲 たてかわ だんす 落語立川流
2017年1月入門、現在6年目、2019年12月二つ目昇進。ヒップホップ基本技能指導資格を取得している。飲み会で打ち解けられるが飲みすぎて打ち解けた記憶を無くしてしまう。「王様戦隊キングオージャー」のカッコよさに感銘をうけた。

▽弁財亭和泉 べんざいてい いずみ 落語協会
2005年8月入門、現在18年目、2021年3月に真打昇進。28歳で突如会社を辞めて落語家になった元OL。よくいくスーパーは、SEIYUやLIFE。人々の生活の些細な出来事をよく観察して自身の演目に反映している。「ガラスの仮面」のラストを心待ちにしている。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

瀧川鯉白-電車のはじっこの席
春風一刀-恋する惑星
柳家さん花-十貝
立川談洲-三枚舌
弁財亭和泉-プロフェッショナル
プロデューサー: 林家彦いち

「しゃべっちゃいなよ」初登場の鯉白さん。初対面の彦いち師匠は、鯉白さんが断崖絶壁に立つ日本一危険な国宝「投入堂(なげいれどう)」がある鳥取県三朝町出身と知ると、ダークヒーローの役小角(えんのおづぬ)が作ったとされる投入堂と鯉白さんを結び付けて大興奮。妄想を爆裂させる彦いち師匠が面白かったです。2回目の登場となったさん花師匠に、楽しみなの若手、一刀さんと談洲さんが揃って充実した会となりました。
レジェンド噺は、今回から名前を変えて次世代に残したい噺として「この一席!」に変更になったそうです。「レジェンド」が取れたことで、ゲストの方も出演しやすくなるかもしれません。第2回創作落語大賞受賞の「プロフェッショナル」、何度聞いても笑って感動できる名作です。

瀧川鯉白-電車のはじっこの席

鯉に白いと書いて、りはくと読みます。鯉昇一門の11番弟子。ユニークな逸材が揃っていますね。髪の毛が宣材写真より伸びています。彦いち師匠の感じた印象とはちょっと違う雰囲気で、どんな創作落語が出てくるのか期待が高まります。
JR中央線、満員の電車の中で、入口密集度の低い「はじっこの席」に1人の男が座り、独り言をつぶやきながら優越感に浸っている。そんな男が、現実社会で自分の居場所を見つけるために取った行動とは…。という話です。
創作落語では往々にして、登場人物の独り言で状況や感情を伝えることがあります。一般の社会生活では、人前で自分の心情を独り言でしゃべっている人はほとんどいませんが、落語では登場人物の心の声(モノローグ)として観客は聞いています。鯉白さんの本作は、そのお約束を逆手に取ったもので、登場人物の心の声と思って聞いていたセリフが、実は登場人物が満員電車の中で本当にしゃべっていて、ダダ漏れになっていたというつかみです。
それだけで、「ちょっとおかしな人が出てきたぞ」というわくわくに変わっていきます。その後でわかっていく男の境遇がちょっと切ない。最後に取った男の行動は決して笑えるものではないのですが、オチの一言で希望が持てるところがこの落語を暗くしていないところですね。 電車の中を描いた創作落語には彦いち師匠の名作ドキュメンタリー落語「睨み合い」があります。モノローグではなく、彦いち師匠が客観的に電車の中の様子を描いた地噺ですが、狭い車両の中でドラマが起こる点は共通するものがあるかもしれません。「もう1人登場人物がいてもよかった」というアドバイスを最後に送った彦いち師匠。的確な指摘ですね。
声がよくて、不思議な雰囲気をまとった鯉白さん。他の創作落語も聞いてみたくなりました。

春風一刀-恋する惑星

マクラを振らず「一刀なので真剣にやります」の定番フレーズからすぐに本編に入っていった一刀さん。
夜な夜な飲み歩き、遊び呆けている男と、来月で30歳になり、男との結婚を夢見ている女。この2人の会話で進む会話劇です。それだけといえばそれだけですが、テンポがよくて、ボケのフレーズが絶妙で、専門用語の連射砲が半端ない。一刀さんのストロングポイントと、笑いのセンスが発揮された傑作です。
二日酔いで頭が痛いという男に対し、女が「どれくらい飲んだの?」と聞くと、男の答えは「琵琶湖2杯分」。冒頭のこのやり取りだけで、この落語のトーンが決まっていきます。そこからは、ルチャリブレ、カブロン内藤哲也、フランケンシュタイナー、カシアスグレイ等の格闘技用語から、「山城新伍決める」「ケンシロウレインボー」「ノーマネーでフィニッシュ」「走攻守揃っている石井琢朗」「いつするの?」などキリがないほど、良フレーズの連発。お客さんが理解する、しないに関係なく、ひたすら会話の面白さを優先して突き進んでいく清々しい落語です。
彦いち師匠も「“地味クン”(タイトルは「存在感」)に続いて、寄席でもできるかも」とおっしゃっていましたが、確かに池袋あたりなら可能性はあるかも! この話が育っていったらもっともっと面白くなるような気がしています。

柳家さん花-十貝

2022年2月以来、2度目の「しゃべっちゃいなよ」の出演。本当は出たくなかったのに、今回のオファー(赤紙)をなぜ受け入れたのかを、マクラで説明し始めたさん花師匠。理由を聞くと、その誠実さが伝わってきます。そんなわけで、追いこまれて作ったという本作ですが、迫ってくる勢いがあって笑ってしまいました。
出だしのセリフは「モーゼ様!」。イスラエル人の「タミオ」が、エジプト人の追っ手がすぐそこに来ていることをモーゼに伝えにくる緊迫感あるシーンから始まります。海に追い詰められたモーゼが神に「力を与えたまえ」と祈ると海が「パッカーン」と割れて逃げることができました。映画の有名シーンです。
しかしタミオが納得できないのは、海が割れたせいで魚が死んでいることです。十戒の中には「殺人をしてはいけない」とあるのになぜ魚を殺すのか。何度も海を割り続けるモーゼに抗議を続けるタミオですが、約束の地を目指す途中で同じイスラエル人のタミコと結婚して子供を授かります。所帯を持ったタミオが取った行動と、その心変わりは何なのか…。という作品です。
落語の登場人物が、モーゼとタミオで、モチーフが十戒。二度とやらないつもりで作ったのかもしれませんが、モーゼや十戒の内容が嘘ではない形で盛りこまれて、本物に寄せてきているので決して荒唐無稽ではありません。後半の展開は極めて落語的ですし、意外と別の場所で再演しても面白いかもという印象を持ちました。海を割っても生き残っていた生物の中に「うなぎ」が入っていたのが面白かったです。

立川談洲-三枚舌

「落語は受け手が想像する芸で、無限の世界と紙一重」というマクラから本編に入っていきます。
八五郎、ヤヒコ、アニキの3人が牢屋に入っている。退屈しのぎに落語でもやりますという八五郎。しかし八五郎のやる落語は、「隠居さんのフンドシが取れた」みたいな他愛のないものばかり。しかし、何度も聞いているうちにアニキの様子に変化が訪れる。アニキが見えているものは何なのか…。という話です。
牢屋に入っている3人がいて、そのうちの1人が落語をするという単純な設定なのですが、あらすじとして紹介するのは難易度が高いです。落語は、落語家がしゃべったことを観客が想像する芸なので、ドラマ、映画、1人コントのように登場人物が直接的に見えるわけではありません。観客は登場人物の姿をイメージとして想像しているのですが、談洲さんの今作は、牢屋の中で落語を聴いて想像している3人と、その3人を談洲さんの落語を聴いて想像している観客である私たちのマトリョーシカ構造の中で、見えるものと見えないものを描いている。落語の構造そのものを利用した斬新な作品でした。新しいことにチャレンジし続ける談洲さん。兄弟子の2人とは違う方向で進化を続けていて、これからの作品もますます楽しみになってきます。

弁財亭和泉-プロフェッショナル

2016年の創作大賞受賞作ですから、7年も前の作品なんですね。確かに「意識高い系」の新入社員が話題になり始めたのが2015年くらいからでした。アフターコロナ世代、Z世代になると、社会貢献への意欲や、自己成長への意識が高い新入社員も増えているようですが、どの時代も本作の登場人物のような新入社員はいるもので、「プロフェッショナル」は不朽の名作です。
中堅の製パン会社に入社した若林クン。新人研修で工場のラインに配属され、コッペパンに唐揚げ2個を挟む仕事を任された。成績優秀でマーケティング志望の若林クンにとって、工場研修は無駄で意味を見出すことができない。さらに、製造ラインについている3人の先輩女性社員からはやる気も感じられない。人事担当から「あと3日だけ」と説得されて渋々働く若林クンだったが…。という話です。
いわゆる、何も知らない生意気な若手社員が、プロフェッショナルな人々の仕事を知り、社会人として成長するという王道パターンのドラマです。和泉師匠は社会人経験7年のキャリアを活かして、ディテールを重ねていきます。製造ラインで働く3人の女性社員(おばちゃん)のキャラクターもユニークで、AMラジオ好きのカゼタニさん、いつも居眠りしているヒモトさん、舌打ちしているヤマザキさんと、個性が際立っています。
何度聞いても最後のBGMが流れるシーンで感動してしまうのは、基本に忠実(いわゆるベタ)に物語を作っているからなんですね。ベタでありながら、和泉師匠しか作れないオリジナリティがたっぷり詰まっている。30分近い大作ですが、物語に没頭しているうちに時間が過ぎていきます。
落語でストーリー物は、なかなか難易度が高いのですが、和泉師匠はストーリー物と相性がよくて、どの作品も完成度が高いです。創作大賞受賞後も、ヒット作を連発している和泉師匠。新たな「この一席!」での登場が楽しみです。

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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