渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2023年 8月11日(金)~16日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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8月11日(金)17:00~19:00 三遊亭ごはんつぶ 林家つる子 三遊亭ふう丈 昔昔亭A太郎 立川笑二

創作らくごネタおろし「しゃべっちゃいなよ ~真夏のネタおろし祭り~」

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プレビュー

 *配信でもご覧いただける公演です

 渋谷らくごの偶数月は、団体・キャリア関係なしの、創作らくごネタおろし会「しゃべっちゃいなよ」。2023年の第4回です。無差別級格闘技のようなヒリヒリを体感できる人気会です。創作せぬ者は落語家ではない!と言われる時代は、すぐそこまできている…
 前座の頃から創作に挑んでいるごはんつぶさん、古典から創作まで芸の幅の広がりを追及し続けるつる子さん(来年抜擢での真打昇進が決まっているのにネタおろしするなんて!)、愛すべき人柄を感じさせるナンセンス落語が持ち味のふう丈さん、奇妙と狂気の人、A太郎師匠。笑二さんは12月の決勝大会でも常連の、恐怖と笑いの境界線を攻める落語が持ち味!
 アツすぎる、真夏のネタおろし祭りだよ!!

▽三遊亭ごはんつぶ さんゆうてい ごはんつぶ 落語協会
2017年20歳で入門、芸歴7年目、2022年11月二つ目昇進。ツイッターからtiktokまでをも駆使して情報発信している。なかなか着替えが終わらずに支度が間に合わない夢をみるようになった。アマゾンの欲しいものリストを公開している、いまゴムマットが欲しい。

▽林家つる子 はやしや つるこ 落語協会
2010年9月に入門、2015年11月二つ目昇進。2016年にはミスiD2016の特別賞を受賞する。来年3月21日に真打昇進が決定した。氣志團を聴いてテンションをあげる。先日大学のラジオ番組の収録で学生時代の落研の後輩と再会することができた。

▽三遊亭ふう丈 さんゆうてい ふうじょう 落語協会
2011年4月入門、2016年5月二つ目昇進。毎月1本のペースで創作らくごを作り続けている。先日、スーパーでレジ待ちしている列でオナラをしてしまった。この夏は、携帯電話を紛失して1週間連絡がつかなくった。

▽昔昔亭A太郎 せきせきてい えーたろう 落語芸術協会
2006年27歳で昔昔亭桃太郎師匠に入門、2020年5月真打昇進。ブログに載っているコスプレ写真は、フレディマーキュリー。タップダンスを習得しようとしている。ごくたまに猫とのツーショットの写真を公開する。

▽立川笑二 たてかわ しょうじ 落語立川流
20歳で入門、芸歴12年目、2014年6月に二つ目昇進。2019年と2020年の「渋谷らくご大賞 おもしろい二つ目賞」受賞。沖縄県出身。落語の稽古は近所の公園でおこなう。人生で一番笑った瞬間は、テレビで見た芸人がローションで転ぶ姿。

レビュー

文:木下真之/ライター Twitter:@ksitam

三遊亭ごはんつぶ-墓女
三遊亭ふう丈-北の区から
昔昔亭A太郎-ひらいもの
林家つる子-茶屋娘四十七士 笠森お仙誕生
立川笑二-すきなひと
プロデューサー: 林家彦いち

8月は真夏のネタおろし祭り。「しゃべっちゃいなよ」初登場のごはんつぶさんと、超久々のA太郎さんというユニークなメンバーが集まりました。休日対応の17時スタートであることを忘れて楽屋入りが遅れていたつる子さん。最悪の場合、楽屋に残っていた青森さんの代打出演も? といった空気が漂う中、群馬での仕事を終えたつる子さんが、桐生市(電車でも渋谷まで2時間強かかるところ)からタクシーで駆け付け。当初は2番手での登場予定が、4番手で何とか間に合いました。
そして、8月11日は落語界の神様、三遊亭圓朝の命日「圓朝忌」ということで、鏑木清方の画「三遊亭圓朝像」で圓朝が座っている座布団を現代風に復元した座布団が登場。彦いち師匠が「しゃべっちゃいなよ座布団に」とリクエストし、「圓朝の座布団に座っちゃいなよ」宣言。そのおかげもあり、今日の高座は5人とも圓朝が乗り移ったかのような創作落語を披露。暑い夏を吹き飛ばすパワフルな会になりました。

三遊亭ごはんつぶ-墓女

二つ目に昇進してまだ9カ月。前座時代から新作の期待の星として注目されていたごはんつぶさん。マクラ(冒頭)でご自身の生い立ちや、子供時代のカブトムシ狩りの話に軽く触れてから本題へ。
夫を亡くして、1人で暮らす母親を気遣う息子。妻や子供(孫)と暮らす東京で一緒に住もうと提案するも、気乗りしない母。そんな中、地元の同級生との飲み会で、学校の裏庭に夜になると墓を掘り返す「墓女」が現れるという噂を耳にする。墓女が発するという「ウワー、クソー」という言葉に、どことなく聞き覚えがある息子だったが……。という話です。
ストーリー性があって、起承転結がしっかりしていて、伏線も張ってあって、最後に回収する。初演時から完成度の高さはピカイチです。夏の帰省の雰囲気も今の季節にぴったり。登場人物たちは、きちんと血の通っている人として描かれているので、それぞれの人の顔が浮かんできて、感情移入もしやすいです。全体的に優しさを感じられるのは、ごはんつぶさん本人の性格が反映されているのかもしれません。 構造的にはくすぐり(ギャグ)が少なめで、設定とシチュエーションで笑いを生む仕掛け。なかなか腕がいるお話ですが、最後まで心地良く聞けたのはごはんつぶさんのテクニック。期待しか感じない素敵な創作落語でした。

三遊亭ふう丈-北の区から

つる子さんの都合で出番が繰り上がったふう丈さん。かつて、落語協会の二つ目勉強会で、円丈師匠が言っていたという「個性が大事」という言葉を紹介して本編へ。
母親から「自分らしく頑張って」と励まされて企業面接に臨もうとする息子のジュン。向かった先は個性が一切不要のコンビニだった。ジュンは39歳の元ニート。北区にあるこのコンビニの店長、実は母親と別れた父親だった。「北区には自分らしさは必要ない」と言われて働き始めるジュンだったが、失敗ばかりの毎日。ようやく慣れてきたある日、港区から母親が北区のコンビニにやってきて……。という話です。
話の途中にジュンのセリフで「拝啓 ケイコちゃん……」と手紙を読んで近況を知らせるシーンが挟まれます。どうやら、このお話全体が名作ドラマ「北の国から」の設定やシーンを入れ込んでいるようなのです。「どうやら」というのは私自身が「北の国から」を正面から見たことがないので(彦いち師匠もそうだったようです)、どこがどうなのか説明ができないのです。しかし、言われてみれば父親のしゃべり方は五郎さん(田中邦衛)に似てなくもない。北区のコンビニなのに餌付けのシーンや、ジープのシーンなども出てきます。
だからといって、元ネタは知らなくても大丈夫。北の国からは調味料的なもので、39歳元ニートが北区のコンビニで「自分らしさ」を見つけ、小言に対してギャグで返せるような大人に成長していく物語になっています。サービス精神たっぷりのふう丈さん。初演だけに整理されていない部分もありますが、磨き込んでいくと面白い話に成長していきそうな伸び代を感じる創作落語でした。

昔昔亭A太郎-ひらいもの

A太郎さん、シブラク自体が久しぶりのようで、それがよりによって創作ネタおろしの「しゃべっちゃいなよ」。真打としてリスクしかない中、「これぞ真打」という見事な高座をみせてくれました。
夏の暑いさなか、居酒屋で2人の女性が飲んでいる。よく財布を落とすという1人の女性は、拾う側に回りたいと日ごろから下を向いて歩いているという。そんなある日、100万円の大金を拾ったことから、警察に届けるも落とし主が見つからずに戻ってきた。それでももう1回警察に届けると言って、居酒屋から出ていった。それを脇のテーブルで盗み聞きした2人の男。「落とし主」と偽って100万円を手に入れようとするが……。という話です。
話はシンプルで、最初から最後まで極めて落語的です。短めに振ったマクラを入れても13分。明日からでも浅草演芸ホールや末広亭の定席でもできですし、多くのお客さんに受け入れてもらえそうな普遍性もあります。そんな中でもA太郎さん独自の味付けがしてあって、ストレートに100万円の大金に行かずに、最初はネギを拾って、次は鳥肉を拾ってと、段階を追っていきます。さらには小学生の答案用紙を拾う話まで。これを警察に届ける、届けないの判断基準もユニーク。「落語ってホントの楽しい」と思わせてくれます。今、寄席で引っ張りだこのA太郎さんの実力を感じた創作落語でした。

林家つる子-茶屋娘四十七士 笠森お仙誕生

創作落語では故郷の群馬をアピールし、古典落語では女性目線で再構築した落語を手がけるつる子さん。真打昇進を間近に控えた今、新たに発見した鉱脈は、江戸時代のアイドル「笠森お仙」。連続ものも視野に、今回はアイドル集団「茶屋娘四十七士」の一員としてデビューするまでを描いた「笠森お仙誕生」を披露しました。
市井の美人の錦絵を手がける浮世絵師・鈴木春信のモデルとなったことから、お仙は江戸中の評判となり、お仙が働く水茶屋には大勢の人が押し寄せる。まさに「橋本環奈の奇跡の一枚」。そこに現れたのが浅草の楊枝屋で働くお藤。お仙と人気を二分するライバル登場。そんなさなか、秋元康二郎が全国のお茶屋の娘を集めて「茶屋娘四十七士」を作るという知らせが届く。笠森稲荷の力も借りて、お仙は全国投票で四十七士に選ばれ、「七福神」の一員となった。お仙の快進撃は続いていく……。という話です。
基本的なストーリーラインを軸に、サービス精神旺盛に盛り上げるのがつる子さん。お仙を取り巻く人物は、源平さん太助さん、田舎者の杢兵衛大尽、そばっ食いの清兵衛、あげくにおつる、おはな、あんこの3人からなる「あめだま娘」まで。ピークは、投票に遅刻したおつるが、上州から江戸まで人力車に乗って突っ走る「反対俥」のシーン。遅刻を逆手にとった起死回生の大熱演でした。YOASOBIの「アイドル」で締めた「笠森お仙誕生」。続きが楽しみです。

立川笑二-すきなひと

年々、クオリティが上がっていく笑二さんの「アヤカ」シリーズ。今回も現時点の最高到達点をみせてくれました。怖いけど、本当に面白い。「こわおもしろい」です。
ある男が、向かいのマンションに引っ越してきた男友達の家に遊びに行った。しかし、そこには女物の靴やぬいぐるみがあり、ブラジャーが干してある。「彼女ができたのか?」と尋ねる男に、「一緒に住んでいる」と答える友達。聞いてみると、住んでいるマンションは、自分の先輩でもあるアヤカという女性の家。しかもその友達は、アヤカに黙って家に住み着いている変態ストーカーだった。しかし、ストーキングをしている友達から聞かされたのは、アヤカの真の姿だった……。という話です。
ストーカーという不吉なキーワードがテーマの話で、設定が江戸川乱歩の「人間椅子」だったり、ポン・ジュノの「パラサイト 半地下の家族」だったりで、怖さしかありません。徐々に明らかになっていく現実と、登場人物たちの不条理な行動。それをエンタメとして昇華させている笑二さんの創作力は半端ないです。シリーズを追うごとに「貞子化」していくアヤカが楽しみです。