渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2023年 8月11日(金)~16日(水)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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8月12日(土)17:00~19:00 柳家勧之助 玉川太福 瀧川鯉八 蜃気楼龍玉

「渋谷らくご 月刊太福マガジン」

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今月の見どころを表示

プレビュー

  今月の「月刊太福マガジン」は、太福先生が二番手で登場です。トップバッターに勧之助師匠、太福先生が新作浪曲をうなって、後半は、新作の鯉八師匠、古典の龍玉師匠とつなぎます。この流れも新鮮で楽しみ。先月はお休みだった龍玉師匠の渋谷らくご復帰公演です。真夏の龍玉、たまりません。楽しみ盛り沢山の月刊太福マガジンです。

▽柳家勧之助 やなぎや かんのすけ 落語協会
2003年21歳で柳家花緑師匠に入門、現在芸歴20年目、2018年9月真打昇進。ヤクルトスワローズファン。つば九郎がいると反射的にカメラを構えてしまう。先日元力士の小錦さんに遭遇する。テレビに映る人に似ている知り合いを思い浮かべる癖がある。

▽玉川太福 たまがわ だいふく 日本浪曲協会/落語芸術協会
1979年8月2日、2007年3月入門。サウナが大好きで、日本中に行きたいサウナがある、旅先に行った時寄れるサウナがあれば必ず寄る。銭湯に行ってストレスを発散する。先日、44歳の誕生日だったが、肉離れをおこしてアイスノンでひたすら冷やした。

▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち 落語芸術協会
2006年24歳で瀧川鯉昇師匠に入門、2020年5月真打昇進。令和3年度国立演芸場花形演芸大賞金賞受賞、2年連続の受賞となった。梅雨が好き。続けようと思ってもストレッチをさぼってしまう。ラジオドラマ「今の日本の家族会議」に出演中。

▽蜃気楼龍玉 しんきろう りゅうぎょく 落語協会
24歳で入門、芸歴25年目、2010年9月真打昇進。身長が181cmと背が高い。ツイッターではプライベートの様子をツイートすることがなく、いまどのように過ごしているか知ることができない。ものを食べずにひたすら呑むとの噂。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh

柳家勧之助-妾馬
玉川太福/玉川鈴-バイザウェイが聞きたくて
瀧川鯉八-長崎
蜃気楼龍玉-牡丹灯籠 栗橋宿

柳家勧之助師匠「妾馬」

赤いお着物でご登場の勧之助師匠。勧之助師匠の快活な雰囲気にもぴったりで、明るい色はやはり場も華やぐ。
渋谷らくごは誰でも30分、若手も含めてチャレンジできるんです、と言ってすっと始まった噺がまさかの「芝浜」。え、えぇその冬の大ネタやりますか?!と思っていたら、びっくりしました?と語りを止める師匠。いやびっくりしましたよ、眠くなかったけど目が覚めました。
でも続いて入った噺も「妾馬」という結構長いもの。長屋の八五郎のぐだぐだ感から、八五郎の面倒を見る大家さん、お屋敷に住まう言葉遣いの全く異なるお殿様まで演じ分けていく。勧之助師匠の八五郎はなかなか目端が効いていて、大家さんの持っている着物で自分が借りていけそうなものはチェック済みだ。そしてお殿様の前では、おバカキャラを展開したのち、妹思い、親思いの兄となって、それまでのおバカキャラとの差で泣かせてくれる。そしてちょっとしんみりした場を都々逸で盛り上げてくれる。切れ味のいい勧之助師匠のお声でリズミカルな都々逸は心地が良かった。

玉川太福先生、玉川鈴さん 「バイザウェイが聞きたくて」

タイトルだけ見るとなんの歌か?!という感じですが、この「バイザウェイ」、太福先生のムエタイの先生の褒め言葉らしい。あ、「バイザウェイ」はそう聞こえるだけ、って話ですが。
今回の月刊太福マガジンは太福先生がムエタイを始めてみました物語。格闘技好きの太福先生、ご自宅の近くのムエタイのジムに通い始めたそう。汗だくの3分間のラウンドがいかに疲れ、いかに楽しいかを嬉々として語ってくださる。筋肉痛が愛しい!生きているという感覚がある!とのこと、元ラガーマンって皆さんそうなのかしら?
そのムエタイ練習中に肉離れを起こし、仕事のため必死に名古屋に向かうくだりなど、なんかもうその移動自体が汗だくになりそうなお話。そして家から新幹線乗り場までサポートしてくださる奥さん、その後名古屋でのお仕事に同行した相三味線の鈴さん、などなど太福先生を取り巻く方々の優しさも話に華を添えていた。早く肉離れが治ると良いですね〜と思いつつ、きっとこれからも何度かやっちゃうんでしょうねぇ。。

瀧川鯉八師匠 「長崎」

高座に上がるとすぐに本編に入ることも多い鯉八師匠、今回はまくらもたっぷり聞かせてくださった。まずは九州のとある山中にある公民館での、春風亭昇々師匠と鯉八師匠の二人会のお話から。観客の年齢層(40人全員90歳超…)がわかった時点で、創作落語を主にされる師匠の人選は間違っているのでは?!と素人は思ってしまうが、鯉八師匠の、葛藤の末のまさかの対応にドキドキした。鯉八師匠の「牛ほめ」、いつか高座でもご披露いただけないでしょうか。
びっくりエピソードは鯉八師匠の実のお祖父様のお話。このお祖父様がとてもプレイボーイだったとのことで、自分を愛して独身を貫いた女性たちへの思いやるエピソードに度肝を抜かれた。いや、懐が深いのは実はご家族の方か。はい、鯉八師匠もきっとその血を色濃くついでいらっしゃるでしょう。
この日の本編は「長崎」。鯉八師匠の噺を聞いた後、長崎は今日も雨だった、と言いたくなってしまう。物語としてはあるカップルが旅行で長崎を訪れる話で、男が昔の彼女と来たことがあり、いい場所だったからといって女を各地に連れていくのだが、女の方は、昔の彼女と来た場所ときいた途端その場所をとびだしていく。女と男が雨宿りをしながら市内のあちこちに移動していくのだが、そこで語られる新地中華街、思案橋、九州最古の喫茶店といった場所がとっても魅力的なのだ。二人は街中を走り回り、最後に夜景を見にいく、その動きに伴って街が立ち上がって見えてくるようで、今本気で長崎に行きたくなっている。

蜃気楼龍玉師匠 「牡丹灯籠 栗橋宿」

今を時めく人間国宝、五街道雲助師匠のお弟子さんであり、隅田川馬石の弟弟子でいらっしゃる龍玉師匠。今日は前日ご出演の馬石師匠の後の噺を、と言って始められたのが「栗橋宿」の一席。(自分の師匠が人間国宝になりまして、なんてことは龍玉師匠はおっしゃいませんが。)
栗橋宿の一席は、仕えていた旦那を結果的に死に追いやり、大金を得た伴蔵とその妻おみね、得た金で荒物屋を始めて繁盛させる。金遣いが荒くなった伴蔵は、ある料理屋の美人の酌婦をお金で釣って良い仲になったところ、おみねに問いただされる件を描いている。悋気(嫉妬)を起こしたおみねの表情と襟に手を当てる仕草、怖いのに綺麗、それが龍玉師匠の表情にのっている。伴蔵の方も、怒った顔の目つき、目力の強さ、あれが龍玉師匠の眼光の鋭さに加わっている。観客が見ているのは確かに龍玉師匠なのだが、龍玉師匠であって龍玉師匠でない顔を見ている不思議、これがたまらなく楽しい。われわれ観客は何を見ているのでしょう?
今回あいにくオンラインでの視聴だったが、伴蔵がおみねを襲う瞬間、リアルに外の天気が急変してざっと雨が降り込んできた時の怖さと言ったら。龍玉師匠は天をも操れるのか?!と思ってしまった。