渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 9月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

イラスト

9月11日(日)14:00~16:00 春風亭正太郎 春風亭昇々 柳家わさび 三遊亭彩大

「渋谷らくご」新時代のストーリーテラー

ツイート

今月の見どころを表示

プレビュー

控えめでありながらしっかりと虎視眈々と笑いを狙いにくる4人の落語家たち。
笑わせる方法論もテクニックもまるっきり違っている。4通りの大爆笑を経験してください。
この回のトリは、創作らくご界の秘密兵器・彩大師匠。創作落語は笑いだけではなく、物語の「起承転結」でグイグイと観客をひっぱっていく。笑いのなかにも人間の哀しさもあり、どうしようもなさもあり。
この師匠の、まるで小説のような、それでいて落語でしか表現できない世界に、ぜひ初心者のみなさんにも触れていただきたい。


▽春風亭正太郎 しゅんぷうてい しょうたろう
24歳で入門、芸歴11年目、2009年11月二つ目昇進
似顔絵がとても上手、落語界の名人の似顔絵をツイッターにあげている。この夏、似顔絵サミットが開催されたほど。弟さんがリオオリンピック金メダリストの伊調馨さんに似ている。渋谷では、嵯峨谷のそばが好き。

▽春風亭昇々 しゅんぷうてい しょうしょう
1984年11月26日、千葉県松戸市出身。2007年に入門、2011年二つ目昇進。
Youtubeでアバンギャルド昇々として動画を配信中。オリジナル楽曲を歌ったり、「落語マン」というキャラクターを追ったドキュメント風の動画など、公開中。今月は新曲を発表する。

▽柳家わさび やなぎや わさび
23歳で入門、芸歴13年目、2008年二つ目昇進。古典落語だけでなく、創作落語という隠し刀をもつ実力派。イラストが可愛い。
先月のシブラクでは満員の会場でトリをつとめた。見た目の印象よりも、背が高い。
「月刊少年 ワサビ」という毎月の独演会シリーズで力を磨いている。

▽三遊亭彩大 さんゆうてい さいだい
1971年8月7日、埼玉県出身。2001年入門、2015年真打ち昇進。
「創作落語っていうのは、自作PCみたいなものです。パソコンなんて買ってくればいいのに、わざわざ作る」という発言をして、彦いち師匠に衝撃を与えた。ほとんどの人が途中でやめちゃう、という意味のことでもある模様。落語つくるのをやめようと思っていた時期もあった。
ブログはこまめに更新されているが随時記事を消していく。

レビュー

文:さかうえかおり Twitter @Caoleen1022
趣味:ピアノとお箏、史跡巡り 特技:力士モノマネ

9月11日(日)14時~16時「渋谷らくご」
春風亭正太郎(しゅんぷうてい しょうたろう)「親子酒」
春風亭昇々(しゅんぷうてい しょうしょう)「浮世床〜本・夢〜」
柳家わさび(やなぎや わさび)「亀田鵬斎」
三遊亭彩大(さんゆうてい さいだい)「五人廻し」

「最高の食い合わせ」


落語会って、コース料理と似ています。しかも、シェフのきまぐれコース。何が出てくるかわからないワクワク感と、各シェフがどういう食い合わせをぶち込んでくるのか想像がつかないんです。胃もたれさせてくるレストラン大好きです。胃袋のキャパを超えてもなお詰め込みたくなる、味もボリュームも凄い逸品を出してくから。今回はまさにそんな名店が出してくるコースを堪能しました。

Entrée 〈前菜〉
春風亭正太郎さん「親子酒」


  • 春風亭正太郎さん

    春風亭正太郎さん

前菜って、この後のコース料理が期待できるかどうかワクワクドキドキな料理です。前菜で心を掴まれたらもうそのレストランは、また行きたいリストに問答無用で追加。顆粒コンソメにお世話になっているとなかなかピンときませんが、きちんと作ると灰汁を取ったり火加減を調整したりと相っ当手間暇かかるスープなんです。前菜リストでコンソメのジュレがあるとついつい選んでしまう。具に入る野菜や肉類のそのものの味を引き立てる素晴らしい一皿。
正太郎さんの落語は、サラリと聴けるオーソドックスな古典。…に思えるんですが、なんか違う。ものすっごい後味が残るんです。人物描写がめちゃくちゃ細かいので、噺で描かれていない部分の人間関係がいい出汁になってるんじゃないかと。まさに丁寧に作られた澄み切ったコンソメ。「親子酒」は息子の酒癖が悪いのが原因で親子で禁酒を誓い合う噺ですが、正太郎さんの酔っぱらった役はとにかく可愛い。たしかに酒癖は悪いのですが、許せちゃう可愛いさ。でも懲りずにこの先も、親子で禁酒しては失敗するんだろうなぁ…。もしかしたら既に何度か禁酒失敗してるのかも。この禁酒も、へたしたら禁酒たったの2〜3日目じゃなかろうか。この一晩の出来事しか見てないのに、正太郎コンソメがダメ飲兵衛親子をジュレ寄せにしてしまうと、暮らしっぷりまで露わにされてしまう、恐ろしい一皿になってしまいます。


Viande〈肉料理〉
春風亭昇々さん「浮世床 本・夢」


  • 春風亭昇々さん

    春風亭昇々さん

サッパリ系の前菜で胃袋の調子が整った後はいよいよメイン。味だけでなくボリュームとインパクトも重要です。ラムのグリエのマデラソース。羊って可愛いじゃないですか。特に子羊ちゃん。あんな可愛い顔してるのに、あの濃厚な味に主張の強い香り。マデラソース自体味が濃いのに、ラム肉の味は負けてないし、いくら食べても飽きない。さらに、肉を切れば綺麗なロゼ色。完璧すぎるじゃないか!
この前日にジャニーズの某番組でイケメン落語家と紹介されていた昇々さんですが、高座に上がるとラム肉のようにクセの強さがムンムン。ラム好きの人って、多少臭いくらいの肉じゃないと物足りないって言いますが、まさにそれ。そして見た目と肉質のギャップ。「浮世床」のはキャラクターの濃さがもう異次元。特に「夢」の素敵な女性とこれからイチャコラしようぜってシーンなんかは、マニア向けビデオのような、分かるような分かんないような色気をひしひしと感じます。浮かんでくる情景が全て極彩色。そして肝心の「素敵な女性」が…ねぇ。ちょっと…ねぇ。キャラ濃すぎるんだわ…。いや、いくら美人でもこんな濃いキャラだったら、誘惑にはのれないでしょ。ただ、この濃さに慣れてしまうと、もう後戻りできません。ラム肉がないと生きていけないのと同じ感覚です。…って、誘惑のっちゃってる!


Fromage〈チーズ〉
柳家わさびさん「亀田鵬斎」


  • 柳家わさびさん

    柳家わさびさん

食後のチーズ。私でも行けるフレンチだと、コースには含まれないので馴染みが無かったのですが、フランスでは欠かせないもののようです。言われてみれば、フランスの知人宅でもエールフランスの機内食でも美味いの出てきたなぁ。食後のチーズ文化に触れてしまうと、確かに欠かせなくなる。 濃厚なメイン料理の余韻を殺さず、圧迫感なく口に運ばれてくるチーズの如く、わさびさんのマクラがそーっと始まります。病弱キャラならではの弱々しい雰囲気が漂っているのに、だんだんと熱を帯びてきます。ブリー・ド・モー。白カビ系チーズのブリーはホールケーキのように大きく、ケーキのようにカットをすれば中側と外側で熟成の違いが楽しめるチーズ。わさびさんのヒートアップへの過程は、ブリーを食べ進めるが如し。話し始めとサゲの手前じゃ違う人間のようなんです。
「亀田鵬斎」には人情に厚い屋台の店主と頑固な義理堅い書家が出てきます。この人たちの威勢の良さは、登場時のわさびさんでは想像がつきません。マクラで、時そばに出てくるような町を練り歩いて商売をする蕎麦屋の担い屋台が、持てないと話してましたが、落語中のわさびさんなら軽々持てそう。夢中で食べてるうちに、気付けばコクとクセがガツンと楽しめるブリーの外側まで辿り着いてました。


Dessert〈デザート〉
三遊亭彩大師匠「五人廻し」


  • 三遊亭彩大師匠

    三遊亭彩大師匠

これだけのコースを楽しんだら、もうお腹いっぱい。もう入らない。でも、デザートってやつは憎い。いくら満腹でも、見たら食べちゃうんだもの。コース料理で一番下ごしらえに時間と手前がかかるのは、だいたいがデザートだと思うんです。
彩大師匠の落語を聴くのは初めてでした。マクラでさんざん落語やるのは久しぶりとか8月は仕事が無くて暇だったとか、自虐ネタのオンパレード。マクラの内容の字面だけを読み取れば不安でしかない内容ですが、いやいや。これをテンポ良く喋るもんだから絶対落語が面白くないわけがない。落語自信無い発言されても、これだけ会場沸かせといて何言ってんだと、心の中で突っ込むのが忙しいんです。
洋梨のタルトは庶民的なフレンチではお馴染みのデザート。タルト生地、中身の生地のクレームダマンド、洋梨のコンポート、どれも丁寧に作ろうとすると手間かかるんです。それだけのものなら単体でもかなり美味い。が、合わさると爆発的に美味い。それをサラッと出されたらもう黙って食べるしかない。「五人廻し」はそんな感じの噺です。登場人物がみんな個性的すぎる。花魁と一晩過ごしたい下心が必死すぎる。さらに、花魁が部屋に来ないなら金返せってがめつい感じさもとにかく必死。キャラのひとりひとりで充分面白いのに4人も出てきた…。さらにタルトの脇にはクレームアングレーズが…。これまた美味いんだ…。そう、お大尽も元凶である喜瀬川花魁も個性が強烈。コースの最後にこんなボリューム満点の一皿。でも美味しく完食!満腹です。


【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」9/11 公演 感想まとめ

写真:山下ヒデヨ Twitter:@komikifoto