渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2016年 9月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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9月11日(日)17:00~19:00 瀧川鯉斗 桂春蝶 立川左談次 古今亭文菊

「渋谷らくご」飄逸落語会

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プレビュー

「ひょうきん」の剽軽と書きますが、「軽さ」は芸の世界では決して悪いことではなく、むしろ美徳です。
聴く人を決して疲れさせることなく楽しませる。身構えさせずに世界に誘う。それが「軽さ」です。 そういった「軽さ」と、出てくるだけでパーッと明るくなる「華」、これを「飄逸(ひょういつ)」としたとき、そのバランスが絶妙な4人の方が揃いました!
全員かっこよく芸術肌で美しい。そんな美しさから放たれる究極的なバカバカしさ。
伝説のマッサージ師のように、この方々の落語を聴くと、疲れずに、リラックスして、気持ちよーくさせてくれます。しっかり噺の印象を残してくださいます。
ぜひ味わってみてください。


▽瀧川鯉斗 たきがわ こいと
21歳で入門、芸歴12年目、2009年4月二つ目昇進。
元・名古屋の暴走族総長。バイト先の居酒屋で鯉昇師匠に出会い、入門。この夏、シブラクに臨む前は精神集中のために千葉の浜にサーフィンに行っていた。中学時代は本格的にサッカーをやっていた。ポジションはキーパー。

▽桂春蝶 かつら しゅんちょう
19歳で入門、芸歴23年目、2009年8月「春蝶」を襲名する。
パン屋さんを見つけたら、必ずパンを買うそうで、パン屋さんでパンを見たり選んだりするときがホッとするとのこと。創作も手掛けるマルチプレイヤー。

▽立川左談次 たてかわ さんだじ
17 歳で入門、芸歴49年、1973年真打ち昇進。読書好き。
談志師匠とおなじ病気にかかり、先月渋谷らくごは入院で休演でしたが、今月は満を持して復活。待っていました!
来年は芸歴五十周年!多くの落語家からリスペクトされている、かもしれない酒豪。

▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴14年目、2012年9月真打ち昇進。落語協会若手ユニット「TEN」のメンバー。
渋谷らくごの高座中に地震が発生、その時に古典落語の世界を壊す事なく、客席を落ち着かせ、また落語に再没入させた手腕は今でもツイッターで語る方がいる。それくらい世界に誘う力の強い、最強の落語ツーリスト。

レビュー

文:えり Twitter @eritasu
29歳 女性 事務職 趣味:フラメンコを踊ること

9月11日(日)17時~19時「渋谷らくご」
瀧川 鯉斗 (たきがわ こいと)  「反対俥」
桂 春蝶(かつら しゅんちょう) 「看板の一」
立川 左談次(たてかわ さだんじ)  「癌病棟の人々」
古今亭 文菊(ここんてい ぶんぎく) 「心眼」

盆と正月と台風が一気に


【暴風波浪警報】


  • 瀧川鯉斗さん

    瀧川鯉斗さん

公用語にズレがある。私たちが知っている「鎖骨」という言葉と、鯉斗さんの知っている「リカちゃんダンパー」という言葉。お互いに知らない言葉を補填しながら、協力して進んでいく参加型高座。おおらかで、ざっくりしていて「男気があるかどうか」を一つの判断基準にしている様子の鯉斗さん。バイク(暴走用)のハンドルの形について話した後「乗り物と言いましてもね・・・」と強引に落語に切り替えようとする感じ、気合いが伝わってきます。
あらかじめ練りこまれた面白さとは違い、その場で会場の空気丸ごと面白く変えてしまうパワーがあります。
「よっこらせ~のせ、と」リズミカルに前後左右に弾む鯉斗さん。変な動きをするイケメンって、それだけでもうかなり面白い。客席の後ろからは小さなお子さんのキャッキャと大喜びな声が聞こえてきます。物語の冒頭だったので、内容というよりは見た目と声に反応したのでしょう。本能的に感じる魅力に溢れています。


【ソコモトラ】


  • 桂春蝶師匠

    桂春蝶師匠

春蝶師匠、やっぱり良いお声。低くて適度に力が抜けた色気のある声。オシャレ用語でいうところの「抜け感」というやつでしょうか。話題の切り替えに「さて、」と仰るのもクール。
「江戸(関東)は人情噺や怪談も多くストーリーが洗練されている。上方(関西)は笑いを掘り下げている。」という、東西それぞれの落語のイメージについてのまくら。たしかに私も「今日は春蝶さん聴いて大笑いしよう!」と心に決めてから来ていたのでした。やはり期待通り。安心して大笑いさせてもらえるってなんだか贅沢。
上方落語は元々大道芸だったという話があり、言われてみれば所作が大きめでパッと目を惹くし、声も朗々として華やかさがあります。
演目は「看板の一(ピン)」御公家さん(!)の最初の一言、ほわほわした裏声を聴いただけでもうおかしくて仕方がない。途中、噺の世界から現実に連れ出され、解説をした後「もう一度、今の鉄火場に戻しましょう」とタイムスクープハンター的に巧みに時空誘導してくださいます。クラクラ。どこまでも連れて行ってほしい。


【拍手の意味】


  • 立川左談次師匠

    立川左談次師匠

「病院内でメモってきました」と、長方形のカードのようなものを見ながら一つ一つ近況報告をしてくださる左談次師匠。他の落語家さんの名前がたくさんでてきたり、左談次師匠の日常を覗けたみたいで嬉しい。
立川流の余一会で数十年ぶりに末廣亭に入って「あの高座は昔と全然変わってなくて汚かった」
「前座時代、円生師匠の落語を聴きながら楽屋で居眠りをしていて至福の時間だった」
談志師匠が亡くなり左談次師匠門下へ移った談吉さんに対し「談吉はおれを選んだんだよね、チョイスべたでしょ?」
お医者さんに外出許可をもらう際「一生懸命働いちゃだめですよ」と言われ「俺のこと知らねえな?」
なんて言いながら、目を輝かせたり、おどけたり、ニコニコ笑顔で話していらっしゃる左談次師匠はやっぱり素敵。
闘病中だからってしんみり書くのはちょっと違うかなぁと思っているのですけど、でも一つだけ明らかに実感したのは、笑顔で袖に帰っていく左談次師匠への大きな大きな鳴りやまない拍手でした。
その拍手にはたくさんの人の、さまざまな強い想いが込められていて、左談次師匠の背中に向けてまっすぐに注がれているように感じました。次の高座がとてもとても楽しみです。


【心の事故渋滞】


  • 古今亭文菊師匠

    古今亭文菊師匠

文菊師匠に心を掻き乱されました。悔しい!悔しい!凄い!
青みがかった緑色の羽織で爽やかな雰囲気。にこやかに話し始め(あら、なんだか今日は爽やかなお噺かしら)と思った私が大間違い。「心眼」でした。盲目の梅喜さんの苛立ちと悲しみ、お薬師様を信じて願掛けをして、裏切られて、叶って、裏切って。波乱の展開に併せて、剥き出しの感情がガツンと強烈に伝わってきます。
感情移入しすぎてしまい、受け止めきれずに顔をくしゃくしゃにして号泣。この噺はハッピーエンドと言えるのか、どうなのか。考えるとちょっと落ち込みます。
一人の登場人物の複雑な感情が凝縮されていて、それを余すことなく表現しきる文菊師匠。
もの凄いものを見てしまった。しばらく余韻から醒めず、フラフラと帰りました。忘れられない衝撃の一席でした。


【この日のほかのお客様の感想】
「渋谷らくご」9/11 公演 感想まとめ

写真:山下ヒデヨ Twitter:@komikifoto