渋谷らくごプレビュー&レビュー
2018年 10月12日(金)~16日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
世界に浸る。お風呂につかったりするように、どっぷりと。現実世界のことは少しずつ忘れていく。目の前に映像が現れる。
しゃべっているだけなのに、言葉を聴くだけでその世界に連れていってしまう落語家の力。
扇遊師匠と圓太郎師匠にはさまる二つ目、音助さんの奮闘ぶりに注目。トップの志ら乃師匠から飛ばしますよ!
▽立川志ら乃 たてかわ しらの
24歳で入門、芸歴21年目、2012年12月真打昇進。スーパーマーケットが好きで、スーパーの批評をツイッターでおこなっている。最近は週刊朝日にてエッセイを執筆した。最近は、サザエさんを録画し考察している。
▽橘家圓太郎 たちばなや えんたろう
19歳で入門、芸歴37年目、1997年3月真打ち昇進。オヤジの小言マシーンぶりは渋谷らくごでも爆笑を生んでいる。将来PTAの会長になるのではないかと危惧している。食前と食後に身体に悪いと知りながら「源氏パイ」を食べてしまう。しかし最近は「源氏パイ」ではなく「きゅうり」を食べるようにしているらしい。
▽雷門音助 かみなりもん おとすけ
23歳で入門、芸歴7年目、2016年2月二つ目昇進。私服はチェックシャツを着こなし。レトロで可愛らしい眼鏡をかけている。先日舟漕ぎ体験をしたが、アマチュアとは思えないほどの手付きで櫓を操り船を動かした。学校寄席で生徒の心をつかむのがうまい。
▽入船亭扇遊 いりふねてい せんゆう
19歳で入船亭扇橋師匠に入門、芸歴45年目、1985年真打ち昇進。現在落語協会理事。入船亭一門の総帥。ユーロライブの近くにご自宅があるため、歩いて楽屋入りされる。酒豪「軽く飲みに行こうか」という扇遊師匠の誘いは、4時間コース。
レビュー
10月14日(日)14:00~16:00 「渋谷らくご」
立川志ら乃(たてかわ しらの) 「ゾンゾンびんびん」
橘家圓太郎(たちばなや えんたろう) 「小言幸兵衛」
雷門音助(かみなりもん おとすけ) 「権助芝居」
入船亭扇遊(いりふねてい せんゆう) 「明烏」
「あたたかさ」
毎日の生活をていねいに過ごせていないな、と思う瞬間がある。それは既に自分のなかで小さなズレが積み重なり、自覚が生じるまでになっている状態だ。そんな状態になってしまったなと思ったときには、本棚をガッサガッサと探して松浦弥太郎さんの本を読み始める。いま私が読んでいるのは『おいしいおにぎりが作れるならば 「暮しの手帖」での日々を綴ったエッセイ集』。読んでいると自分の心のなかに生じていた小波が静まってくるような文章で、あたたかな何かを感じる。
人と向き合って話を聴くときには、自分の心の状態が出来るだけ穏やかであるように気を付けている。同じように落語を味わうときも、いかに自分の状態を整えておくかが大切なように思う。クサクサとささくれた気持ちを和らげてくれるのも落語だが、穏やかに凪いだ気持ちでもって集中して楽しめるのも落語だ。本のページを閉じる、メガネのレンズを軽く拭く、落語の世界へと入っていく。
立川志ら乃「ゾンゾンびんびん」
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立川志ら乃師匠
楽屋で前座さんにゾンビの噺はこの時期にどうかなと話したら、「ハロウィンにはゾンビが出てくるから季節感があるのではないか」と言われたとのこと。言われてみれば確かにそうだ、という気持ちになる。これからは秋になったら秋刀魚の出てくる「目黒のさんま」や「さんま火事」の他に、ゾンビが出てくる噺が増えていくのかもしれない。
「ゾンゾンびんびん」は江戸の町に突如として現れた面倒な存在であるゾンビと、その面倒さを凌駕する行き過ぎた江戸っ子が出てくる物語、って何の説明にもならない。頭のなかで想像する江戸の町にゾンビたちがうろうろとしていて、要所要所でゾンビあるあるやゾンビしぐさが登場し笑ってしまう。志ら乃師匠、最高!
橘家圓太郎「小言幸兵衛」
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橘家圓太郎師匠
そんな小言もとってもステキな圓太郎師匠の「小言幸兵衛」。「ゾンゾンびんびん」が行き過ぎた江戸っ子の登場する新作なら、「小言幸兵衛」は行き過ぎた江戸っ子の登場する古典だろうか。
家の中で奥さんに小言を言うのだけでなく、猫にまで「日本語が通じないのか!」と言ってしまう幸兵衛さん。圓太郎師匠の個性とも相まって、なかなかの行き過ぎた人物として描かれていく。私が怒られているわけではないのに、緊張してしまうくらいだ。
そんな幸兵衛さんの所に家を借りにやってくる人物が、またなかなかの行き過ぎた人物たち。しかしそれを上回る幸兵衛さんの行き過ぎた具合がたまらない。じっくりと幸兵衛さんの話を聴いていると、この人の中にある世界への強固な自信が見えてきた。私が流されやすい性格なのかもしれないが、幸兵衛さんに「そうなるだろ!」と言われると確かにそうかも知れないと思えてしまう。小言色の強い圓太郎師匠の「小言幸兵衛」だった。
雷門音助「権助芝居」
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雷門音助さん
人には言えない趣味が誰にでもあるという話から「権助芝居」へと入っていった。
「権助芝居」もこってりとした面白さではなく、実にさらりと物語が持っている面白さを引き出している。間の抜けた権助の起こしてしまう失敗も「しょうがないなぁ、まったく」と、どこかあたたかな気持ちで笑ってしまう。こんなどうしようもない芝居を観ている人々も「しょうがないなぁ、まったく」と、あたたかな気持ちで笑っているのではないかと思えてくる。さらりと噺を終えて高座を降りる姿も実に心地よい音助さんだった。
入船亭扇遊「明烏」
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入船亭扇遊師匠
扇遊師匠の「明烏」はどこか世間知らずで初心な時次郎の愛らしさがあり、ちょいとダマしつつ吉原へと連れていく源兵衛と太助のお兄さん感があり、息子の将来を案じる世慣れた父親の想いがあり、「明烏」という落語全体のあたたかさを感じた。
扇遊師匠の「明烏」、私がわからないだけで細部には技巧を凝らしたすばらしい点があるのだろう。ただわからなくても、わからないことがわからなくても、ステキな落語に出会ったときには、あたたかな何かを持ち帰ることが出来るのが好きだ。そのあたたかな何かは私の心のどこかに留まって、きびしい冬を乗り越えるための力になっているのかもしれない。
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「渋谷らくご」10/14 公演 感想まとめ
写真:渋谷らくごスタッフ
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