渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 3月8日(金)~12日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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3月10日(日)14:00~17:00 春風亭昇市 三遊亭粋歌 春風亭百栄 立川吉笑 林家彦いち

「創作らくご」50年後の古典

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プレビュー

初心者向け:ネタおろしではなく、持ちネタとして「創作」の落語を演じるみなさん。いわゆる鉄板に近いものをもってきてくれますが、なかでも本日の高座にかかる演目は、おそらく50年後の古典になるかもしれない、というほど、後世の人が語っても面白くなりそうな強度の高いものばかり。
アングル:それぞれ別のアプローチから落語を構築している五名。シーンを語る、ドラマを語る、ロジックを語る。創作ばかりを並べてみると見えてくる、落語の可能性と未来。いろんな刺激を受ける会です。どれが古典になるか予想しながら聴くもよし。

▽春風亭昇市 しゅんぷうてい しょういち
2014年入門、芸歴5年目、2018年5月二つ目昇進。先輩方のコミュニケーション、気の配り方まで完璧にこなす。とにかくももいろクローバーZに熱中している。スキウサギの手帳をつかっている。

▽三遊亭粋歌 さんゆうてい すいか
2005年8月入門、現在13年目、2009年6月二つ目昇進。28歳で突如会社勤めをやめて、落語家になる。子育てのまっただ中。新作落語は喫茶店かファミレスに入ってつくる。NHKラジオ「すっぴん」に出演している。

▽春風亭百栄 しゅんぷうてい ももえ
年を取らない妖精のような存在。さくらももことおなじ静岡県清水市(現・静岡市)出身、2008年9月真打ち昇進。
落語協会の野球チームでは、名ピッチャー。アメリカで寿司職人のバイトをしていた。日常生活の様子はわからないが、猫好き。

▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在入門8年目、2012年4月二つ目昇進。もともと酒豪であったが、禁酒をしているため炭酸水を飲んでいる。最近、子供の背丈くらいある観葉植物を衝動買いした。チェキを購入して写真を撮りたがっている。

▽林家彦いち はやしや ひこいち
1969年7月3日、鹿児島県日置郡出身、1989年12月入門、2002年3月真打昇進。創作らくごの鬼。キャンプや登山・釣りを趣味とするアウトドア派な一面を持つ。公式サイトがリニューアルされ、入門されてからいままでの落語家の記憶を書き続けている。

レビュー

文:月夜乃うさぎTwitter:@tukiusagisann  猫とカフェと茶道が癒しです

春風亭昇市(しゅんぷうてい しょういち)-俺のヒトサラ
三遊亭粋歌(さんゆうてい すいか)-恋する蛇女
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ)-ホームランの約束
立川吉笑(たてかわ きっしょう)-桜の男の子〜立川春吾作〜
林家彦いち(はやしや ひこいち)-青畳の女

暦の上では、「梅始笑」という時期。梅の花が終わり、桃の花がゆっくりと咲き始める3月11日から数日を和の暦の一節で表現すると、先日、婦人画報で知りました。実際にこの3月10日は、梅の花も、桃の花も街によって咲いていたりいなかったりで、けれど、桃色や薄いピンクの花びらが、私たちの目を楽しませてくれています。桜はまだソメイヨシノは、蕾が多いですが、個人のお宅の庭では河津花などの早く咲く種類の桜の花が、道行く人を楽しませています。この日は道玄坂から渋谷百軒店商店街の坂へ入り、道頓堀劇場を左へ曲がるルートで渋谷らくごへ向かいました。席に着いて前説にサンキュータツオさんの登場されるのを心待ちにしていましたが、お姿は見えず、放送で諸注意が流れました。

春風亭昇市さん「俺のひとさら」

  • 春風亭昇市さん

    春風亭昇市さん

昇市さんと近そうな年齢層のサラリーマンを登場人物にした「俺のひとさら」は、「イソップ寓話」のような教訓が伝わってくる落語でした。「うさぎとかめ」や「アリとキリギリス」は勤勉であれというメッセージ、「すっぱい葡萄」ではきつねが手の届かない葡萄へ悪態をつきますが、言葉よりも、その態度による自業自得から教訓が生まれます。
部長や先輩、後輩が、悪気はなくても、好きなものをお薦めすればする程、(好みの押し付け)(相手が同じ好みとは限らない)という教訓に至り(趣味を押し付けないよう気をつけなきゃ)と会話だけで思わせるのは、昇市さんの腕が良いからでしょう。寓話ならうさぎやかめ、きつねなどの、登場動物で、絵本話として受け取れて、現実味は薄いものの、演者の昇市さんが登場人物とリアルに近い分、サラリーマンを通した昇市さんの本音が反映された(今回はこれだ!)という「俺のひとさら」に感じました。

三遊亭粋歌さん 「恋する蛇女」三遊亭白鳥作

  • 三遊亭粋歌さん

    三遊亭粋歌さん

粋歌さんは、今回は三遊亭白鳥師匠の「恋する蛇女」で高座に上がられました。けれど白鳥師匠作というより、粋歌さんらしい落語のように思いました。東京から帰ってくる蛇女の設定は、粋歌さんの「すぶや」という落語と少し似ています。蛇女演じる粋歌さんの煙草をふかして髪をいじってツンとすますしぐさや佇まいは、キリリとして都会的でクールな女性でいるものの、粋歌さんはタレ目で優しいイメージの女性ゆえに、蛇女のツンが演技に過剰に見え、客席から笑いが起こりました。強気な蛇女は具体的に何があったかは一切語りません。けれど恋愛のアドバイスがその人の恋を想像させ、子供たちの儚い恋を通じて蛇女も色々あったのかと思わせる伏線に、笑いつつも、恋愛に大人も子供もなく、皆んな真剣で大変で、思いのままにはいかないということを教えられた一席でした。

春風亭百栄師匠 「ホームランの約束」

  • 春風亭百栄師匠

    春風亭百栄師匠

ステキな出囃子と共に百栄師匠が登場。落語協会内の野球団でピッチャーをなさっているお話と共に、昔活躍されていたK田&K原という30年に1度の名選手たちのお話になりました。PLの頃のことは知りませんが、K原選手がいた頃に西武ライオンズがとてもキラキラした球団だったことも、すぐに、別球団へ名選手がたちが移動して行ったこと、念願の巨人へK原選手が入団したことも、なんとなく記憶しております。あっさり巨人へ入って夢を叶えたはずのK田選手のほうは、素晴らしい投手だったにも関わらず、酷いバッシングに合ったことも覚えています。今なら、サッカーもアメフトもバスケもそこそこ関心を持たれる時代です。だから、高校野球の選手の進路など、騒がれてもすぐ関心が薄れて行くと思うのですが。それ程、昔は、日本中が野球に関心を持っていた上に、彼らは素晴らしい名選手だったのでしょう。
「ホームランの約束」は病気で入院していて球場へ応援に行けない子供の所へ、野球選手がお見舞いに来てくれるという一見あたたかい一席を連想させるタイトルですが、そこは癒し系に見えても尖っている百栄師匠の創作です。「実力があれば何をしてもいいと思っている人気の野球選手」が登場して、罪もない初対面の子供に、失礼極まりない対応をしました。そこからハッピーエンドへの持って行きかたのおもしろさが、百栄師匠の落語のおもしろさで、人は一瞬で、改心して、謝れる。やり直せると場面では、優しい気持ちになりました。百栄師匠が尖っていながらも優しい笑いのクオリティが高い新作を作り続けて保っているのは、百栄師匠の優しさがストーリーに反映されているのでしょう。芸は人なりです。

立川吉笑さん 「桜の男の子」立川春吾作

  • 立川吉笑さん

    立川吉笑さん

満開の桜の樹木の中で、1本だけ花が咲いていないという桜の木。自分だけ花を咲かすことが出来ない桜の木の分身が、泣いている少年だとしたら……。背の高さを死んでしまったお父さんと競っていた桜の木の花が咲かない。他の木は満開の花を咲かせているのに。
だれかが悪い夢を見ているなら、早く起こしてあげたくなるような落語でした。しかし悪夢は長く続いているようで、誰の夢なのか分からない。この落語を語る天才落語家吉笑さんの夢なのか、創作した春吾さんの繊細な心が見ている夢で、まだ悪夢の中で、桜の花が咲かないと泣いているのだろうかと、想像してしまいました。落語は聴く人の想像力も重要だという通り、きっと客席で、それぞれが、違う桜の樹木を想像しているでしょう。実は、私の頭の中では、否定しても、否定しても、桜の花は全ての樹木に咲き誇っていて、泣いている少年の桜の木も花を咲かせているのでした。この日だけではなく、金曜日の立川左談次師匠の追善の会の時も「左談次師匠は桜の花を見れたのでしょうか」のタツオさんのメッセージを会場で聞いてから「桜の花が咲いている」イメージが頭から離れません。今回も泣いている少年を演じている吉笑さんが「花が咲かない、えーんえーん」と泣いているのに、私には、咲かない桜の花の木が思い浮かばないのです。「だれの夢なのかが分からない」落語です。もしかしたら、この長い夢から醒めなければいけないのは、登場人物ではなく、現実にいる私たちの方かも知れません。

林家彦いち師匠 「青畳の女」

  • 林家彦いち師匠

    林家彦いち師匠

トリは渋谷らくごで「しゃべっちゃいなよ」を率いる鬼軍曹の彦いち師匠です。元気でカラっとした芸風で、いつもの通り、おもしろ可笑しく、武闘派らくご「青畳の女」に入りました。主人公は闘う女性でもオシャレを忘れず、リボンを結び笑顔がこわい、どこかクネクネした女の子でした。好きな人が見ているから緊張するといいながら、笑顔の練習をしたり、試合中にか弱い女性になろうとしたりで、けなげなれど、彦いち師匠です。女性のしぐさは確かに上手いし可愛いのに彦いち師匠は、男性色が強い方なので、クネクネされると少しこわいです。柔道漫画「柔ちゃん」と言いたい所ですが、「パタリロ」に出てくるオカマバーを思い出しました。しかし後半の座布団芸の背負い投げはお見事で、武闘派のカッコいい主人公のようすに、惚れ惚れしました。(脅迫のようにも見えたものの)一番その人らしさでプロポーズをした主人公の姿は潔く、すがすがしかったです。


【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」3/10 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
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