渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 5月10日(金)~14日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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5月10日(金)20:00~22:00 春風亭昇羊 柳家小八 入船亭扇辰 玉川太福*

「渋谷らくご」玉川太福を聴こう! with 入船亭扇辰師匠

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プレビュー

◎動画配信サイトParaviにて生中継

初心者向け:浪曲ってなあに?という人も、なにも調べず玉川太福さんを聴いてみてください。扇辰師匠の、濃密な空間話芸のあとの、太福さんの楽しい話芸。その振り幅も楽しみな会です。最高のエンターテイメント精神に触れること間違いなし!
アングル:この回は、前半に出る昇羊さん、小八師匠にも注目。昇羊さん、小八師匠のひねくれた感じのキャラクターから展開される落語が、毎回楽しみという人も多いです。

▽春風亭昇羊 しゅんぷうてい しょうよう
1991年1月17日、神奈川県横浜市出身、2012年入門、2016年二つ目昇進。飲み会ではペースメーカーとなり、一番盛り上がった時にしっかりと散会させる技術を持つとのこと。最近は「年をとったワニの話」という絵本を探している。

▽柳家小八 やなぎや こはち
25歳で柳家喜多八に入門、芸歴17年目、2017年3月真打昇進。ファッションにこだわっていて、この時期はパーカーで楽屋入りすることが多い。高座前はモンスターを飲んで集中する。最近はちょっとずつツイッターを活用している。

▽入船亭扇辰 いりふねてい せんたつ
25歳で入船亭扇橋師匠に入門、現在入門30年目、2002年3月真打昇進。ギターからピアノまで演奏する。iPadを使いこなし、気になったものはすべて写真におさめている。学芸大学駅の二葉のラーメンがお気に入り。

▽玉川太福 たまがわ だいふく
1979年8月2日、新潟県新潟市出身、2007年3月入門。この4月からJFN系列にて放送中の「ON THE PLANET」のパーソナリティに。毎週火曜日25時から生放送中。落語芸術協会所属、寄席にも出ている。漢方かなにかの黒い液体を啜っている。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh ミレニアル世代の先駆けとロスジェネのしんがりを務める年回り。鶏口となるも牛後となるなかれ。

2019.5.10(金)20-22「渋谷らくご」
春風亭昇羊(しゅんぷうてい しょうよう)-粗忽長屋
柳家小八(やなぎや こはち)-崇徳院
入船亭扇辰(いりふねてい せんたつ)-死ぬなら今
玉川太福(たまがわ だいふく)/玉川みね子(たまがわ みねこ)-ああ、もう、本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に、良かったぁぁぁ

記憶に残るものが、公演内容であるとは限らない、と言ったら演者の方々に怒られるでしょうか。それじゃ意味がない、と落語に詳しい方々から怒られるでしょうか。それでも、記憶に残ったもの何であれ、そこから次を見たいな、聴きたいな、に繋がるのなら、良いのではないでしょうか。

春風亭昇羊さん

  • 春風亭昇羊さん

    春風亭昇羊さん

公演の前に説明のために演台に立ったタツオさん批判から始まった春風亭昇羊さん。「『金曜日の夜に一人で落語に来るというのはいいですね、憧れる』と言っていたけれど、そうなんですかね」と突っ込んでおられました。
同期4人での大喜利の話から「変な人には関わりたくないですね」といって、思い込みの激しい変な人が主人公の本編「粗忽長屋」に突入。ここでの昇羊さんの目の表情が忘れられません。もともと大きな目が印象的な昇羊さんですが、観客席の真ん中からでも、三白眼、なんなら四白眼(黒目の四方に白い部分が見える)に見えるほど、目がインパクト大でした。
「粗忽長屋」は、行き倒れの人間を、隣人の熊さんと間違えた上に、熊さん本人を連れてきて自分の死体を引き取らせるという八さんに、近所の人々が振り回されると言う噺。振り回されて驚く人の見開いた目も尋常ではないほど大きかったですが、熊さんを連れてくると言い張る八さんを演じる時の昇羊さんの目も、正気ではありませんでした。

柳家小八師匠

  • 柳家小八師匠

    柳家小八師匠

柳家小八師匠、この方は声の師匠(と個人的に名付けております)。この日の演目は「崇徳院」。恋煩いに陥った若旦那の、名も住所もわからない想い人を探しに、長屋住まいの熊さんが江戸中を歩く、と言う噺。色っぽい女性を演じる声も素敵ですが、この日は小八師匠の、寝込んでいる若旦那を元気づけようとする熊さんの威勢のいい、張りのある声を聞くことができました。でもこの熊さん、江戸中歩き回って、人が集まる床屋や銭湯を何十軒と回っているので最後にはフラフラになっていきます。そのため最後にはかすれ声となっていましたが、かすれ声、小声でも聴かせる師匠でした。

入船亭扇辰師匠

  • 入船亭扇辰師匠

    入船亭扇辰師匠

落語家のすごいことの一つは、臨機応変さではないでしょうか。前の演者がその日何を演じるか、事前にはわからないはずなのに、しっかり自分の噺に繋げてくるのです。三番手の扇辰師匠は今回、前の小八師匠の「崇徳院」のオチを拾って「落語はくだらない」と言ってひとしきり笑いを誘い、さらにお金を表す符丁の話から、本編の「死ぬなら今」へ。
「死ぬなら今」という噺は、息子に棺に入れてもらった贋金300両を、亡くなったばかりの金亡者の旦那が閻魔大王たちにばらまく、と言う内容で、オチがこれまた、最高にくだらないのです。くだらなさのあまり、最初笑いが出ないほどでした。扇辰師匠は、「もう一度やりますね」と言ってオチを2度、しかも2度目は何がオチなのかを丁寧に話してくれました。この噺のくだらなさとお金について話したまくらが、本編にきっちり繋がっているのです。
まくらから本編への繋がりは、少なくとも素人は、後から一通り思い返して気づくタイプのものかと思います。気づけるとニヤニヤしてしまいます。同時にまくらを無駄にしない技量、しかも直前の演者のネタを使ったまくらから本編へと繋ぐ技量は、もはや震撼させられる域で、自分がどれだけ演者の方々が張っている伏線に気付けているのかな、と不安になります。だからこそ、気付けた時の喜びも大きいのですが。

玉川太福さん

  • 玉川太福さん

    玉川太福さん

玉川みね子師匠

  • 玉川みね子師匠

    玉川みね子師匠

記憶に残るかどうかのポイントのもう一つに、「あー、それあるかも」いう状況が語られている場合もあるかと思います。古典落語だと、登場人物のキャラクターが大抵の場合振り切れているので、せいぜい「あるかもな」くらいなのですが、今回の太福さんの浪曲は、身近な、しかし手に汗握る「あるある」噺でした。
GW中の5月6日、太福さんは親子浪曲教室の公演のため新木場に向かう道中、ハッと気づく、黒豆茶を煮出していたガスコンロの火を止めた記憶がない、さてどうする、という噺。火を止めていない、あのマンションには何人くらい住んでいるから、火事になったら、という妄想は、経験者だから言えますが本当に脂汗ものです。義理のお母様や消防庁に電話しながら、ようやく着いた公演会場で、状況を報告すると、「それは大変ですね。それで、お着替えはこちらで」と言った担当者の対応を、太福さんはおかしく語ってくれましたが、これは普通の対応でしょうか?こんな風に、即座に我が事のように考えられて、楽しめるのが、太福浪曲の楽しみだと思います。
生で観て、聴く楽しみは、記憶に残る刺激をたくさん得られること、そしてその場に居合わせたという幸福感、だと個人的には考えています。記憶に残る要素を様々持ち合わせる落語や浪曲という芸の間口の広さと懐の深さを、演者の方々によって存分に楽ませていただいた公演でした。


【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」5/10 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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