渋谷らくごプレビュー&レビュー
2019年 5月10日(金)~14日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
初心者向け:この回は、二つ目三名のあとに真打がトリをとる形で、トリの文蔵師匠をじっくり楽しんでいただきます。
創作の吉笑さん、重厚な小もんさん、軽さの小痴楽さん。それぞれの魅力が光る、まったく違う落語に触れることができる会。
アングル:吉笑さんは創作で笑わせてくれ、小もんさんは淡々と古典のおかしみを紡ぐ。となると、小痴楽さんがどういう演目で空気をつかむか。トリの文蔵師匠はその小痴楽さんの演目によって、なにを演るかを決めてくれるでしょう。
▽立川吉笑 たてかわ きっしょう
26歳で入門、現在入門9年目、2012年4月二つ目昇進。10代から食い入るようにクイックジャパンを読んでいた。そんなクイックジャパンにて「次世代落語家研究所」という連載がはじまった。なかなか夜寝ない。
▽柳家小もん やなぎや こもん
22歳で入門、芸歴6年目、2018年3月二つ目昇進。お腹いっぱいご飯を食べた時には日本ルナの飲むヨーグルトを飲んで、ゆっくりする。京成線に乗ると寝過ごしてしまう癖がある。ハヤカワ文庫のトールサイズに対応するブックカバーを手に入れた。
▽柳亭小痴楽 りゅうてい こちらく
16歳で入門、芸歴13年目、2009年11月二つ目昇進。2019年9月に真打昇進することが決定。先日Qさま!!を観ていたら、日本史のジャンルでは出演者よりも早く答えられたので、クイズ番組にでたがっている。
▽橘家文蔵 たちばなや ぶんぞう
24歳で入門、芸歴33年目、2001年真打昇進。ツイッターで、朝ご飯や酒の肴など、日々の料理をつぶやいている。家にラジオがたくさんある。ずっとつけっぱなし。歩きながら稽古をして歩きながら酔いをさます。最近つくった料理は「カレーチャーハン」。
レビュー
2019.5.11(土)17-19「渋谷らくご」
立川吉笑(たてかわ きっしょう)-八熊
柳家小もん(やなぎや こもん)-提灯屋
柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく)-粗忽長屋
橘家文蔵(たちばやな ぶんぞう)-青菜
新元号「令和」がはじまり早10日。「元号が変わる瞬間をどう過ごすか」が話題になりました。テレビでは各局がカウントダウンをしはじめ、まるで大晦日のような雰囲気。平成最後の晩餐に蕎麦を食べる人が現れたり「良いお年を!」なんて会話が飛び交ったりしたのだとか。前例がないものに遭遇すると、人はこうも不思議な行動をするのですね。というのも生前退位は200年ぶり。200年前と言えば江戸時代ですから無理もありません。
そんな江戸の時代に生まれた「落語」。元号が変わっても歴史は続きます。令和最初のシブラクウィーク。今回は「静と動」をテーマにお伝えします。
立川吉笑さん「八熊」※熊は八の右上に小さく表示
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立川吉笑さん
梅雨の晴れ間に気を良くした八五郎が町内を駆けていると、同じく向こうから駆けてきた男と出会い頭に思い切りぶつかってしまう。謝りながら相手を見ると、目の前にいたのは姿かたちどこからどう見ても八五郎、自分自身。混乱する頭で目の前の自分と話して分かったのは、ぶつかった拍子に相手と中身が入れ替わってしまったということ。八五郎が必死に元に戻ろうとするなか、ぶつかった相手は「別にこのままでいい」と言い出す。聞けばその男、中身が入れ替わったのは二度目だそうで…。
人の中身が入れ替わってしまう。この題材はドラマや映画で幾度となく使われてきたものです。物語の登場人物は総じて元に戻ろうと必死になりますが、今回は違う。八五郎がぶつかった相手(元の名は熊五郎)は戻る気がなく「外見が異なっても、自分らしく振る舞えばそれが自分になる」と八五郎を諭しはじめてしまいます。個性、自分らしさ、アイデンティ。そういった言葉が飛び交う現代をあざ笑うかのような、ブラックユーモアを感じる噺でした。吉笑さん、噺の間は大きく体が動くことのない印象です。しかしこんな皮肉さを感じる噺を生むような方ですから、頭の中がどう動いているのか。目には見えない彼の中の「動」が気になります。
柳家小もんさん「提灯屋」
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柳家小もんさん
町内の若い衆が集まっていると、そこに一枚のチラシをもった仲間の一人がやってくる。何か食い物の店かもしれないと、チラシになんて書いてあるか読ませようとするが、その男、文字が読めない。仲間内で回しても誰も読めず、通りかかった米屋の隠居に読んでもらうと提灯屋のチラシだった。「食い物屋じゃない!」とがっかりしていると、チラシには続きが。「お買い上げの提灯には、紋所即座に書き入れ申し候。書けざる節には、無料にてお持ち帰り願いいたします」。この挑戦的な文句で火が付いた若い衆たち。無料で提灯をもらってやろうと店に乗り込むが…。
若い衆の血気盛んな様子よりも、そのやりとりや言葉のおかしみで笑いを生み出す小もんさん。どちらかと言えば「静」の印象が強かったのですが、3人目の若い衆が店に入ってきたときの店主の嫌そうな顔で「動」のスイッチが入りました。その切り替わりがあるからこそ、店主の焦りが分かり、サゲへと繋がる。まくらから続いていた「静」は、すべてサゲのためだったのでは?と思わせる綺麗な流れでした。
柳亭小痴楽さん「粗忽長屋」
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柳亭小痴楽さん
浅草は観音様へのお参りの帰り、黒山の人だかりを見つけた八五郎。昨晩、身元不明の行き倒れがあったのだそう。役人たちが通行人に死体を見せ、知り合いを探しているところだった。八五郎が死体の顔を見ると、なんと幼馴染の熊五郎。八五郎から熊五郎には身寄りがないと聞き、役人は八五郎に引き取りを申し出る。すると八五郎は「今朝ほど本人に会ったから、本人に引き取らせる」と言い出す。「行き倒れが出たのは昨晩だから、今朝会ったのなら人違いだ」と役人は説明するが、八五郎は聞く耳をもたず熊五郎の家へと向かってしまう…。
私のなかで「動」の印象が強い小痴楽さん。今回の話のなかでも動く動く。途中、体が半分座布団から落ちてるときがあるほど。しかしその躍動感が小痴楽さんの魅力です。八五郎はまさしく「動」の人物。小痴楽さんのイメージぴったりに素晴らしく表現されているのですが、熊五郎のワンテンポ遅れた「静」の様子も秀逸です。きょとんとした表情がとても可愛らしく、八五郎の「動」との対比が笑いを生みます。静と動、両者のおかしみを掛け合わせた、小痴楽さんの魅力いっぱいの高座でした。
橘家文蔵師匠「青菜」
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橘家文蔵師匠
夏のある日。仕事で屋敷を訪れていた植木屋は、隠居から「精が出ますな」と声をかけられる。労をねぎらうと座敷に誘われ、柳蔭という酒と鯉のあらいをご馳走になった。「ときに植木屋さん、青菜は好きか」と問われ「大好物だ」と答えると、隠居は妻に用意を頼む。すぐに現れた妻だが、その手には何もなく「鞍馬から牛若丸が出でまして、その名も九郎判官」と不思議な返答をする。隠居は「義経にしておこう」と言ってすませてしまった。それを見た植木屋、客人がきたと勘違いして帰ろうとすると、隠居は先のやりとりを「青菜を食べてしまってもうない」というのはみっともないので、隠し言葉を用いて話していたと教えてくれる。その上品なやりとりに感心した植木屋は「自分も来客の際に使おう」と長屋に帰るが…。
まくらもそこそこに噺に入られた文蔵師匠。てっきり「静」が得意な方かと思いきや、長屋に帰ったあとの植木屋と自分の妻とのやりとりが可愛いったら。上品なやりとりを披露すれば「貴族夫人って言われるかもよ?」とそそのかされたときの妻の「やるやるやる!」という返答がおちゃめで堪らない。その後、押入れから倒れこむように出てくる妻の描写でまた大きく「動」へと舵を切った。文蔵師匠の最初の雰囲気からはまったくイメージできない表現に驚かされると同時に、その技に感服。この回のテーマは「仕事人 文蔵を聴く!」でしたが、まさしくな30分間でした。
生で観て、聴く楽しみは、記憶に残る刺激をたくさん得られること、そしてその場に居合わせたという幸福感、だと個人的には考えています。記憶に残る要素を様々持ち合わせる落語や浪曲という芸の間口の広さと懐の深さを、演者の方々によって存分に楽ませていただいた公演でした。
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「渋谷らくご」5/11 公演 感想まとめ
写真:渋谷らくごスタッフ
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