渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 6月14日(金)~18日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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6月15日(土)17:00~19:00 台所おさん 柳亭市童 柳亭小痴楽 林家きく麿

「渋谷らくご」爆笑落語会 ~令和の爆笑王 きく麿~

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プレビュー

初心者向け:とにかく笑う!なにを聴いているのか途中からもうわからなくなるけど、笑う。笑って落語の魅力に気付く。帰り道も思い出して笑う。「あれは、なんだったんだ」と。そういう会になりそうです。絶対観なきゃ、損! そのままの流れで20時からの「テッパン演芸会」にもどうぞ。
アングル:キャラクターも面白い小痴楽さん、おさん師匠。王道落語で楽しい市童さん。最後は創作らくごのきく麿師匠。落語の懐の深さ、そして反則技(?)も飛び出す可能性もある、予測不能の爆笑会。すべては「くだらない」という価値観のために。


▽台所おさん だいどころ おさん
31歳で入門、芸歴18年目、2016年3月真打昇進。落語家になる前に、東京から大阪まで歩いて旅したことがある。毎朝、ケチャップのついたソーセージをおかずにして大量の白米を食べる。ツイッターで落語会の告知をしているが、よく時間や開催日を間違えている。

▽柳亭市童 りゅうてい いちどう
18歳で入門、芸歴9年目、2015年5月二つ目昇進。2018年渋谷らくご大賞「おもしろい二つ目賞」を受賞。最近、人生で二度目の丸亀製麺ブームが来ている。YouTubeで塾講師の授業を見ることがマイブーム、最近微分積分が理解できるようになってきた。

▽柳亭小痴楽 りゅうてい こちらく
16歳で入門、芸歴13年目、2009年11月二つ目昇進。2019年9月に真打昇進することが決定。ツイッターに、温泉での入浴シーンや、下着姿といった衝撃的な写真がアップされている。読書家で、日本中の本屋さんのブックカバーを集めはじめた。

▽林家きく麿  はやしや きくまろ
24歳で入門、芸歴23年目。2010年9月真打ち昇進。観光地などにおいてある顔ハメ看板には、必ず顔を入れる。褒められたツイートを積極的にリツイートする。大豆ミートを使った料理に挑戦している、煮物にしたり、ハンバーグにしたりしている。

レビュー

文:海樹 Twitter:@chiru_chir_chi(今年がもう半分終わるなんて)

6月15日(土)17:00~19:00 「渋谷らくご」
台所おさん(だいどころ おさん) 「家見舞」
柳亭市童(りゅうてい いちどう) 「野ざらし」
柳亭小痴楽(りゅうてい こちらく) 「強情灸」
林家きく麿(はやしや きくまろ) 「スナックヒヤシンス1・2」

 雨の土曜日。最近、私が出かける予定を入れると頻繁に雨が降る。手がふさがるのが好きではないため長い傘を持たないようにしているのだけども、さすがにこれは折りたたみ傘では対処できないなと思わせる雨ばかりで、ぐったりとしてしまう。それでも行った先には楽しい時間が待っているのだからと、玄関のドアを開けて外へと出る。
 ぐっしょりと濡れた長い傘を透明な袋に詰め、ガサガサと音をたてないような位置に置いてから、さて今日はどんな会なのかしらんとプレビューを見てみれば「『渋谷らくご』爆笑落語会」とのタイトルが目に入り、そうそう雨の日はこういう会がいいんだよと一人にやにやしていれば出囃子の音。

台所おさん「家見舞」

  • 台所おさん師匠

    台所おさん師匠

  「おさんです」の一言で、ぷっと笑ってしまう。名前を名乗っただけで笑ってしまうのは不思議だけれども、おさん師匠の魅力は「おさんです」の一言に尽きるのかもしれない。存在自体が面白いという言葉に魅力を押し込めると、おさん師匠の面白さを構成している大切な部分が零れ落ちてしまうのではないだろうか。不思議な魅力の全ては「おさんです」に詰まっている。
 お金は無くても義理は欠かさない江戸っ子が出てくる「家見舞」は不衛生な展開に思わず眉をしかめてしまう時もあるのだけれど、おさん師匠のほわほわした雰囲気のおかげなのかどこか憎めない。兄貴分の引っ越しに対して嫌がらせとして買ったのではなく、自分たちの出来る限りのことをした結果として水瓶ではなく肥瓶を買ってしまうという不器用さ。その不器用な親切の発露が、結果としてひどく相手にとっては迷惑なことになってしまうことってあるよなとしみじみ。バカバカしくって好き。

柳亭市童「野ざらし」

  • 柳亭市童さん

    柳亭市童さん

 電車の移動中など時間のある時にぼんやりとツイッターを眺めては、人は色々なことを考えているのだなという当たり前のことを当たり前のように考えつつ、いかんいかん私もちゃんとしなくてはと思って背筋を伸ばす。そんな時に眺める市童さんのツイッターはちょうどいい温度で、熱すぎず温くはないちょうどよさ。ビジネスライクに会の告知を中心に挙げているのではなく、普段の自分が考えていることをほんのりと見せている。かといってプライベートを徹底的に見せるわけではなく、ほどほどの関係性の繋がりを見せている。ついつい眺めてしまうちょうどよさ、こういう感じがいいなと思う。
 そんな市童さんの「野ざらし」は心地よい。ここがこう面白いんだよと肩に力を入れて口角泡を飛ばしながら説明する感じではなく、ただぼんやりと落語を味わいながら過ごす時間ってとてもいい心地よさがある。それは市童さんのツイッターを見ながら感じるちょうどよさと繋がる何かがあるような気もするし、ただの気のせいかもしれない。とにかく私は、こういうぼんやりした心持になって何となく時間が過ぎてしまうような落語が好き。

柳亭小痴楽「強情灸」

  • 柳亭小痴楽さん

    柳亭小痴楽さん

 恥ずかしい自分を隠してカッコよく見せようとするのではなく、そのままの自分の姿を見せる飾らなさが小痴楽さんの魅力かもしれない。今回は長めのまくらで最近一門で行ったという旅行での出来事を本当に楽しそうに話していて、聴いている私にもあぁ本当に楽しかったんだなぁという気持ちが伝わってくる。こういう風に自分の好きな物事を衒いなく話せる人間に私もなりたい。
 「強情灸」は、どうかしている江戸っ子が全開というような展開。傍から見たらバカなことをしたやつに対して、倍返しのバカで押さえつけに行くようなバカバカしさが心地よい。オレはこんなことをやってやったよ、それならオレもこんなことをやってやるよと、危険なヒートアップがなされていく様子を、表情豊かに演じる光景を見ていたらケラケラと笑ってしまう。こういう「くだらなさ」ってとても好き。

林家きく麿「スナックヒヤシンス1・2」

  • 林家きく麿師匠

    林家きく麿師匠

 「令和の爆笑王 きく麿」とはすごい名称だなと毎回思うのだけれども、私の肌感覚ではじわじわときく麿師匠の魅力が広がってきている気がする。それは日々大量に開かれている落語会の中で目に留まるチラシに、きく麿師匠が頻繁に現れ始めているからだ。このメンバーの中にきく麿師匠が!と思ったこともしばしば。これまで私が気づかなかっただけかもしれないが、そんな私の目にも入ってくる程に、きく麿師匠の露出が増えていて魅力の広まりを感じる。「えっ、きく麿。いまじゃ令和の爆笑王だけどさ、次の元号の爆笑王って言われていた時から知ってるよ」と、言われる日もそこまで遠くない未来の予感。
 「スナックヒヤシンス」は、どこまでもくだらない感じが最高だ。毎日の生活を過ごしている中で劇的なことが起こる日はほんの少しだけで、99%は特になにも無かった日として記憶の海に沈んでいく。そんな何も無かった日の中でもちょっとだけ面白かったことがあったりして、それはすぐに忘れてしまい振り返った時にはいったい何がと思うような面白さなのだが、確かにその瞬間だけは最高に面白いことってあると思う。そういう類のくだらない日常の面白さの魅力が、「スナックヒヤシンス」にはある。
 ただし、その日常は私たちが生きている世界とは微妙にズレている。何かが決定的に違うのだけれども指摘できないような違和感があるのだ。お客さんの来ないスナックで繰り広げられる、常連客の「山田」の悪口を言い合うゲーム。確かにこの世界のどこかにありそうなスナックだが、その世界は本当に私たちの知っている世界なのだろうか。その世界では「ビビクリマンボ」や「恋のオーライ坂道発進」が席巻しているのかもしれない、いや気づいたらこちらの世界でも席巻するのかもしれない。そんな違和感。
何より色々と考えるよりも、とにかく「くだらない」ことで笑っている時間が最高だった。落語って色んな種類があって面白い。
 今日もいい二時間だったなぁと思って外に出ると雨が上がっていて、傘をどこかに置き忘れないように気を付けようと右手に力を入れた帰り道。

【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」6/15 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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