渋谷らくごプレビュー&レビュー
2019年 6月14日(金)~18日(火)
開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。
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プレビュー
初心者向け:とにかくサービス精神旺盛な四名が揃った爆笑落語会。はじめての方にはぜひ聴いていただきたい落語の魅力の詰まった会です。スピードのある低音でテンポよく笑わせてくださる夢丸師匠、一転、かわいい声で創作を放つ鯉八さん。ゆったりと、表情を変えずに語り込む百栄師匠。トリは、上方落語 桂春蝶師匠です!
アングル:18時からのダブルヘッターで鯉八さんが出演、この二席をどう組み立ててくるか。百栄師匠はこれを受けて古典に転じるか、はたまた創作か。あまりに爆笑が続くと、春蝶師匠は人情噺に移行の可能性も。四人のリレーにも注目です。
▽三笑亭夢丸 さんしょうてい ゆめまる
18歳で入門、芸歴18年目、2015年5月真打昇進。毎日ブログを更新している。内容が独特で面白い。お酒が好きだが甘いものも好き。先日動物園に行った。その動物園の目玉アトラクションのラクダライドは、ラクダが発情してしまったため中止となった。
▽瀧川鯉八 たきがわ こいはち
24歳で入門、芸歴13年目、2010年二つ目昇進。2020年5月に真打に昇進することが決定した。2018年渋谷らくご大賞「面白い二つ目賞」受賞。喫茶店巡りが趣味。不用意にコンビニやスーパーに入らないように心がけている。痩せてきた。
▽春風亭百栄 しゅんぷうてい ももえ
年を取らない妖精のような存在。さくらももことおなじ静岡県清水市(現・静岡市)出身、2008年9月真打ち昇進。
落語協会の野球チームでは、名ピッチャー。アメリカで寿司職人のバイトをしていた。日常生活の様子はわからないが、猫好き。
▽桂春蝶 かつら しゅんちょう
19歳で入門、芸歴26年目、2009年8月、父の名「春蝶」を襲名する。猫と暮らしていて、時間がある日は猫と一緒に映画を観る。一輪挿しにちょっとした花を飾っている。先日、兵庫県の豊岡で出石そばをとにかくたくさん食べた。
レビュー
2019.6.17(月)20-22「渋谷らくご」
三笑亭夢丸(さんしょうてい ゆめまる)-ちりとてちん
瀧川鯉八(たきがわ こいはち)-多数決/俺ほめ
春風亭百栄(しゅんぷうてい ももえ)-アメリカ・アメリカ
桂春蝶(かつら しゅんちょう)-中村仲蔵
三笑亭夢丸師匠
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三笑亭夢丸師匠
瀧川鯉八さん
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瀧川鯉八さん
春風亭百栄師匠
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春風亭百栄師匠
桂春蝶師匠
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桂春蝶師匠
初めて渋谷らくごにきた時を思い出しても、まだ渋谷らくごに来たことの無い人はその日を思ってもいい。人生には色々な初めてがあり、そこには多少とも緊張が伴う。歳を重ねると減ってくるけれど、「初めて」という機会はいつも貴重だ。
間も無く真打に昇進される瀧川鯉八さんの噺を、ポッドキャストで何度も聴いていたくせに、まだ生で聴いてことがなかった。理由はあって、鯉八さんの創作落語の持つ、傷に塩を塗るとまではいかないけれど、傷に水をかけられるくらいの、ヒリヒリとした現実感に、生で聴いて耐えられるか自信がなかったからだ。
今月は他の日程の都合がつかず、たまたま鯉八さんの公演を聴くことになった。多分こんな風に半強制的に聴くことになる日を待っていたのだと思う。そしてそれは素晴らしい初体験だった。
「やぎさんゆうびん」が鯉八さんの出囃子だということはポッドキャストで知っていたから、それが聞こえたときに、ついに私にもこの日が来た、と思った。この日は「多数決」という、小学校のあるクラスで夏休み中のうさぎの世話を、誰が引き受けるのかを決める、恐るべき民主主義の噺。どの子の意見も、世の中のどこかで聞いたことがあって、他人事ではない。善人面した人間臭さを、子供の言葉で表現するなんて、やっぱり鯉八さんは狂人だと思う(最高の褒め言葉として)。
ただ、恐れていたほど耐えられない感じはなかった。その理由は、観ている時も、観終わった直後もわからなかった。「多数決」の後の「俺ほめ」にしても、結構自分にも思い当たりそうな痛々しい噺なのに、ちゃんと笑えるのはなぜなのだろう。帰りに乗り物に揺られながらしばらく考えた。ぼんやりした頭に浮かんだのが、鯉八さんの表情だった。痛々しさ、ヒリヒリさを受け止められるのは、どことなく愛嬌ある表情や演技のおかげなんじゃなかろうか。愛嬌といっても振りまくようなものではなく、人間の業全部まとめて引き受ける覚悟が、愛嬌となって表に出ている、そういう類の愛嬌なのだ。
どんなに言葉にしても、あの腹の据わった愛嬌の魅力を伝えられる気がしない。保証できるのは、大丈夫、鯉八さんの落語は恐くないということだ。もし、音源を聴いて創作落語って現実的すぎて苦手、と思っている人がいたら、鯉八さんを生で観ることをお勧めしたい。覚悟ある愛嬌で、彼が、私たちのヒリヒリ感を受け止めてくれるから。
落語家は役者なのか。桂春蝶師匠は華のある落語家だ。トリを務められた春蝶師匠の演目は「中村仲蔵」。大部屋からたたき上げで、親方と呼ばれる名題役者にまで上り詰めた歌舞伎役者の噺だった。もしかしたら中村仲蔵自身は華のあるタイプの役者では無かったのかもしれない。華のある役者であれば、名題昇進直後に地味な役を演じさせることを客が許さなかっただろうし、噺でも仲蔵の容姿の華やかさについて語られることもなかった。華のある生粋の落語家が、役作りのために願掛けするたたき上げの役者を演じるとどうなるか。結論、狂気じみた凄みが出る。
途中、春蝶師匠は何度も話を横道にそらした。しかも二転三転させてから話を本筋に戻す。それでも、仲蔵の良く演じたいという強い願いが生み出す緊張感は途切れない。何度も入った閑話をすべて覚えている観客がどれほどいるだろう。一途に役を追い求める中村仲蔵を春蝶師匠は観客の反応を見ながら余裕を持って演じ、私たちは仲蔵=春蝶師匠が演じる定九郎の舞台を待った。そして、「忠臣蔵」五段目で仲蔵が定九郎を演じているとき、私たち観客は歌舞伎の一幕を観ていた。膝立ちの仲蔵=春蝶師匠はスポットライトが当たっていたように思い出される。
落語なんてくだらないもの、一つ気楽に聴いていただければ、と落語家の方々はおっしゃる。その言葉の通り、気楽に聴きたいからこそ落語を観に、聴きに行く。少なくとも私はそうだ。それなのに噺どころか演技まで見せられた日には、仕事終わりにこんなに緊張を強いられるなんて聞いてないよ、と言いたくもなる。それでも、思い出すたびにカタルシスを得られるような、幸福な時間だった。
狂気を手なづける落語家の集う回は最高だ。「ちりとてちん」で、一味唐辛子を腐った豆腐の上にふる三笑亭夢丸師匠は狂気だったし、それを食べる場面では、思わず「ぐえっ」と声が出た。春風亭百栄師匠の「アメリカ・アメリカ」、料理番組なのに下半身に言及するとか、料理の歴史の話をしているのに「謎なんです」で済ませようとする某国の料理番組なんて、明らかにおかしいのに現実味がありすぎだ。現地のテレビ番組を百栄師匠はきっといろいろな角度で楽しんでおられたんだろうと想像した。そして、百栄師匠が外国人を演じる時の美声が忘れられない。
こういう日は、公演に関わる自分の行動まで良く覚えていたりする。渋谷に行くのに急行を2本乗り過ごしたこととか、腹ごしらえのビーフンに物足りなさを感じたけれど、後からお腹がふくれてきたこととか。一つ一つの瞬間に意味があるように思えてくるから不思議だ。普通のことを異なものとしてとらえさせる経験を落語家は与えてくれる。初めては、だからやめられない。
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写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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