渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 7月12日(金)~16日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

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7月12日(金)20:00~22:00 桂三四郎 古今亭文菊 三遊亭遊雀 蜃気楼龍玉

「渋谷らくご」シブラク名人会

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プレビュー

龍玉師匠をトリに迎え、夏らしい怪談が飛び出すのか、あるいは夏らしい爆笑古典が飛び出すのか。三四郎さん、文菊師匠という東西の「未来の名人」のあとに、現代の「名人」遊雀師匠が登場。名人会という名にふさわしいラインナップです。

▽桂三四郎 かつら さんしろう
22歳で入門、現在入門15年目。疲れた日はサウナに入ってリフレッシュする。スマホゲームアプリ「キングスレイド」にはまっていて、先日宣伝プロデューサーと戦っている模様が配信された。Voicyを積極的に活用している。

▽古今亭文菊 ここんてい ぶんぎく
23歳で入門、芸歴17年目、2012年9月真打昇進。私服がおしゃれで、楽屋に入るとまず手を洗う。前座さんからスタッフにまで頭を下げて挨拶をする。まつげが長い。最近ダイエットに挑戦中。大学では漕艇部に所属、熱中していた。

▽三遊亭遊雀 さんゆうてい ゆうじゃく
23歳で入門、芸歴31年目、2001年9月真打昇進。後輩の落語家さんのお兄さん的存在。写真を撮られるときは、メガネをおでこにかけなおす。酒豪。高校生の時、スーツを着て変装してちょっぴり大人な映画館にこっそり入ったことがある。

▽蜃気楼龍玉 しんきろう りゅうぎょく
24歳で入門、芸歴22年目、2010年9月真打ち昇進。身長が181cmと背が高い。飲み会では序盤からハイバールを飲むらしい。2016年国立演芸場花形演芸大賞受賞。各ジャンルのプロが集まって怪談話をする『怪奇蒐集者(コレクター)』というDVDにも出演している。

レビュー

文:月夜乃うさぎTwitter:@tukiusagisann 映画や劇団四季好きでしたが、落語会へと出没する頻度が変化しています。見ているドラマは「いだてん」と「あなたの番です」

桂三四郎(かつら さんしろう)「世間の車窓から」
古今亭文菊(ここんてい ぶんぎく)「紙入れ」
三遊亭遊雀(さんゆうてい ゆうじゃく)「蛙茶番」
蜃気楼龍玉(しんきろう りゅうぎょく)「牡丹燈籠 栗橋宿」

 7月でも紫陽花や撫子の初夏の花々に、雨が降る。空は雲がおおっている。数年前、岩手県から東京の息子夫婦へ引き取られて来た美しい老婦人が、「東京は晴れているイメージだったのに、今年はいつも曇っていて、まるで岩手県にいるようだわ」という。昭和63年のタイ米輸入「米騒動」以来の天気らしい。
急に雨に降られては落語の「天災」を思い出し、傘を買いにコンビニに立ち寄ると傘が売り切れていて、落語の「道灌」で山吹の花を差し出された所を思い出す位には落語好きになっている。渋谷の会場へ着くと、落語で笑いたい、楽しみたいお客様がロビーに並んで大入りでした。

桂三四郎「世間の車窓から」

  • 桂三四郎さん

    桂三四郎さん

開口一番は、明るくハッキリした声の桂三四郎さん。よしもと所属の方だけあって上方落語の上に、爆笑させるころが得意な落語家さん。三四郎さんだけではなく、今月の金曜日20時回の落語家さんたちは、4者が4者ともに芸達者でありながら容姿端麗でもある落語家さんたちで、特に三四郎さんは、落語良し、まくらはおもしろい、お人柄も良く、関西弁もテンポが良くて耳にも心地良い。提供される新作落語でも「ネタ選びを間違えて」の三四郎さんを、私はまだ見たことがない。今回の「世間の車窓」は、電車の中によくいそうな、ケンカしているカップルや、ハイキングへわざわざ遠くまで電車で行く中年女性、スマホでツイッターを更新する人、電車好きで切符拝見の遊びをしている人、ドアに手が挟まってしまった人、その普通にいそうな登場人たちを本当に見事にキャラ立ちさせた作品でした。

古今亭文菊「紙入れ」

  • 古今亭文菊師匠

    古今亭文菊師匠

 三四郎さんでにぎやかになった後は、文菊師匠が高座へあがられる。文菊師匠はどちらでも人気の落語家さんで、テンという落語家ユニット10人の中でも、抜擢真打ちで早めに真打ちになっている。私はしろうとなので、落語の評価基準はイマイチ理解していないけれど、改めて拝聴していると、文菊師匠の落語は状況説明をゆっくり丁寧に場面展開させるので聞き易い。そして、たまに出る、江戸っ子風の言葉も江戸落語を味わっていると実感させ、静かに聴き入ってしまう。今回は「紙入れ」というお噺。仕事でお世話になっている人の奥さんつまり、人妻にかなり積極的に言い寄られているのは「ハニートラップ」を仕掛けられているというよりセクハラに見える。
強引なお誘いにのこのこと誘われるまま来訪して、人妻に攻防戦の末に脅され、泊まることにしてしまう意志の弱さに本気で呆れてしまうほど、文菊師匠はダメ男がうまい。逃げる前も逃げてからも(ビクビク)し、心配するシンさん。とにかく、あまりにも常にビクビクしていて少し気の毒なシンさんに人妻が容赦ない。それゆえ、翌朝、旦那さんに「どこの娘さんだい?」と訊かれて「・・・いいえ!あれは娘さんじゃありません!」といつになく強く答えるシンさんに(この落語の中でシンさんが一番強く主張するの、そこなの?)と、大いに笑った。
まくらで話題になった「不倫と間男の違い」は、男女間の真剣さだと思うのですが、浮気された旦那側から見れば、真剣だろうが据え膳食わねばという理由であろうが、奥さんに脅迫されていようが、「間男」も「不倫」も同じでしょうね。  今まで聴いた文菊師匠の落語の中で、最もとっつき易く、腑に落ちた気がしました。

三遊亭遊雀「蛙茶番」

  • 三遊亭遊雀師匠

    三遊亭遊雀師匠

 三番目あたりで、空気を換えて楽しく盛り上げる遊雀師匠。また芸能リポーターのように、今回の落語家さんについての楽屋を暴露してくださるのも楽しい。今回はイケメンだらけという遊雀師匠ですが確かに、遊雀師匠ご自身も楽屋にいる方々も容姿端麗。芸能人もお笑いの方も容姿端麗さんが増えたので、遊雀師匠のおっしゃるように、今後の落語家さんも、売れたかったら容姿端麗を求められる仕事が増えるかも知れない。
ただ、容姿問わず、おもしろい落語家さんも大勢いらっしゃるので、まだまだ、いろいろな落語家さんにも存在してほしい。そんなことを考えていたら、遊雀師匠は「蛙茶番」へと入られた。猫も杓子もお役者さんのいい役をしたい町内の芝居小屋で、配役が役者ではないとふてくされてしまう人もちらほら。みーちゃんが何かを言っていたという言葉に踊らされる男心が哀しいが、そこを遊雀師匠は軽やかに楽しく演じる。まるで露出を楽しんで女子供に見せている露出狂のように、着物の裾をたくしあげて「どうだ!」と何度も見せる遊雀師匠のお姿が滑稽でステキでした。楽しい一席でした。

蜃気楼龍玉「牡丹燈籠 栗橋宿」

  • 蜃気楼龍玉師匠

    蜃気楼龍玉師匠

 最後のトリは、雲助師匠の一門から蜃気楼龍玉師匠がご出演。雲助師匠を筆頭に、白酒師匠や馬石師匠という芸達者のみなさんの一門だけあって、はじめての龍玉師匠の佇まいはまるでアスリートのように姿勢が良い。長い手足を折るようにして、高座に座ってお辞儀をする姿勢も綺麗。何よりも声がハッキリしていて、遠い席にすわっている私にまで響いて届く。怪談の牡丹燈籠の中から栗橋宿を選ばれるところが最高に嬉しい。
牡丹灯籠事態は、日本人ならほとんどの人が知っている怪談噺であるが、牡丹灯籠で裏切りを働いた夫婦の末路まで書かれていることは、落語や講談に詳しくないと知らない。そして寄席だけでは長講の牡丹灯籠のマイナーな作品になかなか巡り合えない。珍しい演目が聴けることが本当にうれしい。渋谷らくごでは馬石師匠が拝聴できるのはありがたいことだが、同じ一門の龍玉師匠が花を添えて下さるなら、渋谷らくごに、次の龍玉師匠がご出演の日もお邪魔できたら嬉しいです。


【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」7/12 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
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