渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 8月9日(金)~13日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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8月11日(日)14:00~16:00 立川志のぽん 笑福亭羽光 柳家小せん 隅田川馬石

「渋谷らくご」爆笑落語会

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プレビュー

とにかく最初から最後まで、楽しい会となる予定です(その日の演者さんの気分によっては、怖い噺や人情噺にもなる可能性があります)。
爆笑、と一口に言いますが、大きい笑いをとるためには、丁寧な下準備や表現力が必要です。いかにもさりげなく。そして笑わせるぞ、という気持ちも悟らせない。そういう、品の良い笑いを取る演者さんたちです。家に帰り、なにか心に残っているものもある。それが落語の「爆笑」ですね。どのシーンが自分の心に残っているか、思い出してみてくださいね。


▽立川志のぽん たてかわ しのぽん
28歳で入門、芸歴15年目、2013年4月二つ目昇進。筑波大学芸術専門学群出身、手先が器用でなんでもチラシから着物までなんでもつくってしまう。落語のために身体を鍛えようかと思っている。ツイートに会場地図を必ず添付する。

▽笑福亭羽光 しょうふくてい うこう
34歳で入門、芸歴13年目。2011年5月二つ目昇進。猫を可愛がる。可愛い猫のツイートにいいね!しがち。先日、VR落語という企画を成功させ、ますますVRにのめりこんでいる。落語のために筋トレをしようと思っている。

▽柳家小せん やなぎや こせん
22歳で入門、芸歴22年目、2010年9月真打ち昇進。橘家文蔵師匠と入船亭扇辰師匠と音楽ユニット「三K辰文舎」としても活動中、いま稽古の真っ最中。今年梅雨時は洗濯ができず、晴れの日を心から待ち望んでいた。座右の銘は「がんばりすぎない」。

▽隅田川馬石 すみだがわ ばせき
24歳で入門、芸歴26年目、2007年3月真打昇進。フルマラソンのベストタイムは、4時間を切るほどの速さ。夏は汗をたくさんかいて、新陳代謝を高める。近所であれば自転車で行動する。隅田川を自転車で渡るときに感じる風が好き。

レビュー

文:高祐(こう・たすく) Twitter:@TskKoh 最近購入したDCモーター扇風機の首の動きが愛らしい。

2019.8.11(日)14-16「渋谷らくご」
立川志のぽん(たてかわ しのぽん)-鮫講釈
笑福亭羽光(しょうふくてい うこう)-私小説落語〜お笑い編〜
柳家小せん(やなぎや こせん)-たがや
隅田川馬石(すみだがわ ばせき)-真景累ヶ淵〜豊志賀の死〜

真夏の昼下がり。渋谷の坂道を少しでも急いで歩いたりすると、途端に汗が噴き出す。公演の始まる10分以上前に着けたらラッキー、冷たい飲み物を飲めば少しは落ち着ける。もしギリギリになってしまったら、汗だくのまま公演に突入する。それでも観客はまだましだ、演者の方々には申し訳ないけれど、聴きながら休むことができるのだから。さらにこの回は「爆笑落語会」と銘打ってあって、サンキュータツオさんが公演前にこのことに触れて煽りまくっていた。

立川志のぽんさん

  • 立川志のぽんさん

    立川志のぽんさん

立川志のぽんさんは、暑いところユーロスペースに来たお客さんに対するいたわりの言葉からまくらに入った。ただ、自身で言っておられたように、この暑さでやられているのは志のぽんさんだ。演者の方々は、会場に来て、汗を落ち着かせて着替えて、その日の噺を考えて、というだけでも一苦労だろうに、タツオさんのあの煽りはきつかろう。こちらののんびりさ加減が申し訳なくなった。
演目は「鮫講釈」で、これは鮫に食われる運命に陥った講釈師が必死に講釈を語るという、つまり噺の中で別の噺(講釈)が語られる構造の噺だった。この講釈がなんとも耳に心地良かった。リズミカルで、なんだか波間にたゆたう船の中にいるようなのだ(といってもこの講釈の最中は船が動かなくなっている設定だけれど)。言葉の持つリズムは、単に声に出して読めば表現できるものでは無いことは最近痛感したばかり。英語の勉強でたまたまシェークスピアの一節を読み、ほんの一節でも自分で読んでリズムを感じることと、感じているリズムを他人に伝えるのとは大違いだとよくわかった。志のぽんさん、講釈師たちの乗った船が動いたのはあなたのおかげです、ありがとう。

笑福亭羽光さん

  • 笑福亭羽光さん

    笑福亭羽光さん

二番手、笑福亭羽光さんの演目は「私小説落語〜お笑い編〜」、自身のお笑い芸人時代を落語にした噺だった。仮面ライダーシリーズに出ていてあっという間に消えていくショッカーの人生に想いを馳せて、その人生に自分の境遇を重ね合わせていたのではないか、という振り返る場面があった。残念ながら日の目を見なかったという羽光さんのお笑い芸人時代という個人的な物語が、誰もが共感できる長編ドラマのような落語に昇華していることに脱帽した。
長編コントではもっと上手な芸人がいるからと、自分たちはショートコント中心だったと羽光さんはおっしゃっていた。この日の落語を聴く限り、羽光さんは本当は長編コントの方が向いていらしたのではないか、と余計なことを思わずにはいられない。羽光さん、落語家になってくださってありがとう。

柳家小せん師匠

  • 柳家小せん師匠

    柳家小せん師匠

「子別れ」に出てくる鎹(かすがい)のように、落語を聞いていると、具体的なイメージをともなって物事を知ることがある。柳家小せん師匠の噺「たがや」は、花火が上がった時に言う「たまや」とはどういう立場の花火屋さんだったのか、そして「たがが外れる」のたがとは何かということを具体的に教えてくれた。単なる言葉だけでなく、イメージ付きでその言葉の意味を知ることができるのも落語の面白さだと思う。他の人に話す時にはついでに落語の話もできるし(そういうのは嫌がられるだろうか?)。
「たがや」の箍(たが)とは桶などを作る際にはめる竹製の輪とのこと。たがやさんが仕事帰り、輪っかにして持ち運んでいた竹の箍(たが)が、橋の上で花火見物の人混みに押された拍子にピンと伸びてしまい、運悪く馬上のお侍の陣笠を跳ね飛ばしてしまう。お侍は憤り、たがやさんを今すぐ屋敷に連れ帰って罰しようとするが、二親が待つ家に一度帰らせてほしいとたがやさんは嘆願する。しかし受け入れらず、憤ったたがやさんがお侍一行に立ち向かう、という噺だ。描写展開の早いこと、それでも頭の中で映像がどんどん展開していく気持ち良さといったら無い。
オチがなかなかブラックで、身分制度の厳しかった当時を思うと、本当の話だとしたらたがやさんも無事ではなかっただろう。それはそうとしても、江戸っ子たちの侍に対する鬱屈した思いが、竹を扱うたがやさんに託されていて、歪められた竹が勢いよく戻るように、たがやさんがけつをまくってお侍たちに向かっていく様子が小気味良かった。

隅田川馬石師匠

  • 隅田川馬石師匠

    隅田川馬石師匠

この日のトリは、9月公演で5日間連続公演をされる隅田川馬石師匠。個人的にもすでに大変に楽しみなのだが、期待をいや増すかのように今回の噺は長編落語の一部「真景累ヶ淵〜豊志賀の死〜」だった。公演のあった8月11日は初代三遊亭圓朝の没した「圓朝忌」とのことで、2年越しで圓朝作「真景累ヶ淵」の続きを語ってくださった。(残念ながら2年前の「真景累ヶ淵」は聴いていない)
「真景累ヶ淵」も長編ドラマだが、羽光さんの人情噺とは違い、主人公たちの背負った運命はあまりにも重い。個人的に怪談噺はあまり得意では無いのだが、馬石師匠の語りに引き込まれて文字通り息を詰めて聴いた。噺が終わり、会場が明るくなって一息ついたが、じっとりと汗をかいたように後味の悪いまま外に出た。外は温度も湿度も高く、息苦しかった。豊志賀が駕籠に残したという、濡れた座布団の感触を想像して、なんとなく座布団を持つ仕草をしてみたりした。
今回の公演は「爆笑落語会」と名付けられていたが、その本意についてホームページにこうある。「爆笑、と一口に言いますが、大きい笑いをとるためには、丁寧な下準備や表現力が必要です。(中略)家に帰り、なにか心に残っているものもある。それが落語の「爆笑」ですね。」馬石師匠の「爆笑」は、私にとって、持ち重りのする座布団のじっとりとした感触だった。

【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」8/11 公演 感想まとめ

写真:武藤奈緒美Twitter:@naomucyo
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