渋谷らくご

渋谷らくごプレビュー&レビュー

2019年 9月13日(金)~17日(火)

開場=開演30分前 / *浪曲 **講談 / 出演者は予告なく変わることがあります。

イラスト

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9月14日(土)14:00~16:00 台所おさん 柳家小里ん 柳家小八 隅田川馬石「お富与三郎(二)」

「渋谷らくご」隅田川馬石「お富与三郎」(ニ)

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プレビュー

 馬石師匠が5分割して語ってくださる通し公演の二日目、舞台は初日から時間が経ったところ。そこでまさかの出来事が起こります。
 この日は冒頭から古典の流れ。若手のおさん師匠、小八師匠と並んで、大ベテランの小里ん師匠と、落語の楽しさを満喫したあと、連続物の「語り」に耳を傾けてくださいませ。

▽台所おさん だいどころ おさん
31歳で入門、芸歴18年目、2016年3月真打昇進。落語家になる前に、東京から大阪まで歩いて旅したことがある。散歩の延長で富士登山をしようとして大人に止められたことがある。髪のお手入れはお風呂場でのバリカン。

▽柳家小里ん やなぎや こりん
21歳で入門、芸歴50年目、1983年9月真打昇進。大の映画好き。浅草のパチンコ屋に出没する。浅草演芸ホールに出演する落語家さんが突然来られなくなり興行が滞りそうな時は、前座さんはパチンコ屋に走り、小里ん師匠を探す。浅草出身なので祭りがとにかく好き。

▽柳家小八 やなぎや こはち
25歳で柳家喜多八に入門、芸歴17年目、2017年3月真打昇進。ファッションにこだわっていて、夏場は白いTシャツ姿で行動する。最近メガネを変えた。最近はちょっとずつツイッターを活用している。大食い。

▽隅田川馬石 すみだがわ ばせき
24歳で入門、芸歴26年目、2007年3月真打昇進。フルマラソンのベストタイムは、4時間を切るほどの速さ。夏は汗をたくさんかいて、新陳代謝を高める。近所であれば自転車で行動する。隅田川を自転車で渡るときに感じる風が好き。


ーー隅田川馬石 「お富与三郎」通し口演ーー
 今月は、渋谷らくご初の試みとして、一人の演者が5日間連続で出演、しかも演目を、長い噺ひとつにしぼり、5日間に割って話すという趣向です。
 「お富与三郎」は、木更津を舞台とした江戸の恋愛物語。一筋縄ではいかない運命に翻弄される男女が主人公。
 どこか一日だけでも、あるいは飛び飛びで聴きにきても大丈夫なように、馬石師匠が語ってくださいますので、どの日に来ても安心です。もちろん、全日頑張ってきてくれるのもうれしいです! この公演のみ、毎日日替わりのポストカードをプレゼントです。

レビュー

文:あさみTwitter:@asm177 ライター。9月は柳亭小痴楽さんの真打昇進披露興行が楽しみ。落語初心者の目線でお伝えします。

2019.9.14(土)14-16「渋谷らくご」
台所おさん(だいどころ おさん)-片棒
柳家小里ん(やなぎや こりん)-不動坊
柳家小八(やなぎや こはち)-ねずみ
隅田川馬石(すみだがわ ばせき)-お富与三郎 その二 〜玄治店の再会〜
お囃子:柳沢きょう

すっかり暑さが落ち着いて、日増しに長袖を着る人が増えました。渋谷駅からユーロスペースまでの道のりも幾分足どり軽やかに。さて今回聴かせていただいたのは、渋谷らくご初の「通し公演」の二日目。受付でいつもの『どがちゃが』と一緒に通し公演の記念ポストカードを手渡され、否が応でも期待が高まります。

台所おさん師匠「片棒」

  • 台所おさん師匠

そろりと慎重に段を踏みしめ高座に上がる、おさん師匠。両手を膝にちょこんと置き、肩を丸めて口を開きます。よく「親子」に例えられることもある落語家の師弟関係。おさん師匠が属する柳家花緑一門はなかでも繋がりが濃いそうで、花緑師匠は弟子に対して「俺はお前たちの親みたいなものじゃなくて、親なんだ!」と断言したエピソードがあるほど。「それを聞いて私も親と思うようになったのですが…私一つ年上の子どもなんですよね」。落語家の不思議な師弟関係を笑いに変え、親子が登場する『片棒』に入ります。
高座に上がるとき、下りるとき、マクラの間、わざと少し体を小さくしているようにも見えた、おさん師匠。それが「ニシシ」と笑う愛嬌たっぷりの表情と相まってとても可愛らしいのですが…(師匠に向かってすみません)。噺が始まると打って変わって動きがどんどんダイナミックに! 次男坊、銀が人形の真似をするくだりでは、座布団から跳ね落ちそうなほどでした。また全体を通して身振り手振りが多く、手遊びみたいにリズミカル。それが父の弔いに対して、妄想が膨らみ興奮していく金・銀・鉄を陽気に表現されていて、大笑いでした。

柳家小里ん師匠「不動坊」

  • 柳家小里ん師匠

凛とした佇まいの小里ん師匠。背筋がピンと伸び、声がパリっと通って清々しい。初心者の私から見ると、まさしく「落語家」を絵に描いたようなお姿にワクワク。男女間の「ヤキモチ」をマクラに、『不動坊』に入ります。
大家の話を聞いていた利吉が「そうですかぁ、不動坊が死にましたか」という言葉をきっかけにスーッと顔全体に笑みが溢れていく。いぶかしげな表情から夢見心地で緩い顔に大きく変わるものだから、会場は大笑い。「三年前から俺のかかぁだった」とある種狂気的な面もありますが、お滝を本当に好きだったことが小里ん師匠演じる利吉の表情からは、よく伝わってきます。全体を通して印象的だったのは、「間」が絶妙だったこと。比較的登場人物が多く、しかも同じタイミングで出てくる人物数も多い噺だと思いますが、言葉切れがよく、間が適切に取られているから、とても聴きやすい。聴きやすいからこそ、一つひとつのおかしみが分かって大いに笑えました。最近は喰い気味で作る笑いも増えましたが、『不動坊』は小里ん師匠の手法が心地良いですね。

柳家小八師匠「ねずみ」

  • 柳家小八師匠

扇子を手に、開いて閉じて。少しきまりが悪そうにマクラで話してくれたのは「寝坊」のエピソード。三宅島での落語会の日、寝坊し船が出る30分前に起きたそうで、聞いただけでも冷や汗が出そう! 結果間に合ったようで本当に良かったのですが、「普段渋谷らくごではマクラを振らないようにしているのですが…どうして話したのかな」と不思議そうにされていました。
演目は『ねずみ』。子の演じ方は噺家それぞれですが、小八師匠の子は比較的淡々とした様子。それは後々明かされる子が受けた虎屋での仕打ちを連想させ、もの悲しさをあおります。子の親である鼠屋の主も、左甚五郎も、子と同じようにトーンは低い。その一方で後半登場する近所に住む者の訛りが激しい! そして虎屋の番頭の悪い顔が強烈! その落差が空気を湿っぽくせず、笑いへと変えていました。マクラからずっと「淡々」という印象が付きまとっていたのですが、それもすべて計算だったのでしょうか。笑える『ねずみ』でした。

隅田川馬石師匠「お富与三郎 その二~玄治店の再会~」

  • 隅田川馬石師匠

通し公演二日目。与三郎が江戸に戻り、死んだと思っていたお富に再会するまでです。
あらすじを聞いているとお富は「悪い女」に分類されても仕方ない人物だと思うのですが、馬石師匠が演じると何とも品があって「良い女」。馬石師匠の柔らかい語り口が、それを形作っているように感じられました。一方で、後半の口上は一変、キリっと締まってとても格好良い! 思わずぶわっと鳥肌が立ちました。これまで何度か馬石師匠を聴いたことがありましたが、馬石師匠には穏やかな印象を持っていたので、そのギャップに驚き、そして感服してしました。また、嬉しかったのはお囃子があったこと。渋谷らくごで生の三味線が聴けると思わなかったので、思わず音の鳴るほうへ目をやってしまいました。噺の世界観をグッと引き立たせてくれたお囃子、最高です。
噺に入る前、馬石師匠が「通し公演だと日に日に客が減るのが怖い」とおっしゃっていました。でもあんな良いところで噺を切られてしまったら、次が気になって仕方ない! 通し公演の思うツボにハマってしまいました。帰り際、普段以上にチケットを買い求める列が伸びていましたが、きっとあれは3日目以降を求める方々だったのではないでしょうか。

【この日のお客様の感想】
「渋谷らくご」9/14 公演 感想まとめ

写真:渋谷らくごスタッフ
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